●総評
学生発表賞への応募があった口頭8件とポスター7件(計15件)について審査を行った。地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは計7件の発表があり、古地磁気・岩石磁気に関する発表が4件、ダイナモシミュレーションに関する発表が3件であった。古地磁気・岩石磁気に関しては、富士火山の火成岩の年代決定に関する研究、白亜紀花崗岩の鉱物単結晶による古地磁気強度研究、火山灰粒子の岩石磁気研究、走査型SQUID 顕微鏡を用いた鍾乳石の微細古地磁気研究であった。ダイナモシミュレーションに関しては、内核半径の異なる地磁気ダイナモ、ガニメデを想定した組成対流によるキネマティックダイナモ、地磁気ジャークの2階微分計算手法の改良に関する研究発表があった。地球・惑星内部電磁気学セッションでは計8件の発表があり、MT法に関する発表が4件、直流電流を用いた発表が2件、地磁気観測データを用いた発表が2件、あった。MT法に関しては、周波数領域独立成分分析に基づくノイズ除去手法、異方性層構造におけるMT応答関数の周波数展開、紀伊半島の3次元比抵抗構造解析、雲仙地溝帯の2次元比抵抗構造解析の発表があった。直流電流を用いた研究では、岩石試料表面の電位イメージング手法の開発、海底DC探査データにABICを適用したクラスター分類による2次元比抵抗構造解析の発表があった。地磁気観測データを用いた研究では、中国大陸の磁場データを用いた深部比抵抗構造推定、ニューラルネットワークによる地磁気観測データの推定の発表があった。
いずれの研究発表も、オリジナリティあふれる研究成果の発表であり、今後の発展が期待される。研究に当たっては自らが取り組んでいる手法の一次的解釈にとどまらず、その前提条件となる研究分野、そこから発展する研究分野についても幅広く文献調査と考察を進めることを期待したい。また、高度なデータ解析・統計学的手法などを駆使した研究発表も見受けられたが、手法の名称と概略を示すのみならず、その手法の本質となる部分が適切に聞き手に伝わるよう、今後とも発表能力の改善に向けて努力を続けていただきたい。短い時間で複雑な概念を理解してもらうためには、ある程度の単純化は必要であるが、発表内容から本質が抜け落ちてしまわないように注意が必要である。質問を避けるために、細部を見せない、などということは本末転倒であるので、この点は留意されるべきである。当学会の学問分野の進歩のためには、適切な質問を呼び込み活発な議論を生むことこそが目指すべきところである。昨今の学問の進歩により、学生に求められる研究能力も発表能力も増加しており、その負担も大きいであろうが、若者であるからこそ柔軟に対応できる部分でもあるので、今後の学生諸兄のさらなる奮闘に期待したい。特に優れた研究発表が数件あったが、このうちメダル受賞者と優秀発表者それぞれ1名を選考したので、講評を下記に記す。
●メダル受賞者への講評
鈴木 健士
「直流電流により生じる岩石試料表面の電位イメージング」(R003-01)
本研究は、岩石圧縮実験に使用されるような比較的大型岩石試料の高精度比抵抗イメージングを実施し、試料内部の亀裂や間隙流体の状態(別途、X線CTスキャン等で得られる情報)と比抵抗値との関係を実験的に明らかにすることを目的としている。本発表では、そのために必要となる3次元比抵抗計測のための実験装置の開発状況が報告された。昨年の学会発表時点での課題点を改善し、安定した数十nA程度の印加電流の供給を可能とし、漏洩電流対策により再現性のある計測が可能になったことが紹介された。さらに、円柱状試料の表面における測定電位分布とシミュレーション計算との不一致について、電極座標の補正により改善できることが示された。地震発生領域・活断層・火山地帯における地下流体の存在と地震・火山現象との関連を明らかにするための野外観測データの解析では、得られた比抵抗構造の解釈に経験式を用いることもあるが、適用条件の妥当性など課題も多い。本研究は、実験室レベルで得られる詳細な岩石内部の亀裂・間隙流体の状態と高分解能な比抵抗構造の関係を明らかにすることを目指したものであり、野外観測の解析結果を解釈するうえで重要な知見を与えるものとして、独創的かつ創造的であった。一方で、実験と結果の解釈については、研究背景や先行研究との相違などを踏まえて、さらに具体的に行うことが、将来的な実用性の観点から期待される。また、より多くの人に本研究の独創性・創造性・重要性を理解してもらうためにも必要と考える。いずれにせよ、発表や質疑を通して、主体的に実験装置や解析ツールの開発を着実に進めていることが分かり、研究の将来性が大いに期待できることから、学生発表賞にふさわしいと判断した。
●優秀発表者への講評
馬場 章
「富士火山,古地磁気学的手法を用いたAD450〜800の噴火推移の検討」(R004-02)
窯跡から得られた考古地磁気方位のデータベースの整備が進められているが、火山噴出物の年代を求めるために用いられた例は極めて少ない。富士火山の火山噴出物の年代は火山灰層序、放射性炭素年代と古文書から求められてきたが互いに矛盾することも多かった。発表者は富士火山の地質に詳しい強みを生かし、自身で同層準とされる噴出物を複数のサイトで採取し、局所的な磁気異常の影響を除くためサンコンパスによる方位付けを行う工夫を行っている。富士火山の古地磁気方位が考古地磁気永年変化と調和的であることを示したうえで、同層準とされるサイトが異なる年代に噴出したユニットに分かれたり、異なる名称を与えられた溶岩流が同時期に噴出していたりするケースがあることを明らかにした。スライドによる説明は落ち着いたトーンで行われ、質疑に対しても的確な回答で応じていた。この研究を継続すれば富士火山の活動史の大きな書き替えにつながる可能性があり、他の火山にも適用可能な考古地磁気年代推定の標準的な研究となることが期待できる、優秀な研究発表である。
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