2016年度 第3分野講評 |
審査員:近藤光志 (愛媛大学), 中野慎也 (統計数理研究所), 、松本洋介 (千葉大学), 家田章正 (名古屋大学), 加藤雄人 (東北大学), 門倉昭 (極地研究所), 長谷川洋 (宇宙科学研究所), 細川敬祐 (電気通信大学) |
●総評
研究に対する意欲は感じられるものの、発表中に提示された材料と全体の結論との関係が不明瞭で分かりにくく感じられる発表が意外に多いという印象を持った。まずは、結果から主張できることを客観的に検討し、論理に飛躍がないよう配慮して欲しい。また、個々の材料について、自身の研究の中での位置づけ、さらに先行研究等を踏まえた学術的な位置づけが意識されていると、聴く立場としても分かりやすい発表になったのではないかと思った。
●メダル受賞者への講評
福田 陽子
「フリッカリングオーロラの発生特性」(R006-28)
近年、地上からの高感度カメラを用いたオーロラの高速撮像が行われるようになっている。受賞者は、アラスカにおいて科学用 CMOS カメラを用いた高速撮像観測を数年にわたって行い、フリッカリングオーロラと呼ばれる 3-15 Hz の周期性を持って変動するオーロラの特性を研究している。フリッカリングオーロラ発生時の、背景オーロラの発光強度や、微細構造のフロースピードを統計的に解析し、フリッカリングオーロラの発生に必要となる条件を明らかにしている。また、酸素イオンによる EMIC 波動だけでなく、プロトンに伴う EMIC 波動に起因すると考えられる 50 Hz を超える周期性を示すフリッカリングオーロラの検出にも成功している。発表は様々な画像解析手法を多くのデータに適用した結果を報告するものであったが、内容が理解しやすく整理されており、質問に対する受け答えも的確であった。
澤田 佳大
「かぐや衛星で観測したオーロラキロメートル放射の伝搬モードの緯度分布の解析」(R006-05)
地球の極域から放射されるオーロラキロメートル放射(AKR)は、オーロラ加速域の時間変動、空間分布に関する情報を与えるため、衛星観測によって精力的に研究が行われてきた。受賞者は、かぐや衛星に搭載された波形捕捉受信機によって AKR を観測し、月の掩蔽に伴う回折によって電波強度が変わることを利用して、その伝搬モードを明らかにした。波源の緯度や地方時を仮定して行った理論計算とかぐやによる実測値を比較することで伝搬経路を同定し、右回り偏波と左回り偏波のそれぞれについて、伝搬モードの緯度分布を統計的に導出している。この手法は、月の掩蔽による効果を用いることで、波源がどちらの半球にあるかを決定しているという点において意義が大きい。また、得られた伝搬モードの特性を、電波の伝搬経路上にあるプラズマ圏の密度分布によって解釈した点も評価できる。月による AKR 電波の掩蔽の様子の模式図を示すなど、プレゼンテーションにも様々な工夫が見られ、質問への受け答えも的確であった。
池内 悠哉
「Lunar magnetic poles estimated from small isolated magnetic anomalies on the SVM map」(R011-02)
月表面の磁気異常のうち双極子磁場起源と考えられるものに基づいて、月に過去存在したと考えられる固有磁場の極を推定した研究である。推定された極のクラスタ解析を行った結果、数個の明確なクラスタに分離され、双極子磁場の仮定の妥当性、および過去に極の移動が起こったことが示唆された。第3分野の審査員の専門とは離れた内容であったが、内容、主張の説明が明快になされ、質問に対しても的確に対応しており、多様な研究者が参加する小型天体環境セッションにおいて特に優れた発表を行ったと評価した。
太田 守
「スペクトルマトリクスを用いる伝搬ベクトル推定手法の性能評価」(R006-P16)
波動の特性を理解する上で、波動の到来方向を知ることは重要な一ステップであるが、比較的周波数の高いVLF波動の波形データは衛星観測によって常時取得できるわけではなく、データの取得方法と解析方法に工夫が必要となる。受賞者は電磁波のスペクトルマトリクスを用いた解法の一つ、波動分布関数法の性能評価を疑似データを用いて行った。従来の手法と比較することによって、各手法の利点と弱点を明らかにするとともに、到来方向推定のために取得すべき最低限の観測データ量を導き出すことに成功した。大局観に欠けた学生発表が多い中で、最初に問題の全体像を概説し、その後に研究内容の詳細を解説していく発表スタイルは見事であった。また、質疑にも的確な回答をしており、研究テーマについて深く理解していることがうかがえた。今後は、自らが関わった手法を用いて実際の観測データが解析され、科学的な発見がなされることに期待したい。
●優秀発表者への講評
野村 浩司
「Investigation of ion components in the plasmasphere using plasma wave observations」(R006-11)
プラズマ圏内で観測された磁気音波のスペクトルにみられる波動特性とプラズマ波動の分散関係の比較により、クロスオーバー周波数とカットオフ周波数を同定することでイオン組成の比率とその空間分布を定量的に明らかとした。M/Q=2のイオンの存在を見出した解析結果について丁寧に示した発表は論旨が明快であり、質疑応答からも本人の研究内容に対する深い理解を感じさせた。昨年度にオーロラメダルの受賞対象となった研究課題の進展として高く評価し優秀発表者とした。
徳永 祐也
「SS-520-3号機北欧ロケット実験に向けた波形捕捉受信機(WFC)の開発」(R006-P11)
ロケット実験搭載用に開発を進める波形捕捉受信機について、アナログASIC技術を用いた開発と性能評価、放射線耐性に関する試験結果を報告する発表である。開発した装置が所期の性能を持つことを示す発表は単調になりがちであるが、それぞれの図表について試験の意図や回路構成、今後の課題などについて一つ一つ明快に述べる発表は聴衆を惹きつけるものがあった。共同研究者らによる大きな支援も推察されたが、質疑では本人の研究課題に対する熱意と意欲を強く感じ、主体的に研究活動に取り組む様子が見てとれた。観測ロケット搭載機器開発への貢献と、将来の科学衛星への搭載に向けた今後の研究の進展に期待する。
星 康人
「昼側低緯度磁気圏境界面における磁気リコネクションラインの位置の推定」(R006-P35)
本研究は、THEMIS衛星観測を用いて、昼側磁気リコネクション領域の位置を推定している。客観的な統計解析により、リコネクションは冬半球に位置することが、明瞭に示されている。また、この統計結果を用いて、春秋に比べて夏冬は磁気圏へのエネルギー流入量が少ないことが議論されており、本研究は磁気圏・電離圏におけるエネルギー輸送の解明へと発展すると期待される。
木村 洋太
「Sun-aligned arc の運動メカニズム再考: 3 台の全天カメラと短波レーダーによる観測」(R006-P49)
高緯度域の3点における全天単色イメージャにより観測された、極冠域を昼間側から夜側に横断するSun-aligned arc(SAA)の朝夕方向の動きと惑星間空間磁場(IMF)3成分変化との関係についての解析を行い、その動きが、従来から考えられているIMF-By成分の変化だけでは説明出来ず、IMF-Bx成分の変化と関係していることを示し、その結果が、北向きIMFと昼間側地球磁場の片側半球でのリコネクションによる磁気フラックスの輸送によって説明出来る、という考察を行っている。研究の背景、目的、観測内容と結果、考察まで、分かりやすく記述・表示されていて、説明も分かりやすく、また研究に対する真摯な姿勢も感じられ、今後の研究の発展が期待出来る研究発表であった。
北原 理弘
「ホイッスラーモード・コーラス放射による低ピッチ角電子の非線形ピッチ角散乱」(R008-11)
低ピッチ角電子のホイッスラーモード・コーラス放射による散乱について理論的に評価し、数値計算によりその効果を確かめている。非常によくまとまった研究であり、発表もわかりやすい優れた研究発表であった。
長谷川 稜
「原始惑星系円盤におけるダスト沈殿層でのストリーミング不安定性によるダスト濃集過程」(R008-16)
受賞者の研究は、原始惑星系円盤での微惑星形成に重要なダストの集積に関するものである。審査員は必ずしも当該分野に通じているわけではないが、導入部分がわかりやすく整理されており、研究の立ち位置が理解できた。手法としてプラズマ分野で使われるハイブリッド計算法が使われていたのだが、想像した内容とは違ったダスト・ガス相互作用の計算方法に不意を突かれ、その後の話の展開に惹きつけられるものがあった。シミュレーション結果についても、パラメタ空間での結果の違いを工夫してプレゼンテーションされており、興味持って最後まで聞くことができた。一方、重力を入れ、相互作用を強めるとダスト濃集が急激に高まるメカニズムをクリアにするためには、さらなる研究が必要に思われる。その手法の独自性、プレゼンテーションレベルの高さ、また引き続き本研究を進めていくことを奨励したいと考え、優秀賞の授与がふさわしいと考えた。
早川 尚志
「文献史料による18世紀における極端磁気嵐現象についての一試論」(R010-05)
キャリントン・イべント以前の18世紀におきた極端磁気嵐現象について、科学的観測の欠損を補うため東アジア各地で記録された日記などの歴史文献から、1770年および1728年の巨大磁気嵐の可能性を示した。歴史文献の内容から、両巨大磁気嵐の太陽黒点の大きさや地球磁気圏におけるDst値についても評価している。発表も非常にわかりやすく、新しい切り口での太陽活動・地磁気現象の研究として今後さらなる発展が期待される研究発表であった。
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