SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2014年度 第1分野講評
審査員:
    小玉 一人 (高知大学), 松島 政貴 (東京工業大学)

●総評

     学生発表賞への応募があった口頭11件とポスター6件(計17件)の審査を行った。地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは、地磁気永年変化、古地磁気/考古地磁気永年変化(古地磁気強度・考古地磁気強度・エクスカーション)、磁気層序、テクトニクス、古地磁気・岩石磁気の基礎研究と応用(古環境変動・断層すべり面の磁化)、磁気異常縞模様に関する研究発表があった。地球・惑星内部電磁気学セッションでは、地震を起源とする地電位差変動、津波ダイナモ効果、MT法データの3次元インバージョン、地磁気誘導電場、地磁気観測システムの評価に関する研究発表があった。  各研究の進捗状況には大きな差がみられたが、何をなすべきかという目的意識は高く、どの研究も今後の進展が期待できるものであった。地道で丁寧な室内実験、的確な野外観測、観測データの詳細な解析・分析・解釈など、その成果の行方に興味を持たざるを得ない。各発表もよく準備されており、練習の成果であると思われる。質疑応答においては、質問よりもコメントの方が多い発表もあり、今後の研究成果が期待される。優秀発表は一件しか挙げられていないが、決して優秀な発表が少ないわけではなく、堅実な測定結果・解析結果を示した優れた発表がさらに数件あったことをここに加えておきたい。

●メダル受賞者への講評

臼井 嘉哉
「Three-dimensional inversion of magnetotelluric data using unstructured tetrahedral elements」(R003-P001)

     MT法(マグネトテルリック法;地磁気地電流法)の電磁場データを解析して地下比抵抗構造を推定するためには、地形の効果を適切に取り入れることが重要である。本研究では、地形効果を明示的に取り入れるため、非構造四面体要素による有限要素法に基づいた3次元MT法インバージョン・コードを新たに開発した。さらに、地形効果を含む合成された電磁場データに開発したコードを適用し、インバージョンの結果として比抵抗モデルを復元できたことを示した。研究の背景および目的は明確であり、数値計算手法およびその課題についても明瞭に説明していた。また、質疑応答も的確であった。これらから、主体的に研究に取り組んでいること、そして、研究全体の理解度が非常に高いことが窺えた。今後、実際に観測されたMT法電磁場データに対し、このコードを用いることにより、良質な解析結果が多数得られることが期待される。以上の理由から学生発表賞に相応しいと判断した。
●優秀発表者への講評

福沢 友彦
「野島断層ガウジの地震性すべり面にみられる磁化した波状褶曲:摩擦熱による間隙水圧上昇の証拠」(R004-P006)

     野島断層の地震性すべり面に特徴的に見られる微細波状構造に着目し、詳細な野外調査・鏡下観察・数理解析・岩石磁気実験を総合した斬新な研究である。その結果、それら微細構造がKelvin-Helmholtz不安定パターンであること、すべり面を含む断層近傍層が高速断層すべりによって400度以上の加熱履歴をもつことが明らかになった。地震性すべりという複雑な現象に果敢に取り組み、多角的視点から総合的に理解しようとする試みは、創造的かつ野心的である。個々の研究手法は綿密な理論的・実験的基礎にもとづいており、結果の解釈に無理な飛躍や矛盾はない。質疑応答も的確であり、発表者の研究に対する深い理解と情熱をうかがい知ることができた。今後の進展が大いに期待できる優秀な研究発表である。

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