2007年度 第3分野講評
審査員:臼井英之(京都大学)、笠羽康正(東北大学)、 徳丸宗利(名古屋大学)、能勢正仁(京都大学)、三好由純(名古屋大学)

●総評
審査員A
いずれの発表も目的意識をもって研究をしている姿勢が感じられてとてもよかったです。SGEPSS発表のほぼ半分は学生発表であることを考えると、SGEPSS関連分野の今後の発展はまさに学生の皆さんの研究成果に大きく依存していると感じました。ただ、ポスター発表時に比べて口頭講演のセッションが少し寂しい雰囲気だったのは、積極的な質問が学生からあまり出なかったためではないかと思います。自分の発表と同じくらい積極的に質問をして座長がまとめるのに苦労するくらい大いに活発な議論を行って欲しいと思いました。

審査員B
審査員として若手の方の話を聞いた際に気になるのは、その結果を得るために発表者は如何なる貢献をしたのかとういうことです。すばらしい観測データや計算結果が手軽に利用できる環境になっていますから、それらを寄せ集めて、もっともらしい解釈を加えるだけでも見栄えのよい話ができます。審査にあたっては、発表者の貢献度を見極めようと努力しました(限られた時間ですので、難しかったのは確かです)。私の若い頃と比べ、観測や計算における手段がずっと高度化・巨大化しているので、今の若い人にそれらを一から準備せよというのは非現実的でしょうが、出来る限りデータが得られる過程に立ち返って研究を行って欲しいと思います。

審査員C
どの研究もとても興味深く、楽しみながら拝見させていただきました。わかりやすく工夫されている発表が多かったように思います。ただ、自分の研究の意義、当該分野の中での位置づけが必ずしも明示的でなかった発表がありました。短い言葉でもいいので、発表の中で、この研究が当該分野にどういう貢献をしていくかという点をクリアにしていただけるといいと思います。また、質疑応答のやりとりからは、結果を必ずしも理解していないようなことを伺わせるような発表もあり、その点は残念に感じました。発表する内容については、観測装置・データの内容から、得られた結果、議論について、自分なりに理解し、自分の言葉として発表することを目指していただきたいと思います。

審査員D
審査員ではあるものの、一研究者として大変楽しみながら、多くの興味深い発表を拝聴させていただきました。どの発表も、研究の背景、目的、解析手法、結果など研究発表の必要条件を一通りは満たしている一方、なぜこうなるのかは分かりませんといったような結果の議論が不十分な発表もあったことは残念でした。また、たとえ結果の議論があったとしても、その後の質問に対する受け答えの際に、その議論がどの程度自分で真剣に考えたものなのかが良く分かってしまいます。研究テーマ設定や研究方法、結果の解釈などは最初のうちは指導教員や先輩に助けてもらうことが多いでしょうが、徐々に自分流のものに変えて行く努力が必要だと思います。日々の研究活動の中で常に自分で考える癖をつけて、武芸で言う「守破離」の「離」の段階を目指してください。

審査員E
いつも感じるのは「審査する側こそが実は審査されている」ということです。選ぶ側には説明責任・結果責任が問われる。そこで、ご参考のため、一審査員として何に注目したか述べておきます。なおこれは「採点基準」ではありません。「こういう点をより深く意識すればよりよい研究になりますよ」とお伝えするためです。(なお、私の好きな名言「心に棚を作れ!」に従い、自分のことは棚に上げさせていただきます。)
(1)問題設定が十分練られ、意義深く、かつ独創性があるか (よい問題を作ることこそが研究者の第一条件
(2)解決へのアプローチが十分練られ、意義深く、かつ独創性があるか (人と違うアプローチを考え出すことが研究者の第二条件。)
(3)結論が十分練られ、意義深く、かつ将来展望が示されたか (よい結論を導き周囲に次の道を示して初めて進歩が生まれる。)
(4)1〜3が、十分「自分のもの」として深く理解されているか (指導教官は乗り越えること。傘の下にいてはいけない。)
(5)1〜3が、分野外の人にも十分理解できる形で明確に提示されたか (わかってもらえて初めて一人前。)
本賞の存在が、本学会に参加される学生のみなさんの意識高揚・レベル向上に役立つことを願っております。


●メダル受賞者への講評

鈴木一成
「Cluster衛星によって観測された高緯度磁気圏の粒子フラックス増加領域とシータオーロラの関係」B006-12
過去の観測・シミュレーションから示唆されていた「シータオーロラ」と「磁気圏内の粒子フラックス増加およびIMF」との関連を、クラスター衛星のデータを用いて定量的に解析し解明しています。「磁気圏高緯度域を飛翔する編隊探査機」をこの問題の解決に使うという視点は面白いものでした。イベントスタディとはいえ、得られた結果は過去のモデルとの比較検証に十分耐えうるもので、現象の理解を進めたという点で大変意義ある研究と考えます。先行研究で挙げられた問題点がきちんと理解されており、またそのそれぞれについて結果をコンパクトにまとめた理想的かつインパクトのある講演でした。専門外の人にもわかりやすかったと思います。オーロラに見られる高緯度磁気圏擾乱について、また編隊衛星観測による新たな観測テーマ・手法の発掘について、更なる発展を期待いたします。

寺本 万里子
「Simultaneous observation of Pi2 pulsations by DE-1, AMPTE/CCE and ground stations over wide latitude」B006-P005
高緯度・低緯度衛星を組み合わせたPi2解析により、高緯度Pi2における圧縮性モードの存在を示すとともに、低緯度Pi2とあわせた統一的なモデルを提案した研究内容であり、Pi2研究に大きなインパクトをもたらす成果だと思います。解析も綿密に工夫されており、ケーススタディ・統計解析の結果ともに、説得力のあるプレゼンテーションでした。発表については、問題意識を持って意欲的に研究を行っている姿勢が非常によくわかりました。専門外の人には少し細かい内容でしたが、プレゼンを聞いていて発表者の研究に対する情熱がこちらまで伝わってきました。まだまだやりたいことがたくさんあると思いますので、是非、引き続き楽しんで研究を進めていただきたいと思いました。

成行泰裕
「太陽風中の非単色アルフヴェン波のパラメトリック不安定性」B007-10
本研究は、太陽方向に向かう波動の局所生成についてAlfven波のパラメトリック不安定の観点から調査したもので、これまで御自分がなされてきた先駆的な研究をさらに精力的に展開されています。このテーマは本領域における基本問題のひとつですが、この困難なテーマに独自の視点で新しい展開を切り開きつつあることを高く評価したいと思います。本研究の発展は、今後進められる新たな太陽圏探査に対しても重要な寄与を果たしうるでしょう。説明や質疑応答から十分に高度な知識・見識を備えていることが伺えました。また、発表で使われる図にも工夫が見られ、ポイントをおさえたメリハリのある発表でした。本講演の他にも、ポスター発表や特別セッション講演によって今秋学会へ大いに貢献されました。本人も言及されていましたが、本分野における理論研究者はそれほど多くありません。世界をリードする活発な理論研究を期待します。

西村 幸敏
「CRRES, Akebono衛星によるサブオーロラ帯電場の同時観測」B010-15
SAID(subauroral ion drift)現象がサブストームに関連して生じることはこれまで報告されてきたが、サブストーム発生後のどのタイミングで、またどのような原因で起こるかは良く分かっていなかった。そこでCRRES, Akebonoなどの観測を総合的に調査し、プラズマポーズにおいてDC電場が増大すること、電場がサブストーム発生の直後から生じ始めること、またその原因はイオンと電子の分布の偏りによることなどを明らかにした。Plasmapauseの成因も含めて興味ある発見といえる。講演における説明も判りやすく、質疑に対しても適切に応答していたことから、同人が本研究の背景や意義をよく理解し、主体的に行っていると判断される。今後の研究のさらなる発展に期待したい。

●優秀発表者への講評

天野孝伸
「Buneman不安定性の非線形発展と衝撃波電子サーフィン加速」B008-09
高マッハ数の衝撃波遷移層で見られるBuneman 不安定性の非線形発展について、2 次元粒子シミュレーションを用いた新たな仕事を示されました。平面的でないポテンシャルでも「サーフィン加速」プロセスが働くこと、しかしその飽和レベルが小さいこと。これらはシミュレーションで初めて示せるユニークな成果として評価いたします。関係する諸問題等々についての知識・見識も十分で、プレゼンテーションも十分わかりやすいものでした。惜しむらくは、「観測面への十分なフィードバックがかけられにくいこと」(ないものねだりと言われそうですが)です。やはり理論研究は実証とカップルして進むものではありますので、「検証手段」を提案いただけると、複数分野に跨って広く関係研究者が存在する日本の宇宙科学全体にとってさらに強力な成果となります。更なる発展を期待いたします。

岩井 一正
「太陽電波I型ノイズストームのスペクトル解析」B007-P001
飯舘で行っているUHF帯の太陽電波のスペクトル観測から、これまであまり研究結果の無かったType-Iバーストの発生機構について迫ろうとしています。2種類のスペクトルデータを使うことで、広い周波数範囲と細かな時間分解能を達成しているのが特徴です。Type IバーストはType IIIバーストに伴って現れることは知られていましたが、今回の報告では、観測されたType IIIストームとの出現時刻についての関連やバースト強度の周期性から、発生機構を議論しています。得られた結論を、今後の観測から如何にして立証してゆくかが課題であると思います。新たな観測手段を加えることも必要になるでしょう。今後の発展を期待します。

小淵保幸
「れいめい衛星画像-粒子同時観測により捉えられたブラックオーロラの生成メカニズム」B006-29
れいめい衛星のオーロラ画像と粒子データを用いて、デフューズオーロラの中に生じるブラックアークおよびブラックパッチを生じさせる原因を詳細に調べた。その結果、ブラックオーロラの発生領域では、5-6keV程度の降下電子が欠損している一方、低エネルギー帯では周囲のデフューズオーロラにおけるスペクトルとほぼ一致することが分かった。このことから、ブラックオーロラの生成メカニズムの一つとしてこれまで提唱されてきた局所的発散電場によるものではないと結論付けた。れいめい衛星の観測特性を十分生かした研究であり、大量のデータからイベントを選び出して丁寧にデータ解析を行っている研究姿勢を評価する。また聴衆者をひきつける魅力ある講演でもあり、今後の発展を期待します。

笠原 慧
「中間エネルギーイオン計測に向けた半導体素子の性能評価」B006-P033
中間エネルギー帯粒子計測器は長らくその欠如が問題とされてきたものです。これまでなされてきた開発がさらに実現に向け強力に進められており、その成果は本分野の研究者として実に心強いものです。説明や質疑応答から本機器の開発および関連研究に必要な高度の知識・見識を備えていることが伺えましたし、ポスターによる説明もわかりやすいものでした。挙がった候補者の中で実験系研究者が他におらず、強力に推すことを考えたのですが、「一昨年度に受賞済」というお話もあり、また「この研究はもう一段発展できるし、完成されるべきである」という見地も考え、今回は次点としております。さらに強力に研究を進められ、新しい時代を切り開ける次世代検出器の確立を図っていただきたく、お願い致します。

坂口 歌織
「サブオーロラ帯において東向きに発達する孤立オーロラとPc 1地磁気脈動の地上・衛星同時観測」B006-39
サブオーロラ帯における地上光学観測および磁場観測から、Pc1帯の地磁気脈動に伴って孤立したオーロラが発生することを明らかにした。またこの現象を、異なる経度を飛翔するNOAA衛星で観測された降下粒子によっても同定し、その降込み領域が東向きに移動していくことを発見した。これらの結果は、さまざまな観測データを総合的に丁寧に解析して得られたものであり、発表も分かりやすくまとめられていた。東向きドリフトという一見常識に反する解析結果に対しても、共回転していくプラズマ圏とリングカレント粒子との相互作用によって生じたPc1脈動が降下粒子を生じさせるという独自の解釈を与えており、研究方法や研究姿勢を評価する。今回は、非常に静穏な日のイベントの解析であったが、なぜこのような状況でもこうした現象がおこるのか、磁気嵐主相・回復相ではどうなるのかなどについて議論があるとさらに興味深い研究になると思われる。

西沢 諒
「ENAリモートセンシング観測から推論されるsubsolar magnetopauseの動き」B006-P010
IMAGE衛星のENA観測からマグネトポーズの位置を決定し、Shueモデルとの比較を行った結果を報告されました。特筆すべきは、ENA観測結果はShueモデルよりGOES衛星におけるマグネトポーズクロッシングのデータをよく説明できること。このことから、ENA観測はマグネトポーズの遠隔測定手段として今後の発展が期待できます。ポスターの説明や質疑応答が明快だったことから、自らの研究を十分に理解されていると思います。今後、太陽風動圧の時間変化と推定したマグネトポーズ移動の時間変化の違いを議論したり、ENAフラックス量は何に依存するのかを議論したりするなどして、もう一工夫した解析を行ってゆくことで、さらによい研究になると思います。頑張ってください。