SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2014年度 第2分野講評
審査員:
    小川 忠彦 (情報通信研究機構), 斎藤 享 (電子航法研究所), 高橋 幸弘 (北海道大学), 堤 雅基 (極地研究所),
    寺田 直樹 (東北大学), 藤原 均(成蹊大学)

●総評

    1) テーマとして大変興味深い研究発表が多かったと思うが、自分が行っている研究が大きな研究目的の中でどのような位置づけであるかをもう一段深く理解するのがよい、と思うところもあった。
    2) よくまとまった研究が多く見られた。研究課題がたくさんある中で、なぜ、今自分がこの課題に取り組んでいるのか、どのような経緯でその研究が今のような形で進行しているのかなども考えつつ進めてほしい。
    3) 発表は良くまとまっていたが、考察を十分に行っていない研究が多く見られたのは残念であった。自分が取り組んでいる課題には、自分が世界で一番深く考えているんだと胸を張って言えるよう、考察をより深めて欲しいと切に願います。
    4) 大きなプロジェクト研究に基づく発表は解析成果が華々しい傾向があるが、自分の取り組む課題のサイエンス全体における位置づけや役割についてさらに理解してほしい。一方、小グループでの独自研究テーマに基づく発表は、装置開発や解析手法開発に学生個人の創意工夫がみられとても頼もしいものが多く、さらなる発展が楽しみである。
    5) 指導教員や周囲から指示された作業を行うだけでなく、研究の背景や意義、発展性について自分なりに突き詰めて考え、また自身のアイデアで作業を行ったのかが問われていると思います。評価を受けた研究は、どれも学生自身の主体性が感じられたものだったと思います。
    6) アブストラクトについて、発表研究分野や内容にあまり馴染みのない人にも理解してもらえるよう、研究の背景、目的、新規性、主な結果とその意義、今後の研究発展方針などをできるだけ詳しく記述してほしい。また、発表内容をよく理解してもらうため、図面の枚数、図面のサイズ、図面上の文字を大きくするなどの工夫をしてほしい。

●メダル受賞者への講評

穂積 裕太
「宇宙ステーションからの撮影画像を用いた中間圏大気光メソスケールパッチ構造の研究」(R005-11)

    大気光の全球的な空間構造には、観測の制限からまだまだ不明点が多い。本研究は、国際宇宙ステーション(ISS)上のデジタル一眼カメラで大気光(OIおよびNa)のリム画像を広い視野で捉え、それを時間方向に展開することで高さおよび水平構造を調べたこれまでにない独創的な手法に基づいている。水平的なパッチ構造と発光層高度との関係などが捉えられ興味深い。今後は、小空間スケールの大気光構造との関連についても解析を進めてほしい。なお、アブストラクトについてはもっと注意深い作成が必要と言える。
前田 隼
「GPS-TECによる中緯度スポラディックEの空間構造の観測」(R005-35)
    GEONETの密な観測網から導出される全電子数を用いてスポラディックE層の2次元構造を捉えることに成功した点が大変興味深い。波面状のスポラディックE層の中に数10kmスケールのサブ構造が見いだされた点も今後の更なる解析が期待される。GPS受信機により観測される全電子数は、通常はF領域のプラズマによるものが支配的と考えられているが、その中からスポラディックE層によるものと考えられる特徴的な変動を丁寧に取り出すことで、スポラディックE層による全電子数変動を明瞭に示すことに成功している。発表としては少し急ぎ気味のところもあったが、質疑応答を含めて発表者の理解の深さが感じられるものであった。
村上 隆一
「CHAMP衛星と光学機器を用いた極冠域中性大気質量密度異常の観測」(R005-P047)
    CHAMP衛星による熱圏大気質量密度観測から様々な熱圏変動が明らかになっている。極域での質量密度異常と呼ばれる密度変動現象もそれらの中の1つである。これまでに、カスプ近傍での加熱・密度増大や、磁気嵐・サブストームと関連した夜側オーロラ・オーバルでの密度変動の研究が盛んに実施されてきたが、本研究では、CHAMP衛星、TIMED衛星、地上光学観測データから極冠域(特に緯度80度以上)での密度異常に着目し、その性質や成因について考察した。特に、オーロラ降下粒子や沿磁力線電流の影響ではない極冠域特有の大気加熱がポーラーパッチ(電子密度増大)によって生じている可能性を観測的に示したほか、密度異常が発生する領域のIMF依存性を示した点など、熱圏密度異常研究の進展に大きく貢献する結果を得ている。研究の意義・課題などの背景についても良く理解しており、研究の更なる発展が期待される。
阪本 仁
「速い抵抗性リコネクションによる金星電離圏フラックスロープの生成」(R009-P008)
    金星昼面におけるリコネクションを示唆する観測結果を理解するために行った、数値シミュレーションを用いた研究の第一歩。研究の背景・意義の理解から始まり、初期的ではあるが信頼性の感じられる計算結果までを短時間に成し遂げた努力は立派。受け答えもしっかりしていて研究に対する覚悟が見て取れ、研究者としての将来性を感じさせる発表であった。
●優秀発表者への講評

北 元
「電波干渉計及びひさき衛星を用いた木星放射線帯空間変動現象の考察」(S001-07)

    電波干渉計とひさき衛星の同時観測によって、木星シンクロトロン放射の変動機構に新たな仮説を提唱した挑戦的な研究である。昨年度に学生発表賞を受賞した地上観測による研究をさらに発展させ、地球磁気圏-電離圏系で構築された理論体系を木星放射線帯に適用する試みは大変興味深く、今後もその挑戦的な研究姿勢をさらに延ばしていくことを期待する。一方で、理論を適用する際には、定量的な評価をしっかりと行って欲しい。
Perwitasari Septi
「Statistical Study of Concentric Gravity Wave in the Lower Thermosphere by using the ISS-IMAP/VISI data of 2013」(R005-P003)
    最近注目されている concentric gravity waves は、下層大気中の重力波励起源の情報を知る上で興味深い対象である。本研究は、国際宇宙ステーションに設置されているIMAP/VISI を用いて、その全球的な分布や統計的な性質を明らかにしようとする意欲的な研究である。すでに多数のイベント抽出を終え、発生頻度や水平伝搬特性について季節的振る舞いなどの統計解析が進められているところである。今後、素晴らしい成果が期待される。
福島 大祐
「Midnight Brightness Waveに伴う低緯度電離圏・熱圏の磁気共役点観測」(R005-P037)
    インドネシア・コトタバンとタイ・チェンマイにおいてMBW現象の磁気共役点観測を初めて行った。MBWがコトタバンでは観測されたが、チェンマイではそうでなかったという興味ある事実について、他の観測データと比較して南北非対称の理由を詳しく検討しており、新しい成果で評価に値する。今後他のイベントについても解析を進め、MBW出現の磁気共役性の有無やそのメカニズムを明らかにすることを期待する。
小山 響平
「多流体MHDシミュレーションに基づく太陽風磁場進入時の火星電離圏CO2+鉛直分布にイオン種間衝突が及ぼす影響の研究」(R009-P007)
    火星におけるCO2+の鉛直分布の観測結果を説明するために従来モデルに改良を加えて、現実に近い分布を再現することに成功している。周囲の教員や研究グループ内での指導に単純に従ったのではなく、自身のアイデアと思考に基づき、作業を進めていった様子が感じ取れた。
合田 雄哉
「A wave structure of haze in Jupiter's polar regions observed by the ground-based telescope」(R009-P018)
    ピリカ望遠鏡の観測データを用いて、木星成層圏ヘイズの波構造を生成する物理機構を論じた。波構造の位相速度の同定を試み、緯度分布、成層圏下部から対流圏上部にいたる高度分布を導出して、波構造の生成機構を解明するための材料を揃えつつある。大量の観測データを一つ一つ丁寧に解析し、自身の頭でしっかりと考えて解釈を試みているところに好感が持てた。今後の発展が大いに期待できる。発表時には、相手に伝わるように大きな声ではっきりと話すことを心掛けて欲しい。

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