SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2009年度 第2分野講評
審査員: 久保田 実(NICT)、堤 雅基(国立極地研)、三澤 浩昭(東北大学)、三好 勉信(九州大学)

●総評
審査員A:

    思いのほかレベルの高い発表が多く、初めて審査員をしましたが、良い経験となりました。今後、他の研究との連携でより発展しそうな研究成果も多く見受けられ、発表者の皆さんが学会等で貪欲に情報を集め、研究の幅を広げてゆくことを期待します。
審査員B:
    例年と同じく、非常にまとまった発表が多く、レベルも高かったと思う。発表賞受賞者や発表優秀者以外にも、興味深いと思われる発表がいくつかあった。ポスター発表では、修士1年生にもかかわらず、興味深い内容の発表も多くみられた。今後の研究によりさらなる展開を期待したい。
審査員C:
    開発研究から統計解析研究まで内容は多岐にわたり、いづれの研究も工夫が見られて高レベルであり、楽しませていただいた。
審査員D:
    興味深いテーマの研究が多く、機器開発、観測・データ解析、シミュレーション等と手法は異なってそれぞれのアプローチに創意・工夫が感じられた。また、発表も概してよく纏められており、ポスター発表でも口頭発表に劣らず整理された説明がなされたものが多く感銘を受けた。今後も是非継続して頂きたい。一方で、掲げた目的の解決・解明に向けた検討・考察が不十分に感じられる発表も目に付いた。ある手法の下で何らかの結果が得られた場合、そのことで満足せず、是非、その意味の解読に貪欲に挑み、解決・解明に向け迫っていって頂きたい。

●メダル受賞者への講評

鈴木 秀彦
「昭和基地におけるOH大気光観測 -オーロラとOH回転温度」(B005-15)

    南極昭和基地におけるオーロラとOH回転温度の観測から、活発なオーロラに伴って中間圏界面付近の温度に対応するOH回転温度が上昇する現象を発見した。解析は注意深く行われており、発表もきちんと構成され分かりやすかった。今後、傍証となるデータを更に集め、また理論的考察を詰めることにより、温度上昇メカニズムの仮説が実証されることを期待する。
佐藤 隆雄
「Cassini/ISSデータを用いた木星雲粒子の散乱特性」(B009-15)
    本発表では、木星の雲層の鉛直い構造や光学特性に関連して、衛星の木星画像を用いて散乱位相特性について解析を行ったもので、工夫の跡が随所にみられた。発表はわかりやすく、かつ論理的であった。考察もきちんと行われており、高く評価できる。
平 健登
「Oersted衛星でみる中低緯度微小磁場擾乱分布の地域・季節・ローカルタイム依存性」(B005-P035)
    Oersted衛星データを利用し、磁場擾乱の短周期成分(周期20秒以下)のグローバル分布を統計的手法に基づき解析した。着眼点に優れた発見的な研究であり、今後の発展が大いに期待される。
吉岡 和夫
「The EUV spectroscopic observation of Io plasma torus」(B009-P005)
    小型衛星搭載用のEUV分光観測器の技術開発を行い、惑星周辺のプラズマ・ガスの微弱放射光の高効率検出に貢献する成果を得た。さらに、機器開発だけでなく、既存のEUV観測データの解析に基づくイオ衛星起源のホットプラズマとオーロラの関連に着目した研究も進めており、視点のユニークさと開発中の機器により更なる展開が望める研究を将来を見据えて進めようとしている姿勢は高く評価される。発表も研究の意義・特徴の説明が明快で好感のもてるものであった。今後の研究の熟成と発展に期待する。

●優秀発表者への講評
森永 隆稔
「DELTA-2キャンペーンTMAによるオーロラ発生時の熱圏下部中性風の高精度解析」(B005-13)

    DELTA2観測により得られた風速データ解析を行っている。解析手法や大気物理の勉強はまだ必要ではあるが、若干4年生であるにもかかわらず、主体的かつ意欲的に研究に取り組んでいる姿勢を大いに評価し、今後の発展に期待する。
陳 佳宏
「The long-term variations of mid-latitude summer night-time anomaly」(B005-35)
    中緯度電離圏で昼と夜の電子密度の比が逆転するMid-latitude Summer Night-time Anomalyと呼ばれる現象について、熱圏風モデル等を用いてメカニズムを考察した。発表は完成度も高くスムーズだった。但し、使用した本研究の鍵となる熱圏風モデルに関して、もう少し詳しい説明がほしかった。
山崎 洋介
「Analytic representation for quiet daily geomagnetic variations」(B005-38)
    磁力計ネットワークの長期間にわたるデータを使用し、静穏時における季節、地方時などに対する依存性、大気波動との関連性を統計解析により調べた。地道ではあるが、重要な研究として評価できる。
田所 裕康
「Simulation of water group neutral density in Saturn's inner magnetosphere: importance of hot electrons」(B009-07)
    本発表は、土星の内部磁気圏における水分子に関して、シミュレーションを行い詳細に調べたものである。発表は非常に論理的であり、昨年度に引き続き良くまとまっていた。
金尾 美穂
「火星周辺における太陽風プロトンの分布の太陽風対流電場依存性について」(B009-18)
    強いダイポール磁場を持たない火星の電離圏にて、太陽風とのインターラクションで生じる物理過程について、探査機のデータを用いて考察した。研究の背景説明、解析結果や考察の発表は分かりやすく、迫力もあった。発表時間を超過したのがおしい。
山下 幸三
「Improvement of lightning geolocation by time of arrival method using global ELF network data」(B005-P013)
    世界の複数地点で雷由来のELF波動を受信してその発生地点を割り出す手法を改良し、小規模イベントも含めてこれまで以上に位置決定精度を高めることに成功した。今後、雲データなどとの詳細比較が楽しみな発展性のある研究である。
北野谷 有吾
「極冠域電離圏の局所的なプラズマ密度上昇について」(B005-P025)
    衛星測位に重大な影響を与えるSEDの生成メカニズムに関して、あけぼの衛星の観測データを用いて新たな知見をもたらした本研究は大変興味深く、評価できる。ポスター説明のレベルも高かった。
今井 慧
「2基の静止衛星測位信号振幅シンチレーションを用いた電離圏擾乱の構造と移動特性の分離方法の開発」(B005-P031)
    GPS測位でも使用されるL1帯のシンチレーションについて、2つの静止衛星を用いて、その方位の違いと時間差から、シンチレーションの発生領域を推定する手法を開発した。優れた着眼点であり、今後の発展が大いに期待できる。
三津山 和朗
「金星雲頂熱構造の時間変動:地上望遠鏡による中間赤外線観測」(B009-P026)
    金星雲頂付近の熱構造の時間変動を、複数の大型望遠鏡を用いた時間差観測から導出し、構造変動の成因に迫った研究である。金星大気物理の解明に向け着実なステップで進めてきており、観測・データ解析手法にも工夫が見られ秀逸、発表も整理されており明快であった。物理過程の理解に向けた今後の研究の深化に期待する。
神山 徹
「VENUS EXPRESS雲画像解析による金星の複数高度での風速分布推定」(B009-P028)
    Venus Express の観測亜kら得られる金精機も画像を用いて、複数高度での風速推定を試みたものである。発表者自身の創意・工夫の跡が見られたうえ、新しい手法に挑戦しようという意気込みが感じられた。また、ポスターも非常に分かりやすくまとめられていた。今後、解析がさらに進み新しい知見が得られることを期待したい。
山路 崇
「金星雲上CO半球分布の地上分光観測」(B009-P029)
    地上赤外分光観測に基づき金星の雲上CO混合比の空間分布を導出し、大気のCO2サイクルの理解を目指した研究である。分布変動の導出には課題があるようだが、目標に向かって着実に進めていると感じられ、興味深いテーマの研究の今後の展開・推進が期待される。発表・質疑応答ともしっかりしていた。

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