SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2021年度 第1分野講評
審査員:
    大野 正夫(九州大学)、吉村 令慧(京都大学)

●総評

    昨年に引き続き、コロナ禍中での秋学会の開催となったため、すべての発表が口頭発表で行われた。研究活動に制限があったにもかかわらず、平時の研究活動に引けを取らない取り組みがなされていることを、それぞれの発表から強く感じ取ることが出来た。オンラインでの研究発表への慣れもあると思われるが、どの発表も洗練されており、学会発表に向けての発表者各人・所属研究室での入念な練習も垣間見えた。「R003地球・惑星内部電磁気学」セッションでは、審査対象発表の6件すべてが、地下の比抵抗構造に関連する発表であったが、取り組み方や結果の料理の仕方には違いがあり、異なる視点で興味深く発表を聞いた。構造解析プログラムの開発、構造の時間変化検出の試み、高分解能構造推定への取組み、結果の解釈の高度化など、分野の掲げる問題意識に具体的に取り組む研究であった。さらに先を見据えて研究を進めてほしいが、時に型破りなアプローチなど若さを前面に押し出した取り組みも期待したい。「R004地磁気・古地磁気・岩石磁気」セッションでは、審査対象発表は7件であった。7件の研究対象を順に記すと、海洋磁気異常、地磁気ダイナモ、火山岩、海底堆積物、マンガンノジュール、ラハール堆積物、磁性細菌であり、二つと同じものがなく、しかも地球科学の広い範囲をカバーするものであった。そしてそのいずれもが、興味深いテーマを掲げて聴講者の好奇心を刺激するものであり、またかなり完成度の高いものであった。第一分野の審査対象の研究発表は、総じて高いレベルの発表であったと評価しているが、特に独創性、将来性・発展性、主体性を重視して、オーロラメダル受賞者・優秀発表者を選考した。惜しくも選考に漏れた発表も、受賞発表と大きな差はなかった。学生諸子には、これまでの研究に自分なりの色を添え、さらなる高みを目指した研究推進を期待する。

●メダル受賞者への講評

解良 拓海
「Energy transfer among the equatorially symmetric components of magnetic and flow fields during dipole reversals in geodynamo model」(R004-03)

    本研究は、ダイナモシミュレーションに基づき地球磁場の逆転過程を研究したものである。逆転の成因として浮力が重要であるという研究とローレンツ力が重要であるという研究の二つの先行研究を背景とし、この両方の視点を同時に適用することで逆転の物理過程をより詳細に調査した独創的研究であると評価できる。今回は一例を示すにとどまっているが、逆転過程において重要と思われる要素を見出すことに成功している。今後事例を増やし、対象となるパラメータ範囲を広げることで結論をより確かなものにすることを期待する。なお地磁気ダイナモの研究でオーロラメダルを受賞するのは本研究が初めてではないかと思われる。ダイナモの研究発表は、専門家以外には難しく感じられるのも一因かもしれない。本発表でも数式が多く審査員には難解であったが、プリュームがトリガーとなって地磁気が逆転する様子のカラフルな動画などは解りやすかった。近年の計算機能力の向上に伴い、ダイナモシミュレーションは一層精緻になってきており、古地磁気学で得られる磁場変動の時系列データとの比較も進むであろう。今後の発展に大いに期待が高まる。
●優秀発表者への講評(セッション記号順)

井上 智裕
「広帯域MT法探査から推定される雌阿寒岳のマグマ供給系と浅部熱水系」(R003-11)

    本研究は、雌阿寒岳周辺の地下比抵抗構造を3次元的に明らかにすることにより、マグマ供給系や浅部の熱水系を明らかにすることを目指している。昨年の発表では、雌阿寒岳深部に顕著な良導体を検出するなど非常に興味深い結果を得ていたが、本年は浅部の熱水系との関係をさらに追究するために、データの不足していた山頂付近での追加観測を実施し、より詳細な構造を報告した。さらに、得られた構造モデルに対して、メルト分率での解釈を試みるなど、興味深い研究発表であった。推定された詳細構造はもちろんのこと、研究過程において露わになった問題点に自発的・主体的に取り組む姿勢は高く評価できる。深部から浅部に繋がる良導体について、実態に迫るための検討を進めているとのことで、さらなる進展に期待したい。
伊藤 圭
「弾性波探査およびボーリング調査結果を用いた阿寺断層帯主部南部の地下比抵抗構造の解釈」(R003-13)
    本研究は、活断層調査にMT法探査を活用するために、他の地球物理学的データや地質データが充実している阿寺断層を対象として、推定された地下比抵抗構造の検証・解釈を丁寧に行った研究である。特に、AMT調査測線上で実施されたボーリングの検層データとの対比では、得られた比抵抗構造と明解な対応関係が見られることが示され感嘆した。さらには、弾性波探査との対応関係を示すとともに、比抵抗構造の水平方向コントラストを判断基準に断層浅部の地下形状を推定できる可能性を指摘した。他の調査データとの比較を丁寧に行い、比抵抗構造が持つ意味をしっかりと検討している点を高く評価した。今後は他の活断層での調査結果と対比することにより、普遍的に現れる特徴的構造を明らかにするなど、他データの少ない断層での活断層調査への活用方法を追求してほしい。
片野田 航
「南太平洋で採取されたマンガンノジュールの古地磁気学的解析による回転の復元」(R004-14)
    本研究は、古地磁気学的観点から、マンガンノジュールの成長過程を明らかにしようとする意欲的な研究である。採取時の方向が明らかな試料をもちいて、古地磁気方位の変化から成長時の回転の情報を得ようという点が独創的である。まずマンガンノジュール試料の磁性鉱物について、多様な手法を用いて詳細な岩石磁気研究を行った点が評価できる。結果に基づき、磁性鉱物の起源についても考察している。さらにマンガンノジュール試料を細かい部分に分けて古地磁気方位を測定することで、表題にある成長過程における回転の復元を試みている。その結果から、マンガンノジュールが成長過程でゆっくり回転したという解釈は興味深いが、得られた磁化方位の分析・解析にまだ検討の余地があるように思われる。今後の研究の進展に大いに期待したい。

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