SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2008年度 第3分野講評
審査員:荒木 徹(京都大学)、 海老原 祐輔(名古屋大学)、 田口 聡(電気通信大学)、 平原 聖文(東京大学)、 森岡 昭(東北大学)

●総評
審査員A:

    全体的に、発表の内容・構成や話し方には十分な注意が払われていて、高いレベルに達している。図面も、パワーポイントのお陰もあって、綺麗に多彩に分かり やすくなった。しかし、画面表示にひと工夫を要するものが(学生に限らないが)あるので、下記の点に留意されたい。
    1. 1画面に図と説明文がある場合、図が小さくなりすぎる傾向がある。見せるべきは図面であり、説明は言葉で出来ることを認識して欲しい。
    2. グラフの縦軸・横軸の物理量が書いてないものや、書いてあっても小さくて読み難いものがある。縦軸・横軸は説明しなくても、後席からでも一目で分かるように大きく記して欲しい。横軸が時間の場合は、時間スケールが明確に分かるようにして欲しい。
    3. 聴衆は専門家だけではないことを意識して、専門外の聴衆にも分かるよう工夫してほしい。例えば、一度聞き逃すと意味がわからなくなる略号が頻繁に出てくることがあるが、略号は、最初はフルネームで説明し、以後、何度も使うときには、時々、フルネームを使うようにしてほしい。
審査員B:
    今回に限ったことではないですが、学生の方々が拓く新しい研究とその真摯な発表姿勢とにあらためてこの学会の将来が明るいことを思いました。また、学生の人を中心に醸し出されるポスター会場の熱気にも打たれます。学会は、各自の研究の成果を示す場でもあり、(特に学生にとっては)研究経過を示し批評を仰ぐという場でもあります。ただ、いつでも問われるのは、What’s new? です。また次の学会までの奮闘を祈ります。
審査員C:
    今回審査を担当するにあたって、以前考えていたあることを思い出した。それは、学生諸君が研究で結果を出すためには野球で長打を打つ条件と似た3つの要素が大事であるということである。(1)基礎的な体力としての基礎学問や関連する研究内容の理解。(2)バッティングの技術に対応する課題解決のための広い意味での技術の習得。これには論理的構成力から具体的なスキルまで幅広く含まれる。(3)打てるコースにボールがくるかどうかに対応する良いテーマとの出会いである。学生諸君は、指導教員や共同の研究者がゆっくりしたストレートを真ん中に投げこんでくれれば、(1)と(2)を鍛えて長打が打てる。このような成果はもちろん評価されるべきである。一方、指導教員のボールがハイレベルなスーパー変化球ならば、打球はなかなかヒットにならない。しかし、その間の努力を通してヒッティングゾーンは確実に広がっていく。そのような長打が出る直前の段階にある研究も見逃さずに評価するのがこの賞の本質であるという考えで審査にあたった。今回表彰された発表のほとんどは、「真ん中スローストレート長打型」か「スーパー変化球内野ゴロ型」のどちらかに入ると私は考えている。次のステップでのさらなる飛躍のための参考にしてほしい。今回の表彰には選ばれなかったが、来年の発表が非常に楽しみに思える研究がいくつもあった。学生の皆さんの今後の一層の努力に期待する。
審査員D:
    本学会でも、大学院生による口頭発表、ポスター発表共に例年以上に活発であったという印象が第一で、時間に追われた審査過程が充実したものに感じられたことに感謝したい。内容もより高度に、よく練られたものが多いというのが率直な感想である。その当然の帰結として第三分野でのメダル受賞・優秀発表者数がやや多くなったが、我々審査員の基準が甘い・低いということでは決してなく、長時間に及んだ公正で慎重・率直な審査の結果である。受賞者諸氏におかれても、多数の受賞者の中の一人という捉え方ではなく、今回の受賞を今後の研究への大いなる励みとして考えてもらいたい。また今回残念ながら受賞に至らなかった発表でも、意義・重要性・到達度・将来性を感じさせる発表が総じて多く、審査員として発表の現場と白熱した議論に参加できたことに大きな喜びを感じた。最後に、口頭発表とポスター発表を同列に評価することの難しさに言及したい。真に高い価値を持ち合わせた発表では、限られた時間内での口頭発表より、十分に議論が出来るポスター発表の方がより真意・迫力が伝わる可能性が高い一方で、審査担当者数が制限されてしまい、審査段階での公平・公正さが失われる事態が憂慮される。これは審査側の課題と言える。
審査員E:
    学生の発表の質が年々向上しているように感じる。指導されている先生方の絶え間ない熱意と学生本人のポテンシャルの高さの表れであることは勿論である。もし、学生発表賞の存在がモティベーションの向上に少なからず役立っているのだとしたら、学生発表賞の目的は十分に達成されていると言えるだろう。良い発表が多い中で、特に良いと感じた発表に共通することは、研究の動機付けと意義が明示的であること、研究に対する学生本人の寄与がわかること、得られた結果に内在する意味を汲み取り独自の視点で解釈したことにあると思う。端的に言えば、論理的な思考と主体的な作業を行い、それが第三者に十分伝わったかどうかである。思考は知識の論理的組み換えであるから、既に十分な知識を獲得していることはその前提となる。そして思考は独創的であり、奇抜さが高いほうが良い。最後に、受賞された方々には、決して驕ることなく謙虚に研究を深化させて欲しいと思う。惜しくも受賞を逃した方々には、決して落胆することなく創造性を追及しオンリーワンの研究を目指して邁進して欲しいと思う。
●メダル受賞者への講評

岩井 一正 (東北大学)
「太陽電波観測用広帯域偏波スペクトル計の開発」B007-P002

    発表者は、太陽タイプT電波バーストの観測意義・手法に着目し、これまであまり注目されて来なかった太陽面における微細な電子バーストの加速過程の検 出・解明を目指して地上観測装置の開発を行っている。微弱な太陽電波成分の観測に特化した装置の仕様を十分検討した上で、高性能受信機の設計・製作を 行ってきたことが大きな特徴である。広い帯域の太陽電波に適したピックアップアンテナ、低雑音偏波分離受信機のアナログ部、広帯域周波数分析のための デジタル回路部の製作等、いくつかの高度な技術を含む装置開発を、それに必要な知識と技術を逐次習得しつつ独力で行っている姿勢・能力は特筆に値す る。観測装置自体はまだ最終的な完成には至っていないが、着実な開発を経て目的とする観測に成功することが期待される。
佐藤 由佳 (東北大学)
「極冠/カスプ域におけるMF波帯オーロラ電波の地上観測」B006-17
    この研究は、観測頻度が低く放射特性が明らかになっていないMF波帯オーロラ電波を観測し、オーロラに伴う未だ不明の電波放射の機構を解明することを目的としている。完成した観測装置は目的とする波動の特性をしっかり押さえるべく設計・製作がされており、十分機能を発揮している。また、観測頻度が低い原因をオーロラ電離圏の吸収が効いていると考え、自ら極冠/カスプ域に足を運び観測を行っている。研究の目的意識と、それに沿って観測装置開発、設置、観測実施、データ解析をすべてこなしている点は非常に高く評価できる。観測を始めてから日が浅く、初期結果が得られ始めたばかりではあるが、今後得られる多くのデータに基づいてより深い考察を行うことにより、波動放射機構を解明されることを期待したい。
小路 真史 (京都大学)
「Competition between the mirror instability and the L-mode electromagneticion cyclotron instability」(B008-16)
    マグネトシース中では、ミラー不安定性が電磁イオンサイクロトロン(EMIC)不安定性に対して支配的であることは観測的に知られている。ところが理論的な線形成長率は逆を示す。なぜか。長年の謎であったこの矛盾を、イオンの非等方性を取り入れた2次元・3次元ハイブリッドシミュレーションの結果を対比することによって見事に解決した。3次元で精密に解くことによって見えてくる物理を、観測の実証という形で分かり易く示し、大規模シミュレーションの有効性を強くアピールする迫力のある理想的な発表であった。宇宙プラズマの分野が切り開かれていく現場の雰囲気を感じ取ることができ、今後の発展が大いに期待される。
垰 千尋 (東北大学)
「熱圏大気運動との相互作用がもたらす木星磁気圏−電離圏結合電流構造」B008-02
    高速自転する木星の力学エネルギーは、中性大気・電離圏を介して磁気圏プラズマに供給される。一方、磁気圏のプラズマはオーロラやジュール加熱を通して電離圏や中性大気に影響を与える。著者は、この地球とは全く異なる大気・プラズマ環境をもつ木星について、木星熱圏の大気運動を取り入れた電離圏・磁気圏の結合過程を論じるモデルを独自に開発し、相互作用過程を議論している。この種の研究は、過去に中性大気を考慮しないモデルとして論じられてはいるが、著者が着目したように、熱圏・電離圏・磁気圏の相互作用過程に中性大気の運動を組み入れることによってはじめてconsistentな議論が可能になる。発表の流れは論理的で、結論とそれに至る過程も明確であった。著者の研究はこの分野の研究を先導するものであり大きな貢献を果たしている。
三宅 洋平 (京都大学)
「将来磁気圏衛星搭載用電界アンテナの波動受信特性評価に関する計算機実験」B006-22
    宇宙プラズマ中における電界アンテナの特性とふるまいを定量的に理解するために、光電子を含めた形の3次元電磁粒子シミュレーションを開発した。現実に 近いアンテナ形状を取り入れ、プラズマ波動を計算ボックス中で伝播させるなど、現実性を追及するための様々な工夫が随所に見られた。シミュレーション で得られたプローブ電圧・電流特性をGeotailの観測結果と比較するなど実証性への配慮も忘れていない。発表者は、研究課題の意義と重要性、そして粒子シ ミュレーションとその限界を熟知しており、専門ではない聴衆をも引き付けるような分かり易い図と言葉で明示的に説明した。より現実性を追及するため に、直径0.1mm程度の細線導体を粒子シミュレーションでどう取り扱うかが今後の課題であると認識しており、明確な展望を持ち合わせている。水星探査衛星 に搭載予定のパック式電界アンテナに着目した発表であったが、複雑なアンテナ・プラズマ間相互作用の仕組みを定量的に理解するための一般的な方法論と して広く提案できるものであり、今後更なる改良と精密なシミュレーションを期待する。
●優秀発表者への講評

北村 成寿
「極域磁気圏における磁気嵐時のイオン上昇流」(B006-42)

    地球電離圏からのプラズマ流出が磁気嵐時の磁気圏においてどのような役割を果たしているかという重大な問題に対して、複数の衛星で得られたデータの解 析とモデリングを通して研究を進めている。研究の目的を十分満たし得る統計量に基づいたデータ解析を行っており、その結果とモデルとの比較も論理的に 展開できている。また、基本概念もよく理解している。得られた結果は、電離圏極冠内で密度増加を引き起こした酸素イオンの重要性を指摘するものであ り、これは磁気圏リングカレントのダイナミクスのみならず、極域電離圏のプラズマ循環とも関わる重要な論点である。多くの共著者からの大きな支援も成 果の一因であると推測されるが、それを差し引いた本人の成し得た部分も十分大きいことが発表からうかがえる。今後は、より広い視野で研究の背景の理解 を深め、発表の構成にも磨きをかけつつ、一層大きな成果に向かって邁進してほしい。
池田昭大
「Observation of Pi2 ionospheric electric fields by FM-CW radars」(B006-P034)
    地磁気脈動やSC等の地磁気短周期変化は、主として地上と衛星の磁場データを用いて研究されてきたが、より深い理解には、電離層電流の寄与の評価が必要になる。近年、FM-CWレーダーの設置が始まって、電離層電場の検出が可能になってきた。発表者は、九州篠栗(既設)とカムチャッカのParatunka(新設)のレーダーからの電場データと地上多点磁場観測データを用いてPi2脈動を解析した。Paratunkaレーダーの設置によってPi2脈動の緯度特性等、新しい結果が得られると期待できるので、さらなる研究の発展を望みたい。著者は、篠栗レーダーの管理・運用にあたると共に、Paratunkaのレーダーと磁力計の設置・観測開始に主要な役割を果たした。MAGDAS磁場データの収集・整理も担当しており、研究基盤整備への貢献も大きいと評価できる。
白川慶介
「ダストプラズマの効果を入れた磁気回転不安定の非線形発展」(B008-P007)
    宇宙空間における帯電したダストは、それ自身第三のプラズマ成分としての振る舞いに興味がもたれると共に、太陽系起源論においてはその取り扱いの難解さからこれまでほとんど考慮されてこなかった成分である。しかし、特に降着円盤形成期におけるダストプラズマが主役を果たす波動や不安定性は、太陽系形成時の角運動量輸送の謎を解く鍵を持っているものと思われる。筆者は、こうした問題意識のもとに先行研究の少ないこの問題に取り組み、ダストを含む3流体のMHD方程式のもと磁気回転不安定性の解析を行い、ダストの存在が磁気回転不安定の性質を大きく支配することを示した。研究はその緒に就いたばかりであり、今後非線型の問題へと繋がっていくものであるが、研究の大きな目的意識とそれを追究する着実なアプローチは、これからの進展を大いに期待させるものである。
神代 天
「準平行伝播Alfven 波の自己変調不安定性のヴラソフシミュレーション」(B008-P012)
    Vlasov-Hall-MHDシミュレーションという先駆的なコードを開発し、大振幅準平行伝播アルベン波がパラメトリック不安定性の一種である自己変調不安定性によって減衰する過程を綿密に調べ上げた。新しいコードを用いて、粒子の加速過程を運動論効果の文脈で論理的且つ定量的に示している。質問に対する応答が明確であり、 研究の背景となる深い知識を十分習得していることがわかる。この種の研究は、アルベン波の伝播に関する性質を普遍的に理解する上で非常に重要であり、今後、宇宙空間に見られる多くの関連現象の内容を視野に入れて研究に邁進してほしい。今回、ご本人による類似した内容の口頭発表もあったが、自分の成果をより分かりやすく伝えたポスター発表で優秀発表者に選ばれた。
藤本晶子
「Global nature of Pc 5 magnetic pulsation during the WHI observation campaign」(B010-P010)
    国際キャンペーン観測期間「Whole Heliosphere Interval(WHI)」に汎地球的な観測網によって取得された地磁気データを用い、Pc 5周波数帯域の地磁気脈動について大局的な視点から詳細に解析を行った。太陽活動度が低いこともあり、顕著な磁気嵐は発生しなかったことは残念ではあるが、世界的規模の磁力計配置を活用し、Pc 5周波数帯域での振幅・位相比較を代表的な観測点に対して行った。研究の意義と目的は世界的な研究の潮流を意識したものであり、関連するジオスペース現象や今後の課題などに対しても言及した将来性のある意欲的な発表である。Pc 5帯の地磁気脈動は放射線帯電子の動径方向の輸送に大きな効力を持っていることが指摘されており、大域的なPc 5帯脈動の観測は放射線帯変動の理解に欠かせない。最終的な結論の導出には至らなかったが、データ解析に留まらず、観測手法である磁力計の特性、現地での設置手法、データ転送方法、等を十分理解した上で主体性を発揮し研究を実行している点でも評価される。今後はより明瞭で説得力のある方法により観測結果・結論を提示することを期待する。
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