MUレーダー流星観測とOH大気光分光観測から求めた 中間圏界面大気密度の変動
*中村 卓司[1], タカハシ ヒサオ[2], 津田 敏隆[1]
Ricardo Buriti[3], Delano Gobbi[2]
京都大学宙空電波科学研究センター[1]
ブラジル宇宙科学研究所[2]
CCT/UFTB, Brazil[3]
Atmospheric density variations around the mesopause derived from MU radar meteor echo and OH rotational temperature
*Takuji Nakamura[1]
,Hisao Takahashi [2],Toshitaka Tsuda [1]
Ricardo Buriti [3],Delano Gobbi [2]
Radio Science Center for Space and Atmosphere, Kyoto University[1]
INPE, Brazil[2]
CCT/UFTB, Brazil[3]
Atmospheric density and pressure in the mesopause region, around
87 km, are inferred using meteor trail ambipolar diffusion coefficient,
D, and simultaneously observed airglow OH rotational temperature,
Toh. From 17 nights of simultaneous observations of the MU radar
and OH spectrometer at Shigaraki, we found that the number density
at around 87 km altitude varied from 0.9 to 1.2 x 10^14 cm-3,
and the pressure varied from 0.27 to 0.35 Pascal. The density
variation has negative correlation with the temperature. The
OH emission rates showed negative correlation with the density,
contrast to positive relation with the temperature. This suggests
a significant change of atomic oxygen mixing ratio in the emission
heights. We also discuss on the possibility of heating/cooling
measurement using radar/OH airglow observations.
京都大学宙空電波科学研究センターの MUレーダー(46.5MHz, 1MW出力)
では、流星に関連して高速で大気と衝突する流星体周辺のプラズマから
の流星ヘッドエコー(Sato et al., 2000)、流星飛跡のプラズマ柱中の
電子によるフレネル散乱である流星飛跡エコー、流星飛跡プラズマ柱内
の電子密度の沿磁力線構造によるRSTEエコー(Range Spread Trail Echo)(Zhou et al., 2001)などが観測される。これらのうち流星飛跡
エコーは、通常数百ミリ秒の長さのエコーであり、とくにアンダーデン
スエコーと呼ばれる低電子密度の飛跡の場合そのドップラー速度は周囲
の中性大気の風速を示すことから、流星レーダー観測として高度80-100 kmの中間圏・下部熱圏の風速の計測に用いられてきた(Nakamura et al., 1997)。一方、流星飛跡エコー強度の減衰時定数は大気の両極性拡
散係数Dを表すことから、大気温度の時間変動の観測に用いられてき
た(Tsutsumi et al., 1994)。これは、Dが大気温度Tに比例し、密度ρ
に反比例するという関係を用いてさらに大気をブジネスク流体であると
近似してDの相対変動とTの相対変動に換算するものであった。このよう
にして求めた温度変動は、OH大気光観測によって求めたOH回転温度とよ
く一致することがレーダーと大気光の同時観測から示されている。
本研究では、流星飛跡のレーダー観測による拡散係数Dと大気光観測に
よるOHの回転温度の絶対値Tohを用いて、大気密度nおよび気圧pを求め
ることを試みた。すなわち、ブジネスク近似などの仮定を用いず、レー
ダーと光学の両観測データからこれらの値を導出した。ただしOH大気光
回転温度は高度87kmの温度を代表すると仮定した。17晩のMUレーダーと
OH分光計の観測から、大気密度、圧力の夜間平均値を求め、Tohと比較
したところ、圧力は、0.27-0.35 (Pascal)、密度は、0.9-1.2x10^14 (/cm^3)と導出され、とくに大気密度はTohと負相関があることが示さ
れた。TohとOH発光強度が良く知られているように正相関があるため、
結果的に大気密度とOH発光強度が負相関であるという結果が得られた。
したがって、大気微量成分の混合比が一定であるとは見なせず、とくに
酸素原子の混合比が高度とともに大きく変わることを示唆する。さら
に、n, pの夜間変化を調べたところ、pはあまり変化を示さないがnは
Tohと逆相関があることが示されブジネスク近似のなりたっていること
が示唆されたが、一方Tohの変化がDの変化とよい相関を見せない晩(19 94年11月4日)もあり、この晩は慣性重力波の強度が強かったことから、
重力波の砕波または散逸による加熱・冷却が起こり、ブジネスク近似が
成り立っていなかったことが考えられる。今後、レーダーとOH回転温度
の同時観測から中間圏界面領域の加熱・冷却を計測する可能性について
議論する。