SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2017年度 第2分野講評
審査員:
    今村 剛(東京大学), 小川 泰信(国立極地研究所), 坂野井 健(東北大学), 垰 千尋(情報通信研究機構),津田 卓雄(電気通信大学),
    中田 裕之(千葉大学),西谷 望(名古屋大学), 前澤 裕之(大阪府立大学), 三好 勉信(九州大学)

●総評
審査員A

    全体的に、観測ではひさき、あかつきやALMAなどの最新のデータ解析からターゲットの様々な時間・空間スケールの変動現象が報告されていた。また、シミュレーションでは大気モデルやスパース解析などで、温度や組成等の分布を導出し、ユニークな着眼点に基づき複雑な現象の理解について成果が見られた。観測・シミュレーションともに、得られた結果を深く考察出来ている点がとくに高く評価される。これらの成果は、飛翔体や地上からのリモートセンシングデータと、シミュレーションによる定量解析の融合により先端的な研究を加速する点において、当分野の発展の観点からも意義深い。
審査員B
    ひさき、あかつき、MAVENなど、この分野の宇宙機による新たな観測データを用いた科学的価値の高い発表が多かった。数値モデリングによる研究も例年以上に充実していた印象がある。最終日の聴衆がやや少なかったことが気になった。
審査員C
    オーラル発表・ポスター発表とも分かりやすい説明が心がけられていると感じました。聴衆者との議論を通して研究を深めようとする姿勢が伺える発表もありました。研究への思い入れは、発表の話し方や質疑応答にもあらわれるように思います。うまく伝えられなかった・応えられなかったという項目は、理解を深め、さらによいものにする大事な気づきです。今回の気づきが今後の発表の場で活かされることを、皆さんの研究が深まることを、期待します。
審査員D
    全体期的に良い発表が目立ったと思う。十分な解析を行い、よく準備された発表が多かったと思う。解析で得られた結果についても、わかりやすく説明しようという努力の跡がみられる発表が多かった。多くの発表で、解析結果の考察も十分になされていた。ただ、独創的な研究や非常によく考察された発表は少なかったと思う。今後、さらに良い研究を目指して取り組んでほしい。
審査員E
    全体的にレベルは高く、良い研究が数多く見られた。どちらかというと優等生的な研究発表が多く、よく勉強・研究して準備されていると感じる一方でユニークで挑戦的な取組みは少ないように感じた。教育的観点からすると、学生の研究初期段階からいきなり挑戦的な取組みをするのではなく、まずはよく勉強・研究することが重要であることが理解できるが、ある程度研究に熟れてきた段階において、更にワンステップ上の研究を目指すためにより挑戦的な取組みも進めて欲しい。
審査員F
    多くの発表が時間をかけて準備に取り組んでいる印象を受けた。特に、得られた多くの研究結果をできる限りまとめて説明している発表者が多かった。ただし、研究目的としている内容以外の結果を多く示している発表や考察が説明不足である発表も幾つか見受けられた。
審査員G
    プレゼンテーションについてはほとんどが十分に練習されている印象があるが、レベル的なものについては、あまり飛び抜けたものが感じられなかった。かなり難しいかとは思うが、指導教員に与えられたテーマをそのままこなすだけでなく、自分なりの解釈を加え、教員の考えを大きく超えるような成果を出すような発表を期待したい。
審査員H
    口頭・ポスターでは、全般的に発表・質問において説明が丁寧であり、皆モチベ―ションも高く好印象であった。ただし口頭ではtalkの時間制限からプレゼン資料内のグラフの説明の仕方が若干雑なケースが散見された。少なくとも鍵となる図は是非丁寧に説明して頂きたいところである。ポスターでは、背景・解析・結果については詳しい説明を聞くことができたが、特に若い学生さんについては、解釈と今後のアプローチの説明が杜撰なケースが多かった。研究をより一層深めるため、指導教員任せではなく、自身でじっくりと解釈に時間をかけ、次の一手を論理的に見据えながら多角的に果敢に攻めていって頂きたい。
審査員I
    若い学生の発表が多く、またそれぞれが一生懸命に準備をしてきた跡がうかがえた。しかしながら、こちらの素朴な疑問に対して答えることができないというケースも多々見られた。指導教員の言うことを鵜呑みにせず、ぜひ自分でも問題意識を持ち続けて研究に取り組んでいってほしい。

●メダル受賞者への講評

遠藤 友
「オーロラスペクトログラフによる上部電離圏N2+の共鳴散乱光観測」(R005-P04)

     スバールバルの長期地上分光観測データを用いて極冠域の電離圏イオン上昇流の成因を調査した研究。427.8 nm共鳴散乱光を窒素分子イオン密度の指標とする一方でその高度推定には比較的発光高度がよく知られている酸素原子 (630.0 nm) を活用するなど、スペクトログラフによる観測データの特性をよく把握した上でデータ解析に独自の工夫が施されている。また、EISCATデータを併用することで、より多角的な視点から考察が深められている。プレゼンはよくまとめられ、質疑応答も的確であったことから、自分自身で考え主体的に研究を進めている様子がうかがえる。今回の研究成果として、極冠域のイオン上昇流の成因について幾つかの示唆が得られたが、それらをどのように検証するのか、あるいはオーロラ帯のデータも活用した比較研究など、今後の研究の展開にも期待する。
香川 亜希子
「南極域大気光イメージャとSwarm衛星を用いた南極域極冠パッチの統計的性質に関する研究」(R005-P05)
     地上から観測される極冠パッチの季節・世界時依存性、特に発生確率の南北非対称性という多くの人が興味を持つテーマについて、磁気極の南北非対称性に基づくシンプルなモデルを活用して観測結果が説明できることをクリアに示していた。質疑応答に対しても自分で考えて適切に答えており、今後の研究の進展が期待できる。
河合 佑太
「全球海惑星気候の太陽定数依存性の研究: 海洋大循環の影響の考察」(R009-12)
     海洋惑星の海洋大循環の影響を考慮したモデルを初期から構築した。特に、部分凍結解含め様々なパラメータを緻密に検討し、またモデルの妥当性を丁寧に検証しており、今後の展開・理解が期待される。複雑な仕事であるが、非常にわかり易くプレゼンされ、自身で丁寧にモデルを改良しているだけあって、結果に含まれる数多くのサイエンスの理解が十分深いものと感じた。系外惑星のとくに海惑星の大気循環問題は新たな分野で、観測と比較していくためにもモデル研究の意義は大きい。一枚のスライドで多くの情報を説明しようとする傾向があるので、情報を整理して模式図などをあわせつつ、別スライドに分けて説明するほうがより理解しやすいと思われる。
今井 正尭
「Measuring the velocity deviation between the movement of planetary-scale and mesoscale cloud features using UVI/AKATSUKI images」(R009-24)
     名寄市天文台のPrika望遠鏡の運用を切り盛りしながら、地上望遠鏡の強みを最大限に活かし、長期に渡って金星の同じローカルタイムを連続して捉え続け、膨大な量のUVイメージを独自に観測し取得した。この結果、惑星スケールのY字構造/スーパーローテションの回転周期がおよそ3.5日と5日付近で切り替わる様子・タイミングを明瞭に捉えることに成功した。周期解析も丁寧に行われている。なみなみならぬ地道な努力と情熱の賜物であり、極めてオリジナリティの高い研究である。あかつき衛星などの他測器/他波長観測との緻密な系統比較により、金星の惑星スケールのダイナミクスの駆動メカニズムを紐解く上で重要な知見を与えるものと期待される。
●優秀発表者への講評

長南 光倫
「GPS-TECとHFドップラーを用いた火山噴火に伴う電離圏変動の解析」(R005-05)

     火山噴火に伴う電離圏変動についてGPS-TECとHFドップラーを用いて研究を行っていた。2004年9月の浅間山噴火に注目し、噴火直後の電離圏変動について、明瞭な結果が示されていた。3〜5 mHzと7〜16 mHzの2つの帯域について変動が得られており、メカニズムについての考察もしっかりと行われていた。自分で工夫して解析を進めていると感じられた。発表の準備も十分に行われているようで、非常にわかりやすかった。また、考察も十分練られたもので、質疑応答も適切であった。電離圏変動が一部の領域に局在する点について、考察を深めていけばさらに良い研究になると思う。今後の研究の発展に期待したい。
杉山 俊樹
「Temporal and spatial variations of storm-time ionospheric irregularities on the basis of GPS total electron content data analysis」(R005-21)
     大規模な磁気嵐期間における中・高緯度の電離圏不規則構造の特徴を詳細に調べた。先行研究で用いられていた1時間程度の時間分解能を5分間に向上させた電離圏全電子数(TEC)データ解析を行うことにより、Storm-Enhanced Density(SED)と電離圏不規則構造の関係及びその伝搬の特徴を明確に示した。研究の背景から目的、結果、考察までの流れを分かりやすくまとめており、質問にも的確に答えていた。電離圏不規則構造の発生領域に関する議論が可能なイベントについて、同様に詳細解析を進める等の今後の発展に期待したい。
Abadi Prayitno
「Relation between the sequential occurrence of plasma bubble and the pre-reversal enhancement of eastward electric field」(R005-P15)
     赤道大気レーダー、イオノゾンデデータを用い、赤道プラズマバブルが連続的に発生した場合の東西方向の間隔について、Pre-reversal Enhancement (PRE)との相関を調べた研究である。間隔の統計結果が、過去の研究結果とほぼ同様であることを示した後、PREが小さな場合は比較的短い間隔のバブルを励起し、PREが大きな場合は、より長いスケールのバブルも励起可能になり、様々なスケールのバブル群の生成に寄与するという、興味深い結果を示している。プレゼンテーションや質疑応答については、十分に対応していたと思われる。研究結果の解釈については、提案されたアイデアも候補ではあると思われるが、本当にそのアイデアにより物理的に現象が説明できるのか、さらなる検討の必要性についても感じられた。今後の研究では、提案したメカニズムの物理的な解釈についても発展させてもらいたい。
北原 岳彦
「あかつき金星紫外画像に見られる地形固定構造」(R009-25)
     あかつき衛星のUVI画像を解析し、LIRで捉えられる重力波起因の弓状構造は、二酸化硫黄吸収帯の283 nmでも見えるのに対し、未同定物質吸収帯の365 nmでは不明瞭であることや、二酸化硫黄のスケールハイトは雲のそれよりも大きく、逆に未同定物質のスケールハイトは小さい可能性があること、二酸化硫黄のカラム量から背景大気の密度振幅を導出し、大気重力波に伴う密度の変動は10%程度あること、など実に多くの物理情報を定量的に導きだしており、非常に精力的な研究である。複雑な計算プロセスに対して非常に緻密に解析をし、プレゼンの説明も深い理解・考察に裏打ちされ、分かりやすく丁寧であった。是非、本研究を昇華させ、スーパーローテションや重力波、未同定吸収物質や雲の構造の解明に繋げて頂きたい。
高見 康介
「次世代赤外ヘテロダイン分光器MILAHIに導入する中間赤外ファイバーの評価と金星中間圏風速・温度場のリトリーバル手法の確立」(R009-29)
     赤外ヘテロダイン分光装置の開発とその金星観測への応用についての発表である。測定原理を深く理解した上で困難な装置開発に着実に取り組んでいること、装置の性能と期待される計測精度との対応関係をよく理解していることが、発表と質疑応答からうかがわれた。発表スライドもよく練られており、非常に専門的な技術開発をわかりやすく使える工夫がなされていた。計測精度から期待される科学成果についてもう少し説明があるとなお良かった。
韓 秀萬
「A study on long-term variation of Jupitar’s synchrotron radiation associated with solar wind」(R009-P24)
     これまで定量的に説明されていなかった、木星放射線帯からのシンクロトロン放射の長期変動が太陽風動圧に2年遅れて変動していることについて、最近のひさき宇宙望遠鏡の成果である太陽風動圧変動が内部磁気圏に電場を印加するという新しい知見を応用し、観測される変動を説明しうることを定量的に提示した。なぜ変動が見られるかについて、モデル計算実験を通して、丁寧に説明されていた。

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