SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2011年度 第1分野講評
審査員: 茂木透(北海道大学)、福間浩司(同志社大学)

●総評

    地球・惑星内部電磁気学のセッションでは、オーラル7件、ポスター2件の学生による発表があった。テーマとしては海底観測関連が3件あり、他には火山活動のモニタリング、活断層の構造、比抵抗構造からの火山構造の解釈、太陽活動に伴う地磁気変動と地震、東北沖地震と地磁気変動、地中電磁波の到来方向の推定と新しいことに挑戦する意欲的なものもあった。海底観測に関してはデータの質もだいぶ向上し、モデリングや構造の解釈の議論に耐える研究レベルに到達していた。地震に伴う地磁気や電磁波伝播の研究は今後に期待できる面があるが、その関係するメカニズムの議論まで進められると実り多いものとなろう。研究の内容については、講演やポスター説明、質疑応答を通じてよく理解できるものがほとんどであったが、まだ目標に対して迫るためには議論が足りないところも見られた。今後の健闘を期待したい。

    地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは、データ解析・岩石や堆積物試料の測定・室内実験など多様な手法に基づき、核の対流の解明から過去の地球磁場強度やテクトニクス、さらに惑星の磁気異常の解釈に至る様々なテーマについて学生による研究発表が行われた。解析や測定の結果を提示するだけでなく、研究背景や手法とその原理についての質問に対して的確な応答ができる発表者が大半であった。今後さらに背景や手法についての理解を深めながら解析や測定を進めていけば、先行研究を凌駕する明確な結論に至ることが多くの研究において期待できる。口頭(2件)・ポスター(7件)いずれの発表形式によらず、プレゼンテーションソフトや大判プリントの機能を存分に活用して視覚的に訴える点においては、すでに十分なレベルに達している印象を受けた。

●メダル受賞者への講評

KAYA Tulay (東京工業大学)
「Imaging of the North Anatolian Fault Zone by Magnetotelluric Method beneath the Marmara sea」(A003-11)

    大地震を起こす活断層の深部構造は、その発生メカニズムや活動性を議論するためには重要な研究であり、世界各地で行われている。本研究は、20世紀中に多くの大地震が発生しているトルコ・北アナトリア断層を対象にしたものである。この断層では大地震が西に向かって次々起きており、次に大地震が起きる可能性があるMarmara海での活断層構造は注目に値する。 これまで地震の起こっているその東側では多くのMT観測が行われ比抵抗構造と地震との関係が議論されている。本研究では、海底でのMT観測を16測点で行い4断面での比抵抗構造を明らかにした。その結果、断層直下に顕著なマントルまで達する低比抵抗構造が見いだされた。その周辺は高比抵抗であり、それらの境界で多くの地震が起こっていることを明らかにした。このようにした得られた結果を、陸上での既存のデータと比較してこの地域の構造の特徴について議論し、ここで得られた構造が陸上の北アナトリア断層にも続く特徴であることを指摘した。研究成果の重要性や研究対象地域で得られた結果を既存データも含めて深く議論し断層全体の特徴を明らかにした点、発表や質疑応答も明瞭であった点などが評価できるのでメダル受賞者とした。

●優秀発表者への講評

畑真紀
「Network-MT法データによる九州地方の広域比抵抗構造の推定(2)−沈み込み地帯での火山形成のイメージング−」(A003-04)

    九州の火山フロントは、フィリピン海プレートの沈み込みと関連して形成されており、第四紀の火山のほとんどは、この火山フロントに沿って存在している。ところが、九州に沈み込むフィリピン海プレートは、北部と南部で形成年代に差があり、またその沈み込む角度も異なる。このようなことから、九州地方の大規模な地下構造の解明は、火山形成の場を理解する上で重要である。発表者は今回3次元構造インバージョンによる3次元比抵抗構造まで研究を進め、火山に関連した比抵抗構造を議論した。その結果として、阿蘇火山でも背弧側から延びる低比抵抗構造がみられること、火山のない九州山地でも深部では低比抵抗構造が存在することなどを指摘した。これらは従来から議論されてきた、プレートが届いていないところに阿蘇火山があるのか、なぜ九州山地に火山がないのかといった問題に新しいデータを提供するものであり、このような重要な成果を生んだ努力を評価したい。今後も発表者がこの重要性を理解し議論を深めることを期待したい。 
佐藤 雅彦
「In-situ magnetic hysteresis measurement of magnetite under high-pressure up to 1 GPa」 (A004-11)
    火星の磁気異常を担っていると考えられている厚さ数十kmの表層における磁化に対する圧力効 果を調べるために、加圧した状態でマグネタイト試料のヒステリシス特性を測定する実験を行った。試料準備において化学組成・粒径などについて詳細なキャラクタリゼーションがなされ、最近開発された静水圧をかけた状態で強磁場下でも微弱な磁化を測定できる装置を用いて、少量の試料が示す数mTという小さい保磁力を精度よく測定した。1 GPaで数十%に達するヒステリシス特性に対する圧力効果は、今後火星の磁気異常のモデルを発展させる上で強い制約を与えることになるだろう。的確にデザインされた室内実験は惑星科学においても大なる貢献が可能であることを示す好例である。プレゼンテーションも鮮やかであり、口頭発表後の複数の質問に対しても的確な対応をとっていた。
坂口 浩一
「地球磁場を用いた外核内乱流の推定」(A004-P013)
    外核における乱流を見積もるために、IGRF等の標準磁場モデルから得られる核−マントル境界での磁場の時間変化のパワースペクトル密度を求めた。表層で観測される地球磁場から下方接続によって核−マントル境界までの磁場を得る方法は400年前に遡るまで広く適用されている。一方、通常の流体の一様等方乱流においては流速分布のスペクトル解析からコルモゴロフ則などが得られる。両者を結びつけ、高いレイノルズ数をもつ電磁流体からなる地球の外核に対して、磁場のスペクトル解析から乱流を推定する試みを行っている。解析は進行中のようであるが、地磁気学の王道をいく研究であり今後の発展に期待したい。ポスター発表における質疑応答でも研究の背景や解析の方法について自分の言葉で明確に話し、十分な理解に達していることが伺えた。

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