四国海盆から南海トラフへの磁気異常の振幅の減衰について

*木戸 ゆかり[1], 富士原 敏也[2]

海洋科学技術センター[1]
Woods Hole 海洋研究所[2]

How reduce magnetic intensity at a margin of Nankai trough?

*Yukari Nakasa Kido[1] ,Toshiya Fujiwara [2]
Japan Marine Science and Technology Center[1]
Woolds Hole Oceanographic Institution[2]

A major characteristic of the geomagnetic feature of the Nankai trough and Shikoku Basin is a series of magnetic lineations aligned NW-SE. They are clearly visible oceanward of the Nankai trough but gradually disappear to the NW across the axis. The main component of total magnetic force is 300nT (P-P) at 50km south of the axis, which can be modeled with a 6-7 km thick oceanic crust with 7 A/m magnetization. Along the track line just on the trench axis, a 5 km thick, at 50km north of trench axis, only 2 km thick crust are needed, respectively. One potential mechanism for reducing the magnetic amplitude is low temperature chemical demagnetization. The other possibility is horizontal dislocation of oceanic crust along active faults.

北部四国海盆での地磁気異常の特徴は、西北西から東南東、北北西 から南南東の走向を持つChron5B-7A(15〜30Ma)の地磁気縞状異常が 東西に並んで観測されている。波長はおよそ40km、振幅は200-300 nT程度である。同じ日本周辺の沈み込み帯でも、最大振幅が600nT に及ぶ日本海溝と比較すると、半分の弱さである。この磁気縞状異常 により、15-30Maに、3-4cm/年の速度で海底が拡大したことを示唆 すると考えられている(小林、1974)。南海トラフ沿いの水深2000- 3000m以深の海域では、四国海盆で見られた縞状異常の末端が、やや不 明瞭ながらトラフ軸を越え観測されている。「かいれい」航海で得られ た3成分異常データから計算した結果は、トラフ軸を越えて2次元性が保 たれる距離はおよそ80kmである。地殻構造探査からは、低角(3.2-7.2 度)で北西方向に傾くフィリピン海プレートが明瞭に記録されている (Kodaira et al., Nakanishi et al., 2000)。上記を考えあわせる と、低角度で潜り込んでいるため、磁気異常に寄与する距離も長いと考 えられるが、全磁力値は、日本海溝での値よりも低く、トラフ軸から陸 域に離れるに従って減衰が大きい。トラフ軸に至までは明白な縞状異常 が、トラフ軸を越えて陸側での振幅は、四国海盆上での振幅に比べ70- 50%と極端に小さくなっている。磁気異常が急変するのはプレートの沈 み込み深度が10kmあたりであり、BSR から推定したスラブ上面の温度が 250-300度の周辺である。海洋性地殻による磁気異常は、一般的には、 温度が250-300度になると、熱磁化曲線から磁気異常値は80%程度に減 少する。沈み込み角度最大7度(足摺沖)であることから、やはり80- 90%の振幅値に減衰する。しかしながら、この南海トラフでは、上記を 考慮に入れた計算値よりも、観測値が有為に小さい。他の沈み込み帯に 比べても減衰が顕著である。近年、南海トラフは、地震発生帯の深海掘 削候補地点として、高密度の観測が展開されており、地震活動、地殻構 造、重力、地殻熱流量、海底地形、地質、などのデータが豊富に揃って きている。それらのデータを統合して、海洋性地殻の地磁気減衰現象 を、磁化構造に何らかの変化が生じたという仮説を立て、モデル計算を 行った。今回は、紀南海山列の影響を取り除くために、中央部を除き、 東部および西部に解析場所を絞り、沈み込みに伴う磁化の変化を追っ た。本稿で用いたデータセットは、地質調査所編集の400万分の1地磁気 異常図(1996)、海洋科学技術センター(以下、JAMSTEC)および石油 公団、石油資源開発で得られた反射法探査/屈折法探査による地震波速 度構造、船上重磁力データである。
解析結果は、南海トラフより南部の磁気異常は、P-Pで300nT の振幅で あり、6-7kmの厚さ、7A/mの磁化率の海洋性地殻の存在で説明できる。 南海トラフ下では、5kmの厚さとなり、トラフ軸から50km北部では、2km で説明できる。しかしながら、OBS による地殻構造モデルでは、海洋性 地殻がむしろ厚くなる傾向を示している。また、反射法地震探査より、 顕著な磁気異常の減衰が確認されている足摺〜室戸沖では、DSR(深部 強度反射面)が明瞭に記録されている。地殻構造やDSR分布も満足する モデルは、海洋性地殻の磁化率が破砕により弱くなるのか、250度とい う低温で化学的な変質を受けた可能性も考えられる。
図:南海トラフ周辺の地磁気異常図、および東西方向4測線のプロファイル