SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2015年度 第1分野講評
審査員:
    山本 裕二 (高知大学), 上嶋 誠 (東京大学)

●総評

     学生発表賞への応募があった口頭4件とポスター12件(計16件)について審査を行った。地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは、中国レス・深海底蛇紋岩・地震性タービダイトの岩石磁気、海底堆積物・遺跡焼土試料に基づく地磁気永年変化、津波石の古地磁気・岩石磁気、石灰岩の磁気層序および火星表面の磁気異常に関する研究発表があった。地球・惑星内部電磁気学セッションでは、被害地震震源域や断層周辺域における比抵抗構造探査、MT法データの3次元インヴァージョン手法、比抵抗から岩石微細構造を探るための模擬試料を用いた室内高密度電気探査に関する研究発表があった。確立された研究手法を着実に積み重ねることで従来より格段に精度の高い成果を獲得しつつある研究から、新しい研究手法そのものを創出・確立しようとしている研究に至るまで、研究の幅は広範で、全体として明確な目標設定の下に適切な手段・手法で研究に取り組み、将来の発展が期待できる成果が得られている。研究対象に内在する素過程や物理・数理的原理に関する理解が十分ではない発表も見受けられたが、全体的にスマートな説明で時間内に的確に研究成果を紹介できている発表が多いと感じられた。質疑応答においては、質問者の意図を理解して的確に応答できていたものが多いと感じられたが、一部に不明瞭な応答も散見された。研究の基礎となる理論や背景について発表前に自分なりに十分に咀嚼することで、より良い応答へと繋げ、さらに完成度の高い研究発表に繋げることを期待する。全ての研究発表の完成度は高く、固体地球電磁気系の研究が優秀な若手研究者によって進められている最前線を体感することが出来た。とくに優れた研究発表が数件あり、なかでも特筆すべき発表の2件として、メダル受賞者・優秀発表者への講評を下記に記す。なお、成果の結実が高い確度で約束された優れた発表がさらに数件あったことをここに加えておきたい。

●メダル受賞者への講評

穴井 千里
「A new method for Chemical Demagnetization of Carbonate rocks」(R004-P12)

     これまでの研究で、石灰質ナンノ化石などに基づく生層序と古地磁気極性に基づく層序との間で矛盾が生じていた琉球層群の第四紀礁性石灰岩を対象に、化学消磁を組み合わせた古地磁気方位測定を行うことで古地磁気極性層序を更新し、矛盾を解決に導いた研究である。礁性石灰岩は形成後に粒間に酸化した鉄が析出することで二次的な化学残留磁化を獲得していると考え、適切なエッチャントを選定・利用することで効率的にこの二次磁化を化学消磁し、真の初生磁化を見いだすことに成功して古地磁気極性層序を更新することができた。化学消磁によって、二次磁化の担い手であるゲーサイトやヘマタイトが効果的に溶出されていることを各種の岩石磁気実験で明確に示しており、結論は揺るぎない。創意工夫が随所に見られる研究であり、とくに、従来の化学消磁に一般的に用いられてきた塩酸は本石灰岩への適用には相応しくないと判断し、pH-pEダイアグラムをもとに独自にアスコルビン酸を選定し、さらに実際の消磁実験の手法を独自に考案して滴下装置を自作したうえで、72時間の滴下時間が最も効果的に消磁効果が見られることを見いだした点は高く評価できる。さらに、本研究で確立した化学消磁の手法は広く礁性石灰岩に適用可能と考えられ、将来の研究の大きな広がりが期待される。以上に加えて、研究発表と質疑応答を通して主体的に研究に取り組んでいることがはっきりと窺え、学生発表賞に相応しいと判断した。
●優秀発表者への講評

藤井 昌和
「超マフィック型海底熱水系における高磁化帯の起源」(R004-P08)

     中央インド洋海嶺のプレート三重点近傍に存在する過去に活動した熱水系(Yokoniwa site) で、海底からの高度100mでの深海磁場観測により 10 A/mにも上る厚い磁化層が発見されたことを受けて、この高磁化帯の起源を詳細に解明した研究である。従来の研究ではほとんど行われることのなかった、回収試料の岩石磁気・古地磁気分析を詳細に行うことで蛇紋岩化の度合いと磁鉄鉱形成量の関係を明らかにした上で、実際に、蛇紋岩化度の高いかんらん岩が 10 A/m にものぼる高い自然残留磁化を保持し、高磁化帯の起源となり得ることを明確に示すことに成功した。この結論から、Yokoniwa site における磁化構造を説明する熱水系の活動モデルを提案し、さらに、このモデルを拡張する形で、中央大西洋海嶺の現在も活動している2つの熱水系での観測結果から推定される磁化構造を説明可能なモデルまで提案していることは高く評価できる。本研究の特徴は、従来は磁場観測および結果の解析に基づく考察に留まることの多かったこの分野の研究を、実際に岩石試料を回収して磁気分析や顕微鏡観察を行うところまで踏み込んでいる点であり、さらには磁気分析結果により観測結果を整合的に説明できるレベルに到達している点は特筆に値する。研究発表と質疑応答を通じて、深い理解と主体的に研究に取り組んでいる熱意が随所に感じられ、将来の研究の発展が大いに期待できる優秀な研究発表である。

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