●総評

　第一分野では学生発表賞への応募があった口頭９件とポスター８件(計１７件)の審査を行った。地球・惑星内部電磁気学のセッションでは、津波ダイナモ効果、火山や断層周辺域の地下電磁気探査、電磁気学的地下構造のモデル計算、地震活動に伴う電磁波放射と発光現象に関する研究、地磁気・古地磁気・岩石磁気のセッションでは、古地磁気変動(古地球磁場強度変動、地磁気逆転の様相)、テクトニクス、岩石磁気の基礎的研究と応用、古地磁気・岩石磁気学的手法の津波イベントへの応用、古地磁気試料としての化石サンゴの検討、また、海洋底磁化強度の解析といった研究が発表され、研究対象やアプローチは多様であった。研究の進展段階は様々であったものの、いずれの研究も高い目的意識のもと、丹念な観測やモデル計算、大量の試料に対する時間のかかる実験、豊富なデータに対する詳細な分析に基づいて成果を発表しているもので、今後の研究の発展とその成果に興味と期待を大いに抱かせるものであった。発表に関しては、よく準備し、練習も積んできたことが窺われるものではあった。ただその一方で、研究の背景、その背景を踏まえた上での成果の位置づけや議論の深まりについては、程度の差が見受けられた。

南 拓人
「津波到来に先んじて観測される海底水平磁場変動について」(R003-06)

津波ダイナモ効果の研究においては時間領域での解析が重要であるが、これまであまり研究がなされてこなかった。本研究では有限要素法を駆使し時間領域での津波ダイナモ効果のシミュレーションに挑み、観測結果の再現に成功している。本研究の発表により、本格的な津波ダイナモ効果のシミュレーション手法が確立されつつあるという印象を受けた。発表は理路整然としており、優秀さと数理的な能力の高さが窺えた。またいくつかの質問にも的確に応えており、研究への主体性と理解の深さが窺えた。2011年東北地方太平洋沖地震の発生により津波の早期検知への社会的期待が高まり、大規模な海底観測網が展開されつつある。こうした時期に地球電磁気学的観測が津波検知に有用であることを明確に示した本研究の意義は大きいといえる。以上の理由から学生発表賞に相応しいと判断した。

関 明日香
「大気中ラドンに由来する空気ルミネッセンスと電磁波放射」(R003-P009)

地震に伴う発光現象や電磁放射についての報告事例は多いものの、そのメカニズムは依然として謎に包まれている。本研究ではこの謎の解明に挑み、地震発生時の大気中ラドン濃度の上昇に着目し、ラドン濃度の上昇が発光および電磁放射を発生させる新しいモデルを提案した。また、松代群発地震発生時の発光現象、放射線強度および大気電位の観測からモデルの検証を試みた。本研究は独創的で新しい試みである点を評価したい。また発表でも説明が丁寧で分かりやすかった点に好感が持てた。今後の研究の進展に期待したい。

本研究は、岩石試料に付加した非履歴性残留磁化(ARM)の部分熱消磁と段階交流消磁を交互に繰り返して得られる、ブロッキング温度と保磁力の２次元マッピング「保磁力-ブロッキング温度ダイアグラム」を用いて行った含有磁性鉱物粒子のサイズ・形状の推定と、電子顕微鏡等を用いて行った岩石試料内の磁性鉱物粒子のサイズ・形状の詳細な観察結果との対応を検討・考察したものである。発表者の独創的な視点から構築された「保磁力-ブロッキング温度ダイアグラム」による岩石磁気特性解析を更に進展させたもので、今後の発展が大いに期待されるものであった。研究の背景と目的を明確にした上で、理論的／実験的アプローチが詳細かつ綿密になされていて、結果の考察・議論に深みがあった。発表からは研究全体に対する理解度の高さが窺われ、大いに評価できる。

本研究は、南部マリアナトラフの背弧海盆拡大軸域で行われた、しんかい6500による海洋底近傍での磁気探査に基づく磁気異常データを、3次元フォーワードモデリングにより解析し、海洋底の絶対磁化強度を推定したものである。その成果として、低磁化強度域と熱水噴出域との対応や拡大軸からの距離による磁化強度の減少などを詳細に示し、その現象の要因を丹念に考察している。発表は、研究の背景と目的、データ解析、結果と議論・考察が適切によくまとめられたものであった。発表者の今後の研究の展開が大いに期待できる。