SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2012年度 第3分野講評
審査員:小原 隆博(東北大学)、笠原 禎也(金沢大学)、関 華奈子(名古屋大学)、町田 忍(京都大学)、松清 修一(九州大学)

●総評
審査員A:

    今回の発表では、幅広いテーマについて、発表者独自の試みがなされている印象を受けた。実験観測、データ解析、理論などの研究手法のカテゴリーにおいて、最新のテーマを扱った研究、あるいは古典的なテーマではあるが、それを深化させ、また、アプローチに近代的な手法を持ち込むなどの工夫が見られた。多くの発表者は、熱意を持って生き生きと内容を伝えてくれた。しかし、内容は完成の域に達しているにもかかわらず、発表の準備が十分に追いつかず、相応の評価が得られなかったものが幾つかみられた点を残念に感じた。今回受賞を逃した発表者は自己点検を行い、ぜひ次回以降にあらためて挑戦して欲しい。今後、相互に切磋琢磨して、コミュニティーのレベルが向上し、全体がさらに発展していくことを願う。
審査員B:
    今回、学生の方々の発表を審査する機会を与えられ多くの発表をお聞きし、質問もさせていただきました。全体を通じ、質問に的確に答えてくださり、内容を熟知している姿は印象的でしたが、宇宙・惑星分野における当該研究の位置付け並びに今後の展望については、全員が明確な視座を持っているとは限りませんでした。潮流を意識する事で、個々の研究に一層の深みが出てきます。ぜひ、指導教員との議論を大切に、今後とも意欲的に研究を進めていただければと思いました。
審査員C:
    様々な手法を駆使して、得られた成果をうまくまとめた発表がある一方で、せっかく高い成果を得ながらそれを十分伝えきれてない残念な発表も見られました。プレゼン能力は評価の1要素に過ぎませんが、関連研究に対する自身のテーマの位置づけや意義を、自分の頭できちんと昇華した言葉で語られる成果報告は、自然と人を惹きつけるプレゼンテーションに結びつきます。解析ツールやプレゼンツールの高機能化に伴い、ついその力に頼って満足しがちになりますが、聴衆の目線から考えたとき自分の主張をどう伝えるべきか、じっくり時間をかけて構成を練り上げることが肝要でしょう。 4日間にわたる審査は大変疲れましたが、多岐にわたる研究発表を集中して聞き込んだ経験は、私自身の問題意識や視野を広げ、自身の研究にフィードバックする大変良い機会になりました。今後ますます若手の皆さんから素晴らしい研究成果が生み出され(もちろん我々もそれに後れを取ってはいけません!)、活気ある討論が展開されるSGEPSS講演会を期待したいと思います。
審査員D:
    研究の背景や先人たちの成果をきちんと理解してその中に自身の研究を位置づけること、自身が得た新たな知見や成果を噛み砕いて説明できること、それらをまとめて今後の方向性についての検討が具体的になされていること、こうした点が満たされた発表は自ずと洗練されたものになると審査を通じて感じました。また、最近ではプレゼンテーション技術の重要性が以前と比べて増しています。観測でも数値実験でも複雑で膨大なデータが扱われるようになり、結果をいかに分かりやすく表現できるかで発表の質が大きく左右されるようになっています。日々の研究の中で不断にものごとを深く考える姿勢と、成果を公の場で効率よく伝える能力の両方が求められています。そしてこれらは、将来どのような道に進んでも必要なことに違いありません。
審査員E:
    プレゼンテーションに気を配った発表が増えており、プレゼンテーション技法のレベルは全体として上がってきていると感じられました。特に発表の準備度に関しては、修士課程学生にも優れたものが多く見られ、早い段階から研究発表の重要性を意識している現れであろうと思います。一方で、せっかくよい成果をあげているのに、研究の位置づけの説明が不十分であったり、研究内容を相手に伝えることに無頓着な発表も散見されました。プレゼンテーションスキルは、研究に限らず様々な場面で今後も求められていくものであり、立場によらず、常に向上を心がけてゆきたいものです。 発表者自らの研究テーマに関する理解度の深さが質疑応答では如実に現れており、研究内容はもとより、研究の背景、その中での自分の研究の位置づけを、自らの言葉で平易に明確に示した発表に高評価が集まっていました。今回受賞に至らなかった発表の中にも、分野の挑戦的な課題に取り組んでいる意欲的なものがありました。惜しくも受賞を逃した方々には、落胆することなく、柔軟な発想と緻密な計画のもと、各分野のブレークスルーを目指して研究に邁進していただきたいと思います。
●メダル受賞者への講評

石井 宏宗
「較正機能を有するプリアンプ一体型小型プラズマ波動波形捕捉受信機の開発」(B006-34)

    科学衛星によるプラズマ波動観測では、周辺プラズマの密度や温度に依存して電界センサのインピーダンスが変化するため、測定した電界波形の精密な振幅・位相を得るには、センサおよび受信機の伝達関数を得るための較正機能が必須である。本研究は、較正機能に加え、プリアンプまでを一体化した小型プラズマ波動波形捕捉受信機をアナログASICで実現する方法を提案している。これにより、1チップですべての機能を搭載したプラズマ波動受信機が実現可能となり、観測機の劇的な小型化・軽量化に大きく貢献する研究成果と言える。発表の構成も、先行研究で実現済みの研究成果と自らが発展させた部分を明確に区別し、発表者本人の貢献がどこにあるのか、また本研究のゴールにある小型プラズマ波動受信機の将来像が目に見える形で示された、完成度の高いものであった。
遠藤 研
「S-520-26号機ロケット実験で得られた電離圏電子密度及びプラズマ波動のスピン位相角依存性」(B011-P002)
    本研究は、2012年1月に内之浦から打ち上げられたロケットS-520-26号機で実施されたプラズマ波動観測に関する報告である。実験は地磁気静穏時に行われ、ホイッスラーモードに対応する0.02〜0.6 MHz帯の波動電場と、観測高度によっては Upper-hybrid モードに対応する1.2〜2.2 MHz帯の波動電場が検出された。発表者は、ロケット実験に準備の段階から参加し、得られたデータの解析を行って、さらに、その結果を過去に提唱されたモデルの予測と比較検討することによって、ウェイク中におけるプラズマ波動ついて新しい知見をもたらした。選考の過程において、これら一連の成果が高く評価された。
幅岸 俊宏
「Geotail衛星で観測されたデュアルバンドコーラスの発生・伝搬特性の解析」(B006-32)
    昼側地球磁気圏で観測されるライジングトーンコーラス放射のうち、電子サイクロトロン周波数(fce)の1/2付近の放射強度が弱く2バンドに分かれたデュアルバンドコーラスについて、Geotailデータを用いた解析によりその成因を議論した。既存モデルでは、地磁気最小点付近で励起されたホイッスラー波がダイポール磁場に沿って伝搬する際、伝搬経路に沿ったfce/2付近の波が減衰すると考えられているが、本研究はこのモデルの実証を狙ったものである。減衰周波数領域の上端が衛星位置でのfce/2に一致するという従来の観測結果を確認し、さらに下端がTsyganenko磁場モデルから推定される地磁気最小点でのfce/2にほぼ一致することを示して、モデルの妥当性を裏付けた。結果は非常に分かりやすくまとめられており、論点が明確であった。今後、モデルをどう発展させるかにまで議論が及ぶことを期待する。
東森 一晃
「MHD 乱流シミュレーションコードの開発: 磁気リコネクションでの乱流効果」(B008-20)
    磁気リコネクションに関する重要な課題として、宇宙でしばしばみられる高磁気レイノルズ数条件下で、いかに高速リコネクションが起こるかという問題がある。乱流とそれに伴う運動量輸送やエネルギー散逸は,宇宙プラズマ現象においてしばしば重要な役割を果たすと考えられているが、近年、乱流によって局在化した速いリコネクションが可能となる効果などが示唆され、磁気リコネクションにおける乱流の効果が注目をあびている。発表者は明確な問題意識のもと、通常のMHD方程式に加え、クロスヘリシティーと乱流エネルギーの時間発展方程式を解くことで、マクロな視点から乱流の効果を議論可能なMHD乱流シミュレーションコードを開発した。発表では、研究の背景、従来の研究の問題点とそれを克服するための当該研究の特徴など、研究のストーリーがわかりやすくよくまとめられていた。今後、多方面に応用が期待される研究である。

●優秀発表者への講評

河村 麻梨子
「太陽風中における月由来イオンの短時間積算による解析」(B011-P005)

    月は厚い大気を持たないが、NaやKを含む希薄な外気圏を持つことが知られている。さらに、KAGUYA搭載のIMA(イオンエネルギー質量分析器)観測は、月表面あるいは外気圏を起源とする様々な重イオンが月周辺高度100kmに存在することを明らかにした。本研究は、IMAのデータを用いて、月が太陽風中にあるときの月由来イオンの特徴を解析し、月の局所的な磁気異常が存在しない領域では、対流電場がイオンの輸送に支配的であるのに対し、磁気異常上空では別なプロセスを考慮する必要性を示した。丁寧に構成されたポスターで結果が明瞭に示されており、データ解析が丹念かつ緻密に行われたことをうかがわせた。このような緻密な成果の積み上げにより、発表者が最終目標と位置付ける月由来イオンの生成プロセスの解明と、各イオンの全球的な空間分布が、近い将来、明らかにされることを期待したい。
外山 晴途
「2チャンネル電子データを用いた放射線帯モデルパラメータ推定に関するデータ同化研究」(B010-P003)
    JAXAのつばさ衛星に搭載された高エネルギー電子観測2チャンネルのデータを、データ同化の手法を用いて有意なデータとして再生をさせるプロセスは、データ処理の手本になる研究である。ベースとした方程式系から、拡散係数の導出は、見事である。以上の過程から2002年のバンアレン帯の放射線電子変動の状況が明瞭になったが、電子加速項が欠落していたので、今後は、この項を正しく評価する方向で研究が進むことを期待したい。
平田 義治
「次世代無電極推進機関のための発散磁場と周方向交流電流によるプラズマ加速」(B008-P010)
    本研究は、完全無電極電気推進機関を実現する方法の一つである、外部交流電流によってプラズマ内の周方向に励起される交流電流と、発散磁場の間に発生するローレンツ力によってプラズマを加速する手法に関する数値シミュレーションを行ったものである。この研究によって、発表者らが提案している方法が実現可能であることが理論的に示され、室内実験のための指針が与えられた。研究成果がしっかりと整理されていて結論も明快であったが、内容が初期的な段階の検討にとどまっている点が惜しまれる。次回は、例えば、イオンを壁から反射させる具体的な方法を提示するなど、さらに研究を進めて欲しい。成果に期待したい。
平林 孝太
「ランダウ流体近似のMHDによる磁気回転不安定の局所シミュレーション」(B008-P003)
    磁気回転不安定性(MRI)は、降着円盤における角運動量輸送に重要な役割を果たすメカニズムとして、近年、盛んに研究されている。発表者は、ランダウ流体近似を用いたパルサー風の局所シミュレーションコードを開発し、MRIによる温度異方性の成長と磁気リコネクションによる緩和の競合過程が、系の時間発展を特徴づけることを示した。今後、シミュレーション結果を精査し、運動量輸送量への示唆などまで研究が昇華することを期待したい。研究は荒削りな面もあったが、質疑応答からは研究内容に対する深い理解と今後のポテンシャルが感じられた。図を効果的に使用するなど、わかりやすくまとめられたポスター発表であり、優秀発表者に値すると評価された。
松田 昇也
「磁気赤道付近におけるELF波動の下限カットオフ周波数の特性解析とイオン組成比の推定」(B006-35)
    磁気圏における多イオン種プラズマ中の電磁イオンサイクロトロン(EMIC)波のカットオフ特性を利用してイオン組成比を推定した。磁気嵐の主相から回復相にかけて見られたEMIC波の周波数カットオフを、プラズマ圏イオンの主成分であるH+やHe+の組成比を変えてフィットした例と、D+やHe++などのマイナーイオンを数%以下含むと仮定してフィットした例について議論し、後者のモデルの妥当性が高いことを示した。粒子計測が困難な状況(あるいは粒子データがない場合)でもプラズマ組成の評価を可能にする手法として有効である。発表は論理的で、質疑に対しても丁寧に対応できていた。今後手法の確立を目指して、統計的な信頼性の評価や適用条件の精査にまで踏み込んでほしい。

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