SGEPSS-地球電磁気・地球惑星圏学会
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2022年度 第3分野講評
審査員:
    三宅 洋平 (神戸大学:S001(R007、R008)代表)、海老原 祐輔 (京都大学:R006-1代表)、堀 智昭 (名古屋大学:R006-2 代表)、西谷 望 (名古屋大学:R010代表)、浅村 和史 (宇宙科学研究所)、天野 孝伸 (東京大学)、今城 峻 (京都大学)、岩井 一正 (名古屋大学)、梅田 隆行 (名古屋大学)、笠原 慧(東京大学)、風間 洋一 (ASIAA)、北村 健太郎 (九州工業大学)、塩川 和夫 (名古屋大学)、篠原 育 (宇宙科学研究所)、高橋 直子 (情報通信研究機構)、永岡 賢一 (核融合科学研究所)、中野 慎也 (統計数理研究所)、西野 真木 (東京大学)、平原 聖文 (名古屋大学)、細川 敬祐 (電気通信大学)、山本 和弘 (東京大学)、吉川 顕正 (九州大学)

●総評

    ○代表審査員A
      オーロラメダルの評価基準は「将来性」と「独創性」です。評価の観点は審査員によって異なるでしょうが、研究の背景と課題を良く把握しているか、解決に向けて努力あるいは工夫をしたか、得られた結果を合理的に解釈したかの3つが重要なポイントになるでしょう。多くの文献を読み、ご自身の研究テーマの位置づけを的確に把握した上で、ご自身が何を成したのか、何を考えたのかを明確化し、積極的にアピールするとよいと思います。
    ○代表審査員B
      学会の会期を通じて、多くの学生さんから、観測、シミュレーション・モデリング、手法・ハードウェア・ソフトウェア開発など、多岐にわたる内容の研究発表があり、また今年度はその多くをオンサイトで直に見聞きする機会にも恵まれ、審査員としてだけでなく一学会参加者としても大変楽しませてもらった。審査のために多くの学生さんの発表を聞いて感じたのは、総じて、研究としてかなり高度な内容に取り組んでおり、また口頭・ポスター発表どちらも、プレゼンテーションとしての完成度が高いものが多かったということである。一方で、結果に多くの時間・スペースを割いている分、自分の研究の位置づけや、結果の評価、意義、波及効果について、必ずしも十分に論じきれていない発表が多かったと感じる。特に、研究の価値を正しく伝えるためには、研究対象の科学的背景や先行研究に関する情報を的確に提供し、その上に立脚する自身の研究の意義を明らかにしなければならない。例えば導入部での「◯◯◯についてはまだよく理解されていない」という発言・記述が真に説得力を持つためには、上記のような情報を十分発表に盛り込むことが不可欠である。発表に臨む以前にも、文献を丹念に精査し、指導教員や共同研究者との議論を積み重ねることで、自身の研究を広い視野から俯瞰することが必要である。つまり、背景、動機・科学的問い、目的、手法、結果、意義をそれぞれに深化させ、かつ発表にバランスよく盛り込むことで、研究結果の理解や評価がより高まるのである。またこのように発表を準備すること自体が、的確な質疑応答をこなすことにもつながると思う。今後も不断の努力で自身の研究を発展させ、素晴らしい研究発表をされることを期待する。
    ○代表審査員C
      個人的には、全体として低調だったと感じられる。可能性を感じる発表はいくつかあったが、まだ発展途上と感じられた。一つ気になったのは、前回・前々回の学会時に質問して答えられなかったことが今回の発表に反映されていない例が複数見受けられたことである。指導教員のことをそのままうのみにするのではなく、複数の人々の意見を聞いた上で自分の頭でよく考え、研究内容を進歩させていってほしい。
    ○代表審査員D
      今回審査した学生発表には興味深い内容のものが多数あり、学術講演として純粋に楽しませていただきました。審査においては、学生本人が主体的に研究に取り組んでいることが発表内容や質疑応答からうかがえるか、という点を特に重視しました。バックグラウンドにある関連研究に対する自身の研究の位置づけや、得られた結果の(俯瞰的な視点からの)学術的意味合い、そして今後進むべき方向性を常日頃から思考していれば、発表での主張と質問の受け答えにも説得力や迫力が備わります。そうした発表を聴くと、この学生には自ら研究を進めていく力が身についているのだな、と感じさせられます。表彰の対象となった方々は、この点においてやはり光るものがありました。今回受賞に至らなかった学生の皆さんの中にも今後に期待できる良い発表が見受けられました。日々の研究上の課題や学業に追われるだけではなく、上述した点を含め、じっくりと腰を据えて自身の研究と向き合ってみてください。

●メダル受賞者への講評

小谷 翼
「Simulation study of the harmonic structure of lower hybrid wave driven by energetic ions: comparison with observation」(S001-26)

    速度空間における不安定なリング分布が励起する低域混成周波数帯の波動に関する研究である。自身の先行研究からの発展として、地球の極域を想定したパラメータで粒子シミュレーションを行い、非線形の波動間相互作用によって生じる高調波や波動による背景イオンの加熱を調べた。プラズマ周波数とサイクロトロン周波数の比が小さい方が高調波生成の効率が良いこと、また背景イオンの加熱効率が良いことを示し、それから高調波と背景イオン加熱の関係性を示唆した。自身の研究の背景をよく理解した上で主体的に研究を進めていることや、聴衆に分かりやすい説明を心がけていることがよく伝わってくる発表であった。主張の定量性は必ずしも発表には表れていなかったように思われたが、この点を考慮しても十分にオーロラメダルに値する発表であったと評価した。
南條 壮汰
「AI とジンバルを用いたアクティブなオーロラ観測システムの開発と運用」(R006-15)
    市販のデジカメを用いて学術的な用途に堪えるオーロラ観測システムを開発しようという意欲的な研究である。市販のデジカメは高い時間・空間分解能でRGBの3チャンネルを同時に撮影できる利点があるが、一方で全天カメラと比較して視野が狭いことや、カバーする波長域の広さが欠点となる。この研究では、視野の狭さを克服するために全天カメラからオーロラの出現領域をAIで同定し、カメラを自律的にオーロラの出現する領域に向けるシステムの開発を進めており、すでにカメラの制御についてはほぼ実装できていることが報告された。波長情報を得るために、オーロラ輝線に対する感度特性を調べるなど、多角的な検討がなされており、丁寧かつ意欲的に研究を進めていることが感じられた。発表自体も目的や現状が明快に説明されていて非常に分かりやすく、優れた研究発表であったと評価できる。
●優秀発表者への講評(セッション記号順)

深澤 伊吹
「Particle Simulations on Characteristics of Electric Field Sensors applied to the Interferometry technique in Space Plasmas」(S001-P17)

    宇宙プラズマ中の波動観測のための衛星搭載電界センサーに関して、波動の位相速度を測定したときの特性を、3次元電磁粒子シミュレーションによって解析した研究であった。研究背景や目的をよく理解していることに加えて、自身で手を動かして工夫や試行錯誤をしているのがよく分かる発表であった。また質疑応答から、得られた結果とその問題点をよく理解していることがうかがえ、また今後の展望についての説明も分かりやすかった。一方で、発表内容は途上の研究成果の報告であったためか、結果のインパクトにはやや欠けていた。今後、論文として研究を完成させてオーロラメダルを目指して欲しいという期待を込めて、優秀発表者に値すると評価した。
小池 春人
「Outflow jets from lobe reconnection and their relationship to shear flow」(R006-11)
    太陽風磁場が北向きの際には高緯度の磁気圏界面で磁気リコネクションが生じることが知られている。しかしながら、この高緯度磁気リコネクションにおいて、磁気シースのプラズマ流に起因するフローシアがリコネクションレートやアウトフロー速度に及ぼす影響については、先行研究でも結論が分かれている。本研究では、Cluster衛星のデータを解析することで、アウトフロー速度が流入領域のシアフロー速度と正相関を持つことを示し、先行研究との差異について議論した。問題点と意義を最初に明確にし、最終的にそれに答えようとする、というプレゼンテーションの基本を実践できている講演であった。質疑応答時に指摘されていたX点の移動速度の評価(一般にはアウトフロー速度の評価時に考慮が必要)についても今後、解析・考察を深めてもらいたい。
前田 大輝
「Low-cost magnetometer using magnetoimpedance (MI) sensors」(R006-21)
    新しい磁気センサー (MIセンサー) を地磁気観測に応用した。地磁気変動の多点同時観測を念頭に比較的安価な MIセンサーを実際に設置し、従来のフラックスゲート型磁力計を用いてすでに観測が行われている近傍の地磁気観測点の観測結果との比較を行った。そして、MIセンサーの有用性を示した。具体的なセンサー設置場所の計画や、その中の1か所での周辺状況を含めた観測状況を示すなど、計画の実現方法をイメージしやすい発表となっていた。なお、温度依存性など、現時点での MIセンサーの観測性能の制限に関わる点と、そうであっても所期の目的は達成できることを質疑応答で説明していたが、MIセンサーの観測応用性に直接関わる部分であり、発表内に含めた方が良かったと思われる。トータルでは将来の観測の実現性を窺わせる理解しやすい発表であった。
古川 研斗
「ひさき衛星極端紫外線観測データを用いた木星イオプラズマトーラス突発増光時におけるDusk側からのHot electron流入」(R006-27)
    木星圏でのイオ火山起源のプラズマの輸送過程について、ひさき衛星の特性を最大限に活かしつつ、20数例の分光画像データを丹念に解析することで新しい知見を独自に導いた結果が示された。これまでに提唱されてきた交換型不安定では説明が難しいという結論に至ったことは興味深く今後の更なる進展が期待される。発表者個人による貢献と解釈を基礎としていることが窺われ、質問に対しても正面から対峙する真摯な姿勢が自立度・理解度の深さを示しているように思われた。スライドも丹念に作成されており、原稿を書くなどして発表の練習を十分に行っておくと更に分かりやすく説得力のある講演になると考えられる。
森田 洸生
「SuperDARNレーダーで観測されたPc5帯ULF波動のモードおよびm-number解析」(R006-32)
    電離圏のPc5変動について、SuperDARNの複数ビームを使って波動のモードとm-number(経度方向の波数)の両方を同定し、統計的性質を調べた。周波数やm-numberの緯度依存の少ないことを長期の大量のデータ解析から見事にしめした。その結果と静止軌道衛星の同時磁場観測例から解析したPc5イベント群は、Pc5として典型的なField line resonanceではなく、global cavity modeと結合したShear Alfven modeであると筋道を立てて結論づけた。一方、質疑への応答から、これまでの地上磁場や衛星データの研究結果との関係の理解(あるいは説明)が不十分と感じられた。SuperDARNを用いた理由(メリットや新規性)を理解し説明することで、この研究の目的や位置づけをより明確にできるだろう。
加藤 悠斗
「3年間の地上多点観測データを用いたサブオーロラ帯の銀河電波吸収の増強の統計解析」(R006-35)
    3年間という長期の期間について、6ステーションのCNAデータを解析し、その結果から高エネルギー電子のグローバルなドリフトの描像を統計的に示した。新しい点がはっきりとしていて、スライドも見やすく、説明も分かりやすかった。また、単純な推定ながら粒子ドリフト速度との比較など、定量的な物理考察ができていた。一方で、導いた数値の妥当性の議論が深められると更に説得力のある発表となったと思われる。より稠密な観測点でのCNA データが使用可能になれば、より細かい構造が明らかになるのではないかという印象を持ち、研究手法としての将来性が感じられた。
齋藤 幸碩
「磁気圏プラズマの沿磁力線分布モデルの開発と分散性Alfven波の波動特性の研究」(R006-P05)
    プラズマ沿磁力線分布の理論モデルの開発とそれを用いた木星磁気圏のkinetic/dispersive Alfven waveの空間分布特性の研究である。従来の理論モデルでは正しく導出ができなかったプラズマ密度分布について、積分の体積要素を工夫することで問題解決を図っており、従来の理論モデルと比較しても磁気圏観測により整合するような密度・圧力分布を得ている。得られたプラズマ分布からkinetic Alfven waveとdispersive Alfven waveの卓越する領域が分かれる緯度を求めている点がユニークであり、電子加速メカニズムに重要な波動の空間分布の情報を示した。質疑応答の中では、地球磁気圏でのkinetic Alfven waveやdouble layerの問題への応用など、開発したモデルの応用性・発展性についても広く理解があるように感じられ、自身の研究に対する高い意欲と深い理解が窺えた。一方で、研究の意義について分かりやすく提示する点において改善の余地があると感じられたため、今後の発表技術の向上にも期待したい。
菊川 素如
「粒子センサ用高速検出回路の小型集積化に関する研究」(R006-P16)
    宇宙機による同時多点観測を実現するために超小型衛星の活用が注目されているが、その為には観測器性能をできるだけ保ったまま、小型化・省電力化を実現することが必須である。本研究発表は、ASICベースの高速粒子検出器の開発を行い、回路サイズを大幅に縮小すると共にセンサー出力信号を必要十分な時間分解能で検出し、一般的なTOF型イオンエネルギー質量分析計に適用可能な性能を達成したことを報告したものである。ASIC自体は一般的な技術となっているので、当たり前の技術と誤解されることもあるが、「特定用途」に適応する集積回路を開発するものなので、粒子観測器に適応するASICを開発することは重要な研究課題である。発表者は、技術専門性の高い内容について、研究背景・目的・開発状況をわかりやすく解説しており、地道な実験を重ね、目標性能の達成に向かって着実に成果をあげている研究として、優れた発表であったと評価できる。
滝 朋恵
「インターフェロメトリ観測に基づくECH波動の分散関係と背景電子温度の推定」(R006-P25)
    電子サイクロトロン高調波(ECH: Electron Cyclotron Harmonic Waves)の分散関係が背景電子温度に依存することを利用して、衛星によるプラズマ波動観測から背景電子温度を推定しようとする研究である。ECH 波動の分散関係を求めるために、あらせ衛星に搭載された波動計測器によってインターフェロメトリ観測を実施し、そのデータを解析することによって、ECH 波動の位相差および位相速度が波の周波数に依存することを明らかにしている。最終的には、この位相速度の変化を利用することによって背景電子密度を推定することに成功している。2 本のアンテナによって構成される干渉計のデータを丁寧に解析することによって、内部磁気圏において測定が困難であるとされている電子温度の導出に意欲的に取り組んでいる点が高く評価できる。また、位相差や位相速度が周波数に依存することを利用した分散曲線の推定手法についても分かりやすく説明しようとする姿勢が見られ、プレゼンテーション能力の高さが窺えた。
前田 護
「機械学習を用いた太陽EUV放射スペクトルの予測」(R010-06)
    人工ニューラルネットワークモデルを用いて、地上で観測可能な太陽電波から、宇宙空間でしか直接観測できないEUV放射スペクトルを予測するモデル構築を試みた研究である。先行研究に対してより幅広い周波数帯の太陽電波観測データと、より幅広くより高い波長分解能を持つEUV波長データの間の単層ニューラルネットワークモデルを構築し、EUVスペクトルを高い相関性で再現するとともに、各スペクトルに関する太陽電波周波数帯の寄与率の傾向を明らかにした。研究における動機付け、先行研究との関連性、新しく構築したモデルの優位性と汎用性など、非常に明解に示された講演であった。今後、太陽電波周波数帯とEUV放射スペクトルの間にみられた寄与率に対する物理考察が加えられることによって、EUV放射メカニズムの本質的理解を伴う宇宙天気予測研究が進展することが期待される。
廣重 優
「FMCWイオノグラム画像E/Es層エコー検出に関する一般物体検出モデルの高有効性」(R010-P08)
    機械学習による物体検出手法として広く一般的に使われているCNNモデルを用いて、イオノグラム画像データからE/Es層のエコーの検出を行った新規性の高い研究である。複数の一般物体検出アルゴリズムの比較から、今回取り入れたアルゴリズムがリアルタイムかつ十分な精度でE/Es層のエコーを検出するのに有効であることを示唆していた。発表は簡潔で機械学習の基本からわかりやすく説明していた。また質疑応答からは研究に対する意欲的な姿勢やモデルへの理解度の高さが窺えた。今回はモデルやアルゴリズムそのものの評価が主軸だったため、今後は背景となる物理や本手法の実際の運用による効果の考察を含めて、更なる発展を期待したい。

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