SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2010年度 第2分野講評
審査員: 深尾昌一郎(福井工業大学)、小川忠彦(情報通信研究機構)、寺田直樹(東北大学)、門倉昭(国立極地研究所)

●総評
審査員A:

    本賞の趣旨は、現時点で既に高いレベルの成果を上げている気鋭の若手と、現時点ではそれ程華々しくはないがいずれ大きく発展する可能性のある研究を進めている逸材を顕彰することにある。前者の視点での選考は優れた論文が多い中、甲乙付け難い思いを抱いた。しかし後者の視点での選考にはもっと苦労した。選考方法に一工夫が要るのではないだろうか。
審査員B:
    口頭発表・ポスター発表とも興味をそそられる研究発表が多数あり、全般的にレベルの高さが感じられた。得られたデータの提示だけに満足せず、背後にある物理過程の解明が重要であることを再認識する必要がある。審査員の立場からの一つのお願いとして、投稿時のアブストラクトには発表概要、先行研究、新規点、発表者自身が貢献した部分などが分かるよう記して頂きたい。
審査員C:
    研究内容と発表技術は、多くの学生が高いレベルに達していると感じた。良い発表とそうでない発表との明暗を分けたのは、研究対象を「面白い」と感じ、「より深く知りたい」という真理追究の情熱を持って取り組んでいるかどうかにあったのではないかと思う。研究を楽しみ、情熱を持って臨んでいる(ようにみえる)学生からは、質問に対しても、現象を深く検討・考察していることが伺える答えが返ってくることが多かったと思う。「面白い」「より深く知りたい」と思う気持ち・情熱は、研究者の根源的な原動力なので、これからも大切にして頂きたい。
審査員D:
    レベルの高い発表が多く、個々の差はわずかで、受賞者を選ぶのに苦労した。特に、金星や水星など惑星関係の発表に勢いを感じた。さらに大きな成果に向かって意欲をもって研究を続けられることを期待したい。

●メダル受賞者への講評

山崎 潤
「水星探査計画BepiColombo/MMO搭載用高エネルギーイオン粒子観測機器(HEP-i)のTOF特性試験」 (B009-P019)

    水星探査用人工衛星に搭載予定の粒子観測器の開発に関わる発表で、目標とする性能を得るための数値シミュレーションとそれを元に設計した機器の、実際の性能確認実験結果の解析についての紹介がなされた。研究内容についての理解も十分と思われ、説明も分かりやすく、研究遂行にあたっての強い意欲も感じられた。将来、自分自身で開発した機器による観測データの取得から解析、と大いなる成果につながることを期待したい。
星野 直哉
「金星中間圏・熱圏大気循環における大気波動の影響」 (B009-04)
    金星中間圏・熱圏大気において、雲層起源の惑星規模大気波動の伝搬特性を独自に開発したGCMではじめて示した。とくに高度80-140 km 域で鉛直波長が約40 kmのケルビン波が卓越すること、および高度約95 kmで観測的に知られているO2-1.27μm発光時間変動にケルビン波が寄与している可能性が初めて指摘された。発表は論理的で質疑も的確で好感のもてるものであった。
峰山 大
「中規模伝搬性電離圏擾乱が干渉合成開口レーダー観測に与える影響の検討」 (B005-P033)
    衛星搭載干渉合成開口レーダーを用いた陸域観測に中規模伝搬性電離圏擾乱が与える影響を調べるため、GPS全電子数と干渉位相差データを解析し、その可能性が高いことを指摘した。この研究はGPS受信機網が非常に密な日本国内でのみ可能であり、ユニークな研究と言える。発表も分かりやすかった。今後、データを蓄積して解析を進め、影響の様子が量的に明らかになることを期待する。
堺 正太朗
「土星 E リングにおけるダスト-プラズマ相互作用」 (B009-24)
    土星Eリングにおけるダストとプラズマの相互作用を、カッシーニ探査機のラングミュアプローブ観測データと、ダスト-イオン-電子の三流体シミュレーションを用いて解析した。観測データを用いて明らかにした共回転遅延を生む要因を理解するために、三流体シミュレーションを用いてダスト密度、ダストポテンシャル、イオン温度の三つのパラメータに対する依存性を示した。発表は荒削りな面もみられたが、論理的に構成されており、考察もきちんと行われていた。質疑応答では、現象を深く検討・考察していることが伺え、著者独自の考えを持って研究に取り組んでいる姿勢は好感が持てるものであった。今後の発展が大いに期待される。

●優秀発表者への講評
山崎 洋介
「Regular daily variations of the geomagnetic field in the Z component during geomagnetically active periods」 (B005-26)

    グローバル電離圏電流と赤道エレクトロジェットの季節変動と日変動を、地上磁場観測網の膨大なデータを用いて解析し、その特性を論じた。データ解析は丁寧に行われており、発表も完成度が高く素晴らしいものであった。発表ではメカニズムについての言及はなかったが、質疑応答では自分の言葉で返答しており、著者の深い考察が伺われる。
神山 徹
「金星雲頂高度で見られる東西風速の周期的変動について」 (B009-P002)
    Venus Expressによる金星雲画像データを用いて、中低緯度帯の風速の長周期変動を示した。地道な作業の積み重ねによって得られた、価値の高い結果である。発表も論理的で分かり易く素晴らしいものであった。今後、本分野の将来を担う人物へと成長して行くことが期待される。本発表で残念だったのは、観測で得られた風速変動の物理機構の解釈・考察が不十分であったことである。大きく飛躍する可能性を秘めた研究であり、今後の展開が期待される。
佐藤 瑞樹
「VEX/VIRTISデータによる金星南極極渦構造の時間的変動の解析」 (B009-P003)
    Venus Express (VEX)衛星搭載のスペクトロメータ(VIRTIS)によって得られたデータ解析により、金星南極域の特徴的な渦構造の時間空間変動特性を明らかにすることを目的とした研究で、説明も分かりやすく、着実な解析がなされていることが伺われた。「あかつき」との同時観測によりさらなる成果が得られることを期待したい。
安藤 紘基
「あかつき電波掩蔽による金星大気の温度分布と硫酸蒸気分布の観測計画」 (B009-P005)
    Venus Expressの電波隠蔽観測データを用いて、金星大気の温度分布と硫酸蒸気混合比の解析を行った。本研究は、あかつきの電波隠蔽観測データの解析に向けた準備という意味合いもある。著者は電波隠蔽観測の原理を深く理解しており、様々な角度からの質問に適切に答えていた。誤差評価は今後の課題ではあるが、あかつきが金星に到着した後の金星大気動力学の理解への貢献が期待される。発表は明快で素晴らしいものであった。
秋里 恭太郎
「火星の南極層状堆積物と日射量変動から見る気候変動」 (B009-P013)
    火星南極での層状堆積物と日射量変動の関係解明は過去には一点のみで行われていたが、これを初めて南極全域に広げ、衛星光学画像を解析して堆積物の層状構造と日射量変動の関連性を調べた。研究目的・目標が明確で画像データを詳細に解析しており、発表も分かりやすかった。今後の研究の発展を期待する。
森 雅人
「大気光イメージング観測によるオーロラ帯近傍の中規模伝搬性電離圏擾乱の研究」 (B005-39)
    大気光全天カメラを用いて、オーロラ帯周辺のカナダ・アサバスカとノルウェー・トロムソで観測された中規模伝搬性電離圏擾乱(MSTID)の様子を初めて調べ、伝搬方向の季節依存性などについて中緯度MSTIDとの違いを指摘した。今回の発表では現象のみの紹介であったが、今後さらに解析を進め、高緯度特有のMSTIDの特性を明らかにすることを期待する。
山下 幸三
「ELFトランジェントとシューマン共振の計測に基づいた全球落雷活動の評価」 (B005-P013)
    ELFトランジェント法とシューマン共振法を用いて得られる全球的な落雷活動の観測データを初めて定量的に比較し、大きな落雷と小さな落雷との関係を調べた。観測データは詳細に検討されており、納得のいく発表であった。今後はデータを蓄積し、最終目標である全球的な電気回路の様相が明らかになることを期待する。
寺口 朋子
「VEX/VMC紫外撮像データによる金星大気乱流のエネルギー輸送構造の推定」 (B009-02)
    Venus Express搭載Venus Monitoring Camera (VMC)の雲頂高度撮像画像から乱流パワースペクトルを導出し、その傾きから低波数域でエネルギーカスケードが、高波数域ではエンストロフィカスケードがそれぞれ支配的であることを示した。変曲点のスケールが緯度に依存しないことから、乱流が2次元から3次元に移行していることを指摘している。発表は論理的で質疑も的確で好感のもてるものであった。
細内 麻悠
「金星昼面の地上赤外分光観測による大気波動現象の抽出」 (B009-03)
    地上の望遠鏡・分光器を用いて、金星の二酸化炭素分布の空間分布・時間変動を観測し、金星の大気循環に関係する波動現象の特徴を明らかにすることを目的とした研究で、説明は分かりやすく、着実な成果も得られていると思われ、また、研究に対する積極的な姿勢が伺われた。
益永 圭
「金星大気散逸に惑星間空間磁場方向が及ぼす影響」 (B009-07)
    金星電離層から酸素などの大気成分が荷電粒子の形で散逸する機構を、金星上流の惑星間空間磁場の方向がVenus-Sun lineに対して垂直な場合と平行な場合について明解に論じている。発表は論理的で質疑も的確で好感のもてるものであった。

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