SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2022年度 第1分野講評
審査員:
    市原 寛(名古屋大学)、馬場 聖至(東京大学)、川村 紀子(海上保安庁)

●総評

    今大会は2年ぶりに対面での開催となり、多くの学生会員との再会を果たすとともに、新規に入会された会員ともお会いすることが出来た。振り返れば2020年初頭以降、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、研究面では国内外での野外調査や他大学の測定装置を用いた分析などが困難な状況になった。またオンライン会議においては、対面とは勝手が違い、十分な議論の機会が得られないなど、学生の研究には大きな影響があったものと察する。しかし、このような困難な状況が約3年間続いたにも関わらず、学生会員から口頭9件、ポスター2件、合計で11件の応募があり、大変嬉しく思うとともにその努力と意欲に敬意を表したい。「R003地球・惑星内部電磁気学」セッションでは空中磁気測量や陸上・海域における比抵抗構造の研究、「R004地磁気・古地磁気・岩石磁気」セッションでは海洋堆積物試料の残留磁化曲線から続成作用の影響を調べた研究例など多彩な講演が行われた。プレゼンテーションは丁寧に準備され、説明についても十分にトレーニングされた分かり易い発表が多かった。一方で、学生自身の創意工夫、思考の深さや独創性のアピールには物足りなさがあった。学生諸氏には、中堅やベテラン研究者達の刺激になるような発表を期待したい。審議の結果、以下のようにメダル受賞者1名と優秀発表者1名を決定した。
    また各発表への講評とは別にして、学生諸氏にお願いしたいことがある。ポスター会場では学生同士での活発な議論が見られたものの、口頭発表では学生からの質疑応答やコメントが無かった。学会は貴重な機会であるので、今後は口頭発表においても積極的に質問をして学会を盛り上げてほしい。また、活発な議論を通じて、学生諸氏が今後さらに飛躍されることを祈念する。

●メダル受賞者への講評

中家 徳真
「ラウ海盆における潮汐起因磁場の3D 順計算」(R003-04)

    本研究は、海底で計測された電磁場変動から海洋潮汐起源の信号を検出し、それをデータパラメータとして3次元の海底下マントル比抵抗構造を推定しようとする試みである。比抵抗構造探査では、平面電磁波の入射を仮定した電磁気応答関数の逆解析が主流であり、海洋潮汐起源の海底電磁場変動を用いた構造推定は、ユニークかつ将来的な発展が期待されるアプローチである。中家会員は、3次元の潮汐起源磁場の順計算プログラムを自らコーディングし、これをラウ海盆の海底で得られた電磁場データに適用してラウ海盆下の沈み込みスラブの比抵抗に対するデータの感度を示した。さらにはこの順計算手法を組み込んで3次元比抵抗構造の逆解析手法へと発展させて、比抵抗構造の暫定モデルを示した。結果の評価と解釈には議論の余地が多くあるが、今後の進展が大変楽しみな研究である。
●優秀発表者への講評

井上 智裕
「MT法探査による雌阿寒岳の3次元比抵抗構造とその解釈」(R003-09)

    本研究は北海道雌阿寒岳の周辺域において実施されたMagnetotelluric (MT) 法探査をもとに三次元比抵抗構造を推定したものである。その結果、雌阿寒岳の下から西方に傾斜する顕著な低比抵抗体を発見した。低比抵抗体の信頼性の検証や解釈も行われており、完成度の高い研究内容であった。傾斜する低比抵抗体が、観測されたMT応答関数の異常位相の出現に関わっていることを突き止めた点も評価したい。異常位相は各地で観測されていることから、井上会員による検討は雌阿寒岳に限らず、他の地域の比抵抗構造の解釈に貢献する可能性がある。今後は、地球電磁気学に囚われず、他の地球科学データも積極的に活用するなどして、雌阿寒岳の実態を解明してほしい。プレゼンテーションの技術は高く、研究内容は分かり易く伝えられていた。井上会員の今度の更なる活躍を期待する。

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