SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2018年度 第3分野講評
審査員:
    天野 孝伸(東京大学, R008代表), 臼井 英之 (神戸大学, S001代表), 北村 健太郎 (徳山工業高等専門学校, R006代表), 中川 朋子 (東北工業大学, R007代表), 中村 雅夫 (大阪府立大学, R010代表), 堀 智昭(名古屋大学, R006代表)
    海老原 祐輔 (京都大学), 大村 善治 (京都大学), 尾崎 光紀 (金沢大学), 尾花 由紀 (大阪電気通信大学), 笠原 慧 (東京大学), 河野 英昭 (九州大学), 齊藤 慎司 (名古屋大学), 塩川 和夫 (名古屋大学), 塩田 大幸 (情報通信研究機構), 品川 裕之 (情報通信研究機構), 清水 徹 (愛媛大学), 銭谷 誠司 (京都大学), 田中 良昌 (国立極地研究所), 徳丸 宗利 (名古屋大学), 中村 琢磨 (Austrian Academy of Sciences), 成田 康人 (Austrian Academy of Sciences), 成行 泰裕 (富山大学), 能勢 正仁 (名古屋大学), 羽田 亨 (九州大学), 平原 聖文 (名古屋大学), 松清 修一 (九州大学), 簑島 敬 (海洋研究開発機構), 山内 正敏 (Swedish Institute of Space Physics), 山崎 敦 (宇宙科学研究所), 渡辺 正和 (九州大学)

●総評

    ○セッションR006
       今年度は口頭発表14件、ポスター発表17件の審査が行われました。研究テーマの設定やデータ解析手法に関しては、多くの研究で比較的丁寧にされている印象を受けました。観測、シミュレーション、機器開発など、多岐にわたる研究が学生によってなされ、またそれらが学会自体を盛り上げていることを改めて実感しました。一方で、最終的な結論にいたる根拠がやや弱く、さらなる解析が必要であるなど、まだまとまった結果に至っていないと感じる発表も見られました。総じて完成度が高い研究発表が多いなかで、研究課題の背景や意義、関連する他の研究の内容に関する知識や理解を積極的に広げているか、またそれらを踏まえて自らの研究の独自性や発展性・波及効果を見据えているかという点が、評価のポイントになりました。指導教員の先生から与えられたテーマであっても、自分のテーマとして良く咀嚼して日常的に多くの人と議論を重ねながら自分なりの問題意識を持って研究を進めることが肝要であると思います。自ら主体的に研究について考えて進めているかは、発表の中での考察や質疑応答に自然と表れますし、研究自体の意義や将来性を高めることにも寄与します。今回受賞に至らなかった発表の中にも、面白い視点を持った研究発表が多く見られましたので、上記のようなことに留意しつつ、研究を発展させていくことを期待したいと思います。
    ○セッションR007
       いずれの講演者も発表技術はおおむね良好で、込み入った内容も上手に説明されていました。受賞者決定の評価ポイントは、学生がどれだけ主体的に研究に取り組み、彼らなりの視点から発表を行ったか、によって決まった印象があります。修士の方の中には、普段、研究室では説明しなくても済んでいること、例えば「なぜそれを知りたいのか」、「なぜ重要と思うのか」など、指導教官には聞かれたことのないような質問に戸惑った方もいるかもしれません。学会で外部の方に話を聞いてもらうのは、この点を捉え直す良い機会と思います。先生に評価されることを目指す学生気分を脱し、自分のテーマについては自分が第一人者であると認識して、この立場から研究の意義を他の研究者に理解していただくことを目指してほしいと思います。受賞者はこの点に関して、極めて優れていたと思います。
    ○セッションR008
       まず多くの発表がレベルの高い内容であったと感じました。一方で、プレゼンテーションのスキルについては改善の余地があるのではないでしょうか。特に研究の背景や動機付けの部分が必ずしも聴衆に十分伝わっているとは言い難い発表も散見されました。当該セッション聴衆の幅広いスペクトルを考えると、より大きな枠組みにおけるご自身の研究の位置付け、先行研究の問題点や解決すべき点、さらには当該研究の新規性などを整理した上で発表に臨んでもらうことで、より良い発表になることと思います。
    ○セッションR010
       口頭3件、ポスター5件の発表について審査を行った。口頭発表では、仮説を検証し結論に至る論拠の提示が不十分な所が見られ、また、質疑応答から、研究内容の理解も不足しているとも感じられたが、話し方はおおむね悪くなかった。ポスター発表では、突っ込んだ質疑に及ぶと、開発装置の応用・発展性や研究モデルの適応性の検討などが不足していると感じられたが、内容説明と質疑に真摯に応答しようとする所に努力が感じられた。今後、各自が研究・開発テーマに主体的に取り組み、安易な結果の提示だけで満足せず、広い視点から検証・検討を行い、研究・開発の中身を発展させていくことを期待している。
    ○セッションS001
       口頭5件、ポスター10件の発表について審査を行った。今回の発表は、あらせ衛星の最先端データを用いた研究や関連する数値シミュレーション研究が多く、データ解析の丁寧さや発表そのものの完成度にはレベルの高さが伺えたが、残念なことに今回は審査員をうならせるものや、発表者の野心が滲み出る(聴いている側が楽しくなる)ものがなかった。 特に衛星データ解析のポスター発表については、解析結果を並べただけのものが多く、その現象に内在する物理機構に対する見解や解釈について、深く堀りさげた議論をしているものが少なかった。また、今回の発表では、研究の「新規性」「独創性」や「重要性」のアピールも少なかった感がある。解析のテクニカルな面のみならず、研究テーマの背景や意義について日頃から多くの人と議論を重ねることが重要である。また、最終的に学術論文として発表することを意識して、データ解析の結果から新しい知見として何が得られたのかを明確に発表できるような内容が望ましい。過去の研究成果にとらわれすぎず、予想に反した結果に遭遇しても常に疑問をもち続け、より深く主体的に解析を深めることにより、指導教員から与えられた課題やその見通しから良い意味ではみ出すような新規性、独創性のある研究を目指してほしい。

●メダル受賞者への講評

中村 勇貴
「Axisymmetric conductivities of Jupiter's middle- and low-latitude ionosphere」(R006-P05)

     木星電離圏・磁気圏結合に対する宇宙塵由来のイオンの影響について調べた。光化学モデル、鉛直輸送モデル、電離圏・磁気圏結合モデルを丁寧に組み合わせ、興味深い電離圏伝導度分布と電離圏・磁気圏結合過程を示した。モデルの組み合わせは緻密で、厳密性を損なわないよう十分な配慮がなされており、結果は大変説得力のあるものである。観測と比較することで結果の妥当性についても検討しており、一つの完結した研究が成し遂げられた。研究の背景を熟知しており、研究の位置づけを良く把握している。発表は極めて論理的かつ明快で、曇りがなかった。将来の展望も明確に持ち合わせており、今後の活躍が大いに期待される。
庄田 宗人
「Parametric decay instability of Alfvén waves in the solar wind」(R007-10)
     太陽風加熱に必要とされる密度擾乱の起源解明を目指した理論・数値実験研究である。太陽表面の対流で駆動されたアルフベン波が上層に伝搬する過程で崩壊不安定性を起こすことに着目し、高度の違いに起因する密度勾配が存在する系での崩壊不安定性について調べた。必要とされる密度擾乱が不安定性によって生成され得ることが論理的に示され、学術的にも高いレベルの成果であると判断した。発表では研究背景とモチベーションの説明が丁寧になされ、発表者が内容をよく理解して主体的に研究に取り組んでいる様子がうかがえる。以上を総合して、オーロラメダルに値すると評価した。
岩本 昌倫
「相対論的衝撃波における航跡場加速」(R008-02)
     超高エネルギー宇宙線の起源という宇宙物理学の一大問題に、最先端のプラズマ粒子シミュレーションで迫るというスケールの大きな研究である。話も明快で、大きな目標に向けて着実に結果が積み上がっており、オーロラメダルに値する素晴らしい発表だと感じた。今後、研究面では、結果を確固とするために考察を深めること、発表面では、自信をもって堂々と発表に臨むことに加え、会場の聴衆に合わせて説明をアレンジする(天文・レーザー分野の用語に頼りすぎない)ことで、さらなる向上を期待する。
●優秀発表者への講評

井上 智寛
「Effects of geomagnetic field and cold plasma on the generation of isolated proton aurora at sub-auroral latitudes」(R006-04)

     これまで明らかになっていないisolated proton auroraの生成機構を解明したい、という動機がはっきり見えた。そして、生成に影響を与える要素を2つ考え、磁力線曲率の影響を発表前半で説明し、cold plasmaの影響を後半で説明した。この前者と後者の間をつなぐ議論が無く、7分発表を2つ並べたような印象を受けた。しかし、各々の説明については、オリジナル性(スペクトルエントロピー法の導入等)と、今後の発展性(統計解析等)の双方において期待が持てる。また、質疑応答には滞りがなく、理解度の高さが感じられ、指導教官の指示というより学生自身で考えている事が伺われた。これらの点は評価できる。今後の研究進展を期待したい。
沼澤 正樹
「X線天文衛星「すざく」による太陽活動極大付近における木星観測」(R006-13)
     近年、X線観測衛星により太陽系天体からのX線放射が報告され始めている。発表者は、「すざく」衛星によって2006年に初めて行われた木星X線観測の先行研究を元に、太陽活動がより活発な2012年、2014年の追観測を行い、木星周辺のX線放射の詳しい解析を行った。特に、木星本体からと周辺領域からの放射を切り分ける事で、本体からの放射は太陽活動強度に依存し、周辺領域からの放射は磁気圏内の高エネルギー粒子の振る舞いに依存する可能性を初めて示唆した。この可能性のより確かな証明には、観測の時空間分解能等の問題からさらなる工夫が必要となるが、発表・質疑応答共に明快であり、今後の研究の進展を期待させる優れた発表であった。
小林 勇貴
「Investigation of the magnetic neutral line region with the frame of two-fluid equations」(R006-25)
     電子スケールを解像するMMS衛星により磁気リコネクション研究は近年大きく進展している。その中で発表者は、MMS衛星による磁気圏境界面のリコネクション観測イベントに注目し、リコネクション領域で発生するlower-hybrid waves(LHWs)強度、 及び、イオンと電子の2流体方程式の全項の大きさを観測データから見積もる事で、LHWs強度と電場の変動成分が主となる異常抵抗項が強く相関する事を初めて発見した。各項の見積もりにおける精度についてはさらなる考察が求められるが、本結果は、同イベントを模したシミュレーション結果とも定性的に一致しており、波動現象がリコネクション領域に及ぼす影響を示した貴重な観測結果であるため、さらなる研究の発展に期待したい。
濱野 拓也
「FPGA を用いたスペクトルマトリクス演算モジュールの開発」(R006-P24)
     電磁場の波動測定のデータ圧縮・解析作業効率化のために地上局ではなく衛星搭載のFPGA演算モジュールでスペクトル行列計算を実装するための研究開発である。地球周回軌道の人工衛星のみならず、ビットレート資源が非常に限られている惑星探査に応用が期待される技術で、将来性がある。FPGA演算モジュールの特性をよく理解し、最新のあらせ衛星のデータで波動解析の性能試験をして開発が成熟してきたことがうかがえる。今後、スペクトル行列を用いてどのようなプラズマ波動解析が可能になるか、統計平均作業をどの程度するのか、など波動解析やスペクトル行列の知識もさらに深めながら開発を進めることが期待される。
M. GIRGIS KIROLOSSE
「Variations of South Atlantic Anomaly due to Space Weather Conditions」(R010-P011)
    Anomaly (SAA) region using Tsyganenko magnetic field models (T96, T01, and TS05) with respect to space weather conditions. Using these magnetic field, they performed test particle simulations of energetic protons trapped in the inner radiation belt and investigated their distribution and penetration depth around the SAA region. We can expect the authors will make progress on the research by understanding what and how space currents contribute the field variations related to space weather conditions.
山川 智嗣
「GEMSIS-RCモデルに基づいた環電流イオンによるstorm-time Pc5 ULF波動の発生機構の研究」(S001-14)
     Pc5波動の発生機構に関する計算機シミュレーションによる成果の発表であるが、口頭発表の準備が良くできおり、分かりやすい発表であった。既存のシミュレーションプログラムをパラメータを変えて走らせて結果を解析しただけなのか、あるいは発表者が独自の工夫で新しく開発して実現した計算機シミュレーションのモデルなのかという点が不明に感じられたものの、発表後の質問に対する回答は的確にできていた。

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