●総評
いわゆるコロナ禍のため初の全面オンライン開催となった今回の講演会において、学生を含むすべての発表が口頭となった。普段よりもやりづらく、準備や発表も難しい大会であったであろうが、学生による発表数は例年と変わらず、かつ、各研究の完成度も例年と遜色ないものとなった。
第1分野は学会の中でも固体地球分野全般を網羅する広い領域の研究が揃っており、発表のバリエーションには感心するばかりである。「R003地球惑星内部電磁気学」セッションでは、MT法を使用して活動的な火山の下や海底下の比抵抗構造を求めマグマの移動・噴火やプレート境界地震などとの関連性を考察するもの、比抵抗研究の基礎となる岩石の抵抗値を精密に求めようとするもの、津波が励起する電磁場のモデル計算をするものなどの研究発表があった。一方、「R004地磁気・古地磁気・岩石磁気」セッションでは、地球ダイナモにおける境界条件や逆転条件の数値シミュレーション、火山岩や堆積物を用いた地磁気永年変化の研究、海底堆積物の相対古地磁気強度に関する生物起源磁鉄鉱の評価を含めた研究、火山土石流・接触岩体・プレート拡大軸付近などの場所において古地磁気測定から年代や地質現象を読み解く研究などがあった。いずれも、堅実にデータを出し解析したもの、新手法を提示し挑戦的な研究に挑むもの、さまざまな種類のアプローチで聴衆の知的好奇心をくすぐったのではないか。
今回の審査では、結果的に完成度が高い研究からオーロラメダル受賞者を選出したが、学会発表における荒削りなものは大歓迎である。次回も「発想は大胆に、作業は緻密に、考察と解釈は攻撃的に」分野の将来を期待させる研究が発表されることを期待する。
●メダル受賞者への講評
馬場 章
「富士山における紀元前1000年から西暦1100年にかけての地磁気永年変化曲線」(R004-01)
受賞者はこれまで、富士山から噴出した溶岩の古地磁気方位を測定してきた。今回の発表では、そのうち約3000〜900年前の溶岩流が示す古地磁気方位についてデータを年代順にまとめ、接続して地磁気永年変化のモデル曲線を提示した。古地磁気データからモデルを作成する場合、通常データ誤差等に起因するモデルのばらつきを制御するため何らかの緩和項を導入するが、今回は古地磁気分野でも用いられ定評のあるABIC(赤池ベイズ情報量規準)を使用してモデル緩和項の適切なウェイトを求めた。本モデルは、従来からある考古試料や堆積物から得られた永年変化曲線とおおむね調和的であり、それらのカバーが不十分な部分については説得力のある新たな知見を示している。何と言っても今回のモデル作成に使用したデータはすべて受賞者自身が測定したもので、質量ともにとても優れており、それがモデルの出来を担保していると言っても過言ではない(発表中示した全データのサイトごとのα95の平均が約2度と言うのは火山岩として驚異的に良いものである)。 以上のように、研究の完成度は高く、オーロラメダルに選出するのに申し分ないものと判断した。
●優秀発表者への講評(セッション記号順)
井上 智裕
「広帯域MT法探査から推定される雌阿寒岳の3次元比抵抗構造とマグマ供給系」(R003-05)
本研究は、雌阿寒岳の最近の活動や周辺の地熱地帯に注目して、3次元比抵抗構造を推定することにより、マグマや熱の供給系を明らかにすることを目的としている。このため新たにMT法探査を行い、逆解析結果のうち特に注目する箇所に対する感度を丁寧に検討し、観測データを説明するために必要な低比抵抗異常の位置と規模を明らかにした。位置関係の表示方法には多少工夫の余地が残るものの、解析結果と既存の各種調査を比較しながら進める解釈には説得力があり、今後のさらなる進展が期待される研究発表であった。特徴的な構造である山頂直下から深部へと続く低比抵抗体には、火道に関連する構造という解釈がなされたが、最近調査したという追加データによって、その詳細な分布を推定し、どのような物理状態が考えられるかなど検討を深めてほしい。
Agnis Triahadini
「UNDERSTANDING UNZEN VOLCANO MAGMATIC SYSTEM USING BROADBAND MAGNETOTELLURIC OBSERVATION」(R003-06)
本研究は、雲仙火山のマグマ供給系の解明を目指して、島原半島の広い範囲においてMT法比抵抗構造探査を行い、推定された3次元比抵抗構造を既存研究と比較検討したものである。島原半島に広く分布する高比抵抗域は、過去に貫入したマグマの蓄積による深成岩体と解釈される一方、半島西深部から上昇して雲仙火山に達すると考えられているマグマ供給路は、低比抵抗と想定されるが探査分解能より規模が小さいため見つけられていない可能性があるとされた。発表全体として目的、手段、結果と課題が明瞭に示されていて聞き手が理解しやすく、また解析や解釈においても適切な検討がなされていた。発表時点で進行中の補完調査の結果をもって、最新の地震波速度構造と対比するという今後の道筋も示されていることから、次の段階として火山学的にもより踏み込んだ解釈がなされることを期待したい。
鈴木 健士
「電気トモグラフィーのために必要な岩石試料表面の電位分布面的測定手法の性能評価」(R003-09)
本研究では、岩石試料内部の比抵抗構造を推定する電気トモグラフィーの実現を目指し、試料表面に多数配置した電極を使用して電流を印加し、電圧を測定する手法を開発している。このため岩石表面に接する微小な電極による測定が必要であるが、一般的にこの方法で安定的に正確な測定をすることは難易度が高いと考えられる。そこで、測定装置に改良を重ね、均質試料および簡単なダイクを模擬した試料について、面的に多数配置した電極による測定結果と理論値がよく一致することを示した。鈴木君は、本研究の途中成果について2017年度のオーロラメダル賞を受賞したが、今回の発表では、継続してきた研究の過程を改めてわかりやすくまとめ、またその後の測定手法の改良によって一定の精度での測定が可能であることを示したことが着実な進捗の成果として評価される。今後は、不均質構造に対する感度検証とそのフィードバックとしての改良をさらに充実させるなどして、目標であるトモグラフィーの実現に向けて進めて欲しい。
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