共回転イオンの中性化によるイオ起源ナトリウム原子放出の初速度分布につい て
*高橋 慎[1], 三澤 浩昭[1], 野澤 宏大[1], 森岡 昭[1]
岡野 章一[1]
東北大学 惑星プラズマ・大気研究センター[1]
Initial velocity distribution of Iogenic sodium atoms released through the neutralization of corotating ions
*Shin Takahashi[1]
,Hiroaki Misawa [1],Hiromasa Nozawa [1]
Akira Morioka [1],Shoichi Okano [1]
Planetary Plasma and Space Research Center, Tohoku University[1]
We carried out 2-dimensional imaging observations of Iogenic
sodium atoms. Based on the observed images, we then performed
model analyses to investigate supply processes of sodium atoms,
and presented the comprehensive source process which can consistently
reproduce the observed characteristics. It is considered that
the sodium atoms extended outside Io's orbit are released through
the charge exchange and the molecular ion destruction processes.
The initial velocity distribution of sodium atoms is considered
to depend on the motion of plasma flow in the interaction region
between Io's atmosphere and the Jovian magnetosphere. In this
presentation, we discuss the motion of plasma flow in the interaction
region between Io and the Jovian magnetosphere.
木星の衛星イオは活発な火山活動を行っており、この活動により蓄
積された火山性物質が木星磁気圏プラズマとの相互作用によって放
出されている。本研究では、この火山性物質の一成分であるナトリ
ウム原子のD線発光の2次元イメージング観測を、木星を中心に±
20Rj(以下、狭域観測)、±400Rj(広域観測)の視野について行
った。狭域観測では、イオから木星赤道に沿って伸びる様相が大き
く異なる2種類の分布が見られた。ひとつは南北方向への拡がりが
小さい帯状の分布である。この帯状分布は木星赤道面に対して傾き
が見られ、かつその傾きがイオ磁気経度に依存することが明らかに
された。もうひとつは南北に大きく拡がるスプレー状の分布であり
、この分布には木星赤道に対する明瞭な傾きは見られなかった。一
方、広域観測では、木星磁気圏境界を大きく越えた400Rj付近まで、
木星赤道に沿って拡がるオーバル状の分布が観測され、木星赤道面
に沿った発光強度が距離と共になだらかに減少するプロファイルが
得られた。また、発光強度の東西非対称性が観測され、非対称性の
大きさがイオ位相角に依存していることを明らかにした。
次いで、これらの観測結果とモデル計算を用いて、狭域、広域観測
結果の双方を満たすナトリウム原子の放出条件を呈示した。本研究
では、共回転イオンの中性化によってナトリウム原子が生成され放
出されるという機構を考え、その機構を詳細に考察した。狭域観測
で見られた帯状分布とスプレー状分布は、それぞれの南北方向への
拡がり方の違いから、それぞれナトリウムを含んだ分子イオンの解
離反応または解離性再結合反応(以下、分子イオン解離と記述)、
及び木星磁場と共回転するナトリウムイオンによるイオ近傍のナト
リウム原子との電荷交換反応によるものであると結論づけた。また
、広域観測結果に関しては、発光強度の東西非対称性のイオ位相角
依存性に着目してモデル計算を行った。その結果、電荷交換反応に
よって放出されるナトリウム原子が、低速と高速の2成分分布を呈
するbulk速度を持つこと、分子イオン解離の場合は、ピックアップ
イオンのジャイロ速度が20km/sec程度、木星磁気圏内での分子イオ
ンのライフタイムが比較的長い(10時間程度)場合に観測結果をよ
く再現することがわかった。
上述のような、電荷交換反応による原子放出において、なぜ速度分
布に2つのピークがあるかということに関しては、過去のイオ近傍
における分光観測から、ナトリウム原子がそのような速度分布を持
つという結果が示されているものの、未だ物理的な説明づけはなさ
れていない。また、分子イオン解離についても、イオンのジャイロ
速度が完全な共回転磁場を考えた場合のピックアップ速度
(57km/sec)よりも遅くなっていることについての物理的な説明が
必要である。本講演では、主にイオ大気−磁気圏相互作用領域(電
荷交換反応による原子放出領域)におけるプラズマの挙動という観
点から、観測結果を基にして得られた原子放出の初速度分布につい
ての考察を行う。