SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2021年度 第3分野講評
審査員:
    海老原 祐輔(京都大学:R006-2代表)、家田 章正(名古屋大学:R006-3代表)、成行 泰裕 (富山大学:R007/R008代表)、坂口 歌織 (情報通信研究機構:R006-1/R010代表)、門倉 昭(国立極地研究所)、北村 成寿(東京大学)、齊藤 慎司(情報通信研究機構)、小路 真史(名古屋大学)、能勢 正仁(名古屋大学)、江副 祐一郎(東京都立大)、尾花 由紀(大阪電通大学)、笠原 慧(東京大学)、風間 洋一(台湾中央研究院)、河野 英昭(九州大学)、田口 聡(京都大学)、池田 昭大(鹿児島高専)、今城 峻(京都大学)、北村 健太郎(九州工業大学)、中野 慎也(統計数理研究所)、西谷 望(名古屋大学)、成行 泰裕(富山大学)、天野 孝伸(東京大学)、梅田 隆行(名古屋大学)、北原 理弘(名古屋大学)、徳丸 宗利(名古屋大学)、中村 雅夫(大阪府立大学)、山崎 敦(宇宙科学研究所)

●総評

    ○代表審査員A
      科学的思考力を備え、且つ将来性や独創性に富むと判断された方が受賞していると思う。科学的思考力については、1:先行研究を良く把握し、2:得られたデータを合理的に分析し、3:論理的な考察により知見に昇華することができたかが観点となろう。一言で言えば、一貫した思考の柱を持っているかである。磨き上げられた柱は強く美しい(独創性)。そしてどこまでも伸びていく(将来性)。柱を磨くのは自分以外になく、一朝一夕にできるものではない。日々、努力してほしい。
    ○代表審査員B
      全員がZoomを用いたオンラインでの口頭発表であった。多くの発表は、研究内容や発表自体のレベルが高く、質疑に対する応答も積極的であった。その中でも特に優れた発表では、研究課題に対する理解が深いと思われた。例えば、使用した研究手法の意味や、先行研究との違い、研究結果の解釈などを、自ら考察し他者と議論することにより、深く理解していることが、発表や質疑応答から感じられた。また、全般的な傾向として、研究課題の位置づけを意識すると良いと思われた。例えば、グループでの継続的な研究の一環ならば自分の果たしたことを強調する、観測機器やソフトウェアの開発ならばサイエンスとの結びつきを考察するなどである。研究課題を俯瞰することにより、聴衆が理解しやすくなるとともに、研究課題の理解がさらに深まると思われる。
    ○代表審査員C
      素晴らしい発表がたくさんありました。 発表スライドはわかりやすく準備され、研究背景や内容・結果について体系的にまとめられていて、プレゼンテーション技術が高いことが感じられました。ただ、研究課題の設定に関する主体性や、結果に対する考察・物理的解釈に関しての物足りなさを感じる発表も多かった様に思います。 最初の研究課題は、指導教員から与えられる場合が多いかもしれませんが、それをこなすだけでは研究ではありません。 オーロラメダルのポイントは学生発表賞規約に書かれている通り「独創性」と「将来性」です。学生の皆さんの研究が、今後の大きな発見へ発展していくことを期待しています。
    ○代表審査員D
      学会を通じた印象では、全体的に学生発表の質が高く、今回オーロラメダルや優秀発表者に挙がらなかった講演の中にも発表者の日ごろの努力がうかがえるものが多かった。オンライン学会1年目だった昨年度と比べて、発表の平均レベルも上がったような印象を持った。一方で、研究発表として抜きんでた講演が少なく、関連研究の掘り下げや結果の解釈、考察に甘さが目立つ研究も多かった。願わくは、指導教員や先輩の研究を発展させる場合や、大型のプロジェクトの中で研究を進める場合でも、一研究者として独自の視点を提供する意識を忘れないで欲しい。経験豊富な研究者に囲まれている場合、どうしても耳学問に頼りがちになるが、独創的な研究には地道に自分で直に文献に当たることが不可欠である。先行研究の理解の過程で自問自答を繰り返すことが、自分自身の研究に深みを与え、ひいては学会発表のような場でスムーズに質疑応答をこなす力にも繋がる。これらは当たり前のことだが、当たり前のことを疎かにせず、今後も努力を続けて欲しい。

●メダル受賞者への講評

山川 智嗣
「Two types of storm-time Pc5 ULF waves excited in the Magnetosphere-Ionosphere coupled model」(R006-014)

    電離圏ポテンシャルソルバーと磁気圏の運動論を含めたシミュレーションコードを結合させ、磁気圏尾部からのイオンのインジェクションに伴う磁気圏内部起源のPc5波動の励起について詳細に議論を行った。ULF波動にとって境界条件となる電離層電場を考慮する事が可能になったことによって、内部磁気圏で波動-粒子相互作用するイオンの数が増え、より大振幅のULF波動の励起が再現できるようになってきている事を示した。更にモデル内の異なる領域におけるULF波動の励起について、位相空間密度のエネルギー勾配と空間勾配に起因するものそれぞれについての成長率を導出し、どちらが成長の原因となっているかをクリアに示した。モデル自体も含め説明を要する事項が多かったが、とてもスムーズな講演で発表全体としてよくまとまっていた。質疑応答も適切であり、今まで堅実に研究を深めてきた事が感じられる発表であった。以上の事から、学生発表賞に値する優れた研究発表であったと評価した。今後、モデルを更に使いこなし、より独創的な成果へと発展させていく事を期待する。
齋藤 幸碩
「磁気赤道周辺でのkinetic Alfven waveによる電子加速過程に関するテスト粒子計算」(R006-016)
    運動論的アルフベン波は、それが持つ磁力線に平行方向の電場により、オーロラ加速機構に重要な役割を果たすと考えられてきた。本研究は、平行方向の電場だけでなく、これまでにあまり考慮されてこなかった運動論的アルフベン波に伴う平行方向の磁場変動が、磁気赤道付近で電子加速にどのような寄与を及ぼすかについて、計算機シミュレーションによって調査を行った。磁力線方向の波長が小さい定在波の中での、500-600 eVの電子に振る舞いついて議論している。電子のピッチ角が大きいときには、平行方向の磁場変動を無視すると、赤道域で波に補足されるだけで有効な加速は起こらないが、平行方向の磁場変動を考慮すると、ミラー力が働くため、電子は波に補足されながら高緯度へ運ばれ、そこで波の補足から逃れたあと、背景磁場のミラー力で加速されるという素過程を明らかにした。研究の背景やシミュレーションの設定、得られた結果についてバランスよく説明がなされており、全体的にわかりやすく明快な発表であった。運動論的アルフベン波の磁場変動の果たす役割に光を当てた点はユニークで、発表者が研究内容についてよく思考し、理解したうえで発表に臨んでいることが質疑応答の様子等からも見て取れた。以上のことから、学生発表賞として十分に評価できる研究発表であると判断した。実際の観測との比較なども視野に入れた更なる研究の発展を期待する。
菅生 真
「将来の惑星探査に向けた ASIC技術による10-100 keV電子観 測器の小型化」(R006-047)
    将来の惑星探査機への搭載に向けた電子検出器APD用フロントエンド回路開発に関する研究であった。APDは10-100 keV 電子に感度が良く,「あらせ」衛星にも搭載されて磁気圏プラズマ計測に活躍してきた。一方で,惑星近傍粒子の広いエネルギーレンジをカバーするにはMCP等の他の検出器の併用が必要であり、機器の軽量化、小型化が求められている。発表者は大型基板を要していたフロントエンド回路の信号処理部をASICにより小型化するため、プリアンプ・シェイピングアンプ・ピークホールド等の回路設計を行った。そしてシミュレーションで動作を確認した上で、チップ製作を行い、実験でまだ一部ではあるが機能を確かめた。発表者は設計,製作,試験までを一貫して行い、さらに研究内容をよく咀嚼した上で、研究背景から結果まで丁寧に発表しており、理解度の高さが伺えるものであった。質疑応答も的確に答えられており好印象であった。衛星搭載に向けてまだやるべきことはあると思われるが、これを励みに今後の発展を期待したい。
中村 幸暉
「高感度全天カメラとVan Allen Probes衛星によるサブオーロラ帯孤立プロトンオーロラの複数例同時観測」(R006-066)
    全天オーロラカメラによる孤立プロトンオーロラの観測と、Van Allen Probes衛星による磁気圏プラズマと電磁波の同時観測によって、孤立プロトンオーロラとEMIC波動との関連、さらにその波動を成長させる磁気圏環境との関連を明らかにした研究である。既存の現象モデルを深化させる斬新な結果を導く研究ではないものの、観測データを丁寧に調べ、関連性を証明した研究として評価できる。発表においてはイベント抽出の定義が明瞭で、かつ非常にわかりやすく説明されている点が最初に目を引いた。先行研究を紹介しながら項目立てて丁寧に考察を行っている点も好感が持てた。一方で衛星データの見せ方にはもうひと工夫が欲しかった。
●優秀発表者への講評(セッション記号順)

深見 岳弘
「Contribution of Contribution of magnetospheric pressure inhomogeneities to SAPS Wave Structures: Arase and SuperDARN conjugated observations」(R006-011)

    SAPS のwave structuresに関してSuperDARNとあらせ衛星の共役点観測を詳細に解析した研究である。地上レーダーで観測されたフローの構造が、衛星で観測された電磁場・圧力構造とスケール的に対応し、物理的にも整合することを示した。 さらに構造の形成要因となるイオンの起源についてもGOES衛星のデータで確認し、圧力構造を説明するためのモデル計算にも取り組んだ。モデル計算の手法については更なる改善の余地が見受けられたが、データ解析については緻密で説明も分かりやすく十分な水準に達していた。複数の観測データを積み上げた研究であるが、データ解析全般に関して現象を説明するためのロジックに立脚した丁寧な解析がされていた。 質疑応答においても、研究の主体性・理解度の高さが伺えた。今後、モデルの改良やイベント例を増やすことにより明確な描像が得られることを期待する。
平井 あすか
「地上-衛星観測によるIPDPタイプEMIC波動の周波数上昇に関するイベント解析」(R006-030)
    発表者は数時間程度をかけて周波数上昇する地磁気脈動であるIPDPについて、その周波数上昇が起こる理由はなにかという問題について取り組んできた。複数の人工衛星と地上の観測機器によるデータ解析によって、IPDPの周波数変動は電磁イオンサイクロトロン波の赤道面での発生領域が地球側に移動することが原因であることを突き止めた。このことから、周波数変動は対流電場やサブストームに伴う誘導電場の増大によるものではないかと議論している。また、ソース領域の移動は単調な変化ではなく、テスト粒子計算により、プロトンのドリフトがソース領域の西向きの移動を引き起こしていることも確かめられている。長年明らかとされていない問題に対して、最新のデータを含めた様々な解析を駆使することによってクリアな結論を導き出しており、発表者自身が主体となってこの問題に取り組んできた様子がはっきりと伺えた。質疑応答もしっかりとこなしており、優秀発表者として表彰に相応しい講演であったと評価した。
沢口 航
「ARTEMIS衛星観測を用いた月周辺におけるホイッスラーモード波動のスペクトル形状についての解析」(R006-036)
    これまでのARTEMIS衛星の観測により、月周辺でwhistler chorus波動が発生していることが示唆されている。本講演では地球磁気圏で多く観測されているwhistler chorusの2バンド構造(Lower, Upper-band)が月周辺でどの程度観測されるのかに加え、Lower-band whistler chorus(LBC)波動が観測されやすい条件について統計的な観測結果について報告された。ARTEMIS衛星によって観測されたwhistler波動の統計解析により、衛星位置での磁力線が月面に接続されていると考えられる場合にLBCが多く観測されることが明らかになった。一方で2バンド構造はほとんど観測されず、これは月周辺では2バンド構造を形成する周波数ギャップを作る機構が起きにくい可能性が示唆された。本研究の背景に加え、これまで行われてきた研究との関係性について分かりやすく説明がなされており、研究目的も明確であった。結論もよくまとめられていたが、本講演として最も重要な部分を取捨選択しより端的に説明出来るようにするとなお良かったと思う。現状ではなぜ2バンド構造が観測されにくいのかということについて明確な理解がなされていないが、地球磁気圏で観測される2バンド構造との差異も踏まえ、今後新たな理解が得られることを期待する。以上のことから、本講演は優秀発表者としてふさわしいものであったと評価する。
野本 博樹
「VLF 帯送信電波伝搬の数値計算を用いた電磁イオンサイクトロン(EMIC)波動に伴う下部電離層擾乱のモデリング」(R006-065)
    VLF電波は下部電離圏を伝搬するために、VLF電波の観測を用いて電離圏D層の情報を得ることができ、多くの定性的な研究がなされている。本研究は、VLF電波の振幅から電離圏D層の密度増大を定量的に推定するために、プロトンオーロラの空間情報を活用する、意欲的な試みである。モデル計算とデータ解析を両方おこなう研究の手順が、必要十分なスライドに沿って丁寧に説明されており分かりやすかった。モデル計算で使用する電子密度モデルなどの位置づけや妥当性を明確にすることを通じて、本研究がさらに発展することが期待される。
増田 未希
「地球バウショックにおけるホイッスラー波と電子加速効率の関係性」(R007-012)
    無衝突衝撃波における粒子加速のメカニズムは、未解明な点が多く残された重要課題である。一次フェルミ加速はそのメカニズムの有力な候補となっているが、フェルミ加速によって低エネルギーの電子を加速させるためには、電子を一旦keV程度の中間エネルギーへ加速させる別のメカニズムが必要になっていた。そこで提案されているのが、ホイッスラー波によるサイクロトロン共鳴散乱である。増田さんは、MMS探査機による地球バウショックの観測から、ホイッスラー波と衝撃波による電子加速の関係を調査した。そして、ホイッスラー波の強度が理論から予測される閾値を超えたとき、中間エネルギーの電子が生成され、衝撃波加速の効率が高くなっていることを明らかにした。本成果は、衝撃波加速メカニズムの解明において重要な貢献である。学会の発表からは、理論を十分理解して、高度なデータ解析を進めていることがうかがえた。今後、地球バウショック以外の太陽圏の様々な領域にも研究対象を広げてゆくことを期待したい。
坂田 遼弥
「A new global multifluid MHD model with the cubed sphere focusing on Martian ionosphere and magnetosphere」(R008-007)
    電磁多流体コードの開発に関する講演であった。あえて講演スライドの枚数を減らし、1枚1枚を時間をかけて詳しく説明していたのが印象的であり、研究背景や目的をよく理解していることに加えて、自身で手を動かして工夫や試行錯誤をしているのがよく分かる講演であった。一方で、講演内容が3次元コード開発の途中経過の報告であったためか、結果のインパクトに欠けていた。特に、既に完成させている2次元コードでのシミュレーション結果を有効に示せていなかったのは惜しい。3次元コードを完成させてインパクトのある結果を示し、オーロラメダルを目指して欲しいという期待を込めて、優秀発表者に値すると評価した。
福岡 智司
「Development of radiation belt forecast model based on the recurrent neural network」(R010-028)
    長いリードタイムで、様々なエネルギー帯、L値について放射線電子を予測すること目的とした研究である。 ニューラルネットワークの一種であるLSTMを用いて、あらせ衛星で観測された放射線帯電子のフラックスの予測を試み、先行研究より高い精度での予測を実現したという内容であった。発表は、簡潔に要点がまとめられており、図表も見やすく、将来の目標も明確であった。 ただ、長期的な依存性を表現できるLSTMがよい理由や、Lが小さいほど予測がよい理由など、物理的な説明なしに話が進んだため、漫然と出来合いのモデルが適用されているような印象を受けたことも否めない。宇宙天気的にも意義ある研究であるため、特にリアルタイムデータを入力としたときの予測に関して今後の展開に期待したい。
森澤 将
「夜側オーロラオーバルの極側境界で発生するオーロラ増光現象における電離圏分極の数値解析」(R010-031)
    夜側オーロラオーバルの高緯度側境界の発光現象PBI (Poleward Boundary Intesification)の発生が電離圏分極によるものであると提案した先行研究のシミュレーションを発展させた研究である。従来の研究では考慮されていなかった移流の効果や回転電流系における誘導効果を導入し諸要因の影響を見積もったところ、移流よりも粒子降り込みの効果が大きいこと、また初期相と成長相でホール電流・ペダーセン電流の相対的役割が異なることを新たに示した。発表では研究分野の背景、課題についてよくまとめられ、それらに対してしっかりと今回の研究成果が示されていた。シミュレーションで扱った式の妥当性などについても言及し、今後の課題を的確に捉えられていた. 今後の発展・成果に期待が持てる研究であった。

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