2004年度 第1分野講評: 審査員 田中秀文(高知大)・西田泰典(北海道大)

審査員は,(1)研究内容はもちろんのこと,(2)多くの場合教員にテーマを与えられたり,指導されていると思われるので,研究のバックグランド,今後の方向性などをよく理解しているか,(3)その表現力は,(4)結果に至る労力,工夫などを考慮して審査した.その結果,植原 稔君を学生賞受賞者に推薦することにした.以下講評を示す.

 植原 稔君は,最近になって多くの進歩が見られたコンドリュールの形成モデルを室内で再現する実験を行った.実験では,一の目潟カンラン石を溶融し,色々な速度で冷却することで,実際の隕石中で観察されているのと同様に,種類の異なるコンドリュールの生成に成功した.これらのコンドリュールについて,電子顕微鏡観察を行い,コンドリュール冷却時の環境の違いが鉄の微粒子形成に大きく影響を与えることを明らかにした.また,溶融実験を磁場中で行うことで,種類の異なるコンドリュールの岩石磁気特性を明らかにし,鉄微粒子を含むものが強く磁化し,交流消磁に対して安定であることを示した.これにより,残留磁化の大きさがコンドリュールの粒子径に大きく依存する理由をはじめて説明することができた.このように,植原君の発表は,惑星科学の境界領域における意欲的な研究で更なる発展が期待でき,学生賞にふさわしい研究内容と評価された.

 望月君は地磁気逆転や地磁気エクスカーションが記録されているいくつもの溶岩について,古地磁気のベクトルとしての変動を測定し,植原君に次ぐ評価を得た.古地磁気の絶対強度の測定については,従来の方法とは異なる新しい方法を適用し,測定誤差を大幅に減少することができた.測定結果を,縦軸と横軸にそれぞれ磁気モーメントと磁極の緯度を取ってプロットすると,地磁気逆転時のデータは一つの直線上に並ぶが,その他のデータはその直線より下の領域に分布することが判明した.この直線をリバーサルラインと名付け,地磁気逆転は地磁気永年変化とは本質的にダイナモの状態が異なること,また地磁気エクスカーションは中途で終了した逆転ではないことを示唆した.このように,斬新な方法による多大の実験を行った努力と大胆な学説の提出は評価される.
 蔵田君は,まだほとんど研究例のないルナプロスペクタデータによる磁気異常モデリングを行った.さらに解析を進めて,未だ解決されていない月磁気異常のソースを,さらに限定出来ることを期待したい.
 楊君は,中国レスに含まれるノジュールがレスの岩石磁気的性質を保ったままノジュール化したことを初めて明らかにした.磁性粒子サイズなどのさらなる岩石磁気測定を期待したい.
 佐波君は,火山熱学,火山水理学上重要な地熱系発達過程を,有珠火山の自然電位,比抵抗,地温の克明な経年変化測定をもとに熱水流動のイメージを提出した.現在実行中と聞くシミュレーションを通じ,その定量的議論に期待したい.
 山谷君は,樽前火山で,労力をかけた多点の MT 観測およびそのデータ解析を行った.発表の表現力も評価される.今後さらに測点を増やすなどして,一歩踏み込んだ火山学的解釈を期待したい.
 大久保君は,雲仙火山で行われた空中磁気測量データを精力的に解析すると同時に,詳細な磁気構造モデルを提出して低空ヘリボーンの威力を証明した.山谷君と同様にさらに踏み込んだ地学的解釈を期待したい.
 Nurhasan 君は,草津白根火山において多点の MT 観測およびデータ解析を行って詳細な比抵抗構造を推定した.その結果は火山地質学,火山化学の研究成果と比較することによって説得力ある解釈がされており,完成度が高い.
 兼崎君は,独自に設置した海底磁力計のデータを含めた地磁気データをもとに spherical cap harmonics 解析を行い,太平洋の特異な地磁気分布の詳細を明らかにする研究を行った.まだ十分な研究成果が得られている段階ではないが,研究の方向性は有意義であり,まだM1 の学年を考慮すると将来に期待がもてる.
 尾崎君は,地震に伴う地震電磁波の強度分布についてその原点に戻って理論計算を行った.ソースとして仮定した地表付近の電気ダイポールの実体や強度の妥当性など問題点を含むが,本人はその点を十分認識しており,研究態度に柔軟性が感じられる.同君もまだM1 の学年であり,今後の発展が期待される.
 氏原君は,地震ダイナモ効果の観測結果が必ずしも予測と一致しない点を数値シミュレーションを通じて解明し,今後の観測方法の改善にも役立てようとする興味深い研究テーマに取り組んでいる.

全体評:
 プレゼンテーションについては全員の発表に多大の努力が見られた.オーラル,ポスターを問わず,大変きれいな図やグラフが示された.説明の手順や話し方などの表現力については人によって差の出る点であった.本来は研究内容と表現力は別な点であるべきだが,限られた時間内で研究成果を他の研究者へ伝えるには,表現力も含めたプレゼンテーションは重要である.なお,受賞には至らなかったが,まだ博士前期課程や後期課程1年の学生とは思えない立派な研究をしている諸君も多く,心強く感じられた.