SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2016年度 第1分野講評
審査員:
    後藤忠徳 (京都大学), 渋谷秀敏 (熊本大学), 星博幸 (愛知教育大学), 山口覚 (大阪市立大学)

●総評

     学生発表賞への応募があった口頭5件とポスター13件(計18件)について審査を行った。地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは、微粒子や単結晶の岩石磁気の測定、断層活動年代の古地磁気学的推定、石灰岩や化学堆積物岩の磁気層序、遺跡試料に基づく地磁気永年変化等に関する研究発表があった。地球・惑星内部電磁気学セッションでは、火山地域や地震活動域における3次元比抵抗構造解析や浅部比抵抗構造の解析、電磁場データの新たな解析方法の提案、岩石試料の比抵抗トモグラフィー等に関する研究発表があった。また特別セッション「考古学と地球電磁気学」では、考古試料に基づいた地磁気方位・強度の変動や津波の年代測定法に関する研究発表があった。全体として、既存の研究手法の適用のみならず、既往研究では手付かずであった試料や観測データに対して、新規の手法を提案・開発・試行する発表が多く見受けられた。例えば測定方法の工夫や新たなデータ解析技術の適用、新たな理論・解析法の構築などである。これらの多くの挑戦に対して有効性や有用性が感じられた。質疑応答においては、いずれの発表者も研究の目的・結果や問題点を理解しており、よく応答していた。使用手法の理解や、調査対象に対する過去の研究例の精査に一層の努力が必要と思われる発表も見受けられたが、今後の研究成果が期待されるものであった。以上の研究の中で特筆すべき3件をメダル受賞者・優秀発表者に選出した。なお、研究の完成度が高く、今後の研究成果が強く期待される発表がさらに数件あったことをここに加えておきたい。

●メダル受賞者への講評

北原 優
「地磁気3成分を用いた遺跡の相対年代評価‐岡山県邑久窯跡群の3基の窯跡を例として‐」(S001-12)

     わが国の考古地磁気学において、方位の測定は続けられてきたが、強度の研究は継続的になされてこなかった。その間に広がった世界との差を、北原君が精力的な取り組みで縮めているのは喜ばしいことである。本発表は、岡山県の須恵器窯の試料を用いた古地磁気強度研究である。古地磁気強度測定には手間がかかるので、各サイトごとに多数の試料を測定する例は必ずしも多くない。それを行うだけでなく、酸化状態の異なる部分からの試料を採取し実験する、複数の実験手法で比較する、など、結果の信頼性を担保する工夫をしている。これは、古地磁気強度研究において極めて誠実な態度で、国際的に見ても、第一級の質の高いデータを報告している。スライドのセンスも良く、分かりやすい説明と質問への的確な回答は、審査員全員の評価が高かった。また、北原君は本学会で3件の発表をしていて、意欲の高さを伺うことができる。以上の理由から学生発表賞に相応しいと判断した。
●優秀発表者への講評

鈴木 健士
「円筒形岩石試料に対する比抵抗トモグラフィーの試み」(R003-P12)

     電気比抵抗分布から地球内部構造を明らかにすることは有力な手法であり、広く世界で用いられている。比抵抗構造を解釈する上で、岩石中の流体のつながりを評価することは重要な問題の一つである。鈴木君は、この問題解決へのアプローチとして、円筒形岩石試料の高解像度比抵抗イメージングを行い、微小クラック分布との対比から岩石中の流体のつながりを定量的に把握することを目指している。そして、そのための測定装置および解析方法の開発を行った。一般に乾燥岩石試料は非常に高比抵抗であるので、高精度・高密度の測定は、特に困難である。彼は測定上の問題点を注意深くかつ緻密に考察して、それらを解決した測定装置を開発しつつあり、また測定結果を解析する方法も確立しつつある。この研究の成果は、冒頭に挙げた問題点を解決する大きな可能性を秘めている。発表内容および質疑応答から、幅広い知識、緻密な観察力、そして忍耐力によってこの研究を進めていることがうかがえ、今後の発展が大いに期待できる優秀な研究発表である。
穴井 千里
「陸域に分布する琉球層群の磁気層序−B-M境界の検討−」(R004-P06)
     磁気極性層序を利用した地層対比は、地層に記録されている過去の地質学的イベントの時空的広がりを解明するために有効な手段の一つである。しかし、堆積物の残留磁化が微弱な場合や堆積後に獲得された二次磁化の消去が困難な場合は、磁気極性層序の構築に多くの困難を伴う。本研究は、そうした難しさを持つ宮古島の石灰質堆積物に対して還元化学消磁を含む詳細な古地磁気実験を行い、琉球層群主部を構成する礁性石灰岩層の磁気極性層序をはじめて明らかにしたものである。通常の交流消磁と熱消磁で石灰岩試料の特徴的残留磁化をうまく検出できない場合でも、発表者が開発した還元化学消磁法を適用することによって赤鉄鉱が持つと考えられる二次磁化を効果的に消去できた。その結果、18サイトから信頼できる残留磁化極性が得られ、それをもとに逆極性から正極性への逆転を含む磁気極性層序が明らかにされた。生層序データを考慮し、今回認められた極性逆転層準はブルン-松山境界に対比された。この成果は琉球層群に国際対比が可能な時間面を決定した点で地質学的意義が大きく、今後、古地磁気分野のみならず地質や古生物の分野でも広く引用されると予想される。また、還元化学消磁が成功した事例として、堆積物や変質岩を扱う古地磁気研究において注目されるであろう。今回の研究発表と質疑応答を通じて、深い理解と主体的に研究に取り組んでいる熱意が感じられた。今後の発展が大いに期待できる優秀な研究発表である。

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