2006年度 第3分野講評
審査員: 臼井英之 (京都大学)、 徳丸宗利 (名古屋大学)、 能勢正仁 (京都大学)、 三好由純(名古屋大学)、 吉川顕正(九州大学)
●総評

審査員A
 SGEPSSの研究成果の大部分は、学生の皆さんの日ごろの研究努力によって成り立っていることが改めて実感できました。学生を含め若手研究者の勢いとその研究成果には脱帽するばかりで、こちらとしてはおちおち審査員などやってる場合ではない、という焦燥感に駆られました。全般的に言えることですが、少し気になった点を上げます。近年では、計算機の発展や資料の電子化が進み、講演技術そのものが高度化してきたため、これまで表現しにくかった研究成果をわかりやすく聴衆者に伝えられるようになりました。ただ、その反面、限られた時間に聴衆者が消化しきれないほどの内容を詰め込みすぎる傾向もあるようです。発表時間が短ければ短いほど、数ある成果の中から厳選した結果に集中し、それを丁寧に紹介するほうが、結果としてより多くの聴取者にその講演を理解してもらえる気がします。自己反省を含め、気をつけなければと感じました。学生の皆様には、これからも文字通り研究を爆発させてそのほとばしる成果を披露し続けてください。

審査員B
 まず、どの発表も研究内容は素晴らしく、審査をつうじて、着々としたSGEPSS全体として学問の底上げを実感することができました。一方で、聴衆を広くうならせるようなインパクトのある発表は少なかったように感じました。自戒を込めてのことですが、多くの人に研究の重要性を理解してもらうためには、自らの研究の位置づけ・動機付けを、今一度、日頃より一段広い視野で俯瞰し、整理してみることが大切なのではないでしょうか。その作業を込めることにより、更に研究を深化させることができると思います。

審査員C
 どの発表も内容、プレゼンテーションともにとても素晴らしく、楽しみながら拝見させていただきました。また、自分の行っている研究課題に、本当に楽しみながら取り組んでいることがよく伝わってくる発表もあり、伺っているこちらもわくわくしながら聞かせて頂きました。一方で、研究の目的と実際の解析内容が必ずしも結びついていないような発表も見られました。自らへの反省もこめて、こういった発表の機会にあらためて、自分の研究の成果だけではなく、研究計画についても整理していってはどうでしょうか。学生のみなさんには、今後も元気によい研究を続けられることを期待いたします。

審査員D
 スライドやポスターの作り方、発表における話し方などはどなたも非常に上手で、発表技術のレベルの高さには瞠目するべきものがありました。しかしながら、これまでに指摘されつくしたことかもしれませんが、「こういう作業をしたところ、こんな結果がでました。その解釈はまだ考えていません。(または、この論文で述べられた結果と一致します。)」という発表では「それではあなたの意見はどこにあるのですか?」と感じてしまいます。最初のうちは研究テーマは与えられることが多いでしょうが、『あなたの研究』なのですから、他の人ではないあなた自身の工夫、発想、考察や時には大胆な仮説を加えてみるとより一層、その研究に愛着が持てて良い物になっていくのではないでしょうか。高い評価を得る発表は、やはり自分で十分に考えた末の自分なりの意見が含まれているものでした。また、質疑応答では研究内容に対する理解度や背景知識の広さが顕著に現れてくるように感じました。的確な返答、および的確でなくても自分の知識を総動員してそれらを繋げながら返答しようという姿勢には良い印象を抱きます。こうしたものは普段の研究活動の中で徐々に身についていくものでしょうから、日々気を付けられてはいかがでしょうか。

●メダル受賞者への講評

B007-05 岡崎 良孝
 ミューオン宇宙線データを用いて太陽風の共回転構造CIRに伴う磁場を決定した。この研究では、独自の発想に基づいてCIR磁場の3次元構造をモデル化し、それを観測データにフィットさせている。その結果、CIR構造について概ね合理的な結果を得た。発表もわかりやすくまとめられていた。この研究が可能になったのは、信州大学による宇宙線ネットワーク観測の実績に加えて、岡崎さん本人の貢献も大きいと思う。本研究は宇宙線データの新しい応用方法を切り開くもので、今後さらに改良して精密な議論をしていって欲しい。

B006-P002 小野 友督
 ジオテイルのデータを用いて、サブストームオンセット付近での酸素イオンの加速についての解析を行った。加速の候補として考えられる2つのメカニズムを、衛星のデータをうまく活かして定量的に評価し、プラズマ波動による加速が効いている可能性を指摘した。プレゼンテーションの流れも論理的で、解析の目的とその結果がとても明示的であり、また発表もとてもわかりやすく感じられた。今後の展開を期待しています。

B008-19 加藤 真理子
 磁気回転不安定性の2次元モデルシミュレーションにより、原始星周りの降着円盤内の不安定領域と安定領域の共存の様子を示した。講演はよく準備されており、専門外の聴衆者にもわかりやすくよくまとまっていた。12分の発表時間を余すところなく使った理想的な口頭発表といえる。内容的にも、単にプラズマ不安定性領域の共存について示すだけでなく、その境界におけるダスト落下問題、さらには、微惑星形成問題の議論も取り込んだ興味深い意欲的なものである。SGEPSSが扱う従来の宇宙プラズマ・シミュレーション分野の枠を広げるポテンシャルを感じる。今後、空間次元を増やしより現実的なモデルでの議論が期待される。

B006-P018 佐藤 創我
 EISCATスバールバルレーダで観測されたイオン上昇流イベントを、ACE衛星、SuperDARN、CHAMP衛星データなどを用いて発生原因を調査した。その結果、イオン上昇流は電離圏対流に伴うイオンの流れと中性大気の流れの差によって生じるジュール加熱に起因して生成され、さらに電離圏対流によって輸送されているというモデルを提唱した。特に、CHAMP衛星で観測された中性大気密度、風速などのユニークなデータを用い、独自の解釈を行ったことは高く評価される。

B006-06 永田 大祐
 長期間のGeotail衛星のデータを用いて近地球プラズマシート密度の2次元分布が、太陽風密度やIMF Bzによりどのように支配されているのかを統計的に調べた。プラズマシート密度の太陽風コントロールについては過去にいくつか同様の研究があるが、2次元分布についてはこれまでに例がない。太陽風の履歴を考慮したりプラズマ輸送の経路について議論するなど、独創的な解析・解釈を行っている。質疑応答において議論が白熱したのはそれだけ研究内容が聴衆者の興味を引き、かつ重要であることを示している。多くの質問に対して的確に対処したことは高く評価できる。

●優秀発表者への講評
●口頭発表
B006-34 坂口 歌織
 カナダでのオーロラの観測から見出した現象を、地上磁場、衛星のデータを多面的に組み合わせて解析している。異なる種類のデータをうまく組み合わせ、現象を包括的に究明していこうとする意気込みが感じられた。また、プレゼンテーションの流れもきわめてスムーズであり、各データを調べる目的、およびその解析結果について、全体の流れの中での位置づけを示しつつ、とてもわかりやすく説明されていた。複数の同種イベントもすでに同定されているとのことで、今後の展開が楽しみです。

B008-22 成行 泰裕
 アルフヴェン波のパラメトリック不安定性の分散関係にランダウ減衰成分をイオン運動論的効果として考慮し、不安定性のイオン温度依存性について議論を行った。プラズマ物理理論に基づいた講演は非常に専門性が高く、必ずしもすべての聴衆者が理解できたかどうかは不明であるが、明確な問題意識を持って積極的に研究に取り組む講演者の姿勢は評価される。データ解析主体の現象論的研究に取り組むスタイルが多い中、理論的アプローチによる現象の理解も非常に重要である。その点では、本講演のようないわゆる”マニアック”な研究はマイナーではあるが絶対に絶やしてはいけない分野であり、若手のホープとして引き続き活躍を期待する。あえて苦言を言えば、より多くの聴衆者が理解できるような発表の工夫が望まれる。

●ポスター発表
B006-P006 江沢 福紘
 擾乱時から静穏時にかけてプラズマ圏が膨張していく時に、近地球の磁場フラックスチューブは低温高密度のプラズマをどのように再充填していくかという問題についてIMAGE衛星EUVデータを用いて取り組んだ。L=4におけるHe+共鳴散乱光の強度がどのように変化するかを調べ、いくつかのモデルと比較を行い、クローン衝突によるモデルとよく一致するという結論を得た。問題設定、それに対する解決方法、結果の解釈、SELENE衛星を使った将来研究計画などが分かりやすくまとめられており、今後の発展を期待する。

B006-P012 西沢 諒
 Image衛星の中性粒子撮像装置によってmagnetopauseの位置を決定したもの。撮像データから如何にしてmagnetopauseの位置を出すかについて、わかりやすく説明してくれた。このユニークな磁気圏の撮像研究は、先人の仕事に基づいているが、西沢さん本人の貢献も十分認められる。得られた結果も他の観測と概ね一致しており、成果をまとめて早期に出版されることを期待します。推定値のエラーバーは、観測された角度分布の拡がりから評価してやってはどうだろうか。今後さらに研究を発展させていって欲しい。

B006-P022 山下 耕司
 衛星搭載電界観測用ワイヤアンテナの低周波領域における実行長についての実験・理論・シミュレーション混合研究である。理学的な講演が主流であるSGEPSSにおいて工学系の講演であるが、波動データ更正や今後のアンテナ設計には非常に重要なテーマである。ポスター発表の説明はうまくまとまっており非常にわかりやすかった。ただ、研究の動機付け、なぜ宇宙でプラズマ波動を観測しないといけないのか、などの背景についての質問には戸惑っていたので理解を深めていただきたい。今後、より自発的かつ大胆にモデル改良を行い、より一層の成果を期待します。

B007-P001 成行 泰裕
 高精度のシミュレーションを用いることで、従来よく知られていなかったアルベン波の崩壊過程を詳しく解析した。ポスターの説明も流暢で、既にいくつかの研究成果を論文にまとめて出版されているので、研究に関して高いレベルの理解をもっていると判断される。本研究で得られた成果は、太陽風加速メカニズムを解明する観点からも重要である。今後、太陽風プラズマへの応用をより明瞭に意識して、太陽風加速について重要な示唆を与えるような研究を期待している。

B007-P005 山下 真弘
 地上観測からフィッティングによりCMEパラメータを推定する独創性あふれる研究であり、特に太陽−地球間でのCME速度変化を予測できる点で宇宙天気予測に大いに貢献できると感じた。またCME速度変化はCMEと太陽風の相互作用という点でも非常に興味深い研究テーマであると感じた。ポスター発表の流れもスムーズであり、研究の宇宙天気研究への有効性も理解できた。引き続き成果を期待します。

B008-P002 古家 直樹
 計算機シミュレーションによって、コーラス波動と高エネルギー電子の加速について、従来知られていたよりも、効率のよい加速プロセスを発見・同定した。この研究の成果は、粒子加速の問題に対してきわめて重要な知見である。また、プレゼンテーションの図などがわかりやすいとともに、シミュレーションの背景なども、わかりやすくていねいに説明されていた。現在、実際に衛星で観測されている波動の特性を加味した計算も試みられているとのことで、今後の展開がとても楽しみです。