SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2018年度 第1分野講評
審査員:
    金松 敏也 (海洋研究開発機構), 南 拓人 (東京大学), 望月 伸竜 (熊本大学), 山崎 健一 (京都大学)

●総評

     学生発表賞の対象となる口頭6件とポスター6件の計12件について審査を行った。地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは、さまざまな場所・試料を対象とした岩石磁気の測定と解析、走磁性細菌を用いた磁化獲得過程の実験、過去の地球・木星の衛星を想定したダイナモシミュレーションに関する発表があった。地球・惑星内部電磁気学セッションでは、火山や活断層周辺の比抵抗構造、能動的電磁探査の手法、地磁気データの処理手法に関する研究発表があった。
     いずれの発表からも、発表者らの研究への高い意欲と情熱が感じられた。また、入念に事前の発表準備をしていることが伝わってきた。各審査員がすべての研究テーマに精通しているわけではないにもかかわらず、いずれの発表も興味深く聞くことができた。発表への真摯な取り組みという点において、全ての学生発表を高く評価したい、というのが審査員全員の感想である。その中であえて一点、いくつかの発表に共通して改善すべき点を挙げるならば、発表の最初に「この研究は何を目指すのか」を明確にすることを望みたい。これだけで、聞き手の理解のしやすさは大幅に向上するはずである。
     研究の中身に関しては、いずれの研究発表からも丹念なデータ取得・シミュレーション・実験・解析等を重ねていることが伝わってきた。ひとつの課題に対して研究がほぼ完成していると感じられるものが数件あったほか、もう一歩で傑出した成果が生まれる、と期待させるものもあった。すべての研究について、今後の展開が楽しみである。その一方で、各自の研究に対する理解度や考察の深さには発表者ごとに差があった。現在の研究課題が学生自ら考案したものか指導教員から与えられたものか、あるいはプロジェクトの一部として取り組んでいるものかといった違いはあるだろうが、いずれの場合でも、研究の背景や手法、結果の問題点などを深く理解しようと努め続けることが、研究成果をより輝かせることにつながるはずである。一層の研鑽を期待したい。
     今回は、特に優れた研究発表としてオーロラメダルを1件、それに準じる優秀発表を2件選んだが、これらと甲乙つけがたい優れた研究発表が他にもあり、その中のいずれを選ぶかは難しい判断であった。受賞者はこれに満足することなく、また惜しくも選に漏れた諸氏も自信をもって、各々の研究をさらに進めていただきたい。

●メダル受賞者への講評

政岡 浩平
「磁性細菌 Magnetospirillum magnetotacticum MS-1 が獲得する残留磁化とその性質のさらなる検討」(R004-P13)

     海洋堆積物の残留磁化は、地球科学において広く利用されている。しかし、その残留磁化の獲得プロセスはいまだに解明されていない。本研究では、磁性細菌起源マグネタイトの残留磁化の獲得プロセスを明らかにすべく、磁性細菌を用いた模擬実験を行っている。この模擬実験には、岩石磁気学の実験技術のみならず、磁性細菌の培養や細胞数の調整など生物学の実験技術が必要であり、それらを習得した上で系統的な実験を行っている。再実験を行うことでデータの信頼性を確認している点も素晴らしい。本発表は、磁性細菌起源マグネタイト試料の残留磁化強度は外部磁場強度のランジュバン関数で近似できることを指摘した。さらに、模擬実験後に実施した非履歴性残留磁化・等温残留磁化の着磁・消磁実験により、マグネタイト粒子配向の強さ・方位を定量的に把握した。次の実験のアイデアも適切であり、着実な進展を期待させるものだった。今後の研究発表の際には、この基礎実験の独自性・優位性を強調しつつ、研究の意義や新しい知見についての説明をより力強いものにするとよいだろう。本分野の根源的な問題を紐解く大きなインパクトを予感させた研究成果であり、本発表は学生発表賞に相応しいと判断した。
●優秀発表者への講評

Triahadini Agnis
「Magnetotelluric transect of the Unzen graben and its correlation with seismic profile」(R003-03)

     本研究は、MT観測データを用いて推定した雲仙地溝帯の三次元比抵抗構造を、他の地球物理観測によって得られた地下構造の特徴、および、地表面での地質的・地形的特徴と丁寧に比較し、比抵抗構造から説明される雲仙地溝帯の地下構造の特徴づけを詳細に行った研究である。得られた比抵抗構造からは、地下に伸びる断層位置の推定に加え、マグマ起源の揮発性成分が深部圧力源から低比抵抗領域を通じて、千々石断層に沿って供給されるという解釈がなされた。また、冷え固まったダイク状の火道が、高比抵抗領域として現れているとの解釈が紹介された。発表は、 論旨明快で理解しやすく、説明に説得力があった。 質疑応答からも、既存の研究をよく理解し、比較検討できていることが窺える優秀な発表であった。今後は、低比抵抗領域と高比抵抗領域の議論において、定量的な議論などが、さらに深められることを期待する。
馬場 章
「古地磁気学的手法を用いた富士火山、鷹丸尾火砕流堆積物の噴火推移の解明」(R004-P06)
     富士山の溶岩流の規模や様式、噴出年代を明らかにすることは、火山学的に重要であるとともに、防災対策上の評価のため貴重な情報の蓄積へと繋がる。本研究は、富士山麓の調査で新たに発見した“鷹丸尾火砕流堆積物”に、古地磁気・岩石磁気手法を適応し、噴出年代と流動様式を示すことに成功している。磁化測定により鷹丸尾火砕流堆積物の古地磁気方位に2つのグループを見出し、これは2回の噴出に相当するとした。この火砕流堆積物に含まれる炭化木から放射性炭素年代を得たが、古地磁気方位を既存の永年変化曲線と対比することで、より詳細な年代を示すことができた。火砕流の熱残留磁化は、流動中の高温成分と、流動停止してからの低温成分を含むことを示し、流動様式推定のためのデータ提供が可能であることを示した。そして“鷹丸尾火砕流堆積物”の年代と、他の溶岩流の古地磁気方位から求めた年代と合わせて考察することで、近隣の一連の噴火現象を詳しく推定した。本研究のポスター説明から丹念に仕事を進めてきたことがうかがわれ、また、これまでに蓄積したデータを元に議論が進められたため充実した研究であると感じた。そのため優秀な研究発表と判断した。さらに同様な手法でデータを蓄積させ、研究を発展させる事も期待する。

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