SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2012年度 第1分野講評
審査員: 大野 正夫(九州大学)、山口 覚(大阪市立大学)

●総評

    第一分野では口頭10件、ポスター6件の発表が審査対象となった。この件数は、すべての学生発表が対象となっていた、昨年および一昨年と遜色なく、この分野の若手の研究活動の活発さおよびその成果をアピールする意欲の高さを反映したものであろう。 地球・惑星内部電磁気学のセッションでは、地震断層・火山の電磁気探査および津波ダイナモの研究が、そして地磁気・古地磁気・岩石磁気のセッションでは、地磁気ダイナモ、岩石磁気、テクトニクス、古地磁気変動に加え、古地磁気・岩石磁気の火山・津波への応用までバラエティーに富む研究が審査の対象となった。どれも大量の観測データやシミュレーション結果、あるいは数多くの試料の分析に基づくしっかりした研究で、まだ予察的な段階の発表が多かったが、皆、今後が大いに期待できる内容であった。 口頭、ポスターとも、皆、十分に発表練習を積んできたことがうかがわれ、自分の研究をアピールする姿勢が感じられた。また図も見やすく工夫されたものが多かった。一方で研究の背景と位置づけについては、皆一様に準備して発表しているものの、理解度の深さには差があるようであった。

●メダル受賞者への講評

寺田 卓馬
「保磁力−ブロッキング温度マッピングによる岩石磁気特性の考察」(A004-P004)

    本研究は、岩石試料に付加した非履歴性残留磁化(ARM)の熱消磁と交流消磁を段階的に交互に行って得られる、ブロッキング温度と保磁力の2次元マッピングに基づき、磁性粒子の種類・サイズ・形・量の推定を行ったものである。古地磁気・岩石磁気測定において、交流消磁・熱消磁はともに基本的測定法として普遍的に利用されているが、保磁力空間で見たときの残留磁化の振る舞いと、ブロッキング温度空間で見たときのそれとの比較は、これまで定性的な域を出なかった。本研究はブロッキング温度と保磁力の対応関係を理論的にモデル化し、それを実際の岩石試料で実験的に実証した。着眼点に独創性があり、さらに非常に時間のかかる実験を根気良く行ったうえで理論的なモデル化によるアプローチも行っており、他の発表と比較して秀でていた。また、発表や質疑応答も明瞭で、研究の背景や位置づけを含めて研究全体をしっかりと理解しており、主体的に取り組んでいることが明確に確認できた。以上のことから、学生発表賞に相応しいと判断した。

●優秀発表者への講評

佐藤 哲郎
「石垣島産津波石の古地磁気からみる堆積記録」(A004-P001)

    本研究は、最近特に注目を浴びている歴史時代・地質時代の津波について古地磁気学を応用して研究した新しい視点の研究である。この研究では、大津波により石垣島のサンゴ礁から陸に打ち上げられた”津波石”の年代について、サンゴの残留磁化に着目して論じた。サンゴのごく微弱な残留磁化について段階熱消磁実験を行い、その結果をNeelの単磁区理論に基づき解釈した優れた研究である。通常、古地磁気学的研究ではノイズとして扱われることの多い粘性残留磁化を積極的に使った点にも独創性が認められる。発表や質疑応答においても自分の言葉で的確に話しており、この点も評価できる。
三國屋 しおり
「野島断層の層状断層岩の電磁波伝搬特性」(A003-P007)
    地震発生(断層破壊)に伴う諸電磁気現象を解明するにあたり、断層破砕帯を構成する物質の電気的、磁気的特性を明らかにすることは、基礎的かつ重要なテーマである。この発表は、これまでの岩相の違いに加えて、特徴的な断層岩およびその走向方向にも注目するといった新しい観点からの実験である。まだ実験は進行中であるが、実験方法の改善および構成物の組成比の影響などの点において、さらに改良・考察が進められることが予定されており、今後の発展が期待される。
南 拓人
「有限要素法を用いた二次元津波ダイナモシミュレーション」(A003-14)
    海域、陸域ともに稠密な観測が展開されている日本周辺において、2011年東北地方太平洋沖地震に伴い巨大な津波が発生したことによって、津波電磁気現象の研究は、新たな展開を迎えようとしている。発表者は、この新しい分野に対して、主体的に、また果敢に、この研究に挑戦している。今後も計算の前提や計算方法における改善と精力的な計算がすすみ、近い将来にその成果が結実する事が期待される。発表・質疑応答も明瞭で好感が持てた。

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