2006年度 第2分野講評
審査員: 岩上直幹 (東京大学)、 田口真 (国立極地研究所)、 丸山隆 (情報通信研究機構)、 山本衛 (京都大学)
●メダル受賞者への講評

B005-03 永田 肇
 赤道大気レーダー(EAR)・95GHz雲レーダー(SPIDER)による熱帯上部対流圏の巻雲観測 EARとSPIDER1という二つの先端的な測器を用いて熱帯上部対流圏の観測を行いダイナミクスを 解析したもので、研究の意義付け、データ解析の手法への工夫などを含めて プレゼンテーションの技量に優れたもので表彰に値する。

B005-24 村上尚美
 大規模伝搬性電離圏擾乱(LSTID)の振舞いと背景にある中性大気変動の 関連を解明しようとした、LSTIDの本質に迫る研究。国土地理院の GPS受信機網GEONETを用いた電離圏全電子数(GPS-TEC)と、GRACE衛星に 搭載された高感度の加速度計から得られる中性大気密度のデータを組合せた。 顕著な観測例に恵まれた他、GPS-TECの観測緯度範囲を拡大するための 解析上の工夫等の努力の結果、良い成果が得られた。プレゼンテーションも 分かりやすく、複数の審査委員から高い評価を得て受賞が決まった。

B009-P004 亀田真吾
 水星大気ナトリウムの起源を解明するために、岡山の大型望遠鏡を利用して自ら得た 水星画像データから、ナトリウムの空間分布及び時間変化をとらえた。追尾エラーと シーイングによる「ボカシ」が入った画像から、各種補正やデコンボリューション等 の処理によって、隠されていた情報を抽出した努力は賞賛に値する。プレゼンテー ションもわかりやすく秀逸。ハワイの大型望遠鏡を用いて水星ナトリウムテイルの全 貌を世界で初めて捉えた画像がダメ押し点となった。

●優秀発表者への講評

●口頭発表
B005-09 鈴木秀彦
 オーロラ帯におけるOH大気光観測計画-トロムソにおける観測結果速報。 研究は途上であるが、研究の意義付けがよく説明されており、発表技量も優れている。

B005-23 清水悟史
 SuperDARNによって観測された周期的なレーダーエコーの起源を計算機 シミュレーションの手法を用いてMSTIDsであると同定した。その際に、 EISCATレーダーによって実際に観測された電子密度データを用いた点が斬新である。 発表資料もわかりやすくよくできていた。

B005-32 西岡未知
 磁気赤道を中心として現れるプラズマバブルの東西分布に関する研究。 赤道・低緯度域に配置されたGPS受信機網のデータから、約400kmスケールを 持つプラズマバブルの出現・不出現の東西パターンがを見出した。 赤道大気レーダー等から得られた成果を更に拡張した点に価値がある。 観測点が少ない問題を解析上の工夫を凝らして解決しており、高く評価できる。

B009-11 垰 千尋
 モデル・考察が進化していくのが頼もしい。

●ポスター発表
B005-P001 藤田玲子
下層大気と超高層・太陽活動との関連について、北極振動の外力となり得る いくつかの活動度指数ごとにその影響力を解析したもので、有意性の検定など きめ細かい解析の努力が感じられる。

B005-P009 上田真也
 スプライトと、それに関連すると考えられている地球大気からのガンマ線放出 現象の解明を目的とした、新しい小型衛星の搭載観測機器の開発課題である。 発表からは、著者が観測ミッションと機器を良く理解して開発を進めている 様子が良くわかった。ポスターも読みやすい。

B005-P011 平木康隆
 スプライト発生の下限となる電荷モーメントを計算機シミュレーションに よって理論的に求めようとした研究。米国の研究者によって統計的に 示されていた400-600 Ckmという下限値の再現に成功した。ユニークな シミュレーションの構築を独自に進めてきた、著者の頑張りが高く評価される。

B005-P029 橘 亮匡
GPS衛星を用いた電離圏全電子数の観測で、4分周期の変動がみつかった。 確固たる結論には達していないが、データ解析の過程に工夫と努力が感じられる。

B005-P036 上本純平
 タイからインドネシアにかけて構築されたイオノゾンデ観測網SEALIONから、 F3層の振舞いを調べた。磁気赤道近くと(それより少し緯度の高い)低緯度地域では F3層の出現時間に違いが見られることを見出し、理論的な考察を加えている。 著者の現象への理解と丁寧なデータ解析に好感が持てる、良い研究である。

●コメント
審査員A
 東北大が惑星圏団体戦を制していた感じだが、個人総合には届かず残念。