SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2013年度 第3分野講評
審査員: 熊本 篤志(東北大学), 杉山 徹(海洋研究開発機構), 関 華奈子(名古屋大学), 中村 雅夫(大阪府立大学), 渡辺 正和(九州大学)

●総評
審査員A:

    一般会員の発表よりも学生会員の発表の方が優れていると思われる講演が多く、あらためて、そのレベルの高さを認識した。会場に向かう電車の中で発表練習をしている学生会員風の方を見かけるなど、多くの方が気合を入れて望んでいることが表れていると実感した。しかしそれにより、あまりにもまとまりすぎたスムーズすぎる発表になってしまうことも見受けられた。もちろん修士2年、博士3年のこの時期では、まとまっていることが考えられるが、小さくまとめている発表があったことが残念であった。発想の斬新さを持っているのであれば、最終検証に達していなくとも、その結論に向けて何が必要かを議論し、また、検証のための今の段階を示すのも良いだろう。さらに、多角的な視点で検討することも、是非、学生の時期に身に着けてもらいたい。「このデータが無いからできませんでした」ではなく、「無いので別の方法を考え中です」と言って欲しい。地球・宇宙空間は、閉じた空間ではなくオープンシステムですから。そのようは講演は、特にポスター発表では、発表者と聞く方との議論が生まれ、有意義な時間を過ごすことができると思われる。プレゼン手法の向上も実感できたが、パンチラインをもっと明確にし、例えば結論からさかのぼった発表順にすることも一考である。
審査員B:
    学生発表が多数ある中、優秀発表を選ぶ基準にも様々なものがあって迷うところですが、今回は「自分の研究の位置づけを理解していて、新知見を得るための目的意識がはっきりしているかどうか」の観点で審査を行いました。例えば、先行研究で提案されている仮説を、統計解析なり別データなりで検証してみようという動機はわかるのですが、仮説と合致した話だけで終わっていると、別手法でやってみたからこそ見えた新知見(せめて、「おや?」と思った部分の指摘)があってしかるべきではないかと感じます。自分が行った研究によって、こんな新しい物理が見えてきた、こんな新しい方法論を発見した、こんな矛盾・問題点が明らかになってきた、などどこがアピールポイントなのか改めて考えた上で、発表をまとめていただくようにすると、より多くの人に興味・関心をもってもらえるよい発表になるのではないかと思います。
審査員C:
    学生発表数の多さは本分野のアクティビティの高さを示しており、審査員としてその数に嬉しい悲鳴をあげさせられることとなった。さらに、優れた発表が多く、順位をつけるのも大変苦労した。その一方で、研究の基礎的な内容の理解や結論に至った根拠の提示が不十分だったり、専門外の聴衆に対し不親切な発表も一部見られた。指導教員に割り振られたテーマであるかもしれませんが、背景と意義を十分理解することで面白さを見出し、主体的に研究に取り組むようになって欲しいと思います。
審査員D:
    昨年に比べて学生発表数が格段に増え、学生諸氏が様々な研究テーマに熱心に取り組んでいる様子を頼もしく感じました。一方で、よい成果をあげているのに、研究の位置づけの説明が不十分であったり、研究内容を相手に伝えることに無頓着な発表も散見されました。プレゼンテーションスキルは、研究に限らず様々な場面で今後も求められていくものです。発表者自らの研究テーマに関する理解度の深さが質疑応答では如実に現れており、研究内容はもとより、研究の背景、その中での自分の研究の位置づけを、自らの言葉でわかりやすく示した発表に高評価が集まっていました。今回受賞に至らなかった発表の中にも、分野の挑戦的な課題に取り組んでいる意欲的なものがありました。今後の発展に期待しています。
審査員E:
    約30名の発表を聴いた限りの印象ですが、多種多様な研究テーマがあり、本学会の広がりを感じました。評価すべき点として、何を重視するか(内容、完成度、将来性など)で迷い、審査するのに苦労しました。審査員とて各研究内容に精通しているわけではなく、私の場合、結局発表者がどれだけ私を理解させてくれるか、が大きなポイントであったように思います。私が評価しなかった発表の中にも、私が理解していないだけで、本当は素晴らしいものがあったのではという後ろめたさは残ります。しかし、内容が充実しているもの、完成度が高いもの、は総じて「流れる」発表でわかりやすかったと思います。当たり前のことですが、他人に理解してもらうには自分がそれ以上に深く理解していないといけません。指導の先生から与えられたテーマであっても、自分なりに理解して、自分のものとして研究に取り組んでほしいと思います。

●メダル受賞者への講評

津川 靖基
「Harmonic spectral features of upstream whistler-mode waves near the Moon」 (R007-06)

    Kaguyaで観測された約1ヘルツのwhistler-mode waveのうち特にharmonic emissionを伴うイベントの特徴について詳細に解析した研究である。地球のbow shock上流でみられるwhistler-mode waveとの類似性から発生機構を示すとともに、月の磁気異常領域や昼夜境界付近でのみsteepeningやharmonic waveが見られることから月の帯電ダストの影響を新たに指摘した。これは、発表者が過去2回の優秀発表者と評価された研究を発展させ着実に成果を積み上げてきた結果であり、今後も惑星磁化領域と太陽風の相互作用の理解に対し貢献が期待される。
清水健矢
「磁気リコネクションの持続機構と減衰機構にイオンoutflowが与える影響」 (R008-P015)
    地球磁気圏尾部において磁気リコネクションのX-lineが尾部方向に移動しながら持続する現象が観測から知られていたが、そのメカニズムは明らかではなかった。アウトフロー方向を周期境界条件としたParticle in Cellシミュレーションでは、プラズモイドが発生し、X-line近くのアウトフロー領域まで磁力線が密になりフローが阻害され、高速な磁気リコネクションは持続されない。本研究では、アウトフロー方向の境界条件を反射境界に変更し、磁気リコネクションを境界近くから起こすことで、高速な磁気リコネクションを持続しながら移動するX-lineを再現し、それはX-lineの移動方向とは反対側では磁力線が密になるが、移動方向ではイオン慣性長の3倍程度は磁力線が密になっていない領域が保たれアウトフローが阻害されず流出できることによるものであることを明らかにした。本研究は、長寿命の磁気リコネクション現象を計算機で再現する方法論を新たに示すもので、観測との比較研究など、今後のさらなる発展が期待される。
横山 貴史
「月表側の磁気異常における表面下の磁化ソース推定」 (R011-P001)
    月面の磁気異常のソース形状を理解し定量化することは、その生成や起因を研究することのみならず、その存在が月周辺のプラズマ環境に影響を与えることから多くの研究課題解決の基礎となる。その点を理解して、自身の研究結果がどこに展開できるかを示し、得られる解析結果の重要性を説明できている。ソースの形状を複数のモデルで試したり、多くのパラメータを含めて多角的に推定する方法を試すなど、野心的な点も感じ、また、その説明に定量性が十分吟味されている。固定観念にとらわれることなく柔軟に今後の研究を進めていける可能性を感じる。
中村 紗都子
「Sub-packet structures in the EMIC triggered emission observed by the THEMIS probes」 (R006-33)
    EMIC (Electromagnetic Ion Cyclotron)トリガード放射は、周波数上昇を伴う特徴的なEMIC波で放射線帯電子と強く相互作用する可能性があり、その出現条件や生成メカニズムの理解が急務となっている。本研究は、周波数上昇中のサブパケット構造に着目して、THEMIS衛星による観測と理論との比較をし、両者のよい一致からその形成メカニズムに迫った研究であり、実証的に理論を検証した意義は高い。発表では、研究の背景、図を使った直感的な理論の説明など、研究のストーリーがわかりやすくよくまとめられていた。今後、他の観測例も含めることで、本現象の出現条件や放射線帯電子への影響など、より包括的な理解に発展することが期待される。
松田 昇也
「あけぼのによる重イオンを含むプラズマ中のEMIC波動の観測と伝搬特性解析」 (R006-34)
    松田会員は、あけぼの衛星で観測される、陽子サイクロトロン周波数の2分の1にストップバンドをもつEMIC波動現象の統計解析を行った。この現象はHe++あるいはD+を含むマイナーイオンの存在を仮定するとうまく説明でき、その特性周波数からイオンの組成比を推定することができる。解析期間の約2割に当る991分間でEMICが観測され、390分でストップバンドがみられた。そのうち、245分では2種のイオン組成比を計算でき、137分では3種のイオン組成比を計算することができた。4種のイオン組成比が求められる例はなかったが、仮定を加えればマイナーイオン組成の上限値を議論することは可能である。松田会員の示した手法は、イオン組成を求める方法として有効かつ有用であり、今後は空間分布の統計や磁気嵐との関連などへ発展させることができる。質疑応答を含む発表は理路整然としており大変わかりやすかった。また話し方に迫力があり、自分の研究に対する自信を感じた。

●優秀発表者への講評

栗田 怜
「Effect of ECH waves on pitch angle scattering of energetic electrons」(R006-P038)

    Diffuse auroraを光らせる電子降下を引き起こす機構として、whistler mode chorusの電子のピッチ角散乱が知らているが、Electrostatic Cyclotron Harmonic (ECH) waveによるピッチ角散乱の重要性も指摘されてきた。発表者は、THEMIS衛星のプラズマ波動と電子データを用いて、whistler mode chorusまたはECH waveだけが受かっているイベントの電子速度分布関数に、whistlerとECH waveのピッチ角拡散曲線を重ねて示すことで、ECH waveによるピッチ角拡散が実際に起こっており、diffuse auroraの発生に寄与すること示した。これは、発表者が過去にオーロラメダル受賞と優秀発表者と評価された研究を発展させたもので、引き続き大いに成果が期待できる研究である。
諌山 翔伍
「非一様プラズマ中でのヘリコン波の伝搬」 (R008-11)
    宇宙機の推進システムを扱うような研究では、多くの研究者が集まりプロジェクトを組むことが多い。その場合は、各研究者の担当箇所がプロジェクトの中で、どのような位置にあるかを理解していることが必須である。発表者は、その中で、何が課題であるか、何を工夫すれば今の課題を解決に向かわせることができるか、次のステップへの見通しなど、プロジェクト進行に関して把握できている。すぐの成果のみならず、マネージャーとなっていくことも期待する。
白川 慶介
「差動回転円盤における磁気リコネクションの運動論シミュレーション」(R008-17)
    差動回転円盤において励起されるMRI(Magneto Rotational Instability)が駆動する乱流の飽和過程を知ることは、円盤内の運動量輸送の理解に本質的に重要である。発表者は、磁気リコネクションによる温度異方性の緩和過程が、この乱流の飽和を理解する上で重要だと考え、ハイブリッドコードによる局所回転系でのMRIの非線形発展の数値シミュレーションを行った。パラメータの異なる5種の計算を比較することで、Hall効果とシアの方向により磁気リコネクションが変形し、MRIの成長に影響を与えることを見出した。発表では、研究目的、シミュレーション結果などがわかりやすくまとめられていた。今後、得られた結果の実際の現象への応用の考察をより深めるなど、更なる発展を期待したい。
嶋 啓佑
「あけぼの衛星で得られたVLF/WBA波動データの自動識別に関する研究」 (R006-P020)
    あけぼの衛星で得られるVLF波形データは、フーリエ変換処理されてf−t(周波数−時間)ダイアグラムとしてユーザーに供せられるが、これまでに蓄積されたデータは膨大であり、VLF現象を人間の目ではなくコンピュータで抽出することができれば、VLF現象の研究への様々な応用が考えられる。嶋会員は、f−tダイアグラムにおいて特徴づけられる、いわゆるコーラスとヒスを自動識別する手法の開発を行っている。同会員は、f−tダイアグラムにおけるコーラス、ヒス、衛星スピンによるノイズ、のクラスタリングを行うため、k-means++というアルゴリズムを用いてこれに成功している。この手法は工学ではさほど目新しいものではないそうだが、はっきりとした目的意識のもとで行われている研究で、今後理学的発展が大いに期待される。次点にとどまったのはこの期待が込められていると考えてほしい。発表における説明は丁寧でわかりやすく極めて好印象であった。

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