●総評
地磁気・古地磁気・岩石磁気分野では、始生代の磁場や環境を復元する研究、
隕石衝突による地表岩石の磁性の変化を明らかにする研究、鮮新世の地磁気逆転
の詳細を明らかにする研究、地磁気ダイナモにおける誘導起電力の効果を明らか
にする研究、白亜紀西南日本の古地理を復元する研究、堆積物コア試料の古地磁
気偏角の捩じれを補正する研究、といった多種多様な研究発表が行われた。これ
らの研究に用いる試料・手法は様々であるが、それぞれの目的を目指すオリジナ
ルな研究であり、さらに研究を深めていくことによってインパクトのある研究成
果が得られるものと期待できる。
地球・惑星内部電磁気学分野では、地震ダイナモ効果に関する研究、地震と
ULF帯磁場変動の関係に関する研究、MT法探査で観測された異常位相を説明で
きる3次元モデル・解析手法に関する研究、メタンハイドレートの層の探査に関
する研究、マリアナにおけるGDS探査に関する研究、野島断層の回復過程に関
する研究、が発表された。まだ、予察的な発表も多かったが新たな取り組みも見
られ今後の主体的な研究の進展が期待される。
これらの研究のさらなる発展のためには、先行研究やプロジェクトの目的を十
分に理解し、自分の研究がどのような新たなものを与えることができるのか、と
いうことを深く考える必要がある。学生諸氏はこれまでの学説などの先入観に影
響されることなく、新鮮な疑問をぶつけながら固定観念や研究分野の壁を打ち破
る力強さを持ってさらに研究を発展させて欲しい。
プレゼンテーションについては、オーラル、ポスターともに工夫されたものが
多く発表技術の進歩が感じられた。時間やスペースの問題もあり難しい面もある
が、もう少し他分野の研究者に配慮したプレゼンテーションが行われるとさらに
良いのではないかと感じた。
審査の結果、西岡君をオーロラメダルの受賞者と決定し、同時に市原君を次点
とする。この2発表は、他の発表よりも研究意欲や独創性が強く感じられ、各研
究分野や関連する周辺分野における発展性を感じさせるものであった。本当に僅
差ではあったが、現時点での研究の完成度や発展性とプレゼンテーションの明快
さを評価し、西岡君の発表を推すことにした。
●メダル受賞者への講評
西岡文維
「安山岩を用いた衝撃実験:残留磁化・ヒステレシス・異方性の変化」A004-P005
隕石クレーター形成時の隕石衝突に伴う強い応力波が地表の岩石の磁気特性に
及ぼす変化を明らかにするために、チタノマグネタイトを含む安山岩を用いた衝
撃実験を行った研究である。外部磁場を弱めた状態で一段式火薬銃を用いて、安
山岩ターゲットにむけてアルミの飛翔体を衝突させた。飛翔体の衝突した部分の
各深さから衝撃の程度の異なる試料を作成し、各種岩石磁気測定を行った。強い
衝撃を受けた試料は自然残留磁化強度の低下および初期帯磁率の低下を示し、残
留保磁力および保磁力の増加を示した。交流消磁によって、残留磁化強度低下の
原因は、衝撃による初生残留磁化の消磁および初生残留磁化の
self-demagnetizing fieldによる反対向きの衝撃残留磁化の獲得によるものとわ
かった。帯磁率異方性は最も衝撃の強い試料(>3GPa)は衝撃方向に直交する方向
に異方性最大軸が向くが、やや衝撃の弱い試料(~1GPa)は衝撃方向に異方性最大
軸が向くことがわかった。最近の研究(Gattacceca et al., 2007)で、強い衝
撃(>2GPa)によって異方性最大軸が衝撃方向に直交する方向を向くことは示され
ているが、1GPa程度のやや弱い衝撃によって異方性最大軸が衝撃方向を向くこと
は本研究で初めて明らかにされた。また、インドのLonarクレーターのリムから
採取した玄武岩試料の帯磁率異方性の異方性最大軸方位はそれぞれの試料の位置
とクレーター中心とを結ぶ方向に集中することを明らかにした。衝撃実験の結果
から解釈すると、クレーター中心から放射状に外に向かう衝撃(~1GPa)によって
帯磁率異方性の方位が衝撃方向に向いたことを示唆する。残留磁化の変化は、地
球・月・火星等で観測されるクレーター周辺の磁気異常を解釈するのに役立つと
期待でき、帯磁率異方性方位の変化からは隕石衝突時の衝撃の強さおよび衝突の
方向を復元すること期待できる。研究姿勢も様々な手法を組み合わせて問題点を
明らかにしながら着実に進めており、学生発表賞オーロラメダルに相応しいと判
断した。
●優秀発表者への講評
市原 寛
「北海道東部の内陸地震発生帯における三次元比抵抗構造とMT法における異常
位相についての考察」A003-07
北海道東部弟子屈地域の3次元比抵抗構造を求め内陸地震発生領域や火山との
関係を地震学情報や地質情報を総合して詳細に論じた。とりわけ、従来の1次元
あるいは2次元比抵抗解析では説明できなかった観測結果−異常位相:位相差が
90°を超えてしまう現象−を、地質構造を考慮した表層の不均質3次元比抵抗構
造を導入して説明した。表層の不均質構造により電場の反転が起きることが異常
位相の原因であることを示した。この異常は、従来のGroom-Baileyの方法だけで
は分離できず、3次元比抵抗構造モデルの導入により説明可能となった。このよ
うな解析をすることで、背弧下の数kmから20kmに良導体が存在することや、地表
地震断層に平行な良導体が存在することを新たに示した。表層の不均質構造の影
響をどのように取り扱うかは、比抵抗構造を精度良く推定する上で重要な問題で
あるが、標準的な解析手法で終わることなくより現実的なモデルを構築するため
に着実に研究を進めており今後の進展が期待される。
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