SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2010年度 第1分野講評
審査員:濱野洋三(海洋研究開発機構)、渋谷秀敏(熊本大学)

●総評

    内部電磁気分野で審査対象となった学生発表は、口頭5件、ポスター3件であった。このうち6件は主に2次元あるいは3次元のMT法による地下構造探査に関係している。集中的な共同観測等の複数の電磁気観測の結果に基づいた2次元、3次元の構造のインバージョンがルーチン的に行えるようになり、学生の発表者にもそれらの手法がほぼ理解されていることには、本研究分野の研究進展に関して認識を新たにした。地磁気・古地磁気・岩石磁気分野で審査対象となった学生発表は、口頭3件、ポスター2件と少なめであったが、いずれも広がりのあるテーマで確実にデータを出しており、しっかりした発表であった。

    これらの発表は十分に研究論文としてまとめられるレベルに達しており、口頭発表、ポスター説明に関わらず、学生でない研究者による発表に比して全く遜色はないものである。プレゼンテーションに関しても十分な準備がされており、パソコン発表が当然になってから育った世代であると感心する。

●メダル受賞者への講評

北場 育子 (神戸大学)
「ハラミヨサブクロン下限における気候変化と地球磁場変動」(A004-P005)

    北場君の発表は地磁気変動と気候変動の関係についてであった。この関係は、近年、堆積物を用いた地磁気強度相対変化研究の信頼性が認知されるにつれて、注目されつつあるテーマである。北場君は、堆積速度の速い大阪湾のボーリングコアを用いて、ハラミヨサブクロン開始期付近でこの研究を詳細に行っている。特筆すべきは、古地磁気測定だけでなく、微化石・花粉分析などを用いた古気候推定のデータも自ら出すなど、分野の枠にとらわれない研究を極めて精力的に進めていることである。目的のために必要とあれば、新しいことにどんどんチャレンジする姿勢は、専門化の進む地球科学界において貴重であると感じた。質問に対する答えからデータの意味をしっかり把握していることが伺われ、主体的な取り組みが明確に確認できるとの判断で審査員2名の意見は一致し、学生発表最優秀賞に値すると判断した。

●他の発表者への講評

Zhang Luolei
"Minimum gradient support functional based three-dimensional regularized magnetotelluric inversion" (A003-P003)

    通常の3次元インバージョンの手法では苦手とする、シャープな境界をもつ構造を復元するための手法の開発に関わる研究を行っている。まだスタートしたばかりのようであるが、実際的な構造を復元するためには重要な手法なので、ぜひ実用的な解析手法を確立することが望まれる。
KAYA Tulay
"2D Modeling of Ocean Bottom Magnetotelluric data beneath the Marmara Sea, Turkey" (A003-P005)
    内海の地形が複雑な場所での電磁場変動の観測に基づいて、断層というシャープな境界をもつ複雑な地下構造を解析しようとしている。内海の影響を評価する基礎的な部分の研究を綿密に行っている点に、極めて好感がもてる。断層に関わる構造を復元する上では、電磁気観測だけでなく、他の地震探査等のデータも参照するとさらに良いのではないだろうか。
吹野 浩美
「鬼首カルデラ周辺の地殻比抵抗構造探査」(A003-P007)
    複雑な構造を持つ場所で、観測データを処理し、3次元インバージョンによって信頼性のある電磁気構造を求めている点が大きく評価できる。結果の吟味についても、必要なことがほぼ行われている。
佐藤 雅彦
「圧力によるマグネタイト多磁区粒子の磁気的性質への影響」 (A004-P007)
    磁性粒子の圧力効果に関する研究は岩石磁気学の中でも解明の遅れている分野で、そこに果敢にチャレンジしているのは好感が持てる。さらに物性物理学的視点を持てば、より深い実験結果の解釈が出来てくるのではないかとの印象を持った。
Jusoh Mohamad Huzaimy
"Relationship between Solar and Seismic Activities" (A003-07)
    本研究では太陽活動と地震活動の時間的な相関関係を調べようとしている。地球全体の活動について、時間的な経緯の比較だけから因果関係を立証することは難しいと思われるが、今後は物理的なメカニズムを考えた上で、解析方法、統計処理等を工夫することによって、新しい相関を見いだすことも期待される。
Takla Emad M. H.
"Observed Geomagnetic Fluctuations Possibly Linked with the Taiwan Earthquake M= 6.4, December 19, 2009" (A003-08)
    台湾のM=6.4の地震について、地磁気の変動を観測したという内容である。1つの地震に関して多くの時間スケールでの変動を見いだしている。これらの地磁気変動について、あまり因果関係に言及せず、事実関係を述べているのは好ましい。今後は、特に地震時の変動について、周囲の観測点も含めて詳しく調べるのがよいのでないだろうか。
最上 巴恵
"Network-MT survey around the Niigata-Kobe Tectonic Zone in Central Japan (2)" (A003-11)
    新潟-神戸ひずみ集中帯の地下構造について、ネットワークMTの観測結果に基づいて、信頼性のおける電磁気構造を求めている。ネットワークMT法の特徴をいかして、広域・深部構造に新しい知見をもたらしたといって良いのでないだろうか。新潟-神戸ひずみ集中帯は、中越地震などの活発な地震活動と関連して、興味深い研究対象である。求められた電磁気構造と、地震構造、地震活動を総合して、ひずみ集中機構の解明に今後重要な貢献を果たすことが期待される。
上田 哲士
「山崎断層系の地下比抵抗構造」 (A003-12)
    これまでも一貫して、山崎断層系において深さ数km程度までの浅部比抵抗構造を詳細に研究している。今回の結果では、少し深部の構造として、断層の片側だけに見つかる低比抵抗領域の上限が変化することを見いだしている。断層の運動様式と関連づける等、極めて興味深い問題であるので、今後の進展が期待される。
南 拓人
「海陸境界における二次元FEMモデリングにおける三角形要素と四角形要素の比較」 (A003-15)
    海陸境界における電磁気観測から地下構造を調べるために、適切な手法を開発するための基礎的な研究を行うという姿勢は評価できる。ぜひ、実際の構造解析に進んで、海陸境界域の構造を明らかにしてほしい。
長谷川 夏希
「中国レスを用いたオルドバイ上限の地磁気逆転詳細磁場の復元」 (A004-04)
    逆転時に地球磁場がどの様な振る舞いをするかは、長らく研究されてきたが、ほとんどが松山-ブリュン境界のものである。長谷川君は、堆積速度が速い黄土を用いて、オルドバイサブクロン終了時の逆転について研究した。逆転時は磁場も弱く、方位の確定も難しいようで、既存の研究との比較でも必ずしも一致はしていない。それでも、データの蓄積はなにより重要で、しっかりまとめていってほしい。
大賀 正博
「せっ器から得られた京都における13世紀から17世紀の考古地磁気強度」 (A004-07)
    考古地磁気強度はヨーロッパで最近リバイバル著しい分野である。日本でもデータの蓄積が必要で、時宜を捉えた研究である。最近の手法に則った、正統的な手続きで、古地磁気強度を出していた。結果の分散は、考古地磁気強度研究としては標準的なのであろうが、かなり大きいと感じた。このギャップを詰めることが、実は、考古地磁気研究の課題で、もう一歩踏み込んだ議論があるとさらに研究が飛躍するであろう。
丸内 亮
「阿蘇溶結凝灰岩および火山ガラスのLTD-DHTショー法を用いた古地磁気強度測定」(A004-08)
    古地磁気強度研究の材料として、溶結凝灰岩と、その構成粒子である火山ガラスだけを取り出して使うことによって、異なる素材・酸化状態でも同じ古地磁気強度を示すことを確かめた研究であった。一部、結果の意味の咀嚼が十分でないために質問に的確に答えられていなかったような印象も受けたが、発表には興味深い結果が散在していて、今後の進展が期待される。

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