SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2018年度 第2分野講評
審査員:
    斉藤 昭則 (京都大学, R005代表), 新堀 淳樹 (名古屋大学, S001代表), 田口 真 (立教大学, R009代表), 土屋 史紀 (東北大学, R009代表), 横山 竜宏 (京都大学, R005代表)
    阿部 琢己 (宇宙科学研究所), 石坂 圭吾 (富山県立大学), 鍵谷 将人 (東北大学), 坂野井 健 (東北大学), 佐川 英夫 (京都産業大学), 佐藤 隆雄 (北海道情報大学), 田所 裕康 (武蔵野大学), 津川 卓也 (情報通信研究機構), 津田 卓雄 (電気通信大学), 冨川 喜弘 (国立極地研究所), 西野 真木 (名古屋大学), 野口 克行 (奈良女子大学), 水野 亮 (名古屋大学), 山崎 敦 (宇宙科学研究所), 吉岡 和夫 (東京大学)

●総評

    ○セッションR005
       口頭発表、ポスター発表ともに十分に準備された発表が多かった。研究が進展の途中段階のために、オーロラメダルや優秀発表賞に該当しない発表もあるが、継続して研究を進めていただきたい。指導教員から期待された結果を出すのではなく、自分なりのアイデアを取り入れながら進めることが望ましい。
    ○セッションR009
       最新の観測データ・モデリングを基に研究が進められており、全体的にレベルの高い審査になりました。読み手のことを考えて作られた発表資料が多く、しっかりとプレゼンテーションの準備をされている様子がうかがえました。修士・博士課程の最終学年の発表は、結果がよくまとめられて分かりやすい発表となっていました。その他の発表も今後の研究の進捗が楽しみなものが多数見られました。
       一方、審査員からは、この分野の大きな問題意識や研究の背景を、より意識して研究を進めることを望む意見が寄せられました。以下に列挙しますので、今後の研究の進め方、発表準備の参考としてください。
      • 自身の研究が、対象分野における大きな問題意識・解明すべき課題の中でどの位置にあるのか考えながら研究を進めたり発表を構成すると、より良くなる発表が多数ある印象を受けた。(自戒を込めて)
      • 研究の背景を踏まえた上で、自分の研究の結果がどのような位置づけを持つのかを、常に意識しながら研究を実施することが望まれる。
      • 研究背景をもう少し丁寧に説明し、自身が取り組んでいる課題が果たす役割を明確に説明してもらえると,聞き手に興味を抱かせる。本人が"何を面白いと思っているのか"を主体的に伝える姿勢も必要。
      • その観測をなぜしているのか、どういった課題を解決したいために観測しているのか、といった点の説明が不足している発表が見受けられた。先行研究の調査や研究の意義を常に意識すれば、もっと良い発表になったと思われるものがあった。
      • プレゼンテーションの資料はよくできていますが、もっと研究成果の重要性や面白さが伝わるように、話し方を工夫するとよりよくなると思いました。
    ○セッションS001
       口頭・ポスター発表ともにスライド・ポスターの構成に工夫が見られ、わかりやすく研究内容を説明していたので、事前準備はしっかりなされていた感があった。一方で、イントロダクションや考察が現象論をとりまとめていることにとどまっている発表が複数みられたので、研究背景にある物理メカニズムの理解や、過去の観測・理論のレビューを行い、考察を深めてほしい。そのアドバイスとして常に日ごろから自分の研究の位置づけと該当分野の背景について考えながら研究を進めていくことである。また、学会という場を生かして他の先生方との議論を積極的に行い、自分の研究の理解度を高めてほしい。そのような研究姿勢をとっていれば、学会発表はもとより、修士・博士論文、学術論文など容易にこなすができると思う。

●メダル受賞者への講評

滝沢 響吾
「高エネルギー降下粒子がNa層に与える影響の化学モデル計算」(R005-P34)

     極域電離圏において、高エネルギー粒子の降り込みによる電離と、それによるナトリウム密度の変化をモデル計算した研究である。ナトリウムに関して従来は無視されていた化学反応式を取り込むなどによりモデルの改良を行い、計算結果の信頼性を高めた結果、ナトリウム密度変化の降下粒子エネルギー依存性をうまく評価できている。背景の理解や、結果の検討も的確であり、今後の発展が期待される。
石島 陸
「太陽陽子降り込みイベントに伴う極域中間圏オゾン減少の統計解析」(R005-P35)
     高エネルギー粒子に対するオゾン応答について、低軌道衛星による粒子データとオゾンデータを組合せて調査した研究である。スタンダードなデータを用いた解析研究であるが、独自の視点で、これまで研究例の少ない中小規模の太陽プロトンイベントに着目し、プロトンフラックスに加えて電子フラックスについても解析を行った。中小規模のイベントにおけるオゾン応答の磁気緯度特性、高度特性など、大気組成への粒子効果に関する重要な知見を得ている。説明も明快で、背景、目的、手法、結果、考察、結論まで論理的にまとめられており、将来性が期待できる。オゾン応答の定量的な評価など、今後の更なる研究展開にも期待したい。
加藤 大羽
「月表面から放出される二次イオンの生成過程」(R009-03)
     受賞者は月探査衛星「かぐや」に搭載されたイオン観測装置を用いて、太陽風や微小隕石衝突などにより月面で生成される二次イオンの特徴について研究を行った。特にイオン種ごとに異なる生成場所の分布と磁気異常との相関を丁寧な解析によって示し、太陽風のスパッタリングや微小隕石衝突による二次イオンの生成量とその変動を定量的に明らかにした。本研究は月面生成二次イオンのみならず、他の天体での表面物質や希薄大気の研究に与える影響も大きい。発表は筋道立ってわかり易く、質疑応答も明瞭であり、受賞にふさわしいと評価する。
渡辺 はるな
「すばる望遠鏡で観測された木星赤外オーロラの微細構造とその時間変動」(R009-P16)
     すばる望遠鏡赤外分光撮像装置を用いて従来よりも高い時間・空間分解能で木星のH3+赤外オーロラを観測し、10分程度の周期のオーロラ発光強度変動を初めて捉えた。オーロラ発光モデルを用いた計算から、観測された変動は降り込み電子フラックスの変動に起因することを示した。より高精度の観測によって新たな事実を見出し、観測事実と理論的計算に基づいて惑星電磁気圏の物理過程を考察する研究手法は観測的研究の王道を行く。プレゼンテーションの資料や説明はわかりやすく、質問に明確に答えていた点も高く評価される。
吹澤 瑞貴
「Electrostatic electron cyclotron harmonic waves as a candidate to cause pulsating auroras」(S001-09)
     高時間分解能をもつ地上高速撮像オーロラカメラ、あらせ衛星搭載のプラズマ波動観測データとIUGONET統計検定ツールを最大限に活かし、サブストームの回復相に現れる脈動オーロラの発生機構を解明しようとした研究である。近年の研究結果から脈動オーロラの起源は内部磁気圏におけるコーラス波動と電子との相互作用が有力視される中、本研究発表では、静電的電子サイクロトロン高調(ESCH)波動との相互作用にまで解析対象を広げ、脈動オーロラ強度の変調の周波数がコーラス波動とESCH波動と異なることを世界で初めて示した。また、口頭発表に用いたスライドも工夫がなされ、その説明も分かりやすかった。今回は1イベントのみの解析にとどまったが、今後は複数のイベントについて解析を行い、本研究で示した事項が普遍的に見られるのかを実証していくことを期待する。
●優秀発表者への講評

香川 亜希子
「Investigation of interhemispheric asymmetry of polar cap patch occurrence」(R005-P32)

     極冠パッチの出現特性について、その生成の鍵となる2つの空間分布(日照領域の高密度プラズマ及び高緯度のプラズマ対流)と磁極の南北半球非対称性に着目し、地上観測の大気光データの統計解析結果をわかりやすく示していた。図や説明もわかりやすく、本研究を楽しく積極的に進めている姿勢が伺えた。質疑応答も自分で考えて適切に回答できており、将来性が期待できる。
Heqiucen Xu
「トロムソ観測点のファブリ・ペロー干渉計を用いた地磁気静穏時における高緯度熱圏平均風の研究」(R005-08)
     ファブリーペロー干渉計で観測された地磁気静穏時の熱圏風速変動について、地磁気活動や潮汐の影響を調べた研究である。1地点の2つの高度でしかデータが得られない中、大胆な仮定の下で上記の影響を議論している。他の補助的なデータを得るのが難しい高度ということもあり、仮定の妥当性については更なる検討が必要だが、質問にも的確に回答し、自身の研究の意義や課題について十分に理解している様子がうかがわれた。今後、シミュレーションとの比較など、新たな観点からの解析が進むことを期待したい。
石井 智士
「大気光イメージ観測による関東平野上空の山岳波動の研究」(R005-P05)
     山岳地形を起源とする大気重力波は、対地位相速度がゼロとなる特徴を持ち、アンデス山脈や南極半島等で特徴的な山岳波を生成させることが知られている。富士山は周囲に山岳地の無い独立峰であり、山岳波の特徴がより明瞭に表れることが期待される。本研究は、大気光観測から富士山を起源とする山岳波を抽出し、その特徴を解明しようするものである。都市部における光学観測のため、観測例は少ないものの、データ処理と結果の解釈は丁寧に行われており、よくまとまった発表であった。今後の継続的な観測が望まれる。
坂田 遼弥
「太古の火星からのイオン散逸に対する弱い固有磁場の影響」(R009-11)
     簡潔にわかりやすくまとめられている。既存のモデルをベースにした研究だが、自分の頭で考えたと思われる考察は深いと感じた。シミュレーション研究にとどまらず、観測提案等への展開まで言及できるとさらに面白い発展が見込めると思う。今後の進展が楽しみである。
吉田 奈央
「Seasonal variation of the homopause altitudes on Mars derived from MAVEN/IUVS observations」(R009-14)
     研究の背景をよく理解し、目的も明確である。均質圏高度検出の方法を定量的に実施できるように工夫した様子が伺える。得られた季節変動や高度分布に関する結果に対して、しっかりとした考察が行われている。最終的には渦拡散係数の導出まで行われており、得られたデータを十分に活用している。口頭発表としても、視覚的にわかりやすい図が多く、よくまとまっていると感じた。
山田 武尊
「Vertical propagation of the large stationary gravity waves in the Venus atmosphere」(R009-19)
     あかつきの中間赤外データとモデルを用いて、弓状重力波構造について調べた優れた研究である。イントロダクションでは、これまでの問題点や目的がよく説明されている。解析では、あかつきの独自データに基づき、重力波伝搬をよく説明しており、加えて、シミュレーションを用いて十分に考察されている。より多くの観測例をもちいてそれぞれの比較と解釈を深めて欲しい。スライドも簡潔によく整理されており、わかりやすい発表であった点も評価される。
高田 雅康
「Molecular ion outflow mechanism from the deep ionosphere observed by EISCAT radar in conjunction with the Arase (ERG) satellite」(S001-31)
     本発表は、磁気嵐イベント中に観測された「あらせ」衛星とEISCATレーダー観測のデータを、電離層と中性大気の経験モデルとともに理論的に評価した研究でした。過去の研究結果を引用しつつ新たな研究課題を設定し、解決プロセスを丁寧に考え抜いたという印象を持ちました。既存の手法であるが、最新のリングカレント衛星観測データと電離層の地上観測のデータをその特徴を的確に捉え有意義にかつ定量的に評価し、独自の視点からの考察を加え、定義された課題に真摯に取り組んできたことが伝わってきました。物理的イベントの有無に囚われない衛星−地上の連携観測への発展に繋がることを期待しています。
川村 勇貴
「The temporal characteristics of PsA internal modulation」(S001-P13)
     EMCCDを用いて高い時間分解能を有する地上光学観測を生かし、脈動オーロラの変動に含まれる1秒以下の高周波内部変調の周期性を明らかにしようとする研究である。独自の機器を設置して運用を達成することで、脈動オーロラ変動の100Hzサンプリングというオリジナルティの高いデータを取得したことが評価される。100例を越える統計解析結果から脈動オーロラの3 Hz変調の特性を明らかにした。特に、緯度やMLT分布を調べたことは意欲的な研究である。研究の背景や結果の解釈が現象論的特性にとどまっていたため、背景のメカニズムとの関係や過去の地上・衛星・理論を用いた研究との比較など、より物理的考察を深めて欲しい。

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