2007年度 第2分野講評
審査員: 岩上直幹 (東京大学)、 品川裕之 (情報通信研究機構)、 村田 功 (東北大学)、 山本衛 (京都大学)

●総評
全体に発表の技術は年々向上していて、内容的にも高いレベルの発表が多数あったが、 口頭発表では、導入部や解析方法の説明が長過ぎたり、結果を多く示し過ぎたりして、 重要なポイントが十分に伝えられていない講演も見受けられた。

●メダル受賞者への講評

尾崎光紀
「昭和基地周辺での自然ELF/VLF波動3 地点観測による電離層透過域の位置推定」B005-21
 昭和基地周辺において自然ELF/VLF波動の3地点観測を行った結果に基づいて、ELF/VLF波動 の電離層透過域の位置を推定するための理論的検討の発表である。研究の目的、観測内容、 解析方法と結果、問題点などが明確にバランスよく述べられていた。発表資料も工夫されて いて、説明も明快で分野外の研究者にも分かりやすいものであった。研究意欲も感じられる 講演であり、高く評価できる。今後の研究の発展を期待する。

村上 豪
「紫外光検出器の位置分解能向上に関する研究 -BepiColombo水星探査計画に向けて-」B009-P013
 水星探査機搭載用の遠紫外光検出部の開発として、試作機の性能を評価した。 地道な作業ではあるが、必要な分解能を十分達成していることを確認している。 説明や図もわかりやすかったが、単に性能確認したのみではなく、今回の結果で 生まれた性能の余裕を実際の設計時にはどこに振り分けられるかなど、装置開発 全体の理解もしっかりしており質疑応答も明確で、研究者としての資質を十二分に 感じさせる発表であった。

横山雄生
「S-520-23ロケット実験によるリチウム共鳴散乱光観測実験」B005-48
 ロケットからのリチウム放出による超高層大気の風速測定実験に 計画段階から参加し、成功に導いた努力が高く評価される。 実験の詳細まで知識豊富で、発表・質疑ともしっかりしていた。 実験から日が浅いため解析結果が未だ充分ではないが、期待は 極めて大きい。この受賞を糧にもっとがんばれ。

米田瑞生
「Short-term variability of Jupiter's extended sodium nebula」B009-P026
 地上フィルタ撮像観測によって見出した。木星周辺Na分布の東西非対称を、 親イオン生成の日照変化を取り込んだモデルによって、説明に成功した快作。

●優秀発表者への講評

芦原 佑樹
「ロケット観測した放送電波伝搬特性を用いた電離圏D-E領域の電子密度推定」B005-P017
 地上からの送信波(主に中波放送)をロケットで受信することで 電離圏下部の電子密度構造を推定する。数年前から同手法の改良を 粘り強く重ねてきており、本年に行われた2回のロケット観測からは 良い結果が出てきたようだ。発表もしっかりしていた。

金田香織
「太陽風動圧増加に伴う火星からの非熱的酸素の流出率の増加」B009-P001
 独自に構築した火星の電離圏・外圏結合モデルを用いて、電離圏の変動が非熱的酸素の流出に 与える影響を調べたもので、ダイナミックな変動に着目した点がユニークである。着実に研究が 進んでおり、努力が感じられる。

鈴木 秀彦
「OH大気光リモートセンシングによる極域中間圏界面領域の研究」B005-09
 オーロラ帯においてOH大気光を精度よく観測するために、トロムソでの観測結果に 基づきOH8-4バンドに特化した分光器を開発。発表・質疑応答ともしっかりしており、 目標に向かって堅実に進んでいると感じた。今後の南極での観測成果に期待したい。

深澤 宏仁
「ハレアカラ観測所での水星ナトリウムテールの分光観測」B009-10
 地上高分散分光撮像によって、100水星半径までのNa尾を捉えることに成功した見事な観測

三津山 和朗
「IRTF/MIRSIを用いた金星雲頂構造変動の観測的研究」B009-P005
 金星の赤外撮像から雲頂構造の検出に成功した優れた研究。 望遠鏡のサーボの揺らぎを利用するユニークな解析法を 自ら考案して成果を得た点に非常に感心した。発表・質疑もよかった。