SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2009年度 第1分野講評
審査員: 綱川 秀夫 (東京工業大学)、歌田 久司(東京大学地震研)

●総評

     内部電磁気分野で審査対象となった学生発表は、口頭2件、ポスター5件であり、その多くは、大量のデータをきちんと解析して、地下構造モデルを求めたり異常時間変化を検出するという、見た目にもきれいな結果を出している。プレゼンテーションで工夫を要する点としては、もう少し各自が独自性を訴える部分があってよいように思われるが、ほとんどのプレゼンテーションが一定の水準に達している。さらに一歩踏み込んで、見ようとしている現象を理解するために必要な物理的解釈を加えることに一層の努力を払えば、それぞれ大きな成果につながるものと見られる。

     地磁気・古地磁気・岩石磁気分野で審査対象となった学生発表は、口頭発表が4件、ポスター発表が5件であり、今回はすべてが測定結果・データ解析であった。いずれの発表もデータを大切にしつつも独断に陥らずに、良否をできるだけ客観的に評価しようとする姿勢に好感が持てた。多くの発表は、古地磁気データなど数を必要とするものである。それらは最終的成果を示してアッピールするまで到達することが難しく、やや不利な点があることも否めないだろう。しかしながら、良質データの蓄積は研究の重要な過程であり、得られたデータ自体の詳細検討などを発表に盛り込めば、十分に太刀打ちできる学生発表になろう。

     年々、学生のオーラル発表がうまくなり、ポスター発表も見やすくなっている。PC、プリンタ、アプリケーションソフトの発達にもよるが、緊張感のある学生たちが十分に準備をしてきていることが第一要因であろう。中堅、シニアクラスも初心忘れるべからずと痛感した。

●メダル受賞者への講評

 佐藤 雅彦 (東京工業大学)
 「相転移残留磁化の基本的性質に関する研究」(A004-P001)

     佐藤雅彦君の「相転移残留磁化の基本的性質に関する研究」は、惑星の地殻磁化がインパクトで消磁されるというゼロ衝撃残留磁化の仮説を念頭に置き、マグネタイトのVerwey相転移に伴う磁化獲得を実験的に研究したものである。Verwey相転移磁化獲得は1960年代に発見されたものの、その後はほとんど行われず最近になって見直されつつある。佐藤君は、衝突残留磁化の一つのメカニズムとして相転移磁化をとらえ、Verwey相転移実験であれば、衝撃実験と異なり磁性粒子大変形、回転などの要因を除外して単純系の実験的研究が行えると考えた。実験デザインとしては、残留磁化の基本性質である比例則、平行則に焦点をあてた。測定結果からは、それらの2つの基本法則がVerwey相転移磁化にて成立することを示し、磁化獲得のメカニズムが磁区構造の変化にあると推察した。さらに、実験結果に基づき、今後の惑星磁気異常探査への具体的展望も紹介した。  このように、着眼点の独自性、基本法則成立の検証という成果、磁化獲得メカニズムの考察、将来的展望の提示という点で、他の発表と比較して勝るものがあった。また、ポスター説明、質疑応答でも自分の言葉で的確に話し、研究全体を十分に理解していることがわかる。以上のことから、学生発表最優秀賞に値すると判断した。

●他の発表者への講評

平 健登
「スマトラ地震の地震波到達に伴う地磁気変動」(A003-02)

     平君が発表した地震波の通過に伴う異常磁場変動は、レイリー波との関連が強く示唆されて興味深い。今後研究を継続して、さらに物理的考察を深めることを期待する。
Takla Emad Moris Henry
「Possible Association between Geomagnetic Anomalies and the Tectonic Activity in Italy, 2002」(A003-03)
     Takla君が見出した異常変化は、もしこれが地震発生に直接関わるとしたら極めて重要な発見である。発表を見る限り、安易に結論を出す事無く地震との関連を慎重に調べる姿勢は好ましいと感じた。今後もこの方針を堅持しつつ深い物理的考察を加えていただきたい。
臼井 嘉哉
「新潟−神戸ひずみ集中帯における広域的な比抵抗構造」(A003-P004)
     新潟-神戸ひずみ集中帯は、全国に展開されたGPS観測網によって歪みの集中の様子が明瞭に見られ、実際に中越地震などの活発な地震活動がある興味深い研究対象である。臼井君らは、このひずみ集中帯を対象に実施された超密なMT観測とネットワークMT観測のデータを統合解析して、上部マントルまでの地下深部構造を明らかにしようとしている。考え方の背景に、ひずみ集中のメカニズムには地下の不均質構造が重要な役割を果たしているという考え方があるが、構造を求めるところからさらに一歩進めて、例えば比抵抗という物性から温度や含水率などダイナミクスに直接関わるパラメータに変換するようなことができれば、ひずみ集中機構の解明に重要な貢献を果たすことになる。これに限らず、この研究が今後どのような展開を見せるか注目しているので、ぜひがんばってほしい。
最上 巴恵
「中部日本新潟-神戸歪み集中帯周辺のネットワークMT観測 (1)」(A003-P005)
     最上君の発表は、臼井君の発表と同様、新潟-神戸ひずみ集中帯の地下構造の研究である。生のデータの問題点の解決には時間がかかるが、それを乗り越えてネットワークMT法の特徴である広域・深部構造に新しい知見をもたらして欲しい。
南 拓人
「西南日本背弧域における地下比抵抗構造の多次元性」(A003-P006)
     南君は、西南日本背弧域の地下構造について発表した。このように陸域から海域にまたがる電磁気観測研究は、世界的にみてもユニークである。難しい問題ではあるがぜひ不均質構造を解明していただきたい。
上田 哲士
「MT法による山崎断層系大原断層の地下比抵抗構造探査」(A003-P008)
     上田君は、山崎断層系において数km程度までの浅部比抵抗構造を詳細に研究している。表層近くに低比抵抗領域があるところとないところが見出されており、これらが微小地震などの活動とどのような関連があるのか、極めて興味深い問題である。
栗城 麻由
「On high-frequency EM data before and after the occurrence of the 1999 Izmit earthquake」(A003-P014)
     栗城君は、1999年Izmit地震前後の高周波数電磁気データ(320 Hzサンプリング)を解析しつつある。地震に関連したこのような帯域の電磁場については、まだ研究があまりなされていないので、今後の発展を期待したい。
田中 雅之
「ベトナム南部Da Latに分布する白亜紀の赤色砂岩の古地磁気学的研究」(A004-01)
     インドシナ半島のテクトニクスに対して良質の古地磁気データを与えている。発表ではテクトニクス全般の話であったが、赤色砂岩の岩石磁気学もかなり検討したことと思われる。それらをもとにしてデータの信頼性に焦点をあてた話をすると、より迫力が出てくると思われる。
河村 拓哉
「インド−アジア衝突は東アジアのどこまで変形をもたらしのか??」(A004-02)
     気候・植生などサンプリングが困難と思われる地域から多くの古地磁気試料を採取・測定した努力が認められる。傾動中に獲得された磁化と結論され、クリアな結果にならなかったのが少々残念である。テクトニクスモデル検討に使った発表時間をもう少し磁化獲得プロセスの話にまわすと、説得力の増加を図れると思う。再度サンプリングに行くとのことなので、今回の結果を活かしてもらいたい。
清田 和宏
「先カンブリア紀St. Cloud花崗岩および玄武岩質岩脈の古地磁気学研究」(A004-15)
     原生代の花崗岩類の古地磁気強度測定を念頭においた研究であり、まず初生磁化の検出を行っている。キュリー点測定、低温磁気特性などいろいろな岩石磁気学的研究を精力的に行っている点が評価できる。高温成分、低温成分などいくつか出てきたが、図だけでなく表で特徴をまとめるとよりわかりやすくなったと思われる。最後のまとめの磁化獲得モデルでは、図を使うと良いだろう。
内田 智子
「ドームふじアイスコアの最終氷期末期にみられる千年スケールの10Be変動」(A004-16)
     アイスコアの10Be変動を使った最先端の古地磁気強度変動研究であり、注目度が高い。場所による10Be変動値の相違点、共通点に基づき整合的モデルが得られれば、高時間分解能のグローバルな地磁気強度変動データとして、堆積物データと肩を並べる独自のデータになると思われる。今後の継続的研究が大いに期待される。
奥野 健作
「Vredefort花崗岩の磁化鉱物と隕石衝突の関係」(A004-P002)
     隕石孔岩石の試料をミクロスケールで観察、測定して、残留磁化の起源を丁寧に検討している。ラマン分光測定など岩石磁気学ではあまり用いられることがない測定法も適用して、磁化を突き詰めていく姿勢は高く評価できる。今後より多くの試料を検討し、ミクロスケールからマクロスケールの磁化の解明へつないでいってほしい。次回に期待される研究である。
関 華絵
「グリーンランド南西部で採取した始生代貫入岩のテリエ法による古地磁気強度」(A004-P004)
     太古代の古地磁気強度測定は非常に重要である。その意味で良い試料を得たと思われ、IZZI法による測定結果も良好である。やや大きめな測定結果のばらつき、Arai diagramの折れ曲がり、マグネタイト粒子サイズ分布に対する検討があるといっそうよいと思われる。
山本 真央
「日本における考古地磁気学データからの永年変化曲線の作成」(A004-P007)
     考古地磁気データは限られた地域のみ可能であり、日本の古地磁気学に課せられた重要なテーマである。まだ始めたばかりのようであるが、永年変化曲線を引くだけでなくデータ評価も行っており、良質のデータベース化に期待したい。
下野 貴也
「コア採取方法が磁化率異方性に与える影響:ピストン・コアとグラビティ・コアの比較」(A004-P011)
     グラビティ・コアとピストン・コアの古地磁気試料への変形等の影響を評価した基礎的研究である。結果として、それぞれの採取時〜試料作成時の変形をかなり解明できた。今後は、堆積物の古地磁気測定の精度向上を目指し、研究結果を活かした具体的対策の考案と適用に期待したい。

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