●総評
審査員A:
総じてレベルの高い発表が多かったが、各自の仕事の位置づけと関連する周辺分野への影響の認識の点でより一層の努力が望まれる発表が散見された。指導教員の言うことにさえ疑いをもってオリジナリティを発揮していただきたい。
審査員B:
ポスター発表では積極的な説明が多く、熱心さが伺われた。一方で、開始時刻になっても貼られていないポスターもいくつか見 られ、発表内容以前の問題として今後の注意を喚起したい。口頭・ポスター発表を通じて、解析あるいはデータの取得に広い視野に立った検討 があれば、より良い 成果につながると思われるものが散見された。発表とディスカッションの繰り返しが重要であると感じた。
審査員C:
口頭発表では構成や表現力に優れ、研究背景や位置づけがしっかりなされているものが多く、準備を入念に行ってきたことが感じられた。こうした面では概して合格点をつけられるものがほとんどであった。一方では、データ取得やシミュレーション実行、ひと通りの議論といった標準的な構成が多く、研究の独創性に多少不満を感じることもあった。この研究は世界で自分だけと言い切れるような自信がもてるよう勉強する事、そしてそれを踏まえて新たな視点をもつことが重要であろう。ポスター発表では逐次質疑が出来るため、著者の本気度が如実に表れた。研究として完結していないものが多く、それらについては今後の発展を期待したい。予稿だが、真面目に準備しているものとそうでないものとの隔たりが大きい。予稿の意味を理解し、英文、和文ともに構成をしっかり考え、読者が十分理解出来るよう準備してほしいものである。
審査員D:
研究の意義から結論までを論理的にまとめたレベルの高い研究が多かった。発表や質疑応答など、事前の準備と普段の研究を精力的に行っていると感じた。データ解析だけでなく、新たなデータを自ら取得し真理を追究する研究が今後も増えていくことを期待したい。
●メダル受賞者への講評
神山 徹
「金星雲頂でのスーパーローテーション時間変動と惑星規模波動との関連」(B009-P021)
Venus Express/Venus Monitoring Camera (VMC) により紫外波長 (365 nm) で撮像された金星雲画像データから雲頂高度の風速を求め、スーパーローテーションの時間変動と金星大気中を伝播する惑星スケールの波動を調べた。自ら作成した画像解析プログラムを用いて雲の移動量から風速を決定している。東西風速に100日程度の準周期的時間変動があることを発見し、そのメカニズムを議論した。金星大気のスーパーローテーションの解明に向かうレベルの高い研究である。
原 拓也
「火星電離圏イオンの降り込みに対する太陽風電場の影響」(B009-07)
原拓也は、Mars Express探査機(MEX)搭載のイオン計測装置(ASPERA)による火星電離圏イオンの降下現象に対する太陽風電場の影響について、磁場計測能力を持たないMEXにあって、ASPERAによるイオンの3次元速度分布から太陽風中での惑星間空間磁場を推定する手法を試し、金星周回のVenus Express探査機(VEX)データで同手法の有効性を実証した。この仕事は惑星周辺プラズマの観測手法として有用であり、学生発表賞に十分値する。
福島 大祐
「南北両半球での赤道域プラズマバブルの熱圏・電離圏総合観測」(B005-26)
プラズマ・バブルは長く研究されてきているが、未だ不明な点が多い。一つの問題はプラズマと中性大気の力学が複雑に関わっていることで、福島大祐氏は大気光イメージャー、ファブリペロー干渉計、イオノゾンデ観測のデータ、さらにIRI電離圏モデルを総合的に解析し、プラズマ・バブルの形成発展を明らかにしている。多面的な観測量を矛盾なく説明した研究の完成度は高く、学生発表賞に十分値する。
松田 和也
「The Role of the Electron Convection Term for the Parallel Electric Field and Electron Acceleration in the Io-Jupiter System」(B009-P003)
数値シミュレーションを用いてイオ−木星系における沿磁力線電場の発生に関し、特に電子移流項に着目して議論した発表である。セミディスクリート中心スキームを電子移流項を含む多流体磁気流体方程式に適用することで、このような議論を可能にした。また、イオンを高温と低温に分けてシミュレーションすることで、境界域に沿磁力線電場が形成される事を示したことは非常に興味深い。発表資料は良く準備されており、明解な説明により著者本人の問題に対する理解度が十分であることが感じられた。質問に対する回答も明確で納得できた。今後は沿磁力線電場だけでなく、イオ−木星系の更に大きな電場・電流構造について新たな解明を行うことを期待する。
●優秀発表者への講評
高橋透
「ナトリウムライダーと流星レーダーを用いた大気重力波フィルタリング効果の研究」(B005-05)
ノルウェーのトロムソに設置したナトリウムライダーで観測した温度データから大気重力波を抽出しフィルタリング効果に着目して解析を行った発表である。長時間の大気温度データをスペクトル解析し大気温度変動の卓越成分を見つけ出し、伝搬高度を比較することでフィルタリング効果について議論している。流星レーダーの風速データを用いて更に進んだ検証も行っている。発表の構成は良く考えられており大変わかりやすかった。何が問題で、データから何を導きたいのかが良く伝わりました。質疑応答で十分な回答がなされなかったことが唯一残念であるが、今後の更なる努力により、もっと立派な発表になることが期待できる。
山下千穂子
「成層圏突然昇温に伴う成層圏重力波変化とその電離圏への影響」(B005-07)
本発表は大規模なシミュレーション手法により2009年に発生した成層圏突然昇温が全球的な電離圏・熱圏変動に如何に関わっているかを解明したものである。入力パラメータの吟味などが綿密になされており、全体を通してよくまとめられた発表であった。演題にある「電離圏への影響」に関わる物理過程の考察があればさらに良かった。
鄒運
「北海道-陸別HF レーダーによる擾乱時における中緯度域電離圏対流のSEA 解析」(B005-32)
北海道HFレーダーによる擾乱時の中緯度電離圏対流について統計解析で現象を抽出した。発表内容の構成と表現力に注目すべきものがあり、今後の成 長が期待される。
青木翔平
「MEX/PFS 観測データを用いた火星大気酸化成分H2O2 の探索」(B009-03)
Mars Express衛星の赤外フーリエ分光計の観測データから、長期にわたるH2O2の平均量を導出し、火星大気中の酸化成分の変遷に検討を加え、CH4の消失過程を評価している。発表のイントロでは問題点が明確に述べられ、理解を容易にしていた。先行研究との比較や議論もしっかりと述べられ、構成も良く練られていたと思う。自らのオリジナリティを加えていくことで、大いに発展する可能性をもつ研究だと感じた。
松井 裕基
「金星雲上における HDO の緯度分布定量」(B009-P023)
金星のD/H比は未解決の問題として残っている。IRTF望遠鏡とCSHELL 分光器を用いてHDOを測定し緯度分布を求めた。雲の凝縮、蒸発プロセスとD/H比の高度構造を関連付けたアイデアはユニークである。研究のレベルは非常に高い。
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