2017年度 第3分野講評 |
審査員:天野 孝伸(東京大学), 家田 章正(名古屋大学), 臼井 英之(神戸大学),
小原 隆博(東北大学),
門倉 昭(国立極地研究所),北村 健太郎(徳山工業高等専門学校), 細川 敬祐(電気通信大学), 堀 智昭(名古屋大学)
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●総評
口頭25件とポスター54件(計79件)の発表について審査を行った。今年度は、昨年度より8件増加し、同様なテーマ・手法の発表が多いことが特徴であった。審査会では、研究の独自性、発表者本人の寄与、口頭発表とポスター発表の違い、突出した口頭発表を期待したいこと、等が話し合われ、評価は僅差であった。総じて、研究をより主体的に推進することを推奨したい。特に、研究課題の意味・位置づけ・重要性を自ら考察することが肝要である。研究発表では、課題設定・本論・結論の関係を明瞭に伝えることが必要である。この関係が聴衆に伝わらなかった場合、関連した、時に誤解を含む、質問がなされることが多い。この様な質問は発表を補足する好機であることに留意したい。本論やプレゼンの完成度が高い発表が多数あるなかで、上記の観点で評価が分かれる結果となった。
●メダル受賞者への講評
頭師 孝拓
「アナログ・デジタル混載 ASIC によるワンチップ新型プラズマ波動スペクトル受信器の開発」(R006-06)
宇宙空間においてプラズマ波動を計測するためのプラズマ波動計測器は、これまでに様々な人工衛星に搭載されており、近年の波動粒子相互作用研究の進展に伴い重要性を増してきている。受賞者は、従来の波形補足型とスペクトル型の計測手法を相補的に利用することで、広いダイナミックレンジにおいて高い時間分解能と周波数分解能を両立させる方式を考案し、その回路の大型化を回避するために、ASIC上でアナログ・デジタル回路の混在実装までを実現した。発表では、従来の技術に対する新たな取り組みとそのために解決すべき課題がよく整理されており、研究の新規性と意義についても的確に質疑応答されていた。機器開発に関する今後の研究の発展も期待されオーロラメダルの受賞にふさわしい発表であったと評価した。
HSIEH Yikai
「Nonlinear damping of oblique whistler mode waves through Landau resonance」(R006-P06)
Nonlinear interaction between electrons and the whistler waves is currently one of the hot research topics in our community. The authors revealed that the whistler damping occurs at the half cyclotron frequency of electrons because of strong electron acceleration through the Landau resonance with the obliquely propagating whistler waves. The reason for the strong wave damping is that the resonance velocity becomes very close to the parallel group velocity of the whistler wave at the half cyclotron frequency of electrons and the duration time for the nonlinear interaction becomes maximum. In the present paper, the authors carefully examined the above-mentioned mechanism in terms of J · E by performing test particle simulations. Although the research topic, which deals with nonlinear interaction, sounds difficult for the general audience to understand, the author gave a clear and convincing presentation. Considering the research results associated with the present paper were recently published in JGR, we can expect the author will be able to make much more progress on the research on the nonlinear interaction between electrons and the whistler waves.
金田 和鷹
「伝搬性ファストソーセージモード波動により変調された太陽電波ゼブラパターンの観測」(R007-P02)
発表者は、太陽IV 型バースト中に見られる、狭帯域放射のスペクトル構造が縞模様状に並んだゼブラパターンについて、周波数間隔(Δ f)と、その時間変動について調べた。その結果、i) 放射周波数が高くなるにつれ、Δ f は大きくなっていく事、ii) Δ f の不均一構造が高周波数から低周波数側へドリフトしている事、iii) ドリフト構造が準周期的に繰り返し出現している事が判明した。発表者は、これらの現象が、double plasma resonance (DPR) モデルによって解釈できる事、そして、fast sausage mode で伝搬する磁気流体波動が存在する事で、準周期的変動が解釈できるとした。この研究は、太陽コロナ大気中で生起しているプラズマ不安定現象を、プラズマ物理の観点から究明した画期的な新しい研究であり、オーロラメダル受賞に値する。
香月 のどか
「ILE無衝突衝撃波実験における協同トムソン散乱計測のための数値実験」(R008-10)
高強度レーザーを用いた無衝突衝撃波実験の診断手法として有用な協同トムソン散乱に関する研究である。数値実験によって期待される散乱光のスペクトルを見積もり、実験装置の配置によって得られるスペクトルが異なることを示した。今後の実験のデザインや、得られた実験結果の議論を展開するにあたって重要な研究である。また、発表者自身が明確な問題意識を持っており、理路整然とした議論展開・的確な質疑応答がなされた点についても評価した。
西田 侑治
「SMILES-2 衛星計画における惑星大気・天文観測応用」(R010-P01)
高精度かつ低雑音な検出器の開発により、電波を用いた地球や惑星大気の精密観測が近年注目を集めている。受賞者は、現在提案中のSMILES-2ミッションにおけるサブミリ・テラヘルツ(THz)波帯観測を目指して開発されている、1.8-2.0 THz帯ホーン/導波路集光型ホットエレクトロンボロメータミクサの開発に携わっており、その中で重要となるセンサー部の試作と性能評価についての発表を行った。発表では、センサーを18μmの薄さにまで加工するための試行錯誤や実験の過程が、多くの写真・図表を用いて詳細かつ明瞭に説明されており、質疑応答も具体的でわかりやすかった。また単なる実験結果紹介だけでなく、観測対象となる惑星大気の輸送モデル計算の結果についても考察が行われ、観測手段とその開発、さらに将来的に予想される観測結果に至るまでの研究の展望を深く理解していることがうかがえ、また研究課題に熱意を持って主体的に取り組んでいる様子が見てとれた。
●優秀発表者への講評
久保田 結子
「Time evolution of radiation belt electrons resonating with chorus and EMIC emissions」(R006-05)
The speaker studied electron accelerations using a test particle simulation with background VLF chorus waves. She found that electrons can be accelerated efficiently only when their initial energies were below 4 MeV because electrons with higher energies rapidly traverse the wave generation region. She further insisted that these results were consistent with an event study using satellite in-situ observations of electrons. Similar comparisons with different events are anticipated to strengthen her results so that the key controlling parameters of radiation belt formation would be revealed. It is appreciated that she delivered the presentation in English and replied reasonably to the audience questions.
横山 佳弘
「低高度衛星の磁場観測データを用いた磁気圏プラズマ空間構造の推定」(R006-34)
SWARM衛星の磁場データを用いてスペクトル解析を行い、スペクトルのベキ指数の領域依存性などを統計的に調べた研究である。統計的なベキ指数の分布がダブルピークになること、それぞれのピークが全パワーの大小に対応することを示した。得られた結果はSWARM衛星の軌道上のものであるが、単なるデータ解析にとどまらず、そこからさらに磁気圏のスペクトルを推測しようとする試みが興味深かった。結果の解釈にはまだ議論の余地が残るように思われるが、今後の発展に期待したい。
岩本 昌倫
「Intense Electromagnetic Waves Excited in Two- dimensional Relativistic Shocks」(R008-11)
相対論的衝撃波の近傍において、シンクロトロンメーザー不安定によって生成された大振幅電磁波が、wakefield加速を介して、高エネルギー電子を生成している可能性が示唆されている。ただし、これまでのシミュレーション研究では、1次元のショックに関する議論しか行われてこなかった。また、シンクロトロンメーザー不安定とWeibel不安定が競合した場合に、同じような大振幅の波が放射されるかどうかについては検討が行われてこなかった。著者は、この点に着目し、相対論的衝撃波の2次元のPICシミュレーションを実行することで、2次元の系においてもシンクロトロンメーザー不安定によってwakefield加速を引き起こすだけの振幅を持つ波が生成されること、Weibel不安定によっても同様の波が放射されることを示した。発表や質疑応答を通して、取り扱っている物理過程に関する著者の深い理解が伺われた。また、研究の意義を自分自身で考え抜き、それを踏まえて数値計算の方向性を検討していることが見て取れたことに、高い将来性を感じた。
加藤 大羽
「月起源イオンと月表面環境の相関」(R011-01)
発表者はこれまで太陽風イオンと月面との関係に着目した研究を行ってきている。今回の研究は、月探査衛星「かぐや」に搭載されたイオン観測装置の質量分析を用いて、太陽風イオンの月面衝突で生成される二次イオンの特徴について定量的な解析を行ったものであり、イオン種毎の分布マップの作成やその特徴を示した。特に、H+やHe++以外の重イオンフラックスが非磁気異常領域上空では少なくなる点に着目し、磁気異常反射により太陽風イオンの月面衝突フラックスが減少することが原因であることを定量的に示した。口頭発表はスピード、発音も明確であり説得力があったとともに、スライドも図や文字も見やすく、重要な点をポップアップさせるなど見せ方にも工夫があり、聴取者に非常にわかりやすかった。
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