●総評
多くの発表が、きちんと内容を整理してわかりやすく発表していると感じた。しかし一方で研究結果の考察が不十分で、指導教員に言われたことを言われたとおりに実行しているだけのように見える発表が多かった。指導教員とよく議論して、内容を自分のものにし、必ず自分自身の考えを含めて発表するようにして欲しいと思う。
特に口頭発表で完成度の高いものが多いと感じた。一方で、時間配分に失敗しているものもあったので、事前に練習して言いたいことが聴衆に伝わるような発表を心掛けてほしい。ポスター発表では、事前に練習すること自体が難しいためか、主張したいことがぼやけてしまっているものや、質問に的確に答えられないものもあった。こちらも普段から指導教官や周りの学生らとの議論を通じて十分に訓練してほしい。
口頭発表、ポスター発表とも、研究の背景、目的、方法、結果などが明確に示され、図や動画もわかりやすく、プレゼン技術のレベルは高かった。一方で、観測データや解析結果を示しただけで、結果の意義や物理過程の議論などが不十分なものも多く見受けられた。研究発表においては、少なくとも現象の解明に向けてどのような検討を行ったのか、これから何をやれば定量的な解明に至るのかを示すことが重要である。次回以降、議論の部分に重点を置いた発表が増えることを期待する。
発表に関してはポスター講演も含めて概して良く纏められていたが、互いに対になるであろう、研究の意義・目的と展開をも含めた結論をともに明確に示すこと、また、特にプロジェクト研究等に関わる発表の場合は自身の位置・貢献について言及すること、等も特に意識して話されると良いであろう。内容に関しては、結果が得られたこと迄で良しとしてしまっているような発表も散見された。是非、考察・評価を進めて真の目的に迫って頂きたい。
●メダル受賞者への講評
池澤 祥太
「ジオコロナ撮像装置LAICA の開発と撮像結果」(R005-19)
ジオコロナを観測するために超小型衛星PROCYONに搭載されたLAICAカメラの開発と初期観測結果の報告。この観測の新しさ、ユニークさを強調し、何が新しいか、何が重要なのかが分野外の研究者にもよくわかる講演であった。データ解析だけでなく、カメラの開発・試験から観測、データ解析と、理論的な考察に基づく結果の評価まで網羅していることも評価できる。オーラル講演における式の説明はシンプルにするなどもっと工夫した方がよい。
宮本 麻由
「電波ホログラフィ法による金星大気の電波掩蔽データの解析」(R009-17)
惑星大気の鉛直構造推定に電波掩蔽は強力なツールである。受信データの従来解析手法は、分解能の制限や、温度反転領域などでマルチパス状態のとき解が得られないなどの問題があった。本研究は、それを解決する電波ホログラフィのひとつFull Spectral Inversion(地球大気GPS掩蔽観測で開発された)を金星大気に応用し、その有用性を実証したものである。Venus Expressデータを解析して、温度反転域がときにより対流または放射冷却に支配されたり、その上空に薄い中立層が何層も出現する様子をとらえ、金星大気力学を考える上で重要な知見である。手法の将来応用性の高さも含めて優れた研究と評価される。
澁谷 亮輔
「南極昭和基地大型大気レーダーによって観測された中間圏重力波と中層大気NICAM による再現実験」(S002-14)
中間圏に拡張した全球雲解像モデルNICAMに新たな伸縮格子を適用し、再現実験の結果を南極昭和基地大型大気レーダーの中間圏観測と比較している。NICAMの中間圏への拡張と新たな伸縮格子の提案はいずれも過去に例のない最先端の取り組みであり、それらに成功していることは高く評価できる。また、レーダーとの比較解析は従来から行われているものだが、多数の事例解析を着実に実施しており、解析能力の高さがうかがえる。講演は論理的で質疑にもしっかりと対応しており、研究者としての今後の飛躍に期待したい。
松田 貴嗣
「Propagation characteristics of mesospheric gravity waves observed by Antarctic Gravity Wave Imaging/Instrument Network (ANGWIN)」(S002-P03)
全天大気光イメージャーで観測される大気光の2次元画像から、3次元フーリエ変換を通して大気重力波の波長と位相速度、伝搬方向を自動的に抽出する手法を開発した。これにより、これまで時間をかけて目で見て判別するしかなかった小スケール大気重力波の特性の研究において、新しい大量データ解析の道筋を切り開いた意義は大きい。得られた結果を自分でよく考えてさまざまな解釈の可能性を考慮している点も評価できる。今後は、この手法で南極全体で得られる波動の伝搬特性の大量結果を系統的に示し、その中から普遍的な知見を導く工夫をしていくことが期待される。
●優秀発表者への講評
竹田 悠二
「稠密GNSS 受信ネットワークを用いた電離層遅延長の微細時間空間変動に関する研究」(R005-02)
1周波GNSS受信機を用いた大気水蒸気量の稠密観測を目的とし、周辺のGEONET観測点の2周波観測を用いて電離圏遅延量を取り除くことを提案し、局所的な水蒸気分布の検出が可能であることを示したものである。安価な1周波受信機を大量に用いて極めて局所的な水蒸気分布を検出することは、ゲリラ豪雨のような災害予測への応用が期待でき非常に興味深い。しかしながら、電離圏が静穏である場合だけでなく、電離圏擾乱の補正性能への影響について、過去の知見に基づいての議論や今後の検証計画などがあることが望ましかった。
中島 悠貴
「GNSS-TEC 法で見る、最近の火山噴火に伴う電離圏擾乱」(R005-P10)
本研究は、火山噴火に伴って観測された電離圏擾乱をGNSS-TECを用いた解析によって調べたものである。火山噴火によって電離圏擾乱が起きることは古くから知られているが、本研究では火山噴火のタイプによって電離圏擾乱の応答が大きく異なることを示しており、大気音波が電離圏に与える影響を調べる上で非常に有意義な結果が得られている。研究内容の説明は良くできていたが、物理過程の検討はまだ十分なされていない。今後、火山噴火のタイプと電離圏擾乱の関係を定量的に解明していくことを期待する。
鈴木 貴斗
「InSAR を用いた中緯度スポラディックE の検出」(R005-P24)
干渉合成開口レーダー(InSAR)を用いてスポラディックE層と思われる信号を検出し、GPS-TECとの比較によりスポラディックE層によるものであることを確認したものである。地表観測に用いられるInSARを電離圏研究に応用した点も興味深い。しかしながら、InSARにより得られた結果をGPS-TECと比較するにとどまっており、画像中に見られる微細な構造等、スポラディックE層の生成機構に迫る議論があることが望ましかった。
中嶋 純一郎
磁気赤道上における熱圏風の長期変動」(R005-P41)
磁気赤道上では磁気赤道に沿って流れる熱圏風が存在することはすでにCHAMP衛星のデータを用いた研究で調べられている。本研究では、磁気赤道上の熱圏風をさらに詳細に調べた結果、この磁気赤道の熱圏風は顕著な季節依存性を持ち、その振る舞いは極めて複雑であることを明らかにした。この結果は、熱圏-電離圏相互作用がこれまで考えられている以上に複雑であることを示唆するものとして重要である。発表は概ね明快であったが、結果に関する議論は物足りなかった。今後は、この熱圏風の振る舞いを引き起こす物理メカニズムの解明に取り組んでいってほしい。
安田 竜矢
「水星ナトリウム大気の長期時間変動」(R009-15)
水星ナトリウム大気の生成は複数のメカニズム混合であると考えられているものの、各々の寄与の度合いなどはまだよく分かっていない。本研究では地上からのモニター観測を行い、大気光強度データから日毎のナトリウム原子柱密度を水星の「明け方側」「夕方側」について決定し、そのモデル再現を試みている。「明け方側」については、従来有望視してきた微小隕石衝突モデルよりも、輸送・蓄積モデルが観測をよりよく再現できることを示した。「夕方側」はまだ再現できておらず、その要因の探究が必要であるが、今後の発展が期待できる優れた研究と評価される。
桑原 正輝
「磁気嵐に呼応する地球外気圏の水素原子の密度変動」(R009-P32)
地球外気圏に拡がるジオコロナが磁気嵐時に増減する様相を「ひさき」衛星による水素発光輝線の連続観測で捉え、未解明のその物理過程の解釈 を試みた研究である。変動過程に関わる要素を検討し、一つずつ量的に評価しようとする着実な研究姿勢、および、その結果として変動過程に説明 を与え得た点は高く評価される。更なる検証も交えての今後の研究の深化に期待する。
林 祐樹
「非定常な波強制に対する子午面循環形成過程」(S002-19)
本研究は、これまで定常を仮定して議論されることの多かった大気波動に対する子午面循環の形成過程を、非定常な強制について、その形や時間変化に対して子午面循環の形成がどのように依存するのかを線形解析により調べたものである。発表は、研究の背景、位置付け、目的などが明確に示されており、内容も論理的で、全体に良くまとまっていた。今回の研究は、基本過程を理論的に調べたものであるが、今後は非定常な波強制が子午面循環へ及ぼす影響を、定量的に明らかにしていくことを期待する。
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