2016年度 第2分野講評 |
審査員:塩川和夫 (名古屋大学), 冨川喜弘 (極地研究所), 中田裕之 (千葉大学), 藤原均 (成蹊大学), 佐藤毅彦 (宇宙科学研究所), 村田功 (東北大学), 齋藤義文 (宇宙科学研究所) |
●総評
審査員A
工夫してわかりやすい発表を心掛けているプレゼンと、内容を詰め込みすぎて速くなってしまったり説明が不十分になったりして十分に理解されないプレゼンが混ざっていた。学生同士や指導教員と一緒に練習して、お互いに改善点を指摘しあって改良する努力が望まれる。ポスター発表ではより深い議論ができるが、考察において指導教員の言われたことをそのまま話しているように見えるものが散見された。指導教員と議論を重ねて自分の考えも入れるようにしていくことが望まれる。
審査員B
飛びぬけてよいという講演はなく、指導教官の指導のもとうまくまとめたという印象のものが多かった。それも大事なことだが、自分のアイデアで他の人が行わないような観測・解析を行い、周囲を驚かせるような成果を出すことにも挑戦してほしい。
審査員C
口頭発表、ポスター発表のいずれも、時間をかけて準備されたものが多く、そつなく発表がなされていたように感じた。しかし質疑応答の場面になると、途端に言葉に詰まってしまい、研究内容の理解という面では不十分な印象を受けた。自分が行った研究内容だけでなく、関連する事項や周辺分野への理解を深めて行くことが学生賞につながったと感じた。また、関連する発表についても聴講し、学会での自分の研究の立ち位置や意義などについて理解しておくことも、研究を進めていく上で役に立つと思う。
審査員D
全体の印象としては、特筆すべきよい発表も逆に悪い発表もない印象。それなりにまとまってはいるがまだ本人は理解不足と思われる発表が多い一方、説明の仕方が下手でせっかくのいい内容が伝わっていないという発表もあった。内容・表現方法両面での今後の成長を目指して各自努力していただきたい。
審査員E
良くまとまった研究が多く見られた。結果についての考察は良くできていたと思われるので、その研究の背景(その研究がなぜ進められてきたのか?研究手法が発展してきた経緯など)、周辺分野の研究との関連性など、幅広い視野で自分の研究の位置づけや意義をとらえてほしい。アブストラクトの書き方に工夫がほしいものがいくつか見られた。
審査員F
得られた成果をうまくまとめた発表が多く説明もわかりやすいものが多かった一方で、全体的にレベルが平均化されているとの印象を受けた。今後の発展が期待できる研究も多々あるので、より優れた成果を目指して挑戦を続けて欲しい。
審査員G
修士課程の研究では、積極的に取り組むタイプと「与えられた課題を教えられたとおりにこなす」タイプとの二極化があるように感じた。博士課程になるとこんどは、計算や考察が詳細化するあまり、大きな絵姿をとらえにくくなることが少なくないように思う。自分が取り組んでいる眼前のテーマがつながるはずの広い世界を意識し理解しつつ、これからの研究を進めてほしいと思う。
●メダル受賞者への講評
竹生 大輝
「信楽MU観測所の長期大気光撮像観測に基づく中間圏・熱圏大気波動の水平位相速度スペクトルの変動」(R005-19)
信楽で実施されてきた557.7nm(高度90-100km)と630.0nm(高度200-300km)の大気光観測のデータに対して、近年提案された水平位相速度空間におけるスペクトル解析を適用し、それぞれの高度領域における重力波の季節ごとの水平伝播特性を調べた研究。位相速度の速いものと遅いもので季節・経年変化が異なることを見出し、その原因を高度別に論じている。大量のデータを新しい手法でうまく解析し、議論の内容も論理的で評価できる。 今後は同様の解析をOMTI等のネットワーク観測に拡張し、大気光を変調させる普遍的なメカニズムであるかどうかを示してほしい。
桑原 正輝
「Evaluation of hydrogen absorption cells for observation of the planetary coronas」(R009-21)
将来のミッション向けに、開発を進めている水素吸収セルの開発状況報告が内容である。火星探査衛星「のぞみ」に搭載された水素吸収セルは開発からすでに20年が経過しており、新しい材質、新たな構成での開発が必要となっている。水素吸収セルは、フィラメントのON/OFFによってライマンアルファのセルの透過を制御する装置であり、発表はこの水素吸収セルの意義や将来への応用などをわかりすく説明するとともに、開発を行っている水素吸収セルの特性取得試験の結果を示した。今後、更に最適化を進めることで将来の惑星探査に広く使用できる高性能の水素吸収セルの完成が期待できる優れた研究成果である。
鎌田 有紘
「Simulation of the ancient Martian climate with denser pure CO2 atmosphere using a general circulation model, DRAMATIC MGCM」(R009-P14)
初期火星にあったと思われている「湿潤温暖な環境」は、しかしいまだにモデルではうまく再現できないパラドックスであり、本研究はMGCMを用いてその問題に挑戦している。問題の把握、先行研究の理解が十分である様子が、質疑応答を通じてうかがえた。計算パラメータの設定などもよく考えられている。きちんと準備されたことを背景に、ポスター説明も自信をもって堂々としていた点に好感を覚えた。大変に難しい課題だが、次のステップもきちんと見えているようなので、この気持ちを継続して取り組み続けてほしいと思う。
●優秀発表者への講評
木暮 優
「2011-2015昭和基地レイリー/ラマンライダーを用いた重力波の年変動の研究」(R005-P05)
南極域では、特に中間圏以高での大気観測例が少ない。レイリー/ラマンライダー観測による気温データから大気重力波による擾乱成分(月平均ポテンシャルエネルギー)を抽出し、南極昭和基地上空の大気重力波の活動度を示した。自分なりの問題意識を持って研究に取り組む姿勢は高く評価できる。今後、他の観測地点でのデータを用いることにより、地域的な大気重力波の活動度の違いが明らかになるものと期待される。また、重力波エネルギーが中層大気の運動や温度分布にどの様に分配されているかなど、研究の発展に期待したい。
加藤 優作
「オーロラの発生とGPS シンチレーションの関連性についての統計解析」(R005-P35)
本研究はこれまでイベントスタディでしか行われてこなかったオーロラに伴うGPSシンチレーションについて、4年間のデータを統計的に解析してその対応関係を明らかにした研究である、オーロラが発生すると位相シンチレーションが増えるが振幅シンチレーションが減る傾向やその磁気地方時依存性などを系統的に明らかにするとともに、その原因の考察をきちんと自分の言葉で説明しているところも評価できる。今後は、過去の研究と比べてどの点が新しいのか・重要なのか、を考えながら、結果をまとめていくことが期待される。
相澤 紗絵
「The spatial evolution of the mixing layer in the Kelvin-Helmholtz instability at Martian ionopause」(R009-P01)
火星におけるK-H不安定性の議論を、計算機シミュレーションで行っている。大きな密度比のある火星境界領域においてK-H不安定性がどの程度火星の大気散逸に対して寄与するのかを明らかにしようという試みである。高い密度比の非線形領域においてはまだ計算コードがうまく動いていないが、線形の範囲では密度比に依存したいくつかの傾向が明らかとなっており今後の発展が期待できる研究成果である。
武藤 圭史朗
「Venus Express/VIRTISの可視・赤外画像を用いたpolar ovalおよび極域大気の熱収支の研究」(R009-P04)
これまでに解析したVMCに加え、VIRTISの可視・赤外の多波長のデータから金星南極領域のPolar ovalの熱収支に迫ろうという意欲的な研究であるが、現段階ではまだ道半ばといったところであった。また、データ処理上問題の残っているデータも図にプロットしてあるなど未整理な部分もあったが、本人は内容に関してはよく理解しており、質疑の対応もしっかりしていたので、 今後の研究の進展に期待したい。
宍戸 美日
「ひさき衛星紫外光観測と地上可視光観測によるイオの硫黄イオントーラスの時空間変動」(R009-P17)
極端紫外分光衛星「ひさき」と地上観測(ハレアカラT60望遠鏡)のデータを組合わせた解析により、木星イオトーラスにおける硫黄イオン(異なる電離度)の振舞いを調べている。日本の衛星が取得した世界に誇るべきデータを丁寧に扱っており、またモデル計算の中身もよく理解していることが見受けられた。説明の態度にも熱意が感じられた。
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