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2013年度 第2分野講評
審査員: 坂野井 健(東北大学), 高橋 幸弘 (北海道大学), 堤 雅基(極地研究所), 西谷 望(名古屋大学), 山本 衛 (京都大学)

●総評

    第2分野では66件(口頭発表34件、ポスター発表32件)の多数の発表が学生からなされた。審査員は学生諸兄の熱心な発表と研究分野の活発な活動状況をエンジョイさせていただいた。学生からの発表はおおむね良く準備されたもので、質問に対する対応も良かった。審査員の評価は、発表の品質と発表者の理解度を中心に成果を加味して行い、受賞4件と優秀発表5件を選出した。発表全体を通して以下の2点をコメントする。まず、プロジェクトの下でなされた研究に多いが、発表者自身の関与の範囲や努力した点をもっと強調するべきとの印象を受けた。最後に、PC接続に手間取って時間を無駄にする例が散見されたので改善を望みます。

●メダル受賞者への講評

石田 哲朗
「長期EISCATデータを用いた電離圏トラフの様々な時間スケールの統計的研究」 (R005-20)

    EISCATレーダーの長期データベースを用いて、電離圏に現れるトラフ領域の出現特性及びそれぞれの領域における発生メカニズムの違いを議論したものである。各領域におけるトラフの詳細な出現特性だけではなく発生メカニズムに関する物理的な解釈も明確に示しており、今後の研究の発展に大いに期待が持てる。質疑応答も非常に的確であった。
北 元
「太陽紫外線による熱圏大気加熱が木星放射線帯に及ぼす影響 ―電波・赤外望遠鏡観測にもとづく考察―」(R009-09)
    北さんの研究は、木星のシンクロトロン放射と極域のオーロラの活動を結びつけようという野心的な仮説の検証をテーマとしている。提案するメカニズムはまだ荒削りであり、今後多角的な検討が必要であるが、大胆な仮説を立て、それを入手可能なデータを使って証明しようとする姿勢は高く評価したい。科学的な問題の背景や、それぞれのデータについての深い理解に基づいた主体的な説明は、強い研究意欲を感じさせるもので、将来を期待させるものであった。
河野 紘基
「小型気球搭載を目的としたテレメトリと簡易運用システムの基礎開発」(R005-P015)
    小型気球で簡便に使用できる飛翔観測システムの構築を独自に行う研究である。個々のセンサーや送信機などは汎用品を組み合わせながらも、最新の3Dプリンタ技術も取り入れ、自動追尾テレメトリー装置も含めた総合的なシステム開発を行って、すでにプロトタイプも完成している。主体的に取り組む姿勢とすぐれた技術的センスが高く評価できる。今後はサイエンスターゲットの先鋭化と既存の商用ラジオゾンデシステムとの差別化をさらに明確にし、この勢いで突き進んでほしい。
高橋 透
「トロムソ上空で地磁気擾乱時に観測されたスポラディックナトリウム層内外の大気温度変動」(R005-P003)
    ライダーによるスポラディックナトリウム層の温度変化の測定について、従来手法よりも時間分解能を向上させる工夫の発表である。発表ポスターは良く準備された美しいもので、過去の研究例の紹介にも対応していた(アブストラクトにも参考文献を掲げている)。研究内容の説明は明快であり、質問に対する返答も的を得ていた。自らの研究について、背景を含めて理解が深いことが分かる優れた発表であった。
●優秀発表者への講評

松田 貴嗣
「大気光イメージングデータ解析の新手法 ―南極昭和基地 (69S,39E) 上空の大気重力波の水平位相速度スペクトル―」(R005-02)

    大気光の動画像データに3次元フーリエ変換を適用することにより、大気重力波の伝搬速度を抽出する手法を開発したものである。一見地味な仕事であるが、複数の伝搬成分を同時に抽出することに見事に成功しており、本人の多大な努力の跡がうかがえる。また昭和基地だけではなく他の観測点のデータへの適用等、将来性にも大いに期待が持てる。質疑応答もしっかりしていた。
三井 俊平
「オーロラ爆発とGPSシンチレーションの関連性の研究」(R005-P043)
    オーロラ爆発に伴うGPS電波の伝搬特性に関する研究である。オーロラ光の爆発的な増加に対応して、GPS電波の強度変動は大きな変化しないが、位相変動量が増大することが示された。印象的だったのは非常に美しく準備されたポスターである。研究背景と内容の説明はわかりやすく、質問に対する対応も良かった。今後は、発見された現象の背景にある物理過程の検討に進まれることを希望する。
松永 和成
「Asymmetric penetration of the shocked solar wind down to 400-km altitudes at Mars observed by Mars Global Surveyor」 (R009-P018)
    松永さんの研究は、太陽風変動に伴う火星の磁気シースにおけるプラズマの振る舞いを、探査機で得られたデータを用いて統計的に明らかにしようとするもので、従来の外国の研究を一歩進めるものである。最終的な結論に至るには観測上の限界など障害もあるが、そのことの認識も含め、自分の研究の意義と位置付けを理解した、明快な説明と質疑への応答であり、分かりやすいポスターの表現も合わせて、強く印象に残る優れた発表であった。
山田 崇貴
「SMILESが捉えた中層大気HO2ラジカルの増大とスプライト発生の相関性について」(S001-P006)
    スプライト現象に関連して生成され、中層大気中の化学反応過程に重要と考えられるHO+の変化をSMILESとROCSATの同時観測データを用いて解析したユニークな研究である。HO+の化学反応の時定数など、物理過程をよく理解していた。研究の背景と重要性についてもよく紹介できており、また発表の論理性や質疑応答もきわめて明瞭にできていた。研究の着眼点や独創性も高く、本学生の将来性についてとても期待できる。
坪崎 広之
「熱圏の密度の季節変化」(R005-P012)
    坪崎さんの研究は、CHMAPの大気ドラッグのデータの変動を、ENSOに関連する赤道下層大気温度や成層圏のQBOと比較したものである。その結果、熱圏の大気密度変動が、QBOとは相関が低いにも関わらず、赤道下層大気温度と連動した変動をしていることを見出している。現時点ではメカニズムについては全くの白紙状態で今後の研究に期待するところだが、大きな展開も考えられるテーマであり、注目して行きたい研究である。

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