SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2014年度 第3分野講評
審査員:
    加藤 雄人 (東北大学), 齋藤 慎司 (名古屋大学), 佐藤 夏雄 (極地研究所), 杉山 徹 (海洋研究開発機構),
    坪内 健 (東京工業大学), 中村 雅夫 (大阪府立大学), 町田 忍 (名古屋大学), 三宅 洋平 (神戸大学), 渡辺 正和(九州大学)

●総評
審査員A

    今回の学会でも様々な研究課題に取り組む学生のみなさんの講演を拝聴して、大変刺激を受けました。丁寧な解析や考察の結果に基づいて構成された講演では、日頃から真摯な姿勢で研究活動に取り組む様子が垣間見られて、講演終了後は清々しい気持ちになりました。その一方で、どうにもすっきりしない印象を感じた講演も多く見受けられました。理由の一つにはイントロダクションの物足りなさが挙げられます。過去の研究ではどこまで議論されていて、それに対して自分の研究はどのように位置付けられるのか。適切な導入は聴衆に研究成果の重要性を示すために必要ですし、何より自分が取り組んでいる研究の意義を自分自身がより深く理解することに繋がります。目的意識が明確になれば、それに続く議論も自然と筋の通ったものになるはずです。最前線に立って研究活動に取り組む学生のみなさんの力が、それぞれの分野の研究を進める大きな原動力にもなっていることには疑いの余地がありません。ぜひ、自分がこの分野を引っ張っているという気概を持って、日々の研究に取り組んでもらえればと思います。
審査員B
    全体的に修士・博士課程の学生ともに、発表内容のレベルの高さを感じました。研究テーマも一般会員が持つ内容と比べて遜色ないものが多く、地球磁気圏物理の発展に学生が多く寄与している部分もあると感じました。一方でその分、私が審査した学生に関しては、専門性が突っ立つ傾向にあり、それから少し外れた内容に対する理解が追いついていないように感じました。自分が手がけている研究内容だけではなく、それとリンクするさまざまな知識や物理に目を向け、より俯瞰的な視点で自らの研究テーマの立ち位置を理解して欲しいと思います。プレゼンテーションについても専門的な要素が強く、特に自身の研究の中では基本的と思われる話や図の説明などに対して、解説内容に足りない部分があったりし、多くの研究者が理解するにはハードルが高いと感じることもありました。これまで自身が行ってきた研究内容を出来るだけ多く発表するために時間を節約したいという心理もあるかと思いますが、研究の新しさ・重要性などに焦点を絞り、限られた講演時間の中で、それらの内容を追跡し易い発表を心がけてもらえればと感じました。しかしながら、総評としては、研究内容・プレゼンともに学生レベルの高さを強く認識した学会であったと思います。今後の研究のさらなる発展に期待します。
審査員C
     昨年も審査を担当しましたが、どうも今年は光る発表が少なかった印象を持ちました。具体的には、追試発表にも係わらず将来性を感じさせる発表があった昨年に比べ、今年は単に追試を発表し小さくまとめているだけ、また、先行研究の手法の穴を指摘するだけ、という例が見受けられました。また、審査員以外の聴衆にも誠意を持って説明して下さい。学会発表の第一の目的をメダル受賞としたい気持ちは分からないでもありませんが、ポスター発表会場で気になりました。一方で、プレゼンの手法や図の見せ方は、印象に残るものがありました。無用なアニメーション機能を使うことなく、「色使い」や「矢印」などで的確に表現できていましたし、ポスター内の各図のレイアウトも工夫されていました。
審査員D
    昨年に引き続き審査を担当しました。審査数が昨年の3分の1なので単純比較はできませんが、昨年に比べて「これは」と思える研究が少なかったように感じました。他の審査員で同様の感想を述べられている方が複数いらしたので、今年の全体の傾向だったのかもしれません。観測データの解析を行っている発表が多かったですが、結論の不確定性が大きくて曖昧な印象を与えるものがありました。議論により定量性を持たせるよう努めてください。斬新なテーマも少なかったと思います。過去の研究を引き継ぐだけでは、インパクトが年々減っていくことは明らかなので、常に新しいテーマを見出し挑戦するよう努力してほしいと思います(これは学生だけに向けた言葉ではなく私自身への戒めでもあります)。修士の学生さんは指導の先生からテーマを与えられることが多いでしょうが、その場合でも何が問題かを強く意識してほしいと思います。その問題意識が新しいテーマへつながります。
審査員E
    今年度はこれまでに比べて突出した発表が少なかったように思われる。しかし、口頭発表については、発表のアウトライン、イントロダクション、研究手法、得られ結果、ディスカッション、まとめと今後の展望といった一連の流れが、大抵の場合、均衡よくまとめられていた。またポスター発表においても、掲示する内容を十分に吟味して準備が行われ、配慮の行き届いた発表が行なわれていた。そのように、プレゼンテーションに関しては、皆が相当の準備をして高いレベルに達しているように感じた。新しいデータやツールが益々充実してきている中で、個性的な優れた成果が次々と生まれることを期待したい。
審査員F
    要点をはっきりと分かりやすく 発表する講演やポスターが多く、素晴らしいと思った。特に、研究の背景と研究目的に関しては準備と練習が良く出来ていると感じた。一方、得られた結果に対 しての学問的な問題意識に関しては、より深く掘り下げて考え、新たな解釈や展望を提起するような発表は少なかったとの印象である。
審査員G
    全体的にレベルの高い研究内容に熱心に取り組んでおり、またプレゼンテーション技術の重要性が近年強く認識されるようになったためか、話の起承転結を意識してうまくまとめようとする努力が多くの発表で感じられた。一方で、自身の研究成果が「宇宙科学の発展」という大きなコンテキストの中でどのような意味合いを持つのかを、きちんとアピールできている発表は多くなかったように感じる。また発表自体はスムーズにこなしていたにもかかわらず、質疑応答では質問の意図を理解していないと思われるケースも見受けられたことは残念であった。これらは発表前の付け焼刃の対策では不十分で、常日頃からいかに自身の研究内容やその位置づけを真摯に考えているかが如実に現れるものだと思う。結果として今回の受賞人数は例年より少なくなったものの、将来の可能性を感じさせる発表は決して少なくなかったので、今後より一層の奮起を期待したい。
審査員H
    研究発表に際し、プレゼンテーションの見せ方に関しては口頭・ポスターともに専門外の者でも内容を短時間で理解できるように適切な工夫が凝らされていたところは好印象だった。これは教員の指導もさることながら、学生自身が高い意識を持って取組んでいることの現れであると思われる。審査における判断基準としては、研究の目的・先行研究の流れを踏まえた動機付け・今後の展開、といった点を簡潔かつ明解に自分の言葉で発表できていることを重視した。一つ気になった点として、得られたデータに対する解釈が一面的である傾向がやや見られたところを挙げさせていただく。自分が予期した通りの結果であっても、別の見方ではどう解釈可能かと批判的に捉える姿勢を常に心がけてほしい。
審査員I
    今回は審査対象の巡りあわせが悪かったのかもしれませんが、前回担当した時と比べてプレゼンテーションスキルに物足りないものを感じました。イントロダクションが不十分で研究の背景や目的がわかりにくいものや、研究結果の紹介で定義の曖昧な条件や用語を用いて議論するものが見受けられた。また、研究成果が出ていても理解や結論に至った過程が明確にされていないものもあった。少し厳しい総評になりましたが、むしろこれに奮起して、今後も意欲的に研究を進めていくとともにプレゼンテーションスキルの向上にも気を使っていただくことを期待しています。

●メダル受賞者への講評

北原 理弘
「WPIA手法に基づくホイッスラーモードコーラス放射による高エネルギー電子のピッチ角散乱過程の定量評価について」(R006-09)

    内部磁気圏における相対論的高エネルギー電子の生成メカニズムを解明するためには、ホイッスラーモード波動と電子の相互作用が鍵を握る物理プロセスであり、ERG衛星に搭載予定の計測器WPIAにかかる期待は非常に大きい。本研究は実際のデータから算出される物理量として、エネルギー授受量と並んで重要な電子のピッチ角散乱に着目し、その具体的な計算手法を提案したものである。更に実観測に見立てたコーラス放射の数値シミュレーションデータにこの手法を適用して、その有効性を示した。発表は先行研究を簡潔に総括し、「何を測ればよいか」という問題意識を踏まえた上で研究の主旨へとスムーズに展開されたもので、内容が過不足なく専門家以外の者にも充分伝わった。ERGで実現される観測に対する期待が大いに高まるとともに、今後の進展も楽しみな発表であった。
今城 峻
「昼間側Pi 2地磁気脈動の電離圏等価電流分布」(R006-11)
    サブストームの発生とともに出現するPi2地磁気脈動の研究は、サブストームの発生機構や非一様なプラズマ中を伝播する波動の特性を理解する観点から重要である。発表者は、昼間側の赤道域に出現するPi2地磁気脈動について、地上の多点観測で得られた地磁気のデータから等価電流を求める手法を用いて解析を行った。その結果、正午付近の赤道域においては経度方向の変動電流成分が卓越していること、および正午を境に朝側と夕方側で非対称性な電流分布の構造をもっていることを見出した。また、真夜中付近に楔形構造をした振動電流系を仮定して、そのもとで全球的な電離圏電流の計算を行い、求まった結果が観測と良く一致することを確認した。発表においては、研究の背景とその位置付けについて、わかりやすい解説が行われた上で、得られた結果を明確に示した。また、質疑応答においても個々の質問に明快に答えるなど、取り組んでいるテーマについて深く考察し、内容をよく理解していることがうかがえた。今後さらなる発展が期待できる研究内容であった。
小中原 祐介
「シータオーロラ形成時における磁気圏構造とプラズマ対流:次世代M-I結合系シミュレーションコードによるMHDモデリング」(R006-P011)
    高空間分解能の太陽風−磁気圏−電離圏結合系電磁流体シミュレーションコードを用いて、IMF北向き時にIMF By変動に伴うシータオーロラ形成過程の磁気圏構造とプラズマ対流を解析した。重要な結果として、IMF Byが変化する以前に、IMF南向き時とはトポロジー的に異なるopen-openリコネクションが磁気圏尾部で起こり、地球向き・反地球向きの高速流が発生することを示した。このリコネクションは定常磁場構造を保つことが出来ず、IMFが変動しなくても別の型のリコネクションが引き続き起こり、磁気圏尾部は必然的に非定常になる。さらに、この一連のリコネクションはシータオーロラ形成時に限らずIMF北向き時の磁気圏に普遍的であることも示した。また、このシミュレーション結果に対応すると思われる高速流がGeotailによって観測されているとのことであり、この研究成果は将来展望も含めて高く評価できる。質問に対しては、的確に分かり易く回答でき、研究課題への理解と考察の深さが感じ取れた。
●優秀発表者への講評

中村 紗都子
「Correlation between relativistic electron flux and EMIC rising-tone emissions observed by the Van Allen Probes」(R006-02)

    本研究は非線形EMIC波動励起と相対論的電子フラックスの変動の関連性について、Van Allen Probes(VAPs)の観測データをもとに研究を行っている。VAPsの観測より、非線形EMIC波動が繰り返し励起されていることに伴い、相対論的電子が変動しているという結果が得られ、そのことから非線形EMIC波動によるサイクロトロン共鳴が相対論的電子フラックス消失に重要な役割を果たしていることを主張している。全体の研究内容をよく理解しており、研究背景から研究目的までの流れがわかりやすく説明されていた。しかしながら、発表内容が豊富であるがために要点が若干ぼける傾向があり、また質問者からの少し突っ込んだ内容に対しての説明が乏しいと感じた。研究成果に対するより深い理解を求めたい。一方で、さまざまな方向から観測で得られた情報をどう解釈するかの努力が見られ、これからのさらなる研究発展が期待出来る。
中山 洋平
「Rapid enhancement of energetic oxygen ions in the inner magnetosphere during substorms」(R006-21)
    地球内部磁気圏の高エネルギー酸素イオンがどのように作り出されるかについて、数値シミュレーションにより明快に示した。加速過程を担う電場の形成過程を丁寧に説明した上で議論を展開した点を、サブストームの全体像をとらえながら、その一連の現象の中でイオン加速過程がどのように生じているか理解することを強く意識していることが窺われ、評価する。
今村 有人
「小型化を目指した熱的・超熱的イオン分析器の開発」(R006-25)
    今村会員は人工衛星に搭載する低エネルギー(10 eV以下)イオンのエネルギー・質量分析器の開発を行っている。低エネルギーイオンの観測は、電離圏イオンが磁気圏に流出する過程を調べるのに重要であるが、人工衛星は正に帯電することが多く、低エネルギーイオンは観測器に到達できないという問題点がある。これを克服する方策として、人工衛星から伸ばしたブームの先端に観測器を取り付けることを考えている。そのためには小型軽量化を行う必要がある。今村会員が開発している観測器は、エネルギー分析を行う静電分析部と質量分析を行う飛行時間分析部から成る。それぞれにおいて生じる様々な問題を創意工夫して解決しようと試みている。多くの発表がすでにあるデータの解析であった中で、必要なデータは自分で取得するという地球科学の基本を再認識させる発表であった。自分で手を動かしていることが感じられ好印象であった。将来性ありということで優秀発表者に推した。
小木曽 舜
「実験室プラズマにおける波動・粒子相互作用の直接観測実験」(R006-P015)
    波動・粒子相互作用の観測を実現すべく開発が進められているおり、本発表は実験室プラズマにおいて、波動・粒子相互作用の直接観測を試みた結果の報告である。観測機器の設計までを担当しているかの説明は無かったが、機器の特徴を明確に説明できており研究の位置づけは明瞭であった。予想外の結果が得られていても、その結果を面白いと表現できているところに今後の伸びを感じさせる。実験には装置の限界のみならず予算的制約もあるが、時にはこれらを取り払った設計を考えてみることを期待する。
千葉 貴司
「Study of Pitch Angle Distribution in the Earth inner Magnetosphere; Clue of Magnetopause Shadowing」(R006-P031)
    本研究は、放射線帯電子のマグネトポーズシャドーイングによる損失の様子を、THEMIS衛星で観測された高エネルギー電子のピッチ角分布を調べ、その中でマグネトポーズシャドーイングに起因して生成されるバタフライ分布の発生の頻度や特性を調べたものである。Dst指数に代表される磁気嵐の活動度とバタフライ分布の発達の度合いを大量データを用いて客観的に調べ、重要な結果を導いている。研究の背景や得られた結果、それから導き出せる結論が理解しやすくまとめられた発表で、大変わかりやすかった。今後も研究を継続して、さらなる成果の挙がることを期待する。
澤井 薫
「パルセーティングオーロラとコーラス波動の周期性に対する地球磁場勾配の影響」(R006-P037)
    本研究はPulsating Aurora(PA)とVLF波動(whistler chorus)の地上同時観測データをもとに、PAの輝度とwhistler波動強度の周期性解析を行っている。この観測より、両者の相関が確認され、PAを引き起こすとされる放射線帯電子の降り込みとwhistler波動の関連性を裏付けている。また、PAの周期性の変化に着目し、これは散発的なchorus励起からHISS的なwhistler励起への変化に対応することを示した。さらにこのwhistler励起の変化は非線形成長理論で説明出来ることを主張している。発表内容についてはよく理解出来ているが、内容の説明に専門的な要素が少し強く、一方で研究周辺の基本的な部分について少し理解が薄いように感じた。しかしながら、比較している観測結果についてまだ問題点があることを理解している点や、波動の地上観測・衛星観測、また地上での光学観測と、複数の観測手法を手がけており、これからのより幅広い視野・視点での研究推進を期待したい。
糀 宏樹
「耐放射線特性に優れたプラズマ波動観測用ASICプリアンプ」(R006-P038)
    小型衛星に搭載するためのプラズマ波動電界観測用プリアンプをASIC技術により小型化するという開発研究である。CMOSデバイスのゲート酸化膜を薄くすることで耐放射線性に優れたプリアンプを作ったことが発表の主旨であるが、他にも三角波発振器を用いた校正用回路設計や温度補償の観点など他方面からの検討結果がわかりやすく示されていた。また観測機器の開発研究には多くの研究者が関わることが通例であるが、糀会員はその中で自身の貢献がどこにあるのかを明確に説明していた。今後、より具体的な衛星計画や観測対象を意識した開発研究に展開していくことを期待したい。
藤野 亮佑
「非平衡プラズマにおける協同トムソン散乱:高強度レーザー実験への応用」(R008-P08)
    高強度レーザー実験は、無衝突衝撃波や磁気リコネクションといった宇宙の高エネルギー現象における系の局所的な微細構造と大域的な構造変動の双方を同時に捉えられることから、従来の観測における弱点を補完し、新たな物理の理解につながることが期待される。本研究は、実験室プラズマにプローブ光を入射したときに計測される散乱光の特徴から局所的なデータを導出する手法について、理論モデルを基にした計算からその有効性を検証したもので、今後の実験において必須の計測手法となるであろう点で意義がある。ポスターの構成もわかりやすく、研究目的や今後の見通しについての理解度の深さも窺い知ることができた。
平井 研一郎
「MHD simulation of the magnetorotational instability using the compact difference scheme and LAD method with the shearing box model」(R008-P12)
    平井会員は微惑星形成時の降着円盤問題に対応すべく、新しい数値コードの開発を行っている。磁気回転不安定性が作る乱流を調べるのが目的で、将来的には電磁流体コードとダストの運動を解く粒子コードを組み合わせるということである。今回は電磁流体コード開発の中間発表であった。コードは3次元のボックスモデルで、差動回転を解くために動径方向にボックスを少しずつずらして配置し、境界条件を通じて各ボックス内を解くという方法をとっている(shearing boxモデル)。各ボックスにおいては、8次のコンパクト差分法と最近発表されたlocal artificial diffusivity (LAD)法を組み合わせて衝撃波が正しく解けるよう工夫されており、また9 wave法という手法を用いて人工的磁場発散を押さえることにも成功している。このコードを用いて磁気回転不安定性をテスト計算すると、線形発展のみならず非線形段階への移行も見えているということだった。今回は中間発表ということで、長い道のりの一部にすぎないが、新しいものを作ろうという意気込みが感じられた。説明が丁寧で質問に対する受け答えも的確であった。将来性ありということで優秀発表者に推した。

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