阿蘇中岳火口における放熱量・水位および地磁気変化
*橋本 武志[1], 田中 良和[1], 宇津木 充[1]
池辺 伸一郎[2]
京都大学理学研究科[1]
阿蘇火山博物館[2]
Heat discharge, water level and geomagntic variation observed at Aso Nakadake Volcano
*Takeshi Hashimoto[1]
,Yoshikazu Tanaka [1]
Mitsuru Utsugi [1],Shin'ichiro Ikebe [2]
Graduate School of Science, Kyoto University[1]
Aso Volcano Museum[2]
We investigted the relationship between geomagnetic changes,
heat discharge and water level of the crater lake of Aso, Nakadake
Volcano during the period of 1991-2000. Heat discharging rate
from the crater lake is estimaed as 50-150 MW, while changes
in thermal energy estimated by geomagnetic data amount to five
to several tens of MW. The long-term variations of geomagnetic
field has a good correlation with that of heat dischage from
the crater lake. Periods of thermal demagnetization correspond
to those of increase in heat discharge, suggesting the heat conrol
supplied from depths. In addition, it is pointed out that the
crater lake acts as a heat radiator much more than an insulator
or a plug of thermal flow.
阿蘇中岳は,1989年から1990年にかけて比較的大きな活動期を経験
したが,その後はほとんどの期間で湯だまりが存在し,静穏な状態
が続いている.本講演は,1991年から2000年の10年間に中岳火口近
傍で観測された地磁気変化と,湯だまりからの放熱量の関係につい
て考察するものである.Tanaka(1993)は,1989〜1990年の活動期に
おける地磁気変化に着目して,中岳火口の直下約100m付近に,等価
的な熱消帯磁源があることを見いだした.また,火山活動に伴う地
磁気変化が地下浅部の水による効果的な冷却効果と火口底の開閉に
伴う温度変化によって制御されているとする説を提唱した.さらに
,観測された地磁気変化に係る熱エネルギーの変化率は,およそ35 MWであると推定している.Tanaka(1993)は,同時期における火口か
らの放熱量との直接的な比較を行ってはいないが,地磁気変化で捉
えられる熱エネルギー変化は,実際の放熱量と同程度であるべきだ
と考えていた.
本研究では,その後10年間の地磁気変化に加え,気象庁阿蘇山測
候所の観測した湯だまり温度と気象要素をもとにして放熱量を推定
し,湯だまりを含む地下浅部の熱輸送系の動態について考察する.
また,スチル写真と阿蘇火山博物館の火口ビデオ映像を用いて,10 年間の湯だまり水位の変動を追跡し,湯量の変動と放熱量との関係
についても考察を加える.予稿の段階で以下のことが明らかになっ
ている.
1.湯だまりからの放熱量は,平均的に50MW以上150MW以下のレベ
ルにある.これは,50℃程度の高温の湯だまりを維持するために相
当量の熱エネルギーが必要であることを意味している.
2.一方,Tanaka(1993)と同じ計算条件を仮定すると,地磁気変化
に係る熱エネルギーの変化率は,1991〜1994年までが数10MW,1995 年以降が5MWのレベルであった.このことは(特に1995年以降につ
いては),地磁気変化から推定される熱エネルギー変化率が実際の
放熱量に比べてずっと小さいことを意味する.今後,岩石磁化など
の物性値の再検討が必要である.
3.湯だまりの水位は長期的な変動量が大きく,1991〜2000年の間
に約70m上昇していた.これに伴う湯だまり面積の変動,ひいては
放熱量への寄与も無視できない.大まかには,湯だまり温度が高く
なると水位が下がる傾向にあり,これは蒸発の効果で量的に説明で
きる.
4.図は,火口の南西側の観測点における地磁気全磁力の変化と,
湯だまりからの放熱量変動を比較したものである.これからわかる
ように,放熱量の長期的変化は,全磁力変化の時間微分ではなく,
全磁力変化そのものと相関が高く,地磁気が消磁傾向のときに放熱
量が増えるという関係にある.このことは,長期的変動に関しては
,両者は共に等価熱消帯磁源よりも深部からの熱供給量の変動を反
映している.また,湯だまりの温度が地下浅部の温度によく追随し
ていることから,湯だまりと等価熱消帯磁源の間には何らかの効率
的な熱輸送機構がなければならない.つまり,湯だまりは,常に
Tanaka(1993)が提唱したような「熱放散を遮断する蓋」として機能
しているわけではなく,長期的にはむしろ地下浅部の熱を効率よく
大気へ逃がす「放熱板」として働いている.