SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2019年度 第1分野講評
審査員:
    清水 久芳 (東京大学), 小山 崇夫 (東京大学)

●総評

     地球・惑星内部電磁気学セッションでは、電気伝導度構造から火山や背弧の活動を議論する研究に加え、地下構造を正しく反映した電磁応答関数を求めるための基礎的研究や、人工電磁場源を用いた探査の新たな3次元構造イメージング法とその結果、津波電磁場の観測に関する研究発表があった。地磁気・古地磁気・岩石磁気セッションでは、地球史との比較を念頭においたダイナモの数値実験、数十年スケールの地磁気永年変動メカニズムを考察する数理的研究、過去数千年から数千万年の古地磁気強度や古地磁気方位に関する研究、磁性細菌起源の磁性鉱物の性質解明を目的とした基礎的な研究に関する発表があった。研究背景の理解に若干の不安を覚える発表も一部あったが、全発表者から研究成果を伝えたいという熱意を強く感じた。独自の解析手法の開発を試みる研究や、電磁気データのみならず地震データも解析し結果の比較を試みる研究、古地磁気学を用いた年代学の新たな展開を期待させる研究のように、非常に意欲的な研究が見られ、今後のさらなる発展を期待したい。また、博士課程三年の学生の発表にはこれまでの研鑽の成果を実感することができ、非常に喜ばしいと感じる。

●メダル受賞者への講評

佐藤 真也
「独立性及び複帯域性に基づいた自然電磁場データからのノイズ除去の試み」(R003-P02)

     本研究は、都市部でのMT法観測の上で問題となるノイズ除去の新たな解析手法を提案している。通常観測点数よりもノイズ源の数が大きい場合は問題が劣決定問題となり、特に、ノイズが大振幅の場合は、シグナル成分を精確に抽出することができず、正しいMT応答関数を求めることができない。実際に、MT解析におけるノイズ除去法は海外も含めこれまでさまざまな研究者によって提案されてきたが、上記のような状況は想定されておらず、いずれの方法を適用してもノイズ除去することは不可能であった。本発表では、従来のような信号とノイズとの独立性に加えて、周波数特性の違いに着目し、劣決定問題を優決定問題に変換させることで、安定してシグナル成分を抽出することに成功した。また、実データおよび人工的にノイズを加算したデータによる数値実験でも本手法の有効性を明確に示した。特にS/N比が1をはるかに下回るようなケースについても適用可能な点は刮目すべき成果である。商用電源のみならず直流電車ノイズは長年MT研究者を悩ませ続けてきたが、本手法を用いることによりその大問題が解決される可能性が高く、そのような大きなノイズを含んだ実データへの適用が今後大いに期待されるところである。上記のように、独創的な着眼点と解析技法により従来の手法をしのぎ今後世界の標準解析手法となりうる将来性を秘めている点は極めて高く評価するに値する。また、本ポスター発表に加えて異なるトピックについても口頭発表(R003-01)を行っており、研究への意欲旺盛な真摯な姿勢は非常に印象的であり、将来を大いに期待できることから、学生発表賞にふさわしいと判断した。
●優秀発表者への講評(セッション記号順)

石須 慶一
「3次元CSEM逆解析法による海底熱水鉱床イメージング」(R003-P08)

     本研究は、海底下浅部の鉱床探査を目的としたCSEM法の新たな3次元逆解析手法を開発した。従来海底CSEM法は2次元解析で実施されてきたが、熱水噴出地域はその地形および構造の強い3次元性が予想されるため、2次元解析手法の適用は不適切である。本発表はその問題を払拭すべく、新たにCSEMによる3次元電磁誘導方程式の順計算コードを有限差分法で作成し、また、逆解析コードをデータスペース法に基づいて開発することで計算時間および計算メモリーを大幅に削減することに成功した。3次元CSEM法の順計算および逆解析計算コードをすべて一から開発・作成したことは、大きな注目に値する。また、計算およびその計算結果について述べるのみならず、その結果をもとに、観測プラットフォームの改良についてフィードバックの提案も積極的に行うなど、包括的な研究に対する視野の広さもまた評価でき、将来性を期待できる、優秀な研究発表である。
吉村 由多加
「エチオピア巨大火成岩岩石区から推定される約3000万年前の古地磁気強度変動」(R004-P03)
     本研究は、約3000万年前のおよそ80万年間に形成されたと考えられているエチオピア巨大火成岩岩石区の火山岩を用いた、古地磁気強度に関する研究であり、試料と溶岩層を選別して求めた80万年間のVDMの平均値を、現在の地球磁場の約60%の強さである4.8 × 1022 Am2と推定した。また、綱川-ショー法によって求めた対象とする80万年間の絶対古地磁気強度の時間変化は、NRM/ARM slopeから求めた相対古地磁気強度の変化と調和的であることも明らかにした。この研究が地球進化史と密接に関係した数千万年スケールの地磁気強度の変遷を明らかにすることを目的とした研究であることや、絶対古地磁気強度推定に用いた綱川-ショー法における実験の各段階の目的、バルク磁区安定性を用いた実験結果の検定等について、ポスターに示された図を基に簡潔かつ明瞭に説明され、研究の全ての面について発表者が深く理解していることがわかり、説得力のある優秀な発表であった。

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