2004年度 第3分野講評: 審査員 中川朋子(東北工業大)・長妻 努(情報通信研究機構)
                       中村 匡(福井県立大)・藤本正樹(東京工業大)

オーロラバッジ受賞者への講評

岡田和之さん
今回の学会ではハードウェア開発や実験に関する発表は全体的にレベルが高く、日頃の努力の積み重ねの確実さが感じられた。中でも岡田和之さんの研究は、衛星搭載用磁力計のデジタル化という、今後の惑星探査にとって不可欠でありながらまだ実現できていない課題に取り組んだものであり、開発はまだ初期の段階ながら随所に本人の工夫が見られ、新方式での観測実現に向けて主体的に考えている様子が察せられた。

桂華邦裕さん
赤道環電流の時空間変動の推定手段として用いられるIMAGE衛星のENA画像データが、赤道環電流とジオコロナの電荷交換反応そのものであるという原点に戻り、赤道環電流の消失過程に電荷交換反応が寄与する割合を定量的に検討した研究。結果は磁気赤道域における電荷交換反応は赤道環電流の消失を説明するには不十分であるというもので、これまでシミュレーションを中心として展開してきた赤道環電流消失過程の議論に観測サイドから1石を投じた。また、桂華邦裕さんは赤道環電流の磁気圏界面からの流失量の推定について同時にポスター発表しており、意欲的な研究姿勢も評価したい。活力ある内部磁気圏研究の担い手として今後の活躍に期待する。

中村琢磨さん
宇宙プラズマの素過程でクラシックな題材であるKH不安定と磁力線再結合を新たな視点から結びつけた仕事で、柔軟な発想力が感じられる。また、その結果が単なる理論のための理論におわらず、磁気圏境界面での混合過程という、磁気圏物理の重要なテーマに迫っている点も高く評価したい。評者の私見では、現時点での流体近似をはなれ、粒子効果を入れるとかなり様相は変わってくると思われるが、それでも新たな方向への一歩として重要である。

渡邉恭子さん
渡邉恭子さんの発表は、2003年10-11月に連続して起こった太陽フレア時に世界各地に到来した太陽中性子のエネルギースペクトルを求め、高エネルギー宇宙線の加速機構を衝撃波による加速と推定したものである。到来方向の測定ができずエネルギー分解能が無いというニュートロンモニターの弱点を、世界中の観測を組み合わせ、到達時間差を利用することで克服した。解析の姿勢は大変慎重であるが、観測結果の取り扱いのみに終始せず、加速機構の本質に迫ることが期待できそうである。


次の方々は残念ながら受賞には至りませんでしたが、その発表内容は高く評価されました。

足立和寛さん
EISCATレーダーで観測された電子密度プロファイルデータと、427.8nm、630.0nmの2波長の光学観測データからそれぞれ電気伝導度の導出を行い、双方が定量的によく一致することを明瞭に示した点を評価する。今後は、定量的に一致したことに留まることなく、何故この波長の組み合わせが良い結果を生み、従来取り組んできた波長の組み合わせが良くなかったのかを考察し、研究をさらに発展させて欲しい。

岡圭介さん
衛星機上で、ホイッスラー波を自動検出し、スペクトル形状の定量化をリアルタイム処理するためのアルゴリズム開発の研究。この手法が、今後の衛星観測においてオンボード処理による電子密度プロファイルの逐次導出やリアルタイムトモグラフィー等へ応用できるという点と、従来の衛星観測で得られている大量の波動データを効率的に解析し、磁気圏電子密度分布の3次元ダイナミクスを理解する足がかりとなる可能性を評価した。

公田浩子さん
Sq、サブストーム、地磁気嵐等々、時空間スケールの異なる情報が重畳している地上磁場変動に対し、主成分分析という手法を導入して情報を客観的に分離し、地上磁場多点観測網データを駆使して各情報成分を可視化することで、研究の新たな展開を目指している点を評価する。ただし、この手法を適用する前提となる多変量データ間の無相関性が地上磁場変動においてどこまで保証されうるかの検討は必要であろう。

古賀大樹さん
この研究はMHD乱流について、単純化したモデル方程式を使って位相に関する情報を引き出そうと言う試みである。現時点で、方程式を計算機で解くことによって興味深い結果が得られているが、これを方程式の性質から理論的に説明することができれば、間違いなく第一級の仕事になるであろう。今後の発展に期待したい研究である。

松岡大祐さん
大規模3次元数値計算結果をいかに効率的に解析するか。これは現在、本気で研究しているシミュレーション研究者を悩ませる最大の問題である。松岡さんは専門である情報処理技術を駆使して、その解決策の一提案を示した。本人は「物理が専門でないので」と発表時に言っておられたが、このことは逆に、必ずしも結果そのものに興味がなくてもデータ処理手法に興味があり、かつ、卓越したスキルをもつ人材を巻き込んでこそ、今後の発展が有り得るのだ、という示唆となっているように思える。

山本和憲さん
複数点での衛星観測結果、充実する地上観測網、現実の太陽風データに基づくグローバルシミュレーション結果。これらを一体にして表示することを本気で、文字通り、本気で考えたのが山本さんの発表内容であった。表示できた、だから何?たしかに、出発点でしかない、でも、効率よく研究の出発点に立てるのであれば、素晴らしいことではないか。苦労そのものが研究成果ではあるまい。2年後に打ちあがるTHEMIS計画において、標準表示ソフトとなっている様子が目に浮かぶ。


4日間ぶっ通しで審査して見えてきた全体的な印象

審査員A
1)全体に研究の質は高く、審査をしていて大変勉強になった。しかし残念なのは、優等生的・予定調和的な研究が多くある中、真に野心的かつ冒険的な研究がなかったことである。人間は年を重ねるにつれて保守的になっていくので、若い人にはもっと冒険をしてもらいたい。
2)発表の技術については今回の審査の対象ではなかったが
・できる限り聴衆の方を向いてしゃべる。
・レーザーポインタを無意味に振り回さない。
という単純な2点だけでも改善してほしい。ほとんどの学生諸氏(学生以外も?)がこれを守れていなかった。

審査員B
数年前と比較して、プレゼンテーションのスキルが向上し、話し方等も上手になっているという印象を受けました。総じて発表内容は理解しやすかったと思います。あとは、聴衆からの質問に対して的確に応対できるようになると良いと感じました。

審査員C
全体に堅実、着実な印象で、解析の道筋は納得できるものであった。ここにお名前が挙がった以外にも、優れた発表がたくさんあったがすべて列挙すると多くなりすぎるので、この点はご理解願いたい。ほとんどの発表はよく準備されていて分かりやすかったがポスター発表の一部に説明の準備不足のものがあったのが残念である。ポスター発表といえども口頭発表と同様、10分程度で説明できるよう構成を考えて、リハーサルをしてくることをお奨めしたい。

審査員D
最初に大きな問題の中での現発表の位置づけ、最後に今発表の大きな問題解決への貢献、という学問全体の流れの中にある自身の研究という意識のあるものが少ないように思えた。データがあるから処理してみました、は(学生以外も)やめたほうがいいでしょう。賞に関して一言、発表準備、発表実行時では賞をとることを目標にしてもよいが、当否はどうであれ終わったら忘れて次に向かう、というのが正しい態度だと思う。