SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2019年度 第3分野講評
審査員:
    篠原 育 (宇宙科学研究所, R006代表), 平原 聖文 (名古屋大学, R006代表), 中溝 葵 (情報通信研究機構, R006/R010代表), 中村 雅夫 (大阪府立大学, R007/R008代表), 吉川 顕正 (九州大学, R006代表), 浅村 和史 (宇宙科学研究所), 岩井 一正 (名古屋大学), 海老原 祐輔 (京都大学), 大谷 晋一 (Johns Hopkins University), 尾花 由紀 (大阪電気通信大学), 尾崎 光紀 (金沢大学), 笠原 慧 (東京大学), 風間 洋一 (Academia Sinica Institute of Astronomy and Astrophysics), 加藤 雄人 (東北大学), 北村 成寿 (東京大学), 栗田 怜 (名古屋大学), 近藤 光志 (愛媛大学), 齊藤 慎司 (情報通信研究機構), 中川 朋子 (東北工業大学), 塩川 和夫 (名古屋大学), 小路 真史 (名古屋大学), 田中 良昌 (国立極地研究所), 高橋 主衛 (Johns Hopkins University), 寺本 万里子 (九州工業大学), 成行 泰裕 (富山大学), 能勢 正仁 (名古屋大学), 橋本 久美子 (吉備国際大学), 深沢 圭一郎 (京都大学), 松本 洋介 (千葉大学), 松田 昇也 (宇宙科学研究所), 簑島 敬 (海洋研究開発機構), 吉岡 和夫(東京大学)

●総評

    ○代表審査員A
       多くの発表において、研究背景や手法に関しては説明が比較的丁寧になされており、良い印象を持った。その一方、研究の中身に関しては、まだ初期段階にあり目標としている段階に到達していないものや、前回の発表からもっと進捗があってもよいはずと思われるものが多く見られた。今後、各自が研究テーマに主体的取り組み、研究の中身を発展させていくことを期待している。
    ○代表審査員B
       他所で多く語られている「研究の位置付け・俯瞰・問題意識・自らの考察・プラスアルファ・発表スキル」等々、皆さん日々研鑽されていることが多くの発表から伺えましたし、その中で受賞にいたったものの突出した点は各講評のとおりです。 ここでは今一度、「自分のものとして真剣に考えているか?」、自問いただきたく講評を書いています。テーマの筋・研究環境が好条件であれば、スタート地点でアドバンテージがありますし(これらは最初は指導教官のセンス、学生自身の選択眼かと思いますが)、学年が進むほど知識・理解度・スキルも向上するのは確かです。しかしそれだけではない何か、本人が如何に真剣かどうか、は滲み出るものがあります。そこに他の研究者は共感・感銘するのではないでしょうか。そしてそこで発生する議論が、学問を進展させる。今回審査するという目で発表を聴き、あらためて感じました。発表自体の完成度に関わらず、このことが伺える発表は存在し、その姿勢は確実に聴衆に伝わり、たとえ賞という形でなくとも、評価されているということをお伝えしたいです。日々、真剣かつ楽しく研究を進め、講演会は成果お披露目にとどまらず、自由闊達な議論を展開し、研究を発展させる糧を得るのに利用する、(自戒を込めて)そのくらいの気概で臨んでいただければと思います。
    ○代表審査員C
       全体的に十分な準備がなされている発表と、そうでない発表の差が明確に感じ取られる講演が多く見受けられる講演会であった。そうでない発表については、研究するものの性であるが、直前まで結果を出すことに集中するが故、発表準備に十分な時間をとることができていないものが殆どであったのではないであろうか。一方、自分の研究の内容と意義を咀嚼し、それを丁寧に伝えることは本来、結果が出ていなくても可能なことであり、この部分をおざなりにして、発表申し込み先にありけりでは、聴講する方々に対してのみならず、研究の流れを作ってきた先達に対しても大変失礼な態度であるということを、十分胸にとめおいていただきたい。 一方、オーロラメダル賞、優秀発表者に選ばれた発表は、この点は良くこなされており、且つ、サイエンスの意義と結果の重要性が審査員に良く伝わった素晴らしい発表であると自信を持っていただき、今後も本講演会でのレベルを保って、更に先に進んでいただければと思う。 更に、今回賞には評されなかったが、自分の研究に自信を持ち、十分に準備を重ねて発表に臨んだと自負できる学生さんは、この受賞に足らずの結果は一切気にする必要はない。それは、我々審査員にそれを見いだす見識が足りなかっただけであり、学会全体を見渡せば、必ず見る人は見ており、学術の流れを作り出す新しい仲間として暖かく見守られていることは間違いないのであるから。
    ○代表審査員D
       第三分野では5つのグループに分けて、それぞれで独立に第一次審査を行う形式であり、最終選考となる第三分野全体での第二次審査に向けて公平性・透明性に配慮が求められる。そのため、我々のグループ内でも十分な議論を経て候補者を選出した。様々な視点・意見があったが、総じて発表内容・手法を高く評価するものであり、今後の研究の進捗に期待が持てるという印象を共有した。また、学会発表の経験が浅い場合でも、準備が丹念で発表姿勢にも好感を持つ場合が多かった。一方で、発表者の独創性・独自性や貢献度については、口頭発表ではもちろん、ポスター発表においても伝わりにくい、あるいは判断しにくいものであり、学生賞審査においては普遍的な課題といえる。
    ○代表審査員E
       近年の磁気圏研究では,モデル+観測,異なる観測手法を含む多点観測,複雑な数値モデル・シミュレーションなどが当たり前になり,プレゼンテーションの難易度が上がっている印象がありますが,総じて発表のレベルが高かったことは素晴らしいと思います.特に口頭発表については,発表の技術については甲乙付け難く,結果,多くの発表がオーロラメダルの候補に挙がり,評価がやや厳しめになったことは否めません.今回,選に漏れた方々も評価は高かったので,後述する点などを心に留めて今後も頑張って頂きたいと思います. 一方,ポスター発表については全体的に「手短に説明することができていない」という印象を受けました.説明途中に審査員からの質問で遮られる点は口頭発表と比べてハンディがありますが,その点を差し引いても発表内容の整理が十分にできていないことに原因があったように思います.ポスター発表であっても口頭発表と同様に十分な発表練習を行って発表内容を洗練させる必要があるでしょう. 口頭・ポスター発表を通じて残念な点もありました.発表の技術が高まった一方で,表向きは立派でも地に足がついていない発表が散見されたことです.例えば,自分の研究内容や解析手法が過去の研究に対してどのような位置付けにあるのかが不明瞭であったり,発表の中で示している数値がどのような意味を持つのかを考えていなかったり,ということがありました. こうしたことに陥らないために,「得られている結果が全く新しいものであるのか,過去の研究を検証したものであるのか.」自身の研究発表の位置付けをレビューしたり,「当たり前だと思っていることが,実は大事な意味を持っているかもしれない.」と,数値の意味を自ら問いかけたりすることをお勧めしたいと思います.こうした自問をすることによって自身の研究への理解の深まりが違ってきます. 「研究の背景をよく理解すること」「どのようにデータを得たのか正しく理解すること」「データがどのような意味を持つのか自分なりに考えること」を徹底するとさらによい研究・よい発表になるはずですので,今後の研究活動の参考にして頂きたいと思います.冒頭に述べたように昨今の磁気圏研究は難しい課題が多いのですが,このような努力の積み上げを通して磁気圏現象の物理について研究を深めていって頂きたいと思います.

●メダル受賞者への講評

川村 勇貴
「Estimation of the altitude of pulsating aurora emission by using five-wavelength photometer」(R006-P16)

     脈動オーロラは、その周期性および高い出現頻度からから最も注目を集めるオーロラ形態の一つである。本研究は、異なる波長(427.8 nmと557.7 nm)で観測された主脈動の時間差から酸素原子の励起状態O(1S)の平均寿命を導き出し、それが背景密度に依存することを基に脈動オーロラの発光高度を見積もり、ひいては降込電子エネルギーを推定するというものである。背景には様々な物理過程が絡み合っているが、発表は非常に論理的で、研究全体を系統だって理解していることが質問に対する応答からも明らかであった。アプローチの制約も理解しており、その上での先行結果との比較も妥当であった。発表者自身が指摘したように、衛星観測による降込電子エネルギーの直接観測が時間空間的に制限されるのに対し、本研究のアプローチでは定常的かつ2次元的な推定が可能であり、今後の発展も大いに期待される。
山本 和弘
「Statistical Property of Long Lasting Poloidal Pc 4-5 Waves and Its Relation with Proton Phase Space Density Variations」(R006-23)
     Van Allen Probes衛星で観測された継続時間の長いPoloidal Pc 4-5脈動について、その励起エネルギー源を統計的に調査した。CME起因の磁気嵐回復相では、100 keV程度のプロトンフラックスが空間的に大きな勾配をもち、それをエネルギー源としてドリフトバウンス共鳴によって脈動が励起することを明らかにした。共鳴条件の検討に不可欠な経度方向の波数はイオンのジャイロ半径を利用した方法を用いて、-100から-200と求めており、多数のイベントに対して丁寧な解析を行ったうえで深い考察を行っている。これまでエネルギー源として広く信じられてきたプロトンフラックスのエネルギー勾配よりも空間勾配が重要であることを示したことは大きく評価でき、オーロラメダル賞に値するものである。
稲葉 裕大
「2017年3月28日にあらせ衛星で観測されたSARアークのソース領域における初めてのプラズマ・電磁場観測」(R006-27)
     SARアークについて、あらせ衛星とPWINGのNyrola全天カメラの観測データを使って、ソース領域の粒子・電磁場とオーロラ発光を同時観測した世界で初めての研究である。 発表ではSARアークの成因について、これまでの研究成果と残された課題について簡潔に示し、著者らの視点を分かりやすく示していた。さらにMEP-i、PWE/HFAから算出された電子密度からプラズマ圏とリングカレントの重なりがオーロラ発光と一致していること、またその場所にEMIC波動が見受けられなかったことなどの観測事実を丁寧に示し、オーロラ発光のもととなる振り込み粒子が、EMIC波動によってもたらされているのではなく、クーロン衝突によってもたらされているとの結論を示した。 オリジナリティーのある研究であり、将来的な展開も期待できる。またデータの解析方法、解析結果の解釈等に無理がなく、素直に事実を積み上げて新しい知見を得る研究姿勢は好感が持てる。さらに、発表者が研究内容について隅々までよく思考し、理解したうえで発表に臨んでいることが質疑応答の様子等からも見て取れ、オーロラメダル賞として十分に評価できる研究発表であると判断した。
伊藤 大輝
「Flux decrease of outer radiation belt electrons associated with solar wind pressure pulse: A Code coupling simulation」(R006-40)
     太陽風変動に起因して放射線帯外帯の電子が消失するメカニズムの有力な候補の1つとしてあげられる磁気圏境界面消失について,Global MHDシミュレーションとテスト粒子計算を連成させて計算することで,磁気圏境界面消失による高エネルギー電子の消失過程に新しい考え方を提唱した.高度な研究手法を用いたにもかかわらず,導入から結論までのプレゼンテーションは図表・スライドの構成なども含めて,明快でわかりやすく,研究内容を深く理解していることが窺えた.「更なる説明が聞きたかった.」という審査員の声も多かったが,このことは短い時間の発表で多くの聴衆に研究の要点を伝えることに成功した証拠であろう.「あらせ」観測をはじめ,今後の観測データを用いた実証可能性に関する研究の展望についてはもう少し具体的なものがあるとよかったと思われるが,この点を差し引いたとしてもオーロラメダルにふさわしい発表であった.観測による実証可能性について考察を深めるなど,更なる研究の発展を期待する.
新城 藍里
「あらせ衛星と線形解析による電子サイクロトロン高調波とその発生環境に関する考察」(R006-44)
     低緯度夜側のプラズマ圏境界面の外側で頻繁に観測される電子サイクロトロン高調波(ECH) の内,その強度が突発的に強くなるタイプの現象について,その強度変化の要因となり得るECH発生時のプラズマ環境の考察をするために,「あらせ」衛星では直接観測できていない低温コア電子の分布をインターフェロメトリモードによるECH波形観測から位相速度を求めることでコア電子の温度導出を試みたユニークな解析結果が報告された.研究の背景やインターフェロメトリ観測とその解析手法,得られた結果についてバランスよく説明され,全体的にわかりやすく明快なプレセンテーションであった.コアおよびホット電子密度の推定とその分散関係への影響について慎重に考察を行った上で,位相速度の解析に進む丁寧な議論がなされるなど,研究課題を確かに自分のものにしていることが窺え,オーロラメダルに値する発表であったと評価された.物理過程や解析結果の物理的解釈について,波動の専門家以外にも概要が伝わるような説明・質疑応答ができるように,更に高いレベルを目指して研究を進めることを期待する.
●優秀発表者への講評

樋口 琢海
「高強度レーザーを用いた衝撃波リフォーメーションの実証実験」(R008-P06)

     受賞者らの研究グループは、高強度レーザー施設を用いて無衝突衝撃波の形成を実験室で再現するという野心的なテーマに取り組んでいる。今回の発表内容では磁化衝撃波の形成を撮像することに成功しており、その成果は高く評価したい。また、グループの一員として実験内容・結果について深く考察できており、 発表内容としても評価できる。一方で、まだ実験の初期結果報告の側面もあり、優秀発表賞にとどまった。レーザー実験室宇宙物理学の分野は近年その進展がめざましく欧米を中心に多くの成果が出されている。日本からもユニークな成果が今後も出されることを期待したい。
江袋 叡
「Large-scale signatures of pulsating aurora characterized by ambient parameters in the magnetosphere」(R006-11)
     脈動オーロラの時間変動は、数から数十秒周期の主脈動と1秒以下の周期の内部変動から構成されている。本研究は、低緯度側から、内部変動のみ・主脈動のみ・両者共存という特性の異なった3つの領域が同時観測された事例に対応して、磁気圏側でのコーラス波動と電子との共鳴条件の位置依存性をシミュレーション結果を基に議論した。発表者は、研究背景から対象事例の説明、シミュレーション結果の考察にいたるまでを論理的に構成し、専門外にも理解しやすく説明する工夫が見て取れた。興味深い事例だけに、観測やシミュレーションがどの程度一般的であるのか、あるいはその事例が特異であるのならば何故特異なのか、今後の発展が楽しみである。
山川 智嗣
「ドリフト運動論モデルに基づく環電流イオンとのドリフトバウンス共鳴によって励起されるstorm-time Pc5 ULF波動の研究」(R006-24)
     研究の重要性: ポロイダル波動は磁気圏で頻繁に観測されるが、理論的な面ではSouthwood の線型理論の検証がほとんどで、磁気圏の双極子磁場を考慮したグローバルな数値実験はこの現象の時間空間発展の理解のためには必要なステップである。今回の発表は以前から続けている研究の現状を報告するものである。今回の発表においてはイオン真夜中を中心に注入し、その結果として励起される、二種類のポロイダル波動(Pc3とPc5)についての結果が報告された。期待されるようにこれらの波動は午後側において発生し、経度方向の波数は比較的大きな値(〜20)を持つことが示された。これらの波動は理論的に期待される、drift-bounce resonance を介在する波動粒子作用により発生していることが確認された。またPitch Angle =九十度について非対称的な分布関数を導入することにより、赤道に対して反対称な波形を持つ波動を強く励起することも示されている。
     発表内容の理解しやすさ: スライド、口頭による説明とも簡潔かつ明瞭で非専門家にもふさわしい内容であった。
     要望点: この数値実験の限界、例えば空間的分解能、数値的エネルギー喪失、について最初に説明するべきある。またPitch Angle =九十度について非対称的な分布関数で波動を励起しているが、この理由について説明が不足していた。対称的な分布関数を用いた場合との比較についても言及するのがのぞましい。
生松 聡
「Relations between ULF waves and ion distributions in the magnetosphere: MMS observations」(R006-25)
     高速太陽風により励起されたULF波動が、ドリフトバウンス共鳴により酸素イオンを選択的に加速する現象を詳細に調査した。地上観測も用いて、波動の経度方向の波数を求め、その値を用いて、20-30 keV酸素イオンのみがドリフトバウンス共鳴の条件を満たすことを示した。研究の背景、目的、解析結果、考察もきちんと記述・説明がなされており、分かりやすい発表であった。今回の研究では外部磁気圏でのイベントを解析しており、リングカレントの酸素イオンダイナミクスへの寄与は小さいということであった。内部磁気圏での同様の現象が起こり得るかについて更なる調査に期待したい。
藤井 亮佑
「Statistical analysis for trunk structure of ring current ions using Arase ion observations」(R006-26)
    あらせ衛星MEPiとLEPiのenergy-time ダイアグラムに見られるTrunk構造Inverse Trunk構造に着目し、統計解析によって、空間分布や出現頻度などの特徴を調べた。また、粒子のバックトレースシミュレーションも実施し、Trunk構造Inverse Trunk構造の形成メカニズムの同定を試みた。730日間に渡る長期間のH+,He+,O+のデータから、多数のTrunk構造・Inverse Trunk構造を選別した上で、He+のtrunk構造・Inverse構造の空間分布やピッチ角分布について明らかにしており、根気強く研究を行っている印象を受けた。今後の研究の進展を期待したい。
高田 雅康
「Molecular ion upflow observed by EISCAT in conjunction with Arase during the September 7, 2017 magnetic storm」(R006-28)
    磁気圏で観測される分子イオンの、電離圏からの供給・輸送メカニズムについての研究である。 あらせ衛星MEPiがTOFモードで取得したデータを用いて、2017年9月8日16-18UT付近(磁気嵐主相中)に磁気圏で分子イオンが観測されたことを示し、さらにEISCATデータから電離圏でイオン加熱と上昇流が起こっていたことを示した。そのうえで再結合による分子イオンの減少率も考慮に入れて、上昇流による摩擦加熱により、低高度電離層から分子イオンが上方に輸送され、磁気圏に流出しているのであろうと結論付けた。研究の背景や目的、解析結果、考察は簡潔に整理して説明されていたが、もう少しゆっくりはっきりと話したほうがより分かりやすい発表となるだろう。質疑応答での共役観測の意義の明確に説明できなかった点はやや残念。今後の発展を期待する。
岡崎 ほのか
「衛星帯電緩和ビームによるプローブ電場計測干渉に関する粒子シミュレーション」(R006-P30)
     宇宙プラズマ流中を飛翔する人工飛翔体の能動的電位制御によって生じる、周辺電位・電界のプローブ計測への影響を計算機シミュレーションによって調べ、衛星周辺に現れる複雑なウェイク構造が計測に影響することを明らかにした。シミュレーションで表現しきれていない点についての言及もあり、将来の衛星設計に紐づく重要な研究であると評価できる。説明は丁寧かつ明快であり、発表内容をきちんと伝えるための努力がなされていた。今後は現在の課題の範囲にとらわれず、独自性・独創性を強みとする研究を期待する。
菊川 素如
「粒子センサ用高速粒子検出回路の集積化に関する研究」(R006-P31)
     宇宙プラズマ観測用の低エネルギー荷電粒子分析器のアンプ回路をASIC(特定用途向け集積回路)化することでセンサの小型・省電力化を目指す開発に関する発表であった。具体的には、製作したASICの実験データと事前シミュレーションの不一致(実機のゲイン不足)という、避けては通れない問題に対峙し、事前に考慮していなかった実装回路の寄生容量が形成するローパスフィルタが原因となっていることを突き止め、再設計を実施した。発表者は、宇宙・惑星プラズマの直接観測において粒子計測が必須であり、粒子分析器の小型化がミッションの実現性を左右することを理解して積極的に研究に取り組んでいる様子がうかがえた。改良版ASICの試験結果報告が楽しみである。
菅生 真
「惑星探査用高エネルギー電子観測器のASIC開発」(R006-33)
     将来の惑星探査計画での高エネルギー粒子計測器のためのフロントエンド回路をASICとして実現するための検証結果が発表された。X線天文衛星で開発されたASICをAPDで利用するための性能要求を明確化し、それを実現するための回路変更を回路シミュレータで検討した。シミュレーションによりAD変換部より前段の回路設計を決定し、試作への道筋をつけた。発表はよくまとまっており、研究内容を十分理解していることが伺えた。搭載機器開発は詳細な設計検証が続くが、今後も将来の粒子計測器開発に向けた斬新な改良の提案を期待する。
渡邊 香里
「地球磁気圏尾部リコネクション領域におけるイオン・電子温度のフロー速度依存性」(R006-38)
     磁気リコネクションによって「磁場エネルギーが電子とイオンにどのように分配されるのか(磁気リコネクションのエネルギー分配問題)」について,最新のMMS衛星の観測データを用いて,磁気圏尾部リコネクション領域の巨視的な構造を参照しながらプラズマパラメータのプロファイルの解析を行い,その結果の議論がなされた.問題設定から導入,結果の考察まで丁寧に説明がなされ,全体的によく整理された完成度の高い発表であった.また,質疑応答からは研究対象への深い理解が窺えたことから,高い評価が得られた.解析結果に対する物理的な考察がもう少しなされていれば,オーロラメダルを受賞してもおかしくはなかった.研究結果の位置付けをより深め,今後更に研究を発展させることを期待する.

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