非履歴性残留磁化獲得における磁気相互作用の影響
*福間 浩司[1]
熊本大学理学部環境理学科[1]
Effects of magnetic interaction on ARM
*Koji Fukuma[1]
Department of Environmental Sciences, Kumamoto University[1]
Magnetic interaction is incorporated to simulate ARM acquisition
processes for various configurations of single-domain magnetite
grains. Although ARM has been considered to be seriously influenced
by interaction, such effects depend on microscopic configuration
of grains which cannot be dealt with a mean-field approach. Dipole-dipole
interaction arising from neighboring grains was calculated for
individual grains, and magnetization of each grain was statistically
reversed during each half cycle of an alternating field so as
to mimic thermal fluctuation. Assemblages containing grains on
grid points are easily saturated at very low field. Randomly
dispersed grains yield similar field dependencies with experimental
results on synthetic samples especially for concentrated assemblages.
Clumped grains show almost zero values of ARM irrespective of
concentration.
磁気相互作用の効果をいれて非履歴性残留磁化(ARM)のモデリン
グを様々な配列をもつ粒子について行った.ARMの獲得において
磁気相互作用が強い影響を及ぼすことは以前から指摘されていたが,
磁気相互作用は単に磁性粒子の平均含有量によるだけでなくミクロ
な粒子の配列にもよるため,平均磁場近似を用いた方法ではうまく
扱うことができない.今回,球状(直径=0.07ミクロン)のマグ
ネタイトの単磁区粒子の集合をモデルとして与え,熱擾乱の効果を
入れてARM獲得のシミュレーションを行った.単磁区粒子は大き
い自発磁化をもつため,近接した場合に強い磁気相互作用をもたら
す.個々の粒子について他の全ての粒子からの相互作用磁場を求め,
交流磁場+直流磁場+相互作用磁場の下で個々の粒子の磁化の反転
が起きる確率を計算し,モンテカルロ法を用いて磁化の反転を行っ
た.この確率的な磁化の反転を交流磁場を減衰させながら磁化の変
化が見られなくなるまで行いARMの強度を求めた.磁性粒子の集合
の平均含有量は0.01 vol%から2 vol%まで変化させ,粒子の配列
が 1) 3次元グリッド上に等間隔に配置された場合,2) 空間的にラ
ンダムに分散させた場合,3) クランプ状になっている場合につい
て計算を行った.
異なる平均含有量,粒子の配列について,ARMの直流磁場に対する
依存性を調べた.グリッド上に配置した場合,ARMの直流磁場に対
する曲線は上に凸もしくはS字カーブを描く.上に凸のカーブはほ
とんど相互作用の影響がない低い平均含有量の場合に見られ,非常
に低い直流磁場(〜0.05 mT)で飽和に達する.しかし,平均含有量
が0.5vol%を越えると相互作用の効果が現れ,相互作用がない場合
のカーブから逸れて低いARM強度を示すようになる.S字カーブは
高い平均含有量(2%)で見られるが,この平均含有量でも飽和はかな
り低い直流磁場(〜0.5 mT)で達成される.一方,ランダムに分散
させた場合,低い平均含有量の集合はグリッド上に配置した場合と
同じくARMは直流磁場に対して上に凸のカーブを描き,低い磁場で
飽和に近づく.しかし,この場合でもグリッド上に配置した場合と
異なり完全に飽和に達することはない.平均含有量の増加に従い,相
互作用の効果が現れてARM強度が減少する.平均含有量がさらに増
加する(〜1 vol%)とARM強度が下がるばかりでなく,直流磁場に対
してほぼ直線性を示すようになる.また,全ての粒子がクランプを形
成している場合には,平均含有量・直流磁場によらずARM強度はほと
んどゼロを示す.
平均含有量の増加に応じて直流磁場への依存性が上に凸の曲線から直
線へ変化することは,均一に磁性粒子を分散させたとされる合成試料
を用いた実験で示されている.また,この直流磁場への依存性の変化
は,相互作用の強弱を示す1つの指標として天然試料について利用さ
れてきた.実験に見られるこの依存性の変化は,磁性粒子が空間的に
ランダムに分散している場合の計算結果と定性的に一致する.従って,
合成試料中では磁性粒子が等間隔に分散されているのではなく,隣り
の磁性粒子との距離に応じて様々な強さの磁気相互作用を及ぼすよう
なランダムに分散している場合に当たるとみなすことができる.それ
にもかかわらず,低い平均含有量での実験結果は計算結果に比べて飽
和に近づくのに大きい直流磁場を必要とする.このことは,合成試料
や天然試料中には低い平均含有量でもかなりの割合でクランプ状にな
った磁性粒子が存在することを示唆する.