SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2015年度 第3分野講評
審査員:
    齊藤 慎司 (名古屋大学), 佐藤 夏雄 (極地研究所), 三宅 洋平 (神戸大学), 坪内 健 (東京工業大学),
    松本 洋介 (千葉大学), 近藤 光志 (愛媛大学), 陣 英克 (情報通信研究機構), 中野 慎也 (統計数理研究所)

●総評
審査員A

    研究内容の要点を分かりやすく発表する講演やポスターが多かったと評価できる。特に、研究の背景と研究目的に関するイントロダクションの準備と練習は良く出来ていると感じた。一方、得られた結果への学問的な問題意識は、深く掘り下げて考えて新たな解釈や展望を提起するような発表は少なかったとの印象である。
審査員B
    講演を聴く側の立場に立ったわかりやすいプレゼンに高い評価を与えた。これには話自体の構成に加えて、講演スライドやポスターのレイアウトなどの工夫も含む。必ずしもその発表についての専門的知識を持ち合わせているとは限らない聴衆には、研究テーマのこれまでの経緯・動機付け・発表者の貢献箇所・今後の発展性といった流れが視覚的にも明確になっていることが望ましい。私が拝聴したプレゼンに限っては、どの学生もこうしたわかりやすさに対する基本的な配慮はなされており好感をもったが、今後の展望においては自身の研究の進展のみに言及する傾向が若干見受けられた。研究の大局的な位置付けと最終目標をもう少し大胆に打ち出して、既存の研究に浸かっている層に新鮮な打撃を与えることを是非とも目指してほしい。
審査員C
    初めて審査を行いました。審査員という立場で候補者の方々の発表を聞いて、これまで気が付かなかった側面を感じることができました。候補者の方々はメダル賞を意識してか、全体的にプレゼンテーションの準備がしっかりされていたように思います。学生賞を設けたことにより、学生の発表の質を上げる効果が明らかにあったと思います。個別には、大変努力した成果、本人が理解しておらず教員の指導不足という内容、といろいろありましたが、審査員として聞くことでこれまで以上に発表を楽しむことができました。これまでのSGEPSS分野にはなかった、天文衛星を使った研究やレーザー実験における計測手法の理論など、新しい研究テーマもあり、応援の意味を込めてメダルを授与したかったのですが、今回は見送られることになりました。引き続き取り組んで頂き、メダル賞に値する結果を楽しみにしたいと思いました。
審査員D
    研究テーマや内容については優れたものが多く、全体的に研究レベルの高さを感じました。発表自体についてもよく練習しているようでした。しかし、説明途中に質問を投げかけると、この研究に関しては基本的と思われるような内容についても的確に対応出来ない学生が多いように思います。自身の発表内容に沿ったことに関しては練習もしており対応出来るようですが、それから少し逸れると基本的な内容であっても、そもそも理解していない・考えていないというケースが、学生によってかなり差があるように感じられます。研究に対するより深い理解や新しい発想を引き出すために、より主体的・積極的な姿勢で研究に取り組んで欲しいと思います。
審査員E
    多くの学生発表を聴き、議論をするなかでとても刺激をもらいました。まだまだ理解不足なことも、物理と直結できていないと感じることもありましたが、新しい方法で問題を解決しようという試みがたくさんみられ、それをなんとかアピールしようという気持ちが見られたことにとても感銘を受けました。もう少しで解決できそうな問題もたくさんありましたので、あきらめることなく次回の学会でのすばらしい報告を期待します。
審査員F
    今回受賞に至らなかった発表でも優れた発表は幾つかあった。ただし、内容が良くても発表の仕方において聴衆に分り易く伝えられていない発表は、会場からの反応も乏しく残念であった。逆に、表現に工夫が施され、複雑な解析を分り易く伝えるような発表は、質問や提案が相次いでおり、今後の研究の進展に向け有意義な機会となったであろう。また、全体的に見て気になった事は、従来と異なるアプローチや、新たな観測データを用いる研究発表が多く見られたが、表面的な内容に留まってしまいがちに感じられた。それらの研究目的となる太陽地球科学の未解決課題そのものについてより深く追求していくことが必要と思われる。
審査員G
    全体的にレベルの高い研究内容に熱心に取り組んでおり、またプレゼンテーション技術の重要性が近年強く認識され全体として、研究の背景・目的から結果・結論に至までの話の流れが十分に練られており、内容を的確にまとめた優れた発表が多かったと感じた。ただ、研究の成果や意義が分かりやすく説明される一方で、得られた結果から主張できる点と主張できない点の区別が曖昧であったり、解析の問題点に関する議論・考察が不十分と感じられる発表も散見された。研究内容を慎重かつ客観的に吟味することにも気を配って欲しい。
審査員H
    前年に引き続いての審査でしたが、今年も発表のレベルは高く、講演会に向けて良く準備してきていることがうかがえます。一方、質疑応答では、やはり質問と回答がかみ合っていないと感じられる場面がいくつかありました。近年のSGEPSS分野のすそ野の拡がりに伴って、学生の研究内容も多様性を増しているため、時には本質を外した質問が飛び出してくることもあるかとは思います。ただその時に、一歩引いた視点から質問の意図をかみ砕き、質問者が理解できる言葉で自身の研究の位置づけや重要性をアピールできるかどうかで、発表全体の印象もだいぶ変わってくるのではないかと思います。レベルの高い要求ではありますが、異分野の人に自身の研究を説明する場合には必ず必要になる素養なので、ぜひ意識してトライしてほしいところです。

●メダル受賞者への講評

野村 浩司
「Statistical analysis of plasmaspheric magnetosonic mode waves from Van Allen Probes observations」(R006-03)

    内部磁気圏環境を理解する上で、放射線帯に見られる相対論的高エネルギー電子の加速メカニズムは最重要課題の一つである。その主要因とされているプラズマ圏のEMIC波動を生成する起源として、プラズマ不安定性や別種の波動からのモード変換が考えられている。本研究はVan Allen Probesの観測データを用いた統計解析を通じ、後者のプロセスを検証したものである。発表では、プラズマ圏の磁気音波の伝播方向が特に地磁気擾乱時に地球向きとなること・磁気音波が左偏波のEMIC波動にモード変換していることなどの研究成果から、モード変換機構の重要性を明瞭に示した。冒頭のEMIC波動に関するレビューから問題設定までの流れが的確で、解析手法の説明もわかりやすく、発表者自身が研究内容を充分に自分の言葉で表現できている様子が見て取れた。
加藤 大羽
「太陽風プロトンとアルファ粒子が月磁気異常領域によって受ける影響の比較」(R011-03)
    月と太陽風との相互作用は、月の宇宙風化を理解する上で欠かせない物理プロセスである。本研究は特に月の磁気異常領域に着目し、太陽風イオン(陽子、アル ファ粒子)の月表面との相互作用をかぐや衛星のプラズマ、磁場観測データを用いて詳細に解析したものである。これまで太陽風イオンは磁気異常によってほとんど反射されると考えられていたが、データ解析結果、陽子とアルファ粒子とでは月表面への到達率に違いがあることを質量分析器のデータを解析することで初めて明らかにした。本研究に対して必ずしも専門的ではない審査員が占めていたが、受賞者の発表内容は非常に説得力があるというのが審査員の総意であった。 特に、観測結果を検証するための説明が丁寧に準備されており、提唱するモデル の説得力を持たせるものであった。データ解析方法、プレゼンテーションのレベルが候補者の中でも卓越していたと考え、メダル授与に至った。
平井 研一郎
「コンパクト差分法とLAD法を用いたMHDスキームによる 磁気回転不安定性の計算機実験」(R008-14)
    磁気回転不安定性(MRI)は差動回転系における乱流起源として知られ、原始惑 星系円盤やブラックホール周りの降着円盤の進化を考える上で重要な物理過程として知られている。受賞者はMRIの非線形飽和レベルを決めるパラサイト不安定までを正確に取り扱うべく、新規に磁気流体シミュレーションコードを開発した。それを適用した結果、MRIの成長、パラサイト不安定(KH不安定、テアリン グ不安定)までを正確に取り扱い、磁気乱流スペクトルの特徴などを議論することに成功している。受賞者が採用したコンパクト差分法+LAD法は高次精度な磁気流体シミュレーションスキームとして近年着目を浴びているが、その実装及び並列化には極めて高度な数値計算アルゴリズムの理解が要求される。受賞者はそれら数値計算技術を身につけ、降着円盤研究への適用という実用段階に至った事は、オーロラメダル賞に値すると考える。科学的成果についても、 開発したコードを武器にしてさらに大きな進展が期待できると考えた。
久保田 結子
「Radiation belt electron precipitation induced by large amplitude EMIC rising-tone emissions」(R006-P05)
    内部磁気圏に存在する放射線帯電子フラックスは磁気嵐に伴い大きくその量を変動させることが知られている。フラックス増加/消失ともに多くのモデルが提案されているが、その中でも波動粒子相互作用の重要性が理論/観測共に示唆されている。本研究は近年発見された周波数上昇を伴う大振幅イオンサイクロトロン波動(EMIC波動)による放射線帯電子消失プロセスに注目し、テスト粒子計算を用いて放射線帯高エネルギー電子の非線形散乱について議論している。注目すべき結果としては、EMIC波動による相対論的電子の非線形的な散乱により、準線形理論で予測されるものより速いピッチ角方向への輸送がなされ、地球大気への降り込みが効率的になされることを示している点である。  本人の解説を通して、研究の背景やEMIC波動の非線形励起のメカニズムなど、関連研究についての理解の深さが感じ取れた。また得られた結果についても明確に説明出来ていたのに加え、英語での議論も含め1人1人丁寧な解説をしており、他ポスター発表者より発表スキルの高さが際立った。以降の研究の方向性についても明確であり、今後の研究発展および国際的な活躍が期待出来る。
●優秀発表者への講評

沼澤 正樹
「X 線天文衛星「すざく」による太陽極大付近での木星X線の観測」(R006-07)

    太陽活動極大期付近である2014年の木星X線観測から、極小期にも観測されていた木星の周りに広がった放射を解析し、その放射起源について詳細に解説した。スペクトル解析とイメージ解析の結果について論理的かつ明快に説明した。さらなる観測などによる発展を期待させる発表であった。
井上 恵一
「全天イメージャと非干渉散乱レーダーを用いた2つのタイプの極冠オーロラの比較解析」(R006-P13)
    その形状などから、発生メカニズムやソース領域が異なると予想されている2種類の極冠オーロラ、Sun-aligned arc(SAA)とPoleward-moving auroral arcs (PMAA)を全天イメージャと非干渉散乱レーダーを使った観測から三次元的に解析し、これら2種類の極冠オーロラが類似した電磁気学的構造とソース領域を持つことを提唱している。発表において、その解析方法や結果についてわかりやすく説明した。今後さらなる発展が期待される研究発表であった。
今城 峻
「低緯度朝側昼夜境界付近で観測されるPi2型地磁気脈動と湾型磁場変動」(R006-24)
    Pi2地磁気脈動の研究はサブストームの発生機構や非一様なプラズマ中を伝播する波動特性を理解する観点から重要である。発表者は、低緯度の夜明け時刻付近で観測されるPi2波動の波形特性を詳しく解析した。その結果、日照域と日陰領域とでは、H成分の波動は同位相であるがD成分は逆位相である、との違いを明らかにした。この特性は既存のモデルでは説明できない。そこで、新たに、電気伝導度が経度方向に大きな傾斜を有する明け方付近において、Pi2発生源の極域から赤道域に流れるグローバルな電離圏子午面電流を想定すれば説明できることを示した。さらに、D成分の振動が南北半球間では逆位相であることから、提案の子午面電流は赤道面に対して、南北半球間で対称であることも示した。この現象の解析結果と解釈は科学的価値が高いと評価できる。講演発表は分かり易く、質問にも的確に答えることができ、取り組んでいるテーマを深く考察し、内容を良く理解していることがうかがえた。今後さらなる発展が期待できる研究内容であった。また、昨年度の受賞対象となった研究からの進展という観点で見ても、優れた発表として評価できる。
諌山 翔伍
「Self-consistent discharge growing model of helicon plasma」(R008-09)
    電気推進にも用いられるヘリコンプラズマ放電は、非一様プラズマ中での波動分散特性に、中性粒子との衝突・緩和過程や壁との相互作用が作用する複雑な系を作り出している。本研究は、このヘリコンプラズマ放電過程について、流体的な記述に基づき、波動励起、熱輸送、粒子拡散過程を考慮した数値モデルを構築した。従来は経験則に基づいて用いられてきた放電過程に対し、自己無動着な物理モデルを構築しようとするその姿勢は大いに評価されるべきであるし、多岐に渡る物理要素を時空間スケールの考察から適切に整理し、着実にモデルを改良していくさまに発表者の研究センスを感じた。欲を言うならば、最終目標とする物理モデルの全体像をよりわかりやすく提示していれば、さらに良い発表になったかもしれない。プラズマの宇宙工学利用を下支えする研究として、さらなる発展に期待したい。
山野内 雄哉
「太陽風予測モデルSUSANOO-SWの予測精度改良の試み」(R010-05)
    本研究は、太陽表面の磁場観測とシミュレーションコードを用いた太陽風予測モデルについて、予測精度の向上を図るものである。発表では地球正面の範囲以上の太陽磁場情報を時間軸も考慮して取り入れることにより、地球近傍の太陽風の予測が改善できる事が示された。研究の重要性、先行研究からの発展、結論に至る議論が明瞭であった。特に本研究手法の狙いや結果の考察は太陽地球科学の知見に基づいており、うまく応用につながっている点は評価できる。太陽風の予測は宇宙天気の重要課題であり更なる研究の進展に期待したい。
北原 理弘
「THEMIS衛星データを用いたEMICによる高エネルギーイオンピッチ角散乱の直接観測手法」(R010-20)
    内部磁気圏で励起されるEMIC波動による高エネルギーイオンのピッチ角散乱の過程を直接計測する手法を提案し、実際にTHEMIS衛星のデータを用いてその有効性を確認した。研究内容も独創的かつ目的が明確で、発表も分かりやすく、質問に対する応答も落ち着いて的確に対応していた。昨年度の受賞対象となった研究からの進展という観点で見ても、優れた発表として評価できる。

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