SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2008年度 第1分野講評
審査員: 藤 浩明(京都大学)、 山崎 俊嗣(産業技術総合研究所)

●総評

     第一分野では、太古代の地球磁場の研究、隕石から古磁場を復元しようとする研究、三次元の電気伝導度/磁化構造を求めようとする研究など、非常に重要かつチャレンジングな問題に、学生諸氏が積極的に取り組んでいる姿が大変印象深かった。まだ予察的な段階の発表も多かったが、今後が大いに期待できる。特に修士課程の学生の場合、研究テーマは指導教員から与えられた場合も多いと思われるが、なぜそのテーマが重要で問題点がどこにあるのか、自ら考え消化した上で、自分の言葉で発表できるように心がけてもらえると、研究発表にさらに深みが加わるのではないかと感じた。そのような訓練をすることにより、新たな問題を自ら発見するという、研究者となっていく上で極めて重要な能力が涵養されると考えられる。その点、受賞者となった臼井君は流石D3という発表であった。 オーラル、ポスターともに、図は見やすく工夫されたものが多かった。ポスターの説明では、手順や話し方など人によって分かり易さに差が出た。自分の研究成果をいかに他人に伝えるかという点も研究活動の重要な一面である。ポスター発表といえども、発表の練習は必須であろう。
●メダル受賞者への講評

臼井 洋一 (東北大学)

「Investigation of -3.45 Ga rocks and single silicate crystals from South Africa as recorders of Earth's early magnetic field」A004-P004

     太古代の古地磁気強度を知ることは大変重要であり、これまでにも世界で多くの挑戦がされてきているが、風化変質を受けていない岩石が極めて希であることをはじめとするさまざまな理由で、依然として困難な問題である。本発表では、南アフリカの地層を対象に、礫岩テストにより、約34.5億年前には地球磁場が存在したことが明確に結論され、単結晶を用いた古地磁気強度推定の予察的検討も行われた。依然として古地磁気強度決定には至っていないが、今回の結果は、試料採取地点周辺地域が変成を受けておらず、古地磁気強度推定に適した試料が存在する可能性について希望をいだかせるものである。今回の発表の主要な部分について用いられた分析手法はオーソドックスなものであるが、得られた結論の重要性と、太古代の地磁気変動を復元し大気散逸の過程を解明したいという研究の大目標及び問題解決のための戦略が立てられ、今回の発表がその過程のどこにあたるのかきちんと位置づけられていたという点が、他の発表に比べ出色であり、オーロラメダルにふさわしいと判断した。掲げられた目標はいささか大風呂敷と言えなくもないが、若手にはこれくらいの元気さがあってもよい。プレゼンテーションも鮮やかであった。

●他の発表者への講評

松尾 淳
「空中磁気探査による青ヶ島火山内部構造の調査について」(A003-04)

     松尾君は、青ヶ島周辺の空中磁気測量を、高精度リングレーザージャイロを備えた三成分磁力計を用いて行った。松尾君の研究は、@全磁力測量に比べ情報量が増える為、磁化構造の決定精度も向上する、A地磁気全磁力異常に伴う全磁力解析誤差は無視できない、の二点を論じた主張のある研究であった。今後、スカラー測量とベクトル測量の直接比較結果などが蓄積されてゆけば、ベクトル磁気測量の優位性が明らかになるものと考えられる。
畑 真紀
「Network-MT法観測データによる九州地方の広域比抵抗構造の推定(2)」(A003-P007)
     畑さんは、九州各地における電話回線網を用いた電位差観測データを基に、MT法応答関数の空間分布と周期依存性を説明する地球内部電気伝導度の構造解析を行った。九州弧は、その下に若い海洋プレートが沈み込んでいるにも関わらず、高角沈み込み帯を形成しているという意味においても、東北日本弧や九州以東の西南日本弧とは明らかに異なっている。しかし、地球物理学的構造に関しては、これまで限られた先行研究しか存在しない事からも分かる通り、新しい研究成果を出すには三次元の構造解析が要求される地域でもある。畑さんは、この地域を面的に覆う事ができる電話回線網を用いたネットワークMT法を武器に電気的な三次元構造の決定に取り組んでおり、将来性のある研究を行っている。今後、本質的に線積分である長基線電位差観測量を構造解析にどう反映させるかといった点が解決されれば、九州弧下の三次元電気伝導度構造が明らかになるものと期待される。
高木 悠
「紀伊半島における広帯域MTデータの夜間値と昼間値についての再考」(A003-P010)
     高木君は、周波数解析に使用する時間帯や解析区間における地磁気活動度の違いに着目して、紀伊半島における広帯域地磁気地電流法データの再解析を行った。この研究で彼は、夜間値のみを使った先行研究との直接比較を行い、地磁気活動が活発な時期は昼間値も使用した方が応答関数の推定誤差が小さくなる事などを明らかにした。この結果は、新しいデータ解析手法開発の観点からも面白い結果である。
山本 忠輝
「かぐや搭載MAP-PACE-ESAによる高時間・高空間分解能での月磁気異常マップ」(A004-01)
     山本君は、「かぐや」に搭載された電子分析器のデータを用い、電子反射法による月の磁気異常マッピングを行った。本研究は国産衛星による最新データを基に新しい月磁気異常図を作成しようとする意欲的な研究であり、今後BEAMと呼ばれる月面起源の低エネルギー電子の寄与などを補正する事ができれば、さらに高分解能なマッピングが可能となり、月磁気異常の実態解明が進むものと期待される。
北場 育子
「マツヤマ‐ブリュンヌ地磁気逆転トランジションにおける寒冷化イベント」(A004-06)
    北場さんが取り組んでいる地磁気変動と気候変動のリンクの可能性は、現在たいへん注目されているテーマである。花粉分析についてたいへん丁寧な仕事がなされている。今後はグローバルな展開を期待したい。
山下 徹
「タイ南部における古地磁気学的研究」(A004-09)
    山下君は、タイ南部から採取された試料の古地磁気データを用いて周辺テクトニクスを議論し、構造境界の位置を推定した。試料採取、測定等に多大な労力がかかっており、努力の結晶であることが窺える。堂々とした発表態度も好印象であった。
奥野 健作
「薄片スケールでの磁性鉱物の同定 ―走査型MI磁場顕微鏡による段階交流消磁実験―」(A004-P003)
    奥野君の行っている、試料の残留磁化と薄片スケールでの磁性鉱物の対応を追及する研究は、対象として用いている隕石に限らず大変重要な問題である。今後、より解像度を上げられると、今回の解像度では観察不可能であった単磁区粒子に高保磁力成分が担われている可能性を議論できるようになると期待される。
佐藤 雄伍
「テンハム隕石ショックベインの残留磁化の起源と古磁場記録媒体としての有用性」(A004-P005)
    佐藤君は、テンハム隕石について、ショックベイン形成時に獲得された残留磁化が保持されていることを示した。これはおそらく世界で初めての報告である。仮説がきちんと示され、また、残留磁化測定結果に対して、高圧鉱物を用いて熱履歴の検討を行うなど多角的な検討が行われているなど、全体として説得力のある発表であった。この残留磁化の起源となった磁場が何かを示すことができれば、大きなブレイクスルーにつながると思われ、今後の進展が大いに期待される。
大賀 正博
「海洋底変質作用の古地磁気強度への影響」(A004-P006)
    大賀君は、海底玄武岩において、マグヘマイト化が異常に低い古地磁気強度を与えることを実験的に示した。従来の推論を実験的検証により確認する結果となったが、過去の研究をきちんとreviewした上で、まだM1の学年であるが自らの言葉でプレゼンできていた点が好印象であった。
関 華絵
「グリーンランドで採取した始生代岩石の古地磁気: 2.5Gaの地球磁場強度をめざして」(A004-P007)
    関さんは、明解なプレゼンにより、扱っている試料から約25億年前の古地磁気強度を得られる可能性があることを示した。今後の古地磁気強度測定に期待したい。
立花 晶子
「チェールンプ断層ガウジの異常磁化とその古地磁気方位分布」(A004-P008)
    立花さんは、断層ガウジが地震時の異常な磁場を記録している可能性という、たいへん新規性のある研究を行っている。非常に興味深いデータが得られており、今後より定量的な議論につながることを期待したい。まだB4の学年を考慮すると立派な発表であり、将来に大いに期待が持てる。
清田 和宏
「先カンブリア紀玄武岩質岩脈の初生磁化の検出」(A004-P009)
    清田君の研究も、太古代の古地磁気強度を得ることを最終的な目的としている。困難な問題だけに、慎重な解釈の上に一歩一歩進めるという研究姿勢に好感がもてる発表であった。

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