SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2019年度 第2分野講評
審査員:
    家森 俊彦 (京都大学, R005代表), 中村 正人 (宇宙科学研究所, R009代表), 石坂 圭吾 (富山県立大学),今村 剛 (東京大学), 江尻 省 (国立極地研究所), 大塚 雄一 (名古屋大学),大矢 浩代 (千葉大学), 小川 泰信 (国立極地研究所), 笠羽 康正 (東北大学), 神山 徹 (産業技術総合研究所), 佐川 英夫 (京都産業大学), 佐藤 光輝 (北海道大学), 鈴木 臣 (愛知大学), 田口 真 (立教大学), 津田 卓雄 (電気通信大学),西岡 未知 (情報通信研究機構), Huixin Liu (九州大学),藤原 均 (成蹊大学), 松岡 彩子 (宇宙科学研究所), 村上 豪 (宇宙科学研究所), 山崎 敦 (宇宙科学研究所), 山本 真行 (高知工科大学),山本 衛 (京都大学), 横田 勝一郎 (大阪大学)

●総評

    ○セッションR005
       今回は、口頭発表に内容および説明共よく練られた論文が多く、ポスター発表に比較して、全体的にかなりレベルが高かった。内容に自信のある著者が口頭発表を希望した、あるいは、コンビーナーが興味深そうな論文を口頭発表に採用した等の影響も考えられるが、学会前の研究室での予行演習の効果はポスターに比べ現れやすいので、ポスター発表者も発表用の大判プリントを印刷する前に、研究室で十分な予行演習あるいは議論をして改訂を繰り返すことによりレベルアップが期待される。
    ○セッションR009
       惑星圏・小天体分野では特にポスター発表で優秀な発表が多かった。惜しくも僅差で受賞を逃した発表もあった。博士課程の学生と比べて遜色のない発表をしている修士課程の学生も見受けられた。逆に言うと、博士課程の学生にはさらに完成度の高い研究発表を期待する。また、海外も含めた他学会でのトップレベルの学生発表と比較すると全体的にやや物足りなさを感じる。これを学生だけに責を負わせるのは不適当で、むしろ我々は分野全体のアクティビティーを更に活性化する方策を考えるべき時期に来ている。
       さて、この10年、ようやく我が国独自の探査機や人工衛星による惑星観測データを手にすることができるようになり、惑星圏・小天体分野は学生を引きつけてきた。また、地球や惑星の大気・プラズマの3次元シミュレーションコードも瞠目すべき発達を遂げて、観測とシミュレーションが車の両輪として学問の発展を牽引してきた。その結果として、手にしやすい飛翔体観測データやシミュレーションモデルを使ったスマートな研究が頻出する。そのこと自体が悪いことではないが、一方で、そのような研究は、本賞が重視する独創的で将来性があり、しばしば泥臭い研究とは相容れないこともある。過去の受賞研究課題を振り返ると、若者ならではの闘争心と体力でもって、結果が約束されぬ課題に取り組んだ研究ばかりである。将来の夢を見据えて新たな研究分野の開拓に挑戦する、時間と労力を惜しまず装置や手法の開発に没頭する、そのような熱意ある若者の輩出に本賞が一役買うことを願う。

●メダル受賞者への講評

安藤 慧
「Simulation on formation mechanisms of various structures of sporadic E layer」(R005-10)

     発表者は、自身で電離圏中の電離大気の運動を計算する数値モデルを開発し、スポラディックE層の生成を再現することに成功した。さらに、GAIAモデルで計算された中性風のデータを入力し、高い電子密度をもつスポラディックE層の形成に、水平風の空間非一様性によるイオンの集束が効いる、という結論を得た。目的は明確であり、最適な手段を用いており、また、創意工夫も見られることから、オーロラメダルに相応しいと判断する。
南條 壮汰
「ISSからのデジタルカメラ観測を用いた脈動オーロラ時空間特性の広域可視化」(R005-16)
     国際宇宙ステーションからの動画観測により、脈動オーロラの明滅周期、空間分布を調べた研究である。低緯度の大気光解析用に使われたイメージングパラメータの較正手法を極域の脈動オーロラに応用し、 今までにない高い時空間精度で脈動オーロラの解析ができた。数秒から数十秒の脈動オーロラの周期性の緯度や磁気地方時依存性を明らかにしたことは評価できる。背景の理解や、結果の検討も的確であり、説明も明快で堂々としており、今後の発展が期待される。美しい映像なので、学会アウトリーチへの積極的な活用で、様々な場面での本学会分野のアピールにも役立てて頂きたい。
古賀 亮一
「ALMAアーカイブデータ解析による木星衛星イオの二酸化硫黄大気の火山噴火成分の検出」(R009-P12)
     自身が観測提案メンバではないが公開済みのALMAデータを発掘し、自らのアイデアで意欲的かつ迅速に解析を進めていました。ALMAデータからイオンの火山性SO2ガスのプルームを抽出しており、木星の影に入る前と出た後でのデータの比較の考察なども丁寧に行なわれていました。発表ポスターも内容が伝わりやすく工夫されており、研究の面白さが十二分に伝わる発表でした。自身のこれまでの研究テーマに沿いつつ新たなデータと解析手法を用いて結果まで伴っており、その研究姿勢も高く評価できます。本発表内容は投稿論文としてまとめられることを期待しています。
奈良 佑亮
「Structure of planetary-scale waves at Venusian cloud top revealed by an cloud-tracking method tolerant to streaky features」(R009-P26)
     金星の風速を推定する手法として広く利用されている雲追跡手法に対して、中・高緯度の筋状模様の影響による大きな推定誤差は数十年来の未解決課題であったが、受賞者はこれを減じる手法を独自に発案、実装までを自身で行い、実際にこれまで困難であった中・高緯度において信頼度の高い風速推定を行って見せた。自身の発想を実現し、かつこれまでにない科学成果を提示した点は受賞者のオリジナリティと優れた研究能力を示しており、高く評価できる。また発表内容・プレゼンテーションや質疑応答は明瞭で、受賞にふさわしいと評価する。

●優秀発表者への講評

木村 康択
「航空航法用VHF帯電波の異常伝搬とROTIを組み合わせたスポラディックE層の広域可視化」(R005-11)

     航空航法用VHF帯電波の受信データを工夫して解析することにより、スポラディックE層の二次元分布について調べた発表であった。これまでスポラディックE層の二次元分布は、GPSの観測やSARを用いた電波の解析により事例的に研究されている。本発表では、航空航法用VHF帯電波を利用したスポラディックE層のモニタリングに挑戦し、GPSの観測と比較することで、その手法の妥当性を示した。本手法は、海上のスポラディックE層もモニタリングできる点や、スポラディックE層の統計解析が可能な点で従来の手法より優れている。図も説明もわかりやすく、よくまとめられた発表であった。
秋山 瑞樹
「中間圏・下部熱圏における季節内振動と成層圏準2年周期振動及び成層圏半年振動との相関」(R005-P40)
     これまでに衛星観測から報告されている中間圏・下部熱圏での20-120日周期の東西風の季節内振動について、大気圏電離圏結合モデル(GAIA)を用いて詳細を調べたものである。約10年間の計算結果から、スペクトル解析により、モデル中での季節内振動周期、高度、緯度範囲を示すとともに、成層圏の現象との関連、東西風の加速機構についても議論するなど、データ処理と結果の解釈が丁寧に行われており、わかりやすい発表であった。また質問に対する受け答えから研究を主導的に進めていると感じた。今後、潮汐波などの様々な波動現象との関連を含め、研究の進展に期待したい。
高見 康介
「Temperature in the Venusian mesosphere observed by mid-infrared heterodyne spectrometer in 2018」(R009-19)
     赤外レーザーヘテロダイン分光法というユニークな観測手段で金星大気の炭酸ガス吸収線のドップラーシフトを計測することで、中間圏の風速を導出した。高感度であるが繊細な観測装置を自ら運用して得られたデータを解析して物理量を導出し、結果の考察まで研究をまとめ上げた発表者の努力は高く評価される。本研究により、地上からのリモートセンシングで金星高層大気ダイナミクスのモニタリングが十分可能であることが示されたことは重要である。発表はわかりやすくまとめられており質疑応答も的確であったが、2018年の観測データの解析結果が間に合わなかったことが惜しまれる。
山口 和輝
「ひさき衛星観測との比較を目指した木星内部磁気圏プラズマの動径方向拡散モデルの開発」(R009-P14)
     整理されたモデルから良い結果が得られている。この研究に対する俯瞰的な視点と更なる発展を期待する。
吉田 奈央
「Atmospheric compositions in the ionosphere/thermosphere on Mars observed by NGIMS and IUVS on MAVEN」(R009-P21)
     火星上層大気のユニークなデータセットに対して創意に富んだ解析を行い、大気中の物質輸送や大気散逸の理解につながるオリジナリティの高い成果を得ている。研究の背景を深く理解したうえで結果を適切に整理してわかりやすく発表しており、高く評価できる。発表者はまだ修士課程であり、博士課程ではさらにレベルの高い成果が創出されることが大いに期待される。
宮本 明歩
「中間赤外ヘテロダイン分光観測から得られた火星中間圏での2018年全球ダストストームによる東西風加速」(R009-P23)
     これまで観測の乏しい火星のダストストーム時の上層大気循環の変化に地上観測でアプローチするものであり、難しい分光スペクトル解析を丁寧に行ってユニークな成果を得ている。研究の背景や観測手法をよく理解したうえで解析していることがうかがわれ、発表もわかりやすい。結果の理論的解釈などで引き続き考察を深めることにより高いレベルの成果に結実するであろうと期待される。

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