SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2020年度 第3分野講評
審査員:
    吉川 顕正 (九州大学, R006代表), 篠原 育 (宇宙科学研究所, R006代表), 坂口 歌織 (情報通信研究機構, R007/R010代表), 松清 修一 (九州大学, R008代表), 池田 昭大 (鹿児島工業高等専門学校), 岩井 一正 (名古屋大学), 大矢 浩代 (千葉大学), 門倉 昭 (極地研究所), 北村 成寿 (東京大学), 久保田 康文 (情報通信研究機構), 近藤 光志 (愛媛大学), 銭谷 誠司 (神戸大学), 土屋 史紀 (東北大学), 中溝 葵 (情報通信研究機構), 松岡 彩子 (京都大学), 松田 昇也 (宇宙科学研究所), 松本 洋介 (千葉大学), 三澤 浩昭 (東北大学), 三宅 洋平 (神戸大学), 渡邉 智彦 (名古屋大学), 渡辺 正和 (九州大学)

●総評

    ○代表審査員A
      多くの発表について洗練されたプレゼンテーションが準備されており、発表内容についても非常に聞きやすかったです。学生と学生以外のプレゼンスキルの差はほとんどないように感じました。ただ発表の巧さとは裏腹に、質疑に対する受け答えの中で、研究課題の理解度や、結果の考察・物理的解釈に関する咀嚼の不十分さが目立つことが多かったようにも感じました。自身の研究課題に対する理解度や成果の解釈は、近い研究をしている人と話をすることで磨かれることもあります。学生の皆様、次の学会ではご自身が気になった発表の質疑応答や討論時間に発言してみてはいかがでしょうか?発言をしてみるとディベート力アップにもつながります。
    ○代表審査員B
      どの発表もスライドがわかりやすく準備されており,研究内容やその結果について複雑な内容も簡潔に説明できている,など,プレゼンテーションの技術の全体的なレベルが高いことが感じられた.設定した研究目標に対して着実に研究を進め,成果が得られている発表も多かった.しかし,結果を合理的に解釈し発見に繋げることが出来ているものと,結果を見せるだけに留まっているものとがあり,結果に対する考察のレベルが評価の差の最も大きな分かれ目になったと思われる.また,研究の独創性・新規性・有用性はプレゼンが十分に強調できていない発表も散見されたが,普段から研究内容の位置付けやその成果が与えるインパクト・波及効果など,もう一段上から見た問題意識を持ち,それを意識して発表を組み立てると,より多くの聴衆に伝わる発表になると思うので,心懸けて頂きたい.今回ははじめてのオンライン学会であったが,全員,映像越しの発表や質疑応答も難なくこなしており,事前に十分な準備がなされていることが垣間見えて,好印象であった.
    ○代表審査員C
      受賞者を含めて将来性を感じさせる発表が多かったので、今後の発展には大いに期待している。一方今年の傾向として、研究のレベルは高いが発表に改善の余地があるもの、発表自体は悪くないが質疑応答が心許ないものなどが目についた。研究の進展具合は費やした時間(学年)に応じてさまざまだが、プレゼンテーションの完成度はこれとは関係なく高めることができるはずである。日ごろから研究に主体的に取り組み、機会をとらえていろんな人と議論を重ねることで、他者に成果を伝えるときのツボや質問者の意図を的確に汲み取る能力が磨かれるだろう。他者との議論という面では、コロナ禍の今年は研究環境が制限され難しい面はあったと思うが、だからこそ普段以上に特に意識して取り組んでいただきたい。
    ○代表審査員D
       コロナ禍の中、初めて全員口頭発表の学生賞審査となった。  当該審査グループに於いてはまず、特に高学年次の学生については非常に高レベルの発表が数件挙げられたが、前回、前々回の発表との差分により、発展途上、新しい展開へと入りつつあると判断したもの関しては、授賞は見送り、更なる展開を期待するという形に納めている。また、内容は高度であるものの、研究の意義、特色、独創性などについて十分な咀嚼がなされていないと感じられる発表も多く見受けられた。この点、自覚がある方については、是非ブラッシュアップをお願いしたい。一方、研究内容と発表そのものに大きな自身を持って研究に臨んでいると自負している方については、是非、研究の意義や独創性について、全体を俯瞰しながらのアピールにも注力していただければと思う。  また、近年大きなプロジェクトの中で研究を進めるが故に、先達の研究の積み重ねが分厚く、独自性の発揮や、What’s newのアピールが年々難しくなっているという審査員側の意見も挙がっている。そのような中で聴講者が期待しているのは、積み重ねの中から得られる結果の重要性や、実証ロジックについてのアピールであり、はっとさせるような独自の視点の導入である。実際手を動かして、研究を遂行している人にはそれを語るチャンスと資格が誰よりもあるということを十分に意識して、発表資料作りに臨む事を期待する。

●メダル受賞者への講評

伊藤 義起
「Computer simulations of precipitating electrons through chorus-wave particle interactions」(R006-046)

    内部磁気圏において電子の加速・損失に関わると考えられている Lower Band Chorus 波について,計算機シミュレーションにより,高エネルギー電子のピッチ角・エネルギー分布の時間変化およびその波動の振幅依存性を中心に定量的な解析を行った研究発表である.Lower Band Chorus 波との相互作用により,低・中ピッチ角分布の電子が phase trapping により高ピッチ角に変化し,電子の降り込みが抑制するとともにバタフライ分布が形成されることを明らかにした.研究のモチベーション・研究手法と結果の説明ともにわかりやすく,定量的に丁寧に研究を進めている姿勢が感じられ,関連する先行研究や衛星観測結果も適切に紹介されていた.電子のバタフライ分布の形成過程について,本質的に重要な特徴を中心に考察できているなど,幅の広い内容を含むオーロラメダルにふさわしい発表であった.更なる観測との比較を進めることなど,今後の発展への期待も高い.
伊師 大貴
「地球磁気圏X線撮像計画 GEO-X に向けた超軽量X線望遠鏡のプラズマ原子層堆積法による Pt 膜付加工」(R006-067)
     地球磁気圏X線撮像計画 GEO-X に搭載する X 線望遠鏡の X 線反射率向上に向けた膜付加工法に関する研究発表である.従来手法では核形成遅延による表面粗さの悪化が見られ,GEO-X の科学観測に求められる表面精度 (2 nm rms) を達成できていなかったが,成膜手法として新たにプラズマ原子層堆積法を導入することにより,目標とする表面制度を達成することに成功した.将来的には更に高い性能を達成できる可能性を示すなど,発展性も大いに期待される.研究開発はグループで行っているものと思われるが,発表者自身が GEO-X の科学観測を支える重要な役割を担い,開発の主力となっていることが窺え,求められる数値目標を発表者自身の努力で達成したことは,高く評価されるべきことであり,オーロラメダル賞に値する.発表自体も堂々としたレベルの高いプレゼンであった.
寺境 太樹
「A fluid closure in wavenumber space to model cyclotron resonance of hot magnetized plasmas」(R008-016)
     プラズマシミュレーションは、粒子運動を再現する粒子・ブラソフ法と、プラズマ群のモーメント量の時間発展を見る流体法に大別される。大規模現象を解くには、前者の計算負荷は非常に大きく、後者では再現性に難がある。この両者の間を埋めるため、プラズマの高次モーメントを解く拡張流体方程式系の開発が活発に行われている。高次のモーメント式を解くには、何らかの仮定を用いて方程式を閉じる必要があるが、本発表は、フーリエ空間内で熱流束を低次モーメントの線型結合で表すクロージャー方程式を提案している。提案手法は、プラズマZ関数に比例係数をあわせてあるため運動論の分散関係と親和性が良い。発表者はさらに、提案手法が温度異方性不安定に応用できることを数値シミュレーションで示した。  本発表は、新しいフレームワークの構築を目指す志の高い研究であり、折々に式の解釈も示されるなど、発表者本人の高い理解度が伺えた。少しフランクな話し方など、発表技術は決してベストではなかったが、研究内容を含む総合面で最も高い評価を得た。一方、今年の学生賞審査会は、そもそもオーロラメダルを出すか出さないか、という議論から始まった。競争の激しい年であれば、本発表も表彰ラインに残らなかった可能性もある。発表者は、今回の受賞に満足することなく研鑽し続けていただきたい。
●優秀発表者への講評(セッション記号順)

矢野 有人
「3D-current structure associated with auroral electrojet」(R006-003)

     Hall-MHD simulatorの開発をつうじて、Alfven波の連続的な入射による3次元オーロラジェット電流系の模式的再現を試みた研究である。  オーロラ帯境界領域でのHall電流・Pedersen電流発散による分極場生成及び、分極性沿磁力線電流の発生など、先行研究で確認されている「薄層電離層へのAlfven波の入射により形成される電離層電流系の特徴」について、3次元初期値発展問題の観点から再現することに成功しており、研究の主題として掲げている、「サブストームの発生過程における3次元磁気圏電離圏結合系の解明」に向けた準備が、順調に進んでいることが伺える発表であったことが、高く評価された。  一方、同様のHall-MHDを用いた先行研究のレビューや、得られた計算結果に関する物理的解釈に関しては十分とは言えず、今後の研究の進展に伴いブラッシュアップされていくことを期待する。
中村 勇貴
「Modeling of SEP induced auroral emission at Mars: Different behaviors of electron and proton in the presence of crustal fields」(R006-010)
    固有磁場がない火星では、太陽由来の高エネルギー粒子(SEP)が直接大気に降下することでディフューズなオーロラが発生する。本研究で発表者らは、モンテカルロ法による火星大気の衝突・輸送モデルを開発し、先行のモデル研究が100keV電子のみを考慮しているのに対しMeVプロトンも考慮に入れることで、火星オーロラの発光高度分布の再現、および、その発光源の同定に迫った。 従来、電子が発光源と考えられていたのに対し、プロトンの方が強くオーロラを光らせ、かつ観測されるプロファイルを説明可能であること、さらに残留磁場領域では、電子とプロトンの振る舞いの違いから発光に寄与するのはほぼプロトンである可能性を示し、将来観測への示唆を与えた。問題設定の明確さ、独自の数値モデル開発、考察のための数値計算の使い分け、観測的制約等からくるモデル化の限界の認識、すべてにおいて完成度の高さが伺えた。但し、説明時間が大幅に超過していたことは留意いただきたい。後の進展が楽しみである。
大矢 健斗
「Study of the seasonal dependence of SAPS occurrence using the SuperDARN radars」(R006-053)
     リングカレントを起源とする高速西向きプラズマ流 (Sub Auroral Polarization Stream: SAPS) について,7基の SuperDARN レーダーと衛星観測とを組み合わせ,発生頻度の季節依存性を調べた研究発表である.観測地点毎に季節依存性の傾向が異なる一見複雑な観測結果についてその理由を考察・解釈することで dipole tilt angle の考慮が必要となる可能性を示した.研究目的や解析方法の紹介は丁寧かつ論理的であり,分かりやすい発表であった.今回の結果は今後の解釈を進めていく上での重要な手がかりを得ていると考えられる.質問で指摘された電気伝導度の寄与や他の研究結果との整合性を含め,得られた手がかりを活かして更に考察を深め,季節依存性の差異を実際に説明できるかどうか,今後の研究で明らかにされることを期待したい.
千葉 翔太
「Spacecraft radio scintillation observations of the solar wind acceleration region in different solar activity periods」(R007-006)
    あかつき衛星のビーコンを用いた電波掩蔽観測による太陽コロナ/太陽風加速領域の研究発表であった。限られた観測機会での解析結果であるが、コロナホール域とそれ以外の領域から流出する太陽風プラズマに速度と散逸スケールの距離依存性の違いが示されたことは大事な成果であり大変興味深い。今まで議論ができていない太陽近傍で、太陽風速度やプラズマの散逸スケールを導出しモデルと比較した興味深い結果であり、ぜひ投稿論文としてまとめて欲しい。乱流状態のプラズマによる電波の散乱現象という比較的複雑な現象を扱っているが、研究の背景・解析手法や原理・解析結果、それぞれの説明もわかりやすかった。講演・質疑における解析結果の説明に今一歩のところがあり、今回は次点の優秀発表者への推薦となった。研究目的である太陽風加速過程究明に向け、本結果の更なる検証と、特に、本結果が与え得る物理過程への制約について考察を深められることに期待する。本結果を論文にまとめる過程で結果を自分なりに咀嚼すれば、オーロラメダルに十分に値する研究へと発展するだろう。
石澤 元気
「Study of the nonlinear scattering of energetic electrons into the loss cone by coherent whistler-mode waves」(R008-013)
     脈動オーロラやマイクロバーストの原因とされるホイッスラーモード波動による非線形電子散乱現象の詳細をテスト粒子計算手法により調査した。数百万に及ぶ電子の軌道追跡結果を丹念に解析することで、ロスコーンへの電子の散乱に関わる主要な物理機構を、エネルギーとピッチ角のレンジ毎に提示した。斬新なアイデアに基づく研究ではないものの、内部磁気圏におけるプラズマ波動現象の一端を数値解析により丁寧に調べ上げた研究として評価できる。プレゼンテーションとしても、研究の背景や目的、解析結果、考察、結論の流れが明解で、非常にわかりやすい発表であった。一方で、現在用いている簡単化のための仮定を取り除くなど、観測事実とのギャップを埋めるための取り組みが今後の課題である。今回は仮定された波動の下での散乱現象に焦点を絞った研究発表であったが、今後は波動粒子相互作用の効果を含めて電子加速散乱機構の全体像を明らかにする研究に発展させることを期待する。
西貝 拓朗
「Transition of dominant ion-scale instabilities and conditions for magnetic reconnection in strong perpendicular shocks」(R008-027)
     非熱的粒子の加速に寄与する無衝突衝撃波におけるプラズマ不安定性についての非常に興味深い研究であった。特に線形解析と2次元PICシミュレーションを用いたアルフヴェンイオンサイクロトロン不安定とワイベル不安定の成長率に関する物理パラメータ依存性については、説得力のある結果と考察がなされていた。ただし、磁気リコネクションへの発展についての考察がこれまでの話と比べてトーンダウンしていた点と、今後の研究への展望についての説明や、質疑へのより明確な回答が求められる。また、プレゼンテーションにおいては、説明が不十分である箇所やわかりにくい箇所があるなど、改善すべき点が見られた。高エネルギー粒子の起源にも関係する非常に重要な研究であり、今後の発展と発表者の発表技術の向上に期待する。
川口 慧士
「宇宙環境の時間変動を考慮した人工衛星帯電数値解析手法の開発」(R010-005)
     太陽活動による人工衛星障害の主因となる帯電現象について、宇宙環境の長時間変動に対応可能な高速数値解析方法の開発状況を報告した研究である。これまでの人工衛星帯電計算では衛星電位の定常解を求めることに対して、本講演で提案された宇宙環境変動を考慮した非定常な衛星電位を求めるという着眼点は、より実用的であり今後の発展に期待が持てる。特に、時間変動解析高速化のネックとなる衛星流入電流の定常解導出部分について事前計算によるデータベース化を行い、帯電電位導出ではデータの読み出しと積分のみで時短を図るアイディアは秀逸である。しかし講演では人工衛星を導体として扱っており、宇宙環境変動に対して非定常な衛星電位を求める手法が活かしきれていなかった。発表はよく纏められており、開発の背景とコンセプト、手法の解説、開発状況の説明は、何れも具体的で分かり易いものであり、質疑応答から今後解決すべき問題やその方法も十分読み取ることができた。今後の発表機会において、具体的数値を示し得るのであれば、時短化の目標値とその背景・理由、また、開発した手法での実現度合いについても紹介されると良いであろう。将来の発展に期待を込めて優秀発表者に値すると評価した。

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