SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2011年度 第3分野講評
審査員:笠原 禎也(金沢大学)、菊池 崇(名古屋大学)、熊本 篤志(東北大学)、藤田 茂(気象大学校)、松清 修一(九州大学)

●総評
審査員A:

    最近の学生諸氏の研究発表は、プレゼンテーションの技法に優れたものが多く、今年の学生発表賞の審査でも、このことを強く感じた。例年、多くの講演が審査の最終候補に残り受賞者を決めることがなかなか難しいと聞くが、今年度もその通りであった。オーロラメダルや優秀発表として表彰されなかった学生でも紙一重の人が何人もいたことを述べておきたい。その中で、表彰を受けた発表は、技法だけでなく、研究の理解度が高く、同時に先行研究も整理されて報告されていたことが挙げられる。このことによって、質疑応答も満足するものであった。さらに、受賞者は楽しみを持って研究を行っているという印象を持った。今後の発展が楽しみである。一方で、全体としてやや研究内容が小粒であるような印象を受けた発表が目に付いたことが気になる点である。
審査員B:
    多くの発表が目的、方法、結果、結論(今後の課題)と分かりやすくなっており、特に大きな問題はない。一方で、アブストラクトが不充分という印象を受ける。アブストラクトは、たとえ途中結果であっても、論文のアブストラクトのつもりで、これまでに得た知見を記述し、可能であれば今後の見通しまで書くようにすれば、研究の全体を見渡すいい機会ともなるもので、大いに活用して欲しい。
審査員C:
    学会発表では、そこに至るまでの各人の研究に対する取り組み方がよく表れるものです。学生発表では特にその傾向が強く、日々の取り組み方が発表の態度となって如実に表れているように感じられました。結果はもちろんのこと、研究の背景やその中での自分の研究の位置づけは、納得のいくまで自身の中で昇華されるべきです。そうすることによって、聞き手に自分の言葉で分かりやすく伝えることができます。口頭発表では、背景の説明を、周知のこととしてあえて省略するような発表も見かけられましたが、そうした態度は、その分野のことが良く分かっている人からは「ごまかしている」ように見えますし、分野外の人や初めてその手の話を聞く人には最初から焦点のボケた話として受け取られてしまいます。一方で、研究のストーリーが明確に描かれていて、平易な言葉で語られた発表は、聞き手に好印象を与えます。完成度の高いものは、すぐにでも学術論文になりそうなものもありましたし、結果はこれからというものでも、方向性がしっかり定められており、なおかつ新規性・独創性に優れて今後の発展を強く予感させるものもありました。審査では上のような点を重視しました。
審査員D:
    一連の発表を聞いて、多岐にわたる分野の難問に、学生諸君が果敢に挑み、その努力が新しい知見の獲得に大いに貢献していることを痛感しました。最近は様々なプレゼンテーション手法が可能となり、視覚的にもわかりやすく、ストーリーをうまくまとめた発表が多かったですが、通り一遍のうまさではなく、明確な問題意識と深い洞察のもと、自分の考え・主張が、聴衆の誰でもわかる形で発表中に織り込まれていることが、メダル受賞や優秀発表論文に挙げられる決め手だったと思います。裏を返せば、せっかく立派な成果を上げながら、聴衆(特に少し分野が異なる聴衆)にそれを伝える迫力に欠けた惜しい発表も多くみられました。これはただ話を易しくせよという意味ではなく、自身の研究の素晴らしさを相手に全力で伝える熱意ともいえ、今後、研究に限らずあらゆる場面で求められる能力と考えます。今後の皆さんの研究の深化に期待するとともに、この審査経験を自らの研鑽に活かしたいと感じさせるSGEPSSでした。
審査員E:
    今回の学会発表はいかがだったでしょう。あなたが取り組んでいる研究の意義・目的を聞く人にうまく伝えられたでしょうか?研究方法・結果は正確に理解してもらえたでしょうか?成果は十分アピールできましたか?優れた発表を行うためには、一定の研究成果に加え、その意味・重要性を自身でよく理解し、説明できる必要があります。日頃の研究活動、とりわけ文献による先行研究理解、指導の先生や関連分野の研究者との相談や意見交換、自分の頭で納得するまで考えること、などが重要です。今回受賞者に挙がらなかった人からも、次回多くのメダル候補者が出てくることを期待しています。
●メダル受賞者への講評

井口 恭介
「SCOPE衛星搭載に向けた高精度磁力計の開発」(B006-14)

    宇宙機搭載用高分解能フラックスゲート磁力計は、高分解能でかつ小型軽量であることが求められる。発表者はSCOPE衛星搭載用のデジタル方式フラックスゲート磁力計に求められているDAコンバータの高性能化を図り、16ビットDAコンバータの開発に成功し、ロケット実験搭載機を製作して有効性を実証した。これはSCOPE衛星搭載フラックスゲート磁力計のDAコンバータに求められる20ビットの精度に至る重要な一歩である。一般に測器開発の発表は、それを専門としない者から見た場合、工夫した点を理解することが難しいことがあるが、本発表ではそれらを非常に明快に発表していた。本研究は、宇宙機での高精度磁場観測をするうえで重要な技術開発と考えられるので、今後の発展が期待される。
岩井 一正
「太陽電波Type-Iバーストのスペクトル微細構造」(B007-13)
    太陽コロナ中における粒子加速過程で発生する電波バーストは、放射点のプラズマ密度に起因する周波数ドリフトに加え、非常に微細なスペクトル構造を持つことが知られている。発表者は、その中でも最も複雑な微細スペクトル構造を持ち、その原因の多くが未解明であるType-Iバーストに着目し、飯舘村に設置された世界最高レベルの高分解分光機能を有する大型メートル波電波望遠鏡(IPRT)を用いて、その詳細なデータ解析と解釈を試みている。同装置の設計・製作には、発表者本人が携わってきており、3年前の当学会講演会で、開発に要する知識と技術の習得力を評価されて、オーロラメダルを受賞している。今回の発表は、これまで開発にかけた努力が結実し、所期の目的であるType-Iバーストの多様なスペクトル微細構造を明らかにしたもので、その研究成果は再度のメダル受賞に十分値すると評価された。今後のデータ解析の結果が、太陽電波バーストの理論的解明につながることを大いに期待したい。
上村 洸太
「太陽風プロトンの月面散乱における散乱角依存性」(B011-P004)
    月表面から反射される太陽風プロトンを「かぐや」で観測し、月表面でのプロトンの反射特性を調査した研究である。低エネルギー反射電子の研究はこれまでもされてきているが、低エネルギープロトンに関する先行する研究はほとんどない。発表者の研究によると、入射プロトンは室内実験で示唆されていた鏡面反射はせずに月表面で180度反対方向に反射されていることが明らかになった。発表者は、レゴリスが微細な構造を持つと考え、そこにプロトンが入射するモデルを考えて、観測と合う結果を得たことにより、プロトンの反射機構を数値実験的に明らかにした。この結果は、大気を持たない天体と太陽風の相互作用を知り、今後様々な理論やモデルを考える上で重要な知見である。今後の発展が期待できる。
白川 慶介
「ハイブリッドコードによる磁気回転不安定性の局所シミュレーション」(B008-14)
    磁気回転不安定性は、長年の間謎とされてきた、降着円盤における角運動量輸送の担い手として現在盛んに研究されている。元来シミュレーション研究が主流のテーマであるが、先行研究の多くはMHD的アプローチによるものであり、高ベータ状態の降着円盤において本質的に重要となり得る運動論的効果は無視されてきた。発表者はこの点に着目し、標準的なハイブリッドコードにコリオリ力と潮汐力の効果を加えて局所的磁気回転不安定性の非線形発展を再現し、特に不安定性の初期段階において見積もられる成長率が、流体近似に基づく線形解析の結果とずれることを明らかにした。目的意識が明確で、分かりやすくまとめられた発表であった。今後、シミュレーション結果を精査してより深い考察を加えることにより、大いに発展が期待される研究である。

●優秀発表者への講評

市原 拓
「現実的な磁場とプラズマ配位におけるポンデロモーティブ加速のテスト粒子計算」(B008-P010)

    効率のよい電気推進は宇宙航行に不可欠の技術となっているが、多くの既存の電気推進機関では、推進材であるプラズマと電極が直接接触するため、電極摩耗による推進機関の寿命制限が問題となっている。本発表者は、これを根本的に解決する一方法として、プラズマ外に置かれた電極により高周波電磁波を励起し、電磁ポンデロモーティヴ力(電磁波の圧力)によりプラズマを加速する方法について、理論的検討および詳細な数値計算を行い、この方式が有効であることを示した。この研究結果は、近々開始予定の室内実験に重要な指針を与えるものであり、極めて価値の高いものと評価される。説明は要領よく、説得力があり、優秀発表に値すると判定した。
栗田 怜
「On the relationship between equatorial plasma wave activities and diffuse auroral electron precipitations」(B006-P025)
    本発表者は、Diffuse aurora電子の降下にECH波(electron cyclotron harmonic waves)とwhistlerモードのどちらが有効であるかを明らかにするという明確な目的のもと、THEMIS FBKデータを用いてECH波とwhistler波のL=5-10の赤道面の振幅分布を調べた。この結果、ECH波は夜側の高いL値で強く、地磁気活動とともに増加する傾向 があることから、ECH波がdiffuse aurora電子の降り込みに関与しているとの結論を得た。一方で、地球に近いところではwhistler波が有効である可能性も指摘している。内容の達成度が高く、使用した磁場モデルの問題点を次に生かす計画もあり、優秀発表に値すると判定した。
堺 正太朗
「カッシーニ・ラングミュアプローブによるエンセラダス軌道周辺のイオン観測」(B011-P003)
    Cassiniの観測から、土星のEリング領域でイオンが共回転速度からケプラー速度程度まで遅延すること、Enceladus周辺では電子密度がイオンに対し少なくなっていることが報告されている。本発表者は、Langmuir Probeデータの統計解析から、イオン速度の動径分布を明らかにした。さらに、これがEnceladusのプリューム起源の負に帯電したダストによる効果であることを示すため、ダスト-イオン-電子の三流体MHDシミュレーションを行い、イオン速度遅延の物理過程について検討・考察を行った。説明もわかりやすく優秀発表者に値すると評価される。
津川 靖基
「Kaguya衛星で観測された月周辺の狭帯域・広帯域ホイッスラーモード波動の関連性」(B011-08)
    本研究は、Kaguya衛星が月近傍で観測した狭帯域(monochromatic)および広帯域(non-monochromatic)なホイッスラーモード波の双方について詳細なデータ解析を行い、両者の違いと関連性について議論している。発表者は、両波動ともに月の磁気異常近傍で観測されるが、広帯域なホイッスラーモード波のほうが磁気異常に近い領域に分布することを統計的に示すと同時に、波の分散関係を定量評価することで、月の磁気異常と太陽風の相互作用により励起した広帯域ホイッスラーモード波が、太陽風に逆らって大きくドップラーシフトを受けて伝搬することで、狭帯域ホイッスラーモード波として観測されるというシナリオを裏付ける解析結果を示した。プレゼンテーションは大変明快で説得力があり、同氏が着実に成果を積み上げていることを印象付けた。今後のさらなる発展を期待したい。
原田 裕己
「月磁気異常帯が電子gyro-loss効果に与える影響」(B011-04)
    発表者は近年、磁力線に沿って螺旋運動する電子が月面に衝突することで、衛星で観測される速度分布関数に空洞領域が現れるgyro-loss効果についての研究を進めている。本講演では、月面近傍での磁気異常帯の微細構造解明を念頭に、磁気異常帯が電子gyro-loss効果に与える影響について議論した。その結果、速度分布関数の空洞領域の現れ方が、月面下のダイポール磁場の極性や強度、表面磁場の空間スケールなどに敏感に依存することを示し、衛星高度で磁力計によって計測されるよりも高解像度の磁場構造をgyro-loss効果によって炙り出すことができることを示した。これまでに積み上げてきた知見をもとに、着実に成果を上げている点は高く評価される。プレゼンテーション能力も高く、完成度の高い研究発表であった。

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